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3.3 またいつでも相談して頂戴

 街の外れに、ぽつんと建つ店がある。一見すると廃墟のようで、しかしくたびれた扉を開けると、ほんのり甘い香りと共に清潔感のある内装が客を迎える。店内を照らすのは、中央にある一本の蛍光灯だけ。店主の気分によって赤、青、緑と色が変わり、今日は青色の光を放っていた。気分が良いという意味だ。


 ナオ・ズ・カフェ。いわゆる、ゲイバーである。


「あら、純ちゃん。いらっしゃい」


 入り口から五メートルほど先。

 簡素なカウンターの先にいる一人のイケメン、なおママは俺の姿を見ると嬉しそうに微笑んだ。


「お久しぶりです」


 ゲイバーは、大きな括りで二種類ある。

 ひとつは、営利目的でやっているもの。ママのトークスキルは一級品なのに、どこか薄っぺらで、内輪に居ても外から内輪ネタを眺めているような気分になる。対して、なおママのように趣味で経営している店もある。比べるまでもなく、俺は後者の方が好きだ。特に、この店は気に入っている。


 なおママは当然のようにゲイで、口調もオカマのそれなのだが、見た目は完全にホストである。常連客の間では『なおパパ』と呼ばれている程だ。本人に言うと怒る。


「本当に久しぶりね。まったく、寂しかったのよ?」

「すみません、忙しかったので」


 半年ぶりくらいだろうか? 相変わらずダンディな声でキュンキュンする。


「純は、アイスコーヒーだったかしら」

「いえ、最近はカフェインを控えているので、水でお願いします」

「まったく。相変わらず財布の紐がギチギチね」

「高校生に金銭的な期待をしないでください。代わりに、土産話を持ってきました」

「あら、素敵」


 この店には、基本的に飲料品なら何でもある。未成年なので無縁だが、ワインなんかもママの趣味で幅広い銘柄が揃っているとか。


「木曜の午後七時、三丁目の公園前ね。ありがと、今度チェックするわ」


 近所のイケメン情報を提供する俺の声と、メモ片手に相槌を打つママの声が、狭い店内を満たしている。もともと売り上げを度外視した店だが、今は俺以外に客がいない。

 単純に、夕方という時間が原因。深夜帯は騒がしいくらい繁盛していた。


「それで、本題は?」


 暫く話を続けると、ママは不敵な笑みを浮かべながら言った。


「……やっぱり、分かりますか?」

「当たり前でしょ。私はあなたのママなんだから」


 パチっとウインク。ほんっとキュンキュンする。同じくらいの歳なら求婚してたかも。


「……その、友達のことなんですが」

「あらあら。相談したくなるような友達が出来たのね。ママ嬉しいわ」


 両手を合わせて頬に持ってくるという男子禁制のポーズが様になっちゃうママすごい。


「どんなイケメンなの?」

「あ、女です」

「……ああ、そう」


 うわ、明らかにテンション下がったよ。


「実は今日レズであることが発覚しまして」

「あらやだ続けて」


 てのひらクルックルだなぁ。


「彼女が、俺の……親戚に、恋をしたようでして……」


 親戚、でいいよな?

 悪魔とか言っても意味不明だろうし。


「あらあら。純はキューピットになりたいのね」

「……そこで、悩んでいるんです」

「どういうこと?」

「その親戚というのが、問題のあるヤツでして……友人の恋は素直に応援したいし、彼女の気持ちを最優先したいと思っています。だけど……応援しても、いいのだろうかと」

「……なるほどね」


 なおママは俺の話を聞いた後、目を閉じて何度か頷いた。


「まさか、純から恋愛相談を受けるとは思わなかったわ」

「どういう意味ですか」

「そのままの意味よ。これが本人のことなら、もっと嬉しかったのに」


 ふむ……なんだか解せないが、まあいい。今は優紀のことだ。応援すると言ってしまったが、やはり軽々しく応援なんて出来ない。だって相手は悪魔で、しかも淫魔なんだ。

 幸い、それなりに常識はあるようだが……。


「その親戚の子、そんなに問題のある子なの?」

「あまり話したことは無いのですが……とにかく、問題のある人物です」

「……そう、大体わかったわ」


 今の会話で何が分かったというのか。なおママのことを知らない人なら、そう思うかもしれない。だが、かれ、かの……ママのことを知る人物なら、きっと納得するだろう。


「よく知らない人のことを悪く言いたくない。だけど、ううん、だからこそね。その人がいい人だという自信が無いから、素直に友達の恋を応援することが出来ない」


 ……まさに、俺の考えていたことである。なおママは、本人ですら言葉に出来ない思いを的確に、かつ簡潔に言い表してくれる。こう、モヤモヤがパーっと晴れる。


「なら、その親戚のこと、よく知るしかないんじゃない?」

「……そう、ですよね」


 本音を言うなら、分かっていた。だが分かっているからこそ、信頼出来る人物に相談して、背中を押してほしかったのかもしれない。


「ありがとうございました。なんだかスッキリしました」


 お礼を言うと、ママは満足気な笑みを浮かべた。


「またいつでも相談して頂戴」


 それから、と一言添えて。


「半年前に紹介したゲーム。どうだった?」

「最高でした! こう、他のゲームとは違うというか、フィクションなんだけど、妙にリアリティがあるというか、展開が自然で、主人公とヒロインが少しずつ恋を育んでいく様は、まさに理想の恋愛というか、手の届きそうな現実感が、こう、グッと来ました。それから、初恋の相手が義理の妹になってしまったという心の傷を乗り越える主人公の――」


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