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アタタカイヤミ 92

 僕が自転車置き場に行くと美春がいた。美春は自分の自転車の所に立って下駄箱からこの自転車置き場までに普通の生徒が通行する道を見ていた。誰かを待っているのだろうか?

 僕はそんな美春に声をかけた。

「どうした、美春。そんなところに突っ立って」

 僕がそう言うと、美春はひゃは!と、飛び上がって振り返った。

「一樹!何で、後ろから出てくるのよ!何で、あそこの通行路から出てこないのよ!」

「いや、そう言われてもだな。ちょっと、先生と話をしていたんで、こっちから出てきたんだ」

 そう言って、僕は体育館裏を指さした。美春はふ〜ん、と肯いた。そして、またイタチのような鋭い目をしたが、すぐにそんな雰囲気を霧散霧消して明るい笑顔を見せた。

「ねえ、それよりもさ、一樹。私はね、昨日一樹の家に荷物おいていたんだけどさ、それ、今から取りに行くんだけど、一樹、一緒に帰らない?」

 そう満面な笑顔で寺島さんは言った。僕は寺島さんを見た。本当にうれしそうに寺島さんは笑って、この事を話した。僕と一緒に登下校をするのがそんなにうれしいのだろうか?美春がそう思っているなら僕にとって光栄なことだ。だが、しかし。

 僕にはやることがある。今からやりにいかなければならないことがある。美春のうれしそうな笑顔を見ると僕の心はほっとくつろぐ反面。彼女にはそんな笑顔をすることがあっただろうか?特にいじめられたあとに、と思ってしまうのだ。

「美春、ごめん。僕はやらないといけないことがあるんだ。だから、ごめん。この埋め合わせはあとでするよ。だから、今日は一緒に帰れない。寄るところがあるんだ」

 そう僕はいった。美春はしばらく埋め合わせで悩んでいたが、すぐに破顔していった。

「そうだなぁ。埋め合わせは何がいいかなぁ。じゃあ、一樹。埋め合わせは休日のカラオケぶっ通し6時間ね。それで全部、一樹持ちで決まりね」

 ぶうっ。

 思わず吹き出した。何だ?その悪夢のような金額は休日で6時間だろ?一時間400円だろ?いや、フリータイムがあったな、あれって何円だっけ?いや、それよりも、二人だろ?なんだその金額僕にそんなのを払えっていうのか!!!

「ちょっ!お前!そんな金額僕が払えるか!」

 それに美春が手をたたきながら大爆笑をしていた。こいつめ、ただの冗談か。

「あはは。いやー、一樹の怒った顔はサイコーだよ。私、こんなにも笑わせてもらっちゃった☆」

「ちょいまちいや。お前しばいたるから、そこで立っとけよ」

 僕がドスをきかせて声で言うと、美春が小動物のようにいやいやをした。

「ヤダヤダ、そんな暴力なんてやだよー。だから、逃げちゃおー♡」

 そう言って、美春はひょいと逃げた。

「こら待てやー!!」

 僕はすぐに追いかける。そうして、駐輪場で鬼ごっこをして、二人ともすぐばてた。

「ハアハア、マジきついな、これ」

「ハアハア、うんそうだね」

 そうして僕と美春はしゃがみ込み、息を整える。そして、だいぶ復活した頃に僕らは立って話をした。

「よかった」

 美春がぽつりと言う。

「近頃、一樹が元気なくて心配したよ。でも、笑ってくれて安心したよ」

そう言って美春が僕を見る。その美春の目の色は夕凪の海岸のように優しい色が寄せて返していた。

「僕は笑っていたか?」

「うん。笑ってた。私を追いかけるとき笑いながら追いかけてきたよ」

 僕は顔を触った。僕自身、怒ったつもりだったが美春からいわせると笑っていたようだった。これが僕の自分が思っている像と他人が見た自分の像のずれを初めてそれを意識したときだった。

 だが、何はともあれ僕は波田(はた)さんの両親の家に行かなくてはならなかった。だから、僕は美春に一時の別れを告げた。

「ごめん、美春。僕は本当にいかないといけない。美春、君もだいたい感づいているとおり、この事は僕らにとってよくないことだ。でも、僕はいかないといけない。そうしなけれならないんだ、人として」

 美春のものを吸い込む漆黒の丸い瞳がそこにあった。そこに僕が写っている。僕の考え、仕草をブラックホールのように一挙一足を逃さずに吸収していた。

「そういうわけだから、じゃあね」

 そう言って、僕は自分の自転車に歩いた。しかし、何歩か歩いたところでくるりと反転して美春にいった。

「あと、ありがとう、美春。気を遣ってもらって、心が少し楽になったよ」

 それに美春が満面の笑みで答えた。

「うん!」




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