アタタカイヤミ 87
からだが冷える冬の暮夜の中僕は考えていた。学校のこと、成田先生のこと、村田のこと。そして……………。
あのあと、フレイジャーと一緒に自転車で登下校をし、しかし、フレイジャーが住んでいるところは瀬野高校のすぐ隣だから、すぐに別れて僕は家路の道を進んだ。
そして、家に帰り僕はそれらのことを考えていた。だいたい、考えはまとまりつつあったが、僕は最後の一歩が踏み出せなかった。
最後の一歩。自分がすることへの正しさの確信が分からなかったのだ。そうした思いを悶々(もんもん)と抱えたまま家にいた。すると、そのとき、家のチャイムが鳴った。
ピンポーン、ピポ、ピポ、ピポ、ピンポーン。
どうやらチャイムを押す主はかなりせっかちらしい。今はおじさんも、おばさんも遅かったので、仕方なく僕が出ることにした。
がちゃ。
「は〜い、どちらですか」
僕はドアを少し開けて外の人に向かって言った。このドアは旧式の防犯扉出チェーンがかかっているのだ。そのチェーンを使って僕は外にいる人を見た。
僕は外を見るとそこには寺島さんの顔が見えた。
「はーい。ヤッホー、笹原くん。ちょっと、お邪魔するぜー」
ガチャン。
僕はとっさに扉を閉める。すると罵詈雑言が扉の向こうから聞こえた。
「あーんもう!何で閉めるのよー!閉める事なんてないじゃない!開けてよー!」
これはどういうことだ。なぜ、寺島さんがここにいる?ああ、どうすればいい?なんか、思考がループしてちょっとよく分からないことになっている!
そう僕は頭の思考がぐるぐるしていたが、反射的に扉を開けて寺島さんを迎えた。
僕が扉を開けると、すぐに寺島さんはカバンとリュックサックを持って入ってきた。彼女の服装は制服のままだ。
「お邪魔しまーす!笹原くん。これ、粗品ですが受け取って下さい。
そして、寺島さんは僕に敷島堂の袋を渡した。
「これはなに?」
「どら焼きよ。あとで二人で食べましょ☆」
そう明るい表情で寺島さんは言った。そして、僕にこう聞いた。
「それでさ、上がっていい?」
見ると確かに僕たちは玄関でしゃべっていた。僕は慌てて肯く。
「ああ、もちろんだとも。あっちのリビングに行ってくれ、僕はお茶の用意をするから」
「うん!やったー!笹原くんの家が見える。うれしいなー、うれしいなー」
そう言って、寺島さんは我が家に入っていった。
僕は彼女を案内して、水を湧かす。そして、茶葉を探した。
この棚だったけな?ないな。ここかな?うん、あった。
そして、僕は急須に茶葉を入れてお湯を入れた。それから一分くらい立てて、二つの湯飲みにつぎ回しをして、お茶を入れた。
「はい、寺島さん。どうぞ、のんで下さい」
「あ、はい、いただきまーす」
それで、寺島さんはお茶をフーフーさせながら飲んだ。僕はそれを見て、なんだか子供っぽいな、と思った。
そう、寺島さんは子どもっぽいんだ。だから、タンチョウをあれだけかわいがるし、あんな噂を流せれるんだ。
僕はそのことを思いつつ、寺島さんの隣に座った。
僕らがいるのは今のちゃぶ台の周りに座っているのだ。そこに寺島さんの荷物も置いてある。
僕は話しも何なので単刀直入に聞くことにした。
「それで、どうして家に来たの?ここの家は夏休みに一度来たことがあったよね?よく覚えていたな。と言うか、道に迷ったらどうすんの。女子校生の夜の一人歩きは危ないからやめておいた方がいいよ。一歩間違えれば、危険だから」
僕がそう言うと寺島さんは次第に不機嫌さの夕焼けに染めていった。
「何で、そんなに説教ばかりするの?いいじゃん、私が来たって。そんなに説教しないでよ」
ぷいっと顔を背ける寺島さんに、しかし、僕は言わなくてはならなかった。
「悪いよ。だって、友だちの寺島さんが危険な目にあったらいけないから。こっちだって、説教するよ」
「え?」
僕のその言葉に寺島さんをこっちを見て、目をぱちくりさせた。そして、次第に羞恥の音色に体を染めていた。
「ごめん、笹原くん。私、いつもわがままばかり言ってるね。ごめんなさい」
「いや、いいよ。こっちこそせっかく来てくれたのにきついことといってごめんな?」
そう言って僕たちは互いに謙遜の上を交換しあった。そのあと、僕たちは派手ではないが、しかし心に残る音楽のコンサートを見終わったあとの間のような何とも言えないむずむずする気持ちを僕たちはもてあました。
しかし、こう言うことを言うのは男のほうからだよな。
そう僕は思い、今まで言えなかったあることを言った。
「仲直りする?」
「…………うん」
「じゃあ、仲直りの挨拶をしよう。それで元通りだ。僕は君のやったことを許し、君も僕の叱責を許してくれ。いいね?」
「うん。分かった。そうする。私も悪かったって思っているから喜んでそうするよ」
「じゃあ、握手」
僕は寺島さんに手を突き出す。それに寺島さんも握手をしてきた。そのまま、僕らは強く握りあった。
そして、僕たちはまた、友だち同士になった。
「うん。これで良し。所変わって聞くけど、何で寺島さんは家に来たの?」
そう言うと、また寺島さんはほほを膨らませた。何か、まずいことでもやったか?
「美春」
「え?」
僕はその言葉に少し対応できなかった。
しかし、寺島さんはさっきのようないじけたふきげんさではなくて好意の人が思うように動いてくれない不機嫌さで言ってきた。
「美春。友だちなんだから名前で呼び合おう。だから、もう『寺島さん』なんて呼ばないで」
そう言って、寺島さんは真剣な目で僕を見つめてきた。その視線は切迫したものがあった。何に切迫しているのか、おそらく僕と寺島さんの関係について、寺島さんが真剣に考えているんだと思う。その情が目に宿って、どこか心に刺さるほどの気迫のある視線となって現れたのだ。
それには僕も答えざるをえなかった。
「うん、いいよ。確かにそうだね、『寺島さん』なら友だちとしてはよそよそしいね。これからは美春って呼ぶよ。よろしく、美春。僕のことも一樹って呼んでくれ」
それに寺島さんは大きく肯いた。
「うん!」
そのとき、家の庭に車がバックで入ってきたのだ。多分和也さんかおばさんだろう。のっそりと入っていく鋼鉄のサンショウウオ。その姿は入っていくのがめんどくさそうに見えた。
「あ!親御さん?」
「いや、僕の叔父と叔母だよ。ちょっと、預かってもらっているんだ。ところで、寺島さんは何で、家に来たの?」
僕は疑問をつけて寺島さんに言った。
寺島さんはうつむき、口をつぼませていった。
「ちょっと、親とけんかして出て行ったの。それだけのことだよ」
寺島さんの背中には無言に拒絶の意志をちらつかせていた。僕はそのことを見て、瞬間的に僕と一緒だ。と思った。
僕もこんな親との関係で悩んでいた。あの美春はこんな事、親との関係なんかでは悩まない思っていたけど、実際には悩んでいたのだ。
僕がそんな感慨に耽っていると、扉が開いて、おばさんが帰ってきた。
「あらら、ごめんなさいねぇ。一樹くん、遅くなって。……………………。あら!お友達かしら?」
驚くおばさんにぼくは美春と一緒に立って、説明をした。
「おばさん。この人は僕の友人の寺島美春です。覚えてますか?前にも一度だけ家に呼んだことがあるのですけど…………」
「こ、こんばんは。寺島です。よろしく、お願いします」
おばさんは美春をまじまじ見て、そしてしょうぶのような重ねられたと指月だからこそできる笑顔を見せていった。
「ああ、思い出したわ、美春ちゃん。そうね、あの時夏休みで一度お会いになったことあったわね。それで、今から親御さんの所に帰るの?」
おばさんはそう言ったが、美春は緊張をしながらきっぱりとこう言った。
「いいえ、違います。親の元へは帰りません。今日はここで泊めさせて下さい。お願いします!」
そう言って、美春は頭を下げた。決死の気迫が張り詰めた糸のように強い音色を放っていた。僕はそれを見て、美春が本気だと言うことをからだから実感した。
それに康子さんはきょとんとしていたが、やがて絹のようにやんわりとと美春の言葉を否定した。
「でも、親に断り無しで言ったら悪いし、着替えとかもないし。やっぱりいけないわ」
「親には私から話します。着替えも持ってきています!お願いですから、ここにいさせて下さい!」
そう言って、寺島さんはまた頭を下げた。おばさんはしばらく考えていたが、やがてこう言った。
「じゃあ、こうしましょう。美春ちゃんが電話で親御さんを説得できたら、いてもいいわ。できなかったら、だめよ。帰ってもらうから、それでいい?」
「はい」
これで決着はついた。早速美春が電話を借りて美春の家に電話をかける。まず、はじめにおばさんが対応してから、それで美春が話した。話している時間は10分ぐらいたったあと、寺島さんはおばさんに電話を交代した。それでおばさんが話して、電話が切れた。そして、おばさんが振り向く。
「よかったわね、美春ちゃん。ご両親の了解が取れて」
「はい!」
寺島さんはハルシャ菊のような抑えきれない喜びをあふれさせた鮮やかな笑顔を見せた。
「よかったね、美春」
「うん!ありがとう〜、一樹!」
僕にはひまわりのような純粋に明るい笑顔を見せて美春は言った。僕はそれを見て、今まで背負っていた荷物がふと、一瞬だけ軽くなったような気がした。




