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アタタカイヤミ 86

 下駄箱のほうに向かうとそこにはフレイジャーがいた。

「やあ、フレイジャー。今、帰るとこ?」

「ええ、そうよ」

僕はフレイジャーと並ぶ。そして、下駄箱から出て話をした。

「フレイジャー、要望書は出した?」

 僕がそう聞くとフレイジャーはええと言った。

「ええ、出したわ。校長もそれを受け取ってくれたわ。まあ、実際に選択制にするか分からないけど」

 そのフレイジャーの言葉は雪が舞っているような口調だった。僕は肯いた。

「うん。まあ、そうだね。多分、無理だと思うけどやっておいた方がいい。自分が疑問に思うことは当たった方がいいと思うしな」

 僕がそう言うと、フレイジャーはまじまじと僕を見つめた。

「ど、どうしたの?」

 僕は立ち止まった。フレイジャーは僕を芋虫(いもむし)から(ちょう)にでもなったのをおどろくようにまじまじと見ていたからだ。

「いえ、あなたの口から、そんな言葉が聞こえるとは思っていなかったから」

 そう、彼女は言った。これには僕もなんだか背中にゲジゲジが這っているような気持ちになった。

「何だよ。なんか、そんな目をされるとこっちが気恥ずかしいよ」

 それに彼女は彫像のような顔つきに戻って、唇をつぼめた。なぜか、僕は彼女のその最初の言葉を話す唇にいやに記憶に覚えていた。

「それは……………」

 その瞬間、フレイジャーの頭部に丸まった紙が当たった。投げられた方向を見ると、うちのクラスではない男子生徒が走って逃げていくのを目撃した。

 彼らは僕らを見つけると一目散に逃げた。それにフレイジャーは。

「言いたいことがあるなら、ハッキリ言ったらどう!」

 罵声(ばせい)を発した。今までいろんな人の罵声(ばせい)を聞くたびに胸くそが悪くなったのだが、今日はなんだかそれが冬の朝のような清澄(せいちょう)さを感じた。

 そして、フレイジャーは僕のほうに振り向いていった。

「さあ、帰るわよ」

「ああ」

 僕は肯いた。そうだ、帰ろう。そして、早く考えをまとめないと。

 僕の思いはその一点に集約していった。




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