アタタカイヤミ 83
たっ、たっ。
僕達は校舎の廊下を歩いていた。一応探す場所の鍵を先生に借りてその場所に向かっているのだが、先生はだいぶあきれた顔をしていた。
だけど、村田はいつになく上機嫌なのか、そのことを気にせずに、にこにこと微笑んで(ほほえんで)いた。
「村田さん、そこに子犬がいると思うか?」
僕がそういったら、村田はいつになく肯く。
「うん、いるいる。絶対いるよ、笹原君。私のカンに間違いはないよ」
「ふ〜ん。そうか」
そんなものなのか?いないと思うけど、まあ、まずは探そう。
暗闇の廊下を僕らは歩いて行く。この場ではほかに誰もいなくて、二つの存在をサウナの中に入ったように密に感じていた。
僕はそんな村田とこういう風に歩くことを不思議に思いながら、少し話しをしたいから話を振ってみた。
「なあ、村田さん、どうして僕と組もうと思ったんだ?金村と組めば良かったじゃないか。どうして僕を?」
その言葉に村田は、うー、と顔を上に向けて唸ったあと、こう言った。
「別に深い理由はないよ?ただ、笹原君と組みたかっただけ。ちょっと、お話をしてみたかっただけなの」
そう言って、村田はこっちに顔を向けて微笑んだ。
僕はそれを見て、何か不思議に思った。僕が村田の興味を引くようなことをしたのだろうか?と思ったのだ。
まあ、でも、僕も村田と話しをしたかったから、ちょうど良かった。それで次の言葉を言う前に村田が前方を見つめていった。
「あ!ついたよ!笹原君」
「ああ、そうだな」
そう、ついた。体育館に。
僕は村田の方へ振り向く。
「ここにいると思うか?村田?まあ、来たものはしょうがないから、開けて調べよう」
「そうそう、そうしよう。しつこい男は嫌われるよ?笹原君」
村田はそう茶目っ気たっぷりに言ってきた。僕は鍵を開けつつ言った。
「誰が、しつこい男だ!お、開いた。入るぞ、村田」
「うん」
そして、僕達は体育館に入っていった。
僕達が体育館に入ると闇の殻がそこにあった。
「暗いな。明かりをつけるよ。村田さん」
「うん」
そして、光の花が咲く。うん、一見したところ子犬はいないな。
「子犬はいないね、村田」
しかし、村田は首を横に振った。
「ううん。まだわからないよ、笹原君。倉庫にいるかも知れないじゃない」
「そうかな?いないと思うけど、まあ、でも一応端から探してみよう。村田は左端から探してくれ、僕は右端から探すから」
それに村田が肯く。
「うん。わかった」
僕達は端から子犬を探した。しかし、入り口の死角になっている端の方に行っても子犬はいなかった。
やっぱ、子犬はいないな。こんな所にいるわけがないよな。さっさと終わらせて、次の場所をさが…………そ?
そのとき、僕はそれを見つけた。それをまじまじと見て、すぐ村田を呼んだ。
「村田!ちょっと、こっちに来てくれ!」
村田はしゃがんで子犬を探していたが、すくっと、立って、こちらに向かって走ってきた。
「なに?笹原君」
「これ、見てくれ」
僕が指をさす場所を村田に見せる。それに村田も驚いた(おどろいた)風に声を上げた。
「あ!これって」
「ああ、ここに子犬がいる可能性が高まったぞ」
それは体育館の床に接している窓が開いていたのだ。おそらく先生が閉めるのを忘れたのだろうが、それが開いていた。子犬が通れるのに十分な大きさだった。
「よし!村田、壇上付近を探すぞ。おそらく、いるとしたら、そこにいるはずだ。行くぞ、村田」
「うん。わかった」
村田がそれに肯く。それで、僕達は壇上に向かおうとしたときに壇上の方から、くぅ〜ん、という声が聞こえた。僕と村田は目を合わす。
「聞こえたか、村田?」
「うん。聞こえた、聞こえた。わんちゃんだよ。行こう、笹原」
「ああ」
そして、僕達は壇上に向かう。おそる、おそる、子犬を刺激しないように静かに歩いて行く。そして、壇上に上がって奥の方を探していると、ピアノの隅に隠れている小さな影を見つけた。
それをみつけたときの村田の表情は一日で咲いたサボテンの花のように明るさの花びらが一瞬にして開いた。
「おお、おいで、わんちゃん」
村田が小さな影、長瀬の子犬に、おいでおいで、とする村田。長瀬の子犬は、もう一度くぅ〜んと鳴いた。なんか、この光景を前にも一度見たことがあるな。女性はおいで、おいでをしたいものだろうか?
果たせるかな。その子犬は村田のことを気に入ったのかは知らないが、ひょこひょこと村田のそばにやってきた。
「おおー!おおー!おいで、わんちゃん!」
そして、子犬が村田の腕のそばに来たとき、村田はすくっ、と子犬を抱き上げた。
「よしよし、いい子だね、わんちゃん。笹原君、任務完了だよ」
「わかった。村田は外に出ていてくれ。僕は窓を閉めてから外に出る」
「了解です」
そして、僕は窓をしっかり閉め、明かりを消して、体育館を出た。
外に出てみると村田がほくほく顔で僕を待っていた。それほどまでに子犬が好きなのか?まあ、それはともかく、僕達は廊下を歩きながら、職員室を目指して歩いた。
村田は子犬を見つめながら、たまらず言葉を漏らす。
「ああん。かわいい!私も子犬飼いたいな!」
「でも、実際に飼うとなったら大変だと思うよ。ちゃんと犬の世話をしないといけないんだから、毛の処理とか、躾とかが大変と思うよ。ちゃんとできるの?」
僕がそういったら村田は、はぁ、と嘆息した。
「そうなんだよね。私、そういう根気のある作業って、超苦手なんだよね。勉強は何とかやってきたけど、それ以外は全然ダメなんだ。すぐ、投げ出してしまうんだよね」
「ふ〜ん、そうなんだ」
僕は肯いた。やっぱりそういう根気のある作業ってなかなかできるものじゃあないよな。しかも犬はものじゃなくて動物だ。感情もあるし、そう簡単に育てることはできることではないよな。
「ま、別にいいじゃないか。育てなくても。犬を飼っている友だちの所に遊びに行ったり、動画で子犬を見ればいいじゃないか」
僕がそう言うと村田はこくり、と肯いた。
「うん、そうだね」
そうこう話している内に一階の校舎に着く。
「あとは職員室に行って、こいつを渡せば…………お!原田くーん!子犬を見つけたぞ!」
僕はちょうどその場にいた眼鏡をかけた、目がぎょろりとした男子、原田君を見つけていった。原田はぎょろっとこっちを見ると、てかてかと小走りにやってきた。
「見つけたか!」
「ああ、体育館の窓が開いていて、それで壇上にいた。みんなに知らせてくれ。僕達は職員室に行く」
原田くんはギロ、っと子犬を見たあと、小走りで外に駆けていった。僕は村田に向かい合う。
「さ、行くか。村田」
「うん」
そして、僕達は職員室に入っていった。




