アタタカイヤミ 81
あれから一週間がたった。クラスのみんながいじめを止めてから一週間。
その間僕たちのクラスは笑いが絶えないクラスに一変した。
たとえば、こんな事だ。
金田が女の子が持っているかわいらしい花柄のクリアファイルに対して皮肉を言ったら、成田先生が飛んできた。
「こら、金田!女の子の嫌がることはするな!」
と言って、一喝した。それに金田はその女の子に謝っていた。あとで僕は放課後廊下にその女の子と女の子の友人と金田くんが楽しげに談笑しながら廊下を歩いているのを目撃した。わだかまりは見たところなさそうだった。
それにこんな事もあった。
体育の時間。そのときの授業の時は体力が弱い子を中心に徹底的に体力の強化を計る授業だった。
そのとき100メートル走の14秒を上回る生徒を対象にその生徒に対してだけ14秒を切るように先生が特別授業を行うというものだった。
そして、その生徒は僕と村田だった。
僕と村田は懸命に走った。0,01秒づつ下回っているもののそれは切れなかった。そして、先生は金村と宮本にストップウオッチを持たせて、一時的にクラスのみんなを見に行った。
そして、僕たちはまた、走った。しかし、やはり14秒を切ることはできなかった。
それでぼくはそろそろ、体力の限界だな、と思って。意識を集中させ、本気の走りをしようとした。
見ると村田も似たように考えていたらしい、似たように意識を集中させていた。
そして、僕たちはスタートダッシュの姿勢をして、全力で走った。
僕は走った、走った。頭がもうろうとしながらぼんやり前に見えるゴールに全力で走った。村田もほとんど僕と同じ位置だった。そして、ぼくたちはゴールの前に来た。そのとき。
ピッ。
金村がストップウオッチを押した。
そして、僕たちはゴールした。
金村が村田に近寄る。
「里子、ちゃんと14秒切れてる。これでもう、走らなくてもいいよ」
金村の言葉に村田は微笑んだ。
「うん。分かった」
そうして、金村と村田はストップウオッチを先生に見せていった。
「笹原、14秒02だ。あと、少しで切れる」
宮本くんがそうなんの感情も出さずにそう言った。僕は大量の酸素を必要としていた。
そして、先生が来る。
「おい!笹原!女の子に先に追い抜かれるんじゃないぞ!全く、情けないな。男なら、しゃんとしろ!しゃんと」
僕は黙っていた。思考がまだまとまらなかった。まだ、この事に対してまだ、僕は考え続けたかったので黙っていたのだ。
ハア、ハア。
太陽が冬の空を晴れ渡らせる。あの太陽はだれを照らすのか。
ある朝の授業の時に、学校に子犬が入り込んできた。
僕達が授業を受けていると、隣のクラスが大騒ぎをしていたので、僕達は何だろうと思って窓を見たら、そこに子犬がいたのだ。
もちろん、僕達のクラスも大騒ぎ、ちょうど成田先生の授業の日本史だったが、成田先生の野太い声も好奇心の前に勝てなかった、みんなが大騒ぎしてしまったのだ。特に女子が大騒ぎをして、こんな事を言い合ったのだ。
「きゃー!きゃー!すごくかわいい!」
「うん。かわいいよねぇ〜。あんな子抱きたい!」
うるさいなぁ。早く、授業して欲しいんだけど。
僕は窓に行かなかった。ほかにも動いてない男子がちらりほらりといて、女子はキャサリンを除いて全員が窓に向かっていた。
仕方ないので女子のみんなを注意しようと決め、席を立った。
「こら!女子達!さっさと戻れ!早く授業をさせろ!」
成田先生も。
「笹原のいうとおり、お前らさっさと席に戻らんか!戻らんと内申点に響くぞ!」
そう言った。だが、さしものゴリラも、みんなで渡れば何とやら、猿山は微妙だにしなかった。
そうやって僕達は怒鳴りつけたが、あまり事態は変わらなかった。猿山は群れを大きくして騒ぎを大きくしていた。そして、僕がへとへとになったとき、後方で席をずらす音がした。
「お前ら。いい加減にしろ!」
見ると長瀬君が立ち上がったのだ。
「何だ!おまえ達!早く席に戻って、授業をしないか!子犬が何だ!授業に戻れ!」
長瀬君は普段こう言うことをいうタイプではなかった。性格も存在感も至って平凡な男子学生だったのだ。いったい、どうして立ち上がる気になったのかはわからないが、しかし、その言葉をきっかけに残った男子たちがどんどん立ち上がった。
「そうだ!そうだ!女子、うるさいんだよ!早く、席に座れ!」
「そうだ!こっちは授業をするためにここに来たんだから、早く授業を再開させてくれ!」
「ほんと早く戻れよ!女子!子犬なんてあとでいくらでも見えるだろ!早くもどれって!」
そういう、男子たちの声に押されて、女子と数人の男子が席に戻っていく。そんな中、まだ名残惜しそうに窓にへばっている女子が数人。僕と成田先生と長瀬君が、直接そばに行ってはがし取ろうとする。
「ほら、村田。さっさと席に戻る」
「お前ら、戻れ!今は授業中だ!さっさと戻れ!」
その僕達の言葉に、村田たちは口をへの字にしてこっちに振り向いた。
「ええー!でも、かわいいんだもん。もうちょっとだけ見させて!」
そう行って僕らに拝む村田。それに成田先生が。
「そんなの却下に決まっているだろう。さっさと席に戻らんか!」
それに長瀬君も同調する。
「ああ、全くだ。何だ、かわいいって。別に子犬なんてそんなにかわいいものじゃ…………」
ちらっと長瀬君が窓の外を見て、そして彼は止まった。
「?長瀬君、どうした?」
僕がそういったら、長瀬君は止まったまま、こう言った。
「あれ、おれんちの子犬だわ」
そのとき、黄色い花が空中に舞った。




