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アタタカイヤミ 74

「それでねリンちゃん。こないだあそこの店に行った時ね、あ、あそこと言ったら駅前にあるミランジェの事だよ。そこでかわいいパーカー見つけたんだ、それで値段見たら高かったんだ!ねえ、これは買うべきだと思う?リンちゃん?」

「そうね、今は高校生だし、無理に買わなくてもいいと思うけどな。買いたいものがあったら大学生になってからバイトをすればいいと思うんだけど」

「そうか、そうだよねぇ〜」

 そう言って、寺島さんはフレイジャーとお話を続けていた。こっちにはなにもふってこない。まあ、女子同士の会話だと言うこともあるが、しかし、真部には何度か会話を振っているのに対して、僕のほうにはふってこないと言うことは、やはりまだあのことを引きずっているんだろうな、と安易に予想が付いた。

 僕たちは今アロイにいた。そこで寺島さんとフレイジャーが会話をしているのだろうが、僕たちのほうには、特に僕のほうには話を振ってこなかった。

 これからどうしたもんかな、と僕は今更(いまさら)ながら思っていたりする。

 これからどうやって、寺島さんと仲直りするのか。最初は勢い余ってお前とは絶交だ、みたいなことを言ったけど、しかし、あとになって冷静になってみるとまた、仲直りしたい気持ちが増えてきた。最初の友だちをこんな事でなくすのは惜しいという気がしてきたのだ。

 しかし、その一方で彼女が行ったことは悪意がないものだとは言え、許していいものなのか?と言う問いはずっとあった。

 正直言ってあんなことを言う少女は僕の中ではいっそう低位なものとして認識していたから、寺島さんもその低位の少女になるので、その少女を友だちとして認識してもいいのだろうか?やはり、ここはすっぱり別れた方がいいのではないのだろうか?と思っていたりしたのだ。

 そうやって僕が悩んでるとき、真部が寺島さんに向かってこう言った。

「美春。『アルネの遺品』は読み終えたか?」

「あ、うん」

「じゃあ、笹原にそれを渡してくれ。おれとキャサリンはもう読み終えたから」

 寺島さんが眉をぴくりと動かして、しかし、寺島さんのバックの中を探った。

「はい、笹原くん」

 寺島さんは冷たい水滴のしずくとともに僕に『アルネの遺品』を渡した。僕もそれを受け取った。僕の手にしずくが落ち、手が冷たさを感じていた。

 寺島さんは僕に本を渡したあと急いでフレイジャーと話そうとしていると、今度はフレイジャーが寺島さんを遮った。

「美春、渡しただけじゃあダメよ。本の感想を笹原に言わないといけないわ」

 そうフレイジャーは行った。それに寺島さんも渋々(しぶしぶ)口を開く。

「『アルネの遺品』はおもしろかったです。自殺する少年、アルネの日々を孤児となったアルネの保護者になった人の一人息子である、ハンスの視線からアルネがどんな人であったかと言うことを現在と過去を交差させながら書いた小説です。私はこの小説を読んで繊細な人がどんな気持ちなのか、うかがい知ることはできませんが、この小説はその人の輪郭(りんかく)を描くことに集中していてそこがいいと感じました。以上です!」

 それを寺島さんは最初は訥々(とつとつ)と語り、少しずつボルテージを上げ、最後には言い切った口調になって外に飛び出した。

「美春!あ、私は美春を追うからあとの会計払っといて、あとで払うから」

 そう言ってフレイジャーも外に飛び出した。

 それを見た僕たちは飲みかけのコーヒーを全部飲んで会計をした。




 それが昨日のことだった。僕は今学校にいる。学校にいて村田がいじめられていないか見張っているのだ。だれにも気づかれないように。

 それはともかく、昨日はそのあと寺島さんが帰って大変な一日だった。泣き出すことはしなかったが、ほとんどその一歩手前だった。

 僕はそんなにも寺島さんに嫌われていたのかと思い、気分ががっくしとくる面、それ以上に僕は彼女とどう距離をおくか考えなければならなかった。

 彼女とこれからのことを。

 それも追々考えるとして、今は村田のことだ。今、昼の授業を受けている最中だが、その間に村田がいじめられているふうには見えなかった。最大の難所、昼食時は無事のりきったので、あと考えられるのは休み時間と、放課後だ。

 僕はそれらに向けて村田がいじめられていないか、注意を払わないといけなかった。だれにも気づかれずに。そして、それは結構(けっこう)骨のいる作業だった。

 あとは放課後に気をつけるだけだな。そう思い、僕は授業に意識を向けた。




 そして、果たせるかな。放課後の時、村田に金村さんを含む女子生徒が絡んできた。そして、村田は女子生徒についていった。

 僕はそれを見て、男子トイレに駆け込み、便所の前に立って成田先生に連絡をした。

 それが終わったあと、僕は水を流してトイレから出た。

 どうか、いじめが止められますように。手を水で洗いながら僕はそう思った。昼の薄暗い明かりの中、石けんはじっと座っていた。




 僕は成田先生にメールをしたあと、すぐに帰った。下手に残って疑われるより、さっさと帰った方がいいと思ったのだ。それで、廊下に出ると真部とばったりあった。

「よう、笹原」

「やあ、真部。真部も今帰るところ?」

「ああ、そうだよ」

 僕たちは雑談をしながら、下駄箱に向かっていく。雑談はたいした内容ではない。クラスのことや文学について、政治のことを居酒屋の雑談のように僕らは語ったのだ。そのとき、ある話が僕らの間に浮上してきた。

「そうだ!」

 それは真部の口から出てきた。

「笹原、いつか約束したよな、俺の家に行くって。今日来なよ。ちょうど二人っきりになれたのだからな」

「ああ、そうか」

 確かにその通りだった。僕たち4人のグループは異性同士ということもあって、そんなに深い話をしてこなかった。やはり深い話をするのは同性同士じゃないとダメなのか?と僕は思っていた。

 しかし僕は友だちが欲しい、友だちが欲しいと思っていても、肝心の友人ができたら、いったい何を話すのか考えていなかった。

 何を話せばいいんだろ?好きなタイプの女性とか、純文学のこととか、かな?でも、僕はあまり純文学が好きではないし、だいたい読むものは重松清とか、うえお久光とか、大衆エンターテイメント作家か、ライトノベル作家ぐらいなものだし、どうなるんだろう?

 そう言う不安を抱えながらも、僕は真部の後に付いていった。



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