アタタカイヤミ 70
10月の秋の登下校。僕は校舎の裏手にある駐輪場に自転車を置いて、校舎に入ろうとすると、一つの凍てついた冬の凛とした声が聞こえた。
「署名、お願いしまーす!」
僕がその声を発している当の人のそばに行くとその人は流れる金髪をたなびかせながら、その冷たい氷の目で僕を見つめてきた。
「署名、お願いします」
「なに、やっているの?フレイジャー?」
そう、フレイジャーが署名を始めていたのだ。フレイジャーはブロンズ像のような何者も揺るがない力と、ある種の人を寄せ付けない堅さをその場の空気に発していた。僕は先日あれほどのことをして今度はこんな事をするのか、と僕あきれつつ内容を見た。署名の内容は、女子制服のスカートかロングパンツの選択制の提案の嘆願書?
「これは、スカートだけではなくてロングパンツを選ぶようにすると言うこと?」
「ええ、そうよ。冬でスカートだと寒すぎるわ。だから、こういう選択制の制服を提案したいのよ。署名はいかがかしら?」
「あ、いえ。遠慮します」
僕は瞬間的にそう言った。それは考えていった台詞ではなくて、体の条件反射的に言った台詞だった。何か、こう言うものには体が反射的に拒否してしまうのだ。僕自身政治とかに関与したいと思いながら実際に署名活動を見ると体が拒否してしまう。しかし、当時の僕はあまりその矛盾を自覚すること無しに返答をした。そして、僕の言葉にフレイジャーはそう、といった。
「なら、仕方ないわね。気が変わったらいつでも言ってきてね。……………署名、お願いしまーす!」
フレイジャーはまた署名活動を再開した。僕は彼女を通り過ぎて校舎の前に行く。
ふと、後ろを見る。彼女のスリムな背中で一生懸命に声を張り上げていた。その背中を見ていると一瞬オオカミの遠吠えが聞こえた。
僕はしかし、すぐに校舎に入っていった。彼女は一人で戦うのだろうか?と思いながら。
ーかたっ、かたっ。
丸い月にさらに黄色くさせるための液体のトパーズをかけ、溶けて消えて言っていく白雪を乗せたものを美春はフォークで分かち、そして頬張った。
ーはむはむ。
それを美春は食べているのだが、いつもはやったー!と喜んでいるのに、今日は仏頂面のまま食べていた。
それを見た真部とフレイジャーはお互いに目配せをした。
今いるのは僕たちがよく行く、コーヒー館。そこで僕たちはお茶を飲んで、談笑していたのだが、談笑している間に真部とフレイジャーに僕らの不自然なところを気づかせてしまったらしい。二人は不審そうに僕と美春を見てこう切り出したのだ。ちなみに、僕の前に寺島さんがいて、寺島さんの隣にフレイジャーさんがいて、僕の隣、フレイジャーさんの前に真部がいるのだ。
「ねえ、美春。まだ、一樹と仲直りをする気はないの?」
そうフレイジャーが言ったら寺島さんはフォークをぴくり、と止めた。しかし、また何事もないようにホットケーキを食べた。
「……………美春、仲直りをする気はないのね」
「……………」
寺島さんはフレイジャーの問いに無言で答えた。フレイジャーはそれにはぁ、といったあとこちらのほうに振り向いた。
「笹原、確認するけど、あなたと美春が仲違いしたわけは美春が波田さんのことでさがない噂話をしていたから絶交したのよね」
「ああ、そうだよ」
そう僕が言うと、フレイジャーは肯いた。
「そうね。これは完全に美春が悪いわよね。美春は少しは自分のしたことを顧みないのかしら?ねえ、これどう思う?笹原」
「全く同意見ですよ。寺島さんは自分の非を認めるべきです。誰が見ても悪いのは向こうですから」
かたっ!かたっ!
フォークの演村田が苛立つ音を村田でる。明らかに寺島さんの顔色が不機嫌虫が張り付いていた。
どうやら、謝る木はなさそうだった。僕は一口コーヒーをすする。そしたら、いきなり寺島さん方ってこう言った。
「ごちそうさま!私、先に帰るから!これ、私の分のお会計。あとよろしく!」
そう言って、千円札を置いて寺島さんは一気に出て行った。
「ちょっと、待ちなさいよ!美春!ごめん、私も出て行くわ。これお会計。あとよろしく」
またもやフレイジャーも500円を置いて寺島さんを追った。
僕と真部は顔を見合わせる。
「どうする?笹原」
「どうもしないよ。僕達はゆっくりコーヒーを飲もう。多分女子同士でしかわからないこともあると思うから…………」
それに真部は肯く。
「そうか、そうだよな。そうしようか」
秋暮れの朱の染まる世界が喫茶店を浸食しているのを感じながら、僕達はまんじりとコーヒーを飲んだ。




