アタタカイヤミ 7
それで僕たちはカラオケに行った。いや、正確にいえば行こうとしたと言うべきか。途中で寺島さんが服を見たいといい出して、駅のあるファッション店を回ることになったのだ。
寺島さんはフレイジャーさんと一緒に服をみている、僕は彼女たちをずっと待とうとしたが、真部が。
「笹原、俺たちも服をみよう」
といいだして僕たちも紳士服を見て回った。一つのファッション店に紳士服と婦人服があって、その中をみるからはぐれる心配もなさそうだ。それで僕たちは服を見て回った。
「笹原これなんかはどうだ」
真部が取り出したのはニューヨークにありそうな橋がロゴされたTシャツだった。
「しかし、これ半袖だよ」
「まあ、いいじゃないか。これから暑くなるんだし」
「まあ、確かに」
そうはいった物の値段が3990円するしなぁ。ちょっと届かない。真部はそれを元の場所に下ろして新たな物を見つけようとした。僕も何かを見つけようと服を探した。
ちょうどそのとき僕たちはカジュアルパンツの売り場であさっていたので話をしながらあさることにした。
「真部さんはこのグループ以外で誰か友だちはいますか?」
僕の質問に真部さんは苦笑しながら行った。
「真部でいいよ、笹原君。俺はもう君のことを友だちだと思っているから、さん付けだと変な気持ちになる」
「わかった。じゃあ、僕も笹原と読んでくれていいよ」
「ああ、そうだな、そうしよう笹原」
「ところでさっきの質問だが、質問自体はノーだよ。やっぱり、本を読む男性などほとんどいないんだよ。いたといても石田衣良とか君が読んでる重松清とかで。政治、や経済、哲学系を読んでる男性はほとんどいないんだ」
「僕としてはそんな女性が二人もいるのが驚きなんですが」
「ああ、それね」
それで真安部は苦笑してこんなことを言った。
「実は、美春は俺がに洗脳した」
「え?」
僕は驚いた(おどろいた)。というか、洗脳したっていったい何なんだ?。
「それってどういうこと?」
「ああ。言ってなかったか、俺と美春は幼なじみなんだよ」
すごい衝撃発言だな。
「知らない、そんなこと…………ああ!寺島さんが何か言っていたよ。確か古い友だちに本を読んでいる人がいるって、それってあなたのことなんですね」
「ああ、そうだよ。美春とは古いつきあいだからな。家が近所で小学生にあがる前はよく遊んでいたし、美春の家に何度も行ったしな」
「へ〜、女の子の部屋に行くなんてすごいうらやましい限りですね」
なんか不思議な感じだ。確か、額田君が寺島さんのことを気になっていると言われるとなんだか、いやな物が心の中にうずいていたが、真部が言うとあまり感じない。実際つきあう可能性が高そうなのに、あまり嫉妬を感じない。というより、寺島さんが誰かとつきあう以前に僕は寺島さんに告白できる気がしなかった。告白しなければ恋愛は成立しないとわかっているんだけど、とても想像しただけで震えが来てしょうがなかった。まあ、それはともかく、話を戻そう。僕の先の言葉に真部は笑ってこう言った。
「ふふ、こう言ったら誤解があるな。俺は美春に会いに行くために彼女の家に出入りしたわけではないんだ。彼女には兄がいてな、その人が好きだから俺は彼女の家によく出入りしてたんだ」
「へえ、そうなんだ」
なんか意外な回答だった。異性の幼なじみ同士がいたら、関心はそっちに向かうものと思っていたが、実際はその兄弟か。まあ、こちらのほうが何となくわかる気がするな。やっぱり中学や高校の時は同性と集まりたいものだからな。
真部はまだ、話し続けた。
「それでついでに彼女にも俺の趣味に染まらせようとしたが、最初はなかなかうまくいかなかった。『赤毛のアン』あたりは読んでくれるけど、山本七平は全然読んでくれなかったな。だめかと思ったけど、高校に入ってからこっちの趣味に合う物を読み始めてくれた、助かったよ」
真部さんは湖にフレイジャーってある氷のような表情で言った、真部さんが言うと冷たくて透明なさわやかさがある。
それを聞きつつ、こっちも適当に服をあさる。それで僕はカーゴのカジュアルパンツを偶然見つけ値段が高い。4990円もする。
「それはそうと、うちのグループとはどうだ?仲良くやっていけれそうか?」
「まあ、寺島さんやあなたならうまくやっていけれそうですけど、フレイジャーさんはちょっと難しいですね」
真部はそれにふむと頷いていった。
「やはりそうか。でも、あいつにも少しいろいろあって、それでちょっと気むずかしくなったんだ。まあ、無理に仲良くする必要はないがそんなに敵視することはないよ」
「そんなものですか」
まあ、嫌がらせとかしてくれるなら話は別だけど、相手がほとんど無視をするのならこちらもあまり関わらなくてもいいだろう。
その言葉が終わったあと沈黙の帳が落ちる。どちらも何か言おうとしているが何を言おうか迷っている風だった。
「あ、このカーゴよくない?かっこよくて」
僕が見たのは白に近いグレーのスタイリッシュなカーゴパンツだった。それに真部も反応する。
「ああ、そうだな、かっこよくて。しかし、これを着こなすにはかなりセンスがよくないとだめそうだな」
「全く、そうですね。ところで真部はファッションに詳しい方?」
真部さん笑ってこう言った。
「いや、普通だよ。特に詳しいわけではない。どうした、俺がそういうのに詳しいと思っていたか?」
「ええ、真部は何でもできそうだな、と思って」
確かに真部は何かそういうのに詳しそうだった。この氷のように透明で涼しげな人には何をやっても似合いそうだった。
「ふふ、俺が何でもできると思ったか?」
「ええ、なんか何でもできそうだと思いましたよ。ところで、真部さんは最近何か、おもしろい物を読みましたか?」
「ああ、そうだな。最近読んだ物は…………」
そう、真部さんが言おうとしたときに、寺島さん達が帰ってきた。
「お待たせ!あ、お話弾んでた?」
「いや、そんなことないよ。僕たちもカラオケに行こう、真部」
「ああ、もちろんだ」
それで僕たちはカラオケに行った。それでカラオケで僕は歌を歌うことになったのだが、ここはあいこを歌うのはやめておこうと思った。となると歌うのは平川地一丁目か、まあ、それが妥当だな。
カラオケの店名は『グレートパンプキン』駅前の近くにあるからカラオケだ。寺島さん達がそこに入っていく、もちろん僕もそれについて行った。
『グレートパンプキン』に入ると店内は薄暗くかった。奥にパチンコがあり、右側にでっかいテレビがあって、アーティスト達の情報を流していた。それでそのロビーの中心に受付があった。
「いらっしゃいませ」
それで真部とフレイジャーが受付に対応をしていた。彼らが話しているうちに寺島さんが僕に話しかけてきた。
「笹原君、カラオケに来るのは初めて?」
「いや、2回目ですよ」
僕の答えに寺島さんは驚いた(おどろいた)様子を見せた。
「え?でも、友だちいなかったんじゃなかったの?一人で来たの?」
「いや、どう言えばいいか。友だちになろうとした男子がいたんだけど、付き合い始めてやっぱり友だちの関係として合わなかったから、結局、普通のクラスメートになった」
僕の答えに寺島さんはふ〜んと頷いていた。そのとき、真部達がこちらに時間を尋ねてきた。
「美春、時間は何時間がいい?」
「3時間!」
「笹原は?」
「僕は4時間以上でなければいいですよ」
「よし、じゃあ、3時間で決まりだな」
それで真部は手続きを済ませた。
「よし、行くぞ笹原、美春」
それに寺島さんが元気よく挨拶をした。
「うん!さあ、行こう笹原君」
「ああ」
それで僕たちは移動した。
そして、僕たちはカラオケのルームに入って曲を歌った。寺島さんは元気よく歌っていたし、真部はクールに僕が知らないロックを歌っていた。フレイジャーは洋楽を歌っていた。洋楽も歌えるなんて、すごいな。と僕はフレイジャーにまた畏敬の念を覚えた。ともかく、そういう楽しい時間をあっという間に過ぎていった。
空は夕暮れに僕の心も赤色に染まりっているなか、僕達は瀬野駅に戻って来た。それで、これで解散という運びにしたのだ。
「笹原、今日はなかなかよかったよ」
真部がそう言った。それに僕も笑って返す。
「ええ、こちらもあなたたちと一緒に過ごせて……………それなりに楽しかったですよ」
「そう!じゃあ、これからはドンドン誘おうかしら?ねえ、リンちゃんもそれでいいよね?」
寺島さんの言葉にフレイジャーは頭を振った。
「いいえ、美春。前にも言ったけど仲良くするわけではないから」
それでフレイジャーは僕に向き直っていった。
「まあ、あなたがこのグループに入るのならあとでは話す機会があるでしょう。そのとき、私はあなたの関係をどうなるかは自然と決まるでしょう」
「ああ、はい」
僕はうつむいていった。なんだかこのフレイジャーさんは最初と印象が変わらず、いろんな意味で接近ができないように思えた。その美貌も、挙動もあまり近寄りづらい風に感じたのだ。
「まあ、今日はこれで解散しよう。それでは解散」
『ええ・はい・了解!』
それで僕たちは解散という運びになった。
家に帰ってきた僕は、すぐに自分の部屋に行こうとしたが、康子さんがもう夕食の準備を完了させていた。
「あら、一樹君。お帰りなさい」
康子さんを見つけて、僕は言うべき台詞を早口で言った。
「おばさん、夕食はあとで食べます」
「あら、そう?」
僕はおばさんに言って、自室に行った。体調はよくなかった。頭が痛い。痛いという表現は正しくない。何か頭の中に蠅がぶんぶん飛び回っているような雑音が頭を締め付けていくような感じだ。
僕は寺島さんと一緒にいるとき、世界が極色色に光り、その中でジェットコースターに乗って疾走していたような感じだった。その中で僕は風を全身に浴び目が攪乱され、疲労が積み重なった。
それで僕はちょっと休むだけと思い、ベッドに潜って、そして動かなくなった。