アタタカイヤミ 67
ついにこうなったか。昼の時間、僕はパンを食べながらそう思った。
成田先生が動き出した。僕は成田先生の行動に批判する気はなかった。僕自身、何もできなかったから、何も言うつもりはなかった。むしろ下手な小細工ができないなら単刀直入に言った方がよかったと思う。
とにかく、賽は投げられた。あとはどうなるかは当たりながら考えるしかない。
僕は村田のほうをちらっと見る。村田は一人で弁当を食べ終えていた。半分も中身を残している。
もし、成田先生のがんばりが無駄になり、いじめがこれで止まらなかったら、どうしようか。そのとき、僕は何をすればいいのか?
教室に入る白光がただ、教室を白く忘我の輝きを発していた。
ホームルームの時間。成田先生は教室に入ってきた。成田先生は極めて事務的な態度で扉を開け、閉めた。逆にこういう態度がこれから本当にみんなが追求されるというのが水が身にしみるように、肌感覚でわかった。成田先生は壇上に上がると単刀直入に言ってくる。
「おまえらのプリントを見せてもらった。まず、俺が村田と金村に質問をするから、そのあと、何人かの生徒に質問をするかも知れないから、それを頭に入れてくれ」
「まず、村田」
村田の体が震えた。
「なぜ、波田をいじめた?」
村田が顔を俯け、貝が殻に籠もるようにその長い髪で顔を覆って、静電気のように微弱に揺れながら、その小さな口を開く。
「…………………おもしろそうだとおもったから」
貝よりも小さな声で村田は言った。
「それで、実際にいじめられて村田、おまえはどう思った」
「…………………苦しいです。波田さんに申し訳ないと思います」
「だ、そうだ。実際に波田のときも村田の時も見ているみんなには分かっているだろうと思っているだろうが、いじめはしてはいけない、いじめは人間の尊厳を奪うものだ。金村!」
金村さんのからだがびくりとした。村田のときとは違って、肉食動物に見つかった草食動物のように揺れた。
「なぜ、おまえは村田をいじめた?」
「……………………」
成田先生は金村さんのそばに来て言った。金村さんは答えない。すっかりさなぎでいるつもりのようだ。
「何でおまえがいじめてかと聞いている!波田のときも死んでしまったんだぞ!また、村田のことも死なせる気か!いいか、もう一度聞くぞ。何で、いじめた!答えろや、コラァ!」
ここからでも殺意のような物が流れているのが分かるというのに至近距離でこれを言われるというのはどういう気持ちだろうか?はっきりと自分の存在の殻が一部粉砕するというのがだいたい想像できた。
金村さんは黙っていた。いや、はっきりと震えていた。罪の自覚故ではないだろう。ただ、先生が怖かったのだ。
金村さんは黙っていたし、震えていた。先生はそれを見て、金村のほうの視線を外し、みんなに向かってこう言った。
「じゃあ、おまえ達。おまえ達は何でいじめを見て見ぬふりをしていたか、それに答えてもらおうと思う。おまえ、えー、原田郷司。おまえはどうしてみて見ぬふりをした?」
そう、先生はある男子生徒を指さしていった。その男子生徒、原田君は慌てて立った。身長が高く体格もよいバスケ部の生徒である原田君は立ち上がった者の、肩を震わせていた。
「どうして、おまえは見て見ぬふりをしていた?答えろ」
「いえ、別に、女子達のふざけかと思って…………………」
そう少し言葉を口の中でまごつかせながら原田君は言った。それを見ていた、成田先生はあることを話した。
「おまえ、波田の体型を見たか?」
「え?………あ、はい見ていました。それが何か?」
「おまえ、波田の体重が急激に減っているのに、何も不思議に思わなかったのか?バスケ部のおまえが」
そう、成田先生は言った。原田君はあくまでどきまぎしながら黙っていた。
「不思議に思っただろう?あんなに太っていた波田が、最後にはがりがりみたいな体重になっていたなんて、普通に考えておかしいと思うはずだろう?」
「い、いえ、別に……………………」
そうようやく原田君はそう言った。その原田くんは羽が一つもげた蜂のようにほとんど半死人になりながら途切れ途切れに言ったのだ。
そうやって、先生に滅多打ちされた原田くんであったが、ようやく一つのことを言った。
「あ、それは、多分。先生、ダイエットのように思ったんで」
そう言った。そして、それが成田先生の引き金を引かせた。
「ダイエットとは何だ!あんなに急激にダイエット何てするわけないだろうが!しかも、何だ、そんな思いついたように言った台詞は!俺はおまえ達の本音を聞きたいのに、どうして、おまえはそんなとってつけたことを言うんだ!おまえ達の本音は人に聞かせられないものなのか!ああ!」
そう、成田先生は原田くんに、僕たちに向かって怒鳴った。彼は怒っていた。いっこうに責任を取ろうとしない僕たちに向かって怒っていたのだ。そのことにクラスの生徒はどれだけ分かっているのか?
そして、怒鳴ったあと、成田先生は原田くんにこう言った。
「よろしい、座りなさい」
座る原田くん。その姿勢からは乾燥室に入れたつるのようにしょげかえっていた。
「おまえ達にはもう少し話し合いたいと思うが、おまえ達がこんなものでは何も、話し合おうにもおまえ達が話せないというなら何もできないと思うから、いじめで死んでいったひとの遺書を言ってから俺がいじめについての個人的な意見を述べて終わろうと思う」
その遺書は今年の春に亡くなった、高校生の男子生徒が残したものだった。最近下火になっていじめ自殺と言うことでよくニュースになっていた時期があったのだ。




