アタタカイヤミ 66
10章 いじめとの戦い。
村田に対するいじめを成田先生に告白した翌日。僕は魚が川を泳ぐようにすんなりと教室に入った。
「…………………」
「ははは、それでさ!信吾のやろうがさ!」
「……………………」
「うっそー!それで馬淵君とどこまで行ったの!ね、ね、教えてよ〜」
「……………………」
教室に暴れ狂うパレスに3個の沈黙がそのほかのパルスを拒絶した。もっとも、はっきりと拒絶しているのは一つだけだった。他の二つは応じないぐらいでこのパルスが一つずつを刺し抜いてきたら、どうなるかは分からなかった。
僕はその中で悪意の槍には対処はできないが、心の中は住みきった小川の流れが清々と流れていた。
とにかく、僕にできることはやった。後は成田先生に任せよう。そう思い僕はホームルームの時間を待った。そうするとすぐに予鈴が鳴って、先生がやってきた。
先生はいつもより若干おとなしめに教室に入ってきた。その一挙一足からはこれから何かをしようとする意志は感じられなさそうだったし、逆にこれは嵐の前の静けさかも知れなかった。
先生はゆっくり教室に入り、扉を閉めゆっくり壇上に上がった。そして、いきなり教科書を机にたたきつけた。
「はい!おまえら静かにする!」
先生が入るなりまずこんな大きな声で怒鳴りつけた。どうやら嵐の前の静けさらしかった。
それでみんなはピタと騒ぐことを止めて、席に戻っていった。
そのあと先生は壇上に身を乗り出して、抑制のある声でこう話した。
「ええー、おまえら。先生はある重要なことをある生徒から聞いた。単刀直入に言う。おまえらいじめをしたそうだな」
そのときクラスの人の動きが止まった。ぴたとビラを壁に貼り付けたように止まった。本当に心まで凍り付いたのか?
「ええー、ある生徒の告白のよりこのことが分かりました。波田さんをいじめたのはおまえ達だな?」
蝉は何も答えない。好き勝手に暴れたあとは地に眠るだけ。
「しかもある生徒によれば、このクラスには信じられない事態が発展していると聞いた。波田さんをいじめたのは村田で」
村田がびくりと体を震わす。
「しかも、今はその村田を金村がいじめているらしいと言うことを聞いた」
これに金村の顔面が蒼白になった。
「おまえら、この事は本当か?」
黙る。みんなで群れを作って黙るのが蟻達の生きる道。
「この事は本当かと聞いている!」
明王の憤怒に餓鬼どもが震え上がった。餓鬼どもはやはり群れになろうと不動明王の憤怒が恐ろしいのだ。
明王はいったん口を止めて村田の方に向いてこう言った。
「村田!」
村田の体がびくりとした。
「ちょっとこい」
村田が先生のいる方へ動く。その体はからくり人形にように動きに全く生気がなかった。
村田がそばに寄るのを見た。先生はこう言った。
「おまえら、これから一切村田にいじめをすることは許さん。分かったな?」
みんなは沈黙している。雪のようにしこうが真っ白になっているのだ。
「わかったな!」
「はい!」
やはり、この集団は餓鬼どもだった。明王の一撃ですぐに迎合したのだ。いや、迎合というのは違うかも知れない。元から考えがないのだからな。
「それと、金村」
金村の体がびくりとする。
「おまえはあとで職員室に来てもらう。そこでみっちり反省してもらうぞ」
それから、成田先生は村田を帰らせこう言った。
「今日は化学の授業が一限目にあったが、俺がつぶさせてもらった。これから、おまえ達はいじめがどれほど、よくないことかを説教をする」
ええー!まじかよー!
そんな声が至るところから出たが、成田先生は獲物が向こうから何の遠慮も無しにやってきたカマキリのように、すぐさま鎌を出した。
「おまえらいい加減にせんか!」
また餓鬼どもが黙る。仕事をしなければたたかれる奴隷のように鞭で打たれる恐怖に身を包ませながら忍従の姿勢を取る餓鬼ども達。罰を与えないと統率ができないのか、この餓鬼ども達は。
「おまえ。そう、おまえだ」
成田先生は一人の男子学生を指さした。男子学生はびっくりしながら立ち上がった。
「はい。何ですか?」
「おまえは長瀬か。長瀬、おまえはさっき『えー、マジかよー』と言ったな。なぜ、おまえはそんな台詞を言えた?これはいじめだぞ?人が一人死んでいるいるし、現にもう一人の生徒が苦しんでいるのに、なぜ、そんなことを言ったんだ。言ってみろ」
「い、いや……………………」
長瀬君はしどろもどろになっていた。確かにこの生徒がこの台詞を言ったのを僕は確かに聞いていた。
「何だ?どうした。言えないのか?適当に、つい言葉から出てしまったのか?」
「は、はい」
やっと長瀬君はそう言えた。彼は今までの人生の中でこんなに問い詰められた経験はなかったのだろう。問いつめの呪縛から解放された彼はほっとして森の中に隠れようと思ったが、その言った瞬間、強弓で放たれた矢が彼の胸に突き刺した。
「人が一人いじめで死んでいるというのに、適当に言ったとはどういう了見をしているんだ!」
局地的な竜巻が長瀬君を吹き飛ばした。長瀬君は吹き飛ばされ、羞恥の状態のまま落下した。
「い、いや……………」
「おまえ、いじめがどれほど恐ろしいことと言うのが分かっているのか?人の尊厳を傷つけるものだぞ!?それなのに、おまえは適当に聞いていたというのか!?ふざけるのも大概にしろ!おまえ、人がいじめで死んでいるんだぞ!それについて、おまえはどう思うんだ!」
「い、いや。それはいじめは許されないことだと思います」
「なら、なぜ、『えー、マジかよー』なんて台詞が言えたんだ」
「い、いや、別に」
長瀬君はますますしどろもどろになっていった。嘘を重ねて、それで自分の首を絞めているようなものだった。
そんな、長瀬君に成田先生は事務のプリントをコピーするようにこう言った。
「分かった。おまえは座っていい。あとで反省室にてじっくり聞く」
そう言って、成田先生はなにやらメモをしていた。メモをし終わったあと、成田先生はある女子生徒に言った。
「おまえ、そこのおまえ」
「あ、はい!」
女子生徒が慌てて立ち上がった。
「えー、三草清美。おまえもさっき『うそー』と言ったな?」
「え、ええ?」
三草さんは驚いていた。波田さんの死んで初めての授業のときに泣いていた女子生徒だった。
「え?じゃない。なぜ、そんなことを言ったんだ?」
「え、いや……………」
ほとんど長瀬君と同じことを言う。
「え?ではないだろ?なぜ、そんなことを言ったのかと言うことを聞いている!」
そう言われると三草さんはあごを下に向けて黙った。言われると何もできない蝉がここにももう一匹。
「なぜだ?答えろ?」
「………………………」
「おまえはいじめをどう思うんだ?」
「…………よくないと思います………………」
消えそうな声で三草さんは言った。その表情は群れのリーダーにこっぴどくやられてびくびくおびえてるだらしのないサルのようだった。
「よくないと思うのなら、なぜ、さっきのようなことを言えた?」
「……………………」
やはり、彼女もアメーバだった。何も考えずに生存本能しかない、アメーバみたいなやつなのだ。
「分かった、もういい。あとでおまえも職員室に来い」
それで成田先生は彼女を座らせた。
「ええ、これから、おまえ達にプリントを配る。このプリントにはおまえ達がどうしていじめをしたのか、黙認したのかを書いてもらって、それを元に今日の放課後、おまえ達と話し合いたいと思う」
今度はだれも不平の声を上げるものはいなかった。そして、先生はプリントをみんなに配った。みんなは死人の行進みたいに黙々と後ろの席にプリントを配る。
「よし、これでいいな。じゃあ、金村、長瀬、三草来い」
先生は3人を呼びつけた。それから、僕たちにこんなことを言ってきた。
「そのプリントは次の数学の保志先生に渡しといてくれ。保志先生には事前に言ってあるからな」




