アタタカイヤミ 63
9章 告白。
ぼくは朝、自然に目が覚めた。今の時刻は6時だ。頭が覚醒している。
起き上がり、居間に降りる。
「あ、おはよう。一樹君」
「おはようございます。おばさま」
「おはよう、一樹君」
「おはようございます。おじさま」
ぼくは二人に挨拶をして、薬を塗って、着替える。
今日こそは、今日こそは。
そう、今日こそ、村田に対して何らかのアプローチをかけなければならない。もう、逃げることは許されない。今度こそ、このいじめを止めないといけないのだ。
ぼくはそう決意をして、意志を固くして学校に向かうための支度をする。トーストの上にのっかているストロベリージャムがてかてかと光っていた。
はぁ。ついにこの時が来たか。
ぼくは今、学校の駐輪場にいる。この後教室に行って村田に話しかけなければならない。これは絶対だ。
僕は2,3度深呼吸をする。これからやることを達成するためにだ。
今朝の霞が少しづつ僕の体に纏い(まとい)じわりじわりと靄が僕の血を冷やしてくる。
いや、冷やされてはならない。この事は言わないといけない。
僕はそう思うとかばんとって、教室に向かうためにそこから踵した。朝の光が白々しく照らしだしていた。
この教室の前に立った。もう、後戻りはできない。僕は教室に足を踏み入れた。
ーがらがら。
そこは話し声の桜吹雪だった。全部がばらばらで数だけは多い、そんなものだった。
僕は自分の席に座る。そして、ここから村田に話しかけないといけない。そうしないといけないのだ。
村田の姿は視認できた。これからだ。これから話すのだ。
よし話そう!
そう思い、僕は立とうとしたが立てなかった。やはり、もう一度試みてみようと思ったが、やはり立てなかった。
なんと言うことだ。これではいけない。立たなければ。
そういう声がある一方でもう一つの声も確かにあった。
いや、立ったらダメだ。立ったらいじめられる。ここは立ったらダメなんだ。
そういう声もあった。
そして、結局僕は後者を採用してしまった。僕は自分の怯懦心を呪いながら、それをさらに迎合する自分を責めながら席に座っていた。
僕は疲れ切っていった。放課後の夕暮れが一日の終わりの開放感を告げる中、僕自身はまるで開放感を味わっていなかった。
結局村田のことだ。村田のいじめを止めることができないのだ。あれだけ、止めるつもりだと言っていたのに、何もできなかった。自分の誓いを放棄して、僕はどこへ行くのだろう。どうすれば、いじめを止められるのだろう?どうすれば強くなれるのだろう?
そんなことを考えながら、ふらふらと歩いていると、目の前に職員室のプレートが見えた。どうやら、ふらふら歩いていると職員室の前に来てしまったようだった。
僕は職員室に入るつもりはなかったのに、そのドアに手をかけた。どうしようかと思ったが、やはり、何となくドアを開けた。
「お!笹原じゃないか!どうした?勉強で分からないことがあるのか?」
ドアを開けるとちょうどそこに成田先生がいた。成田先生は日焼けした顔を見せながら、朗らかに笑っていた。僕はその顔を見て、突然、成田先生に話したらどうか?という気になった。
それは今まで考えにくいことだった。僕の中で先生に話すこと自体、何か居心地の悪い気持ちを引き起こしたのだ。子供の関係に大人を入れるというのが生理的にしてはいけないように思えたのだ。
だが、僕では止められないし、ほかに方法と呼ぶようなものは思いつかなかった。だから、僕は成田先生に相談しようと思った。
「あの、先生、相談があります」
「ん?何だ?」
成田先生は頬を引きつけ、それで頬に引きつけられたあごがホウジロザメのあごみたいな二重あごと、そして地に足がついたようなどっしりとした重量差があった。
僕は消えそうな声で成田先生に言った。
「いじめのことです」
その瞬間、成田先生は本当にサメのような形態になった。目を細めて僕を観察するかのようにじっと見た。
「それは…………いや、反省室というのがあるから、そこで話そう。ちょっと、そこで待っていてくれ」
それで成田先生は机に戻って、書類を整理していた。僕は職員室のドアを閉めて待った。ほどなく成田先生が来た。
「じゃあ、行くか。しっかり話してくれ、笹原」
「はい」
それでぼくは成田先生とともに反省室に入った。




