アタタカイヤミ 61
また、別の日。放課後のときにぼくは真部たちとTSUTAYAに行く約束をしていたのだが、その日は先生に頼まれた雑用を思い出して、真部たちに待ってもらっていたのだ。そのためぼくは雑用をさっさと終わらせようと思ったのだ。
雑用は簡単な物でプリントを職員室に運ぶという物だった。ぼくはすぐにそれを済ませて教室に戻ろうとして職員室とは反対側の教室の前の会談に来たとき、彼女がそろりと現れた。
秋の風が蕭々と吹いているときに彼女は服や体を泥だらけにして、顔を俯けて全身を霧雨を降らせながら歩いていた。どこから見てもその霧雨は悲しかった。
ぼくは、また話しかけよう。今度こそ、話しかけようと思った。が、またやつが現れてきた。
ーよう、兄弟。待つんだ、まだ彼女が泣いているのはいじめだと決まったわけではないだろう?
ー何を馬鹿な、あれはなんと言ってもいじめだ。そうに違いない。
ーいやいや、待て兄弟。女が泣いているんだからいじめ以外にも、失恋だという可能性もあるだろう?
ー馬鹿な、失恋だったら、あんなに泥だらけになる意味ではないよ。あれはどう考えてもいじめだ。
村田の姿は泥姿であって、どう考えても失恋で泣いているとは思えない。ーいや、しかしだな。兄弟よ、ここで考えてもらいたいのは。
ーいや、もう行くよ。
それでぼくは足を踏み出す。村田が階段に向かうのを見ながらぼくも階段のほうに足を向ける。そうすると村田の背中が見えた。まだ、階段に足をつけたところだ。
ぼくは小走りに村田の背中に追いつく。後は声をかけるだけだ。
なんと、声をかけよう。村田、どうしたの?か?それとも、その泥どうしたの?か?それとも、どうして泣いているの?か?
ぼくは考えながら村田は歩く。半分の段に到着する。ぼくは焦った。このままではいけない。早く、言わなければ。しかし、何を?
いやいや、何でもいいのだ。何でもいいから早く何かを言わないといけないのだ。どうしたの?でいいのだ。何があったかそれを尋ねるだけで。
そうこう考えているうちに村田は2階に到着した。
やばい、早く言わなければ、そうだ、あとちょっと。
背中は見えていた。暗く曇天が張られた背中を。ぼくはその曇天を晴らすことをしなければならない。その背中はもう一人、死んでいくのを止められなかった過ちを犯さないために
しかし、あと少し、もう少し胃から何かがせり出して、あとちょっとで言えるそのときに、村田は教室に立った。
ぼくは反射的に下がった。それは本当に反射的な物だった。2ーBの教室から下がった、ぼくを本当に気づいていないように村田は教室に入っていった。
ぼくはさがった。心臓の堰を切ったかのような鼓動を聞きながら黄金色に染まる秋の彩雲がぼくをしめやかに照らし出していた。
村田は出てきた。彼女の目にはなにも映っていないだろう、とぼくは直感する。そのまま、彼女は階段を下りていった。
僕は村田が出て行ったのを見て、教室に入り、カバンを取り出して、真部達がいる方へ走って向かう。




