アタタカイヤミ 53
「ついたね、笹原君」
「ああ」
バスを降りて、後楽園前に来た僕たち、晩夏の日差しが容赦なく僕たちを炙っていた。
「まあ、いいか、行こう寺島さん」
「うん、そうだね」
それで僕たちは歩く、後楽園前の石橋を渡って、僕たちは後楽園の前に来た。
「うう〜、暑いね〜、笹原君」
「うん、そうだね、寺島さん。でも、さっきは並木道だから日よけができたけど、今度はもろに日差しがくるから、もっと暑くなるよ」
そう言うと寺島さんは舌を出してこう言った。
「げー」
色気もへったくれもない姿だった。
「はい、これ」
そんなゾンビとなろうとしている寺島さんにぼくはある物を差し出す。
「?」
「緑茶とレモンティーのどちらがいい?」
ぼくは緑茶とレモンティーのペットボトルを取り出してこう言った。
「あ、これさっき買ったやつね」
「ああ、そうだよ」
岡山駅に到着したとき、あらかじめペットボトルを買って置いたのだ。寺島さんはそのお茶を見て、少し迷ったがほどなく選んだ。
「う〜んと、これ!」
少し寺島さんは迷っていたようだが、すぐに飲むものを決めたようだった。
「え〜と、レモンティー?」
「うん!」
そう言って元気よく頷いたあと、リスのようにとさくさとのみはじめた。
ぼくも緑茶を飲みながら、後楽園で寺島さんが喜んでくれるといいのだがな、と思った。
入園料を払った僕らはまず、延養邸に行く。一応ここには12時には切り上げるから、延養邸に言ってサルスベリの花を見るのが予定なのだ。
「わー!わー!わー!」
蝉になった寺島さんを見ながら延養邸に眼を転ずる。そうしたら、やはり、その雅なただずまいに目を奪われる。
刈り込まれた芝と小川のある古風な建物がそのわびさびをよく感じさせる。そこに丸く造形された庭の小さな木が絶妙なアクセントを入れる。
「すごい、すごいよ、笹原君。すごく、これきれいだよ!私、後楽園にはこれが最初だけど、すごくいいよ!このわびさびを感じさせる雅な感じが私の中に眠る古代の日本人の深層意識を呼び起こさせるよ!」
うん、だけどね、寺島さん。寺島さんがそんなつばをまき散らしながら大声で叫んでる時点で雰囲気がぶちこわしだし、わびさびが日本に生まれたのは戦国時代だし、この庭園が完成したのは近世なんだけどな。
と、まあ、そういう突っ込みがぼくの中に生まれたが、ぼくは優しいので言わないでおいた。なんて優しいだろ、ぼく。
「寺島さん、家の所に行く?それとも、ここら辺うろうろする?」
ぼくがそう言うと寺島さんはこう断言をした。
「いや!ここにいる!もっと、ここを見てみるね」
そう言って、寺島さんはひょこひょこ庭を闊歩し始めた。
僕は寺島さんを見た。遠洋邸にある庭の周りを角度を変えるために移動したり、しゃがんだりする寺島さんを。
最初にあったときとはだいぶ印象が変わってしまった。この春にあったときには礼儀正しくて知的で茶目っ気のある。言うなれば、ぼくの理想の女性だったのに、友だちになればただの鶏だった、寺島さんは。
しかし、今まで友だちなんていなかったぼくにできた最初の友だちだ、寺島さんは。彼女がいなければ、今年も悲惨の高校生活を送っていただろう。そういうことを考えると、夢が壊れることは仕方のないことかな?
まあ、そうだな。それは仕方ないな。だって、ねえ、一人の友人がいない高校生活なんていやだからな。
「笹原くーん」
寺島さんがこちらにウサギのような身振りで駆け寄ってくる。彼女、女子の中ではかなり背が高いのに言動一つ、一つが愛嬌を感じさせるのだ。
でも、中身は鶏だけどな。
「笹原君、次に行こう。ここ、もう見終わったから」
「ああ、わかった。次はサルスベリの花を見に行こう」
そうして、僕たちはサルスベリの花を見に延養邸から南西にあるサルスベリの花を見る予定だった。
しかし。
「あ!あ!タンチョウだ〜!かわいい!あ〜ん、触りたい!触りたい!」
との寺島王女の言葉により、我々は急遽予定を変更してタンチョウがいる飼育場所へ向かった。
単調のにる飼育場所は檻とかがあって、飼育小屋の体は一応なしているが、その小屋は広いし、とても清潔な場所だった。晩夏の日差しもあって、どこか新生でも生まれるような気分をさせてくれるような晴れ晴れとした場所だ。
それで寺島さんはえさを片手にタンチョウを誘い出していた。
「よ〜し、よしよし、おいで」
そう、寺島さんは誘い出していると、なんと、タンチョウはとつとつと寺島さんに向かって歩いてきた!
「おお!おお、いい子だね〜、よしよし」
寺島さんはタンチョウの頭をなでる。タンチョウは寺島さんの愛撫を受けていた。
これは驚いた(おどろいた)。あのタンチョウがこんなふうにやってくるとは。やはり、同じ鳥だから気が合うのか?
「あ!」
しかし、タンチョウはするりと寺島さんの手を抜けた。あとはそれを名残惜しそうに見ている鶏が残された。
途中にこう言ったハプニングもあったが、僕たちは予定道理にサルスベリの花を見に向かう。時間を見ると11時45分。まあ、大丈夫だろ。レストランの料理が驚異的に遅くなければ。
遠洋邸から南西方向に伸びる道を渡って、効用の気を南に折れた床にサルスベリの花があった。渡っている中、後楽園の、のんびりとした空気が僕を包む。けっこうこういう空気は僕は好きなのだ。
「あ、わー!」
寺島さんがこれを見て驚く。まあ、そりゃあ、驚くだろう。ぼくも驚いている。
茶畑や唯心山の緑の中で一角を一面に白とピンクの色に染めているサルスベリはどこか異質に感じさせるほど、鮮やかだった。
「すごい、すごいよ!笹原君!」
「ああ、すごいね」
白とピンクの絢爛たる社交界に、僕達はただ踊ることしかできなかった。あまりのことに呆然と踊らされていたのだ。
「すごいね!笹原君!」
「ほんと、異次元のように花たちのあでやかさが際立っているね」
そういいながら僕達は花を眺めた。自慢げに己が美を誇示する彼女たちを。




