アタタカイヤミ 51
6章 仲直りの機会
「宿題終了」
夜の蝉の鳴き声が熱帯夜の蒸し暑さをさらに圧縮している風に思える。
ぼくは自宅にいて、それで普通に今、宿題を終わらせたところだ。復習も、もう済んである。
それであとは本でも読むかと思った。最近、よく読んでいるのは重松清だ、それを読んでいる。
今読んでいるのは『きみの友だち』だった。結構、古い物だけど、やはり重松は良かった。読んでいて、すごく胸に迫ってくる。
それを読もうとしたところ、携帯が鳴り出した。取ってみると着信が不明な人だからだ。
これは何だろう?とぼくは思ったがすぐそれを取った。
「はい」
『もしもし、笹原よね?』
意外なことにフレイジャーからだった。
「はい、そうですよ。どうしたの?電話もそうだけど、そもそも、どうしてぼくの電話番号知っているの?」
『ああ、それは真部から聞いたのよ。そうね、確かに私だけあなたの番号を知っているのは不公平だからね、あとで私の番号知らせるわ。それよりも、用件について聞きたいと思わない?』
「ああ、聞きたいよ」
ぼくはいったいなんのことだと思った。フレイジャーが連絡することなんだからよほどのことだろうと思ったのだ。
『ねえ、一樹。心して聞いて欲しいんだけど、一樹、美春と仲直りする気はない?』
「単刀直入に言うな」
そう言ってぼくは苦笑した。ぼくは親愛の情を示すためにそう言ったのだが、フレイジャーは違う風に受け取ったようだった。フレイジャーは語尾を上げてこう言った。
『単刀直入に言ってはいけないわけ?』
どくり。
一気に体温が上昇した。フレイジャーのちょっとした変化にぼくは鼓動が一気に10里の距離をかけていった。
「いや、いいよ。別に単刀直入に言っても…………」
ぼくはそう言った。早くしないと駆けだした鼓動がどんどん暴走していきそうだった。
『そう?なら、明日の予定はある?』
「いや、ないよ」
『なら、明日ふじうらに10時に来て、そのあと、何とかして美春と仲直りして』
「いや、何とかしてと言われても…………」
え?どうする?どうしようか。
「急に言われても困るんだけど、そうだなぁ。映画に行くか、それとも後楽園に行くか?でも、後楽園に行って喜ぶ女性っているのかな?」
『私に聞かれても………。美春に聞いてよ、そういうことは』
「ああ、でも、明日か。わかった、ちょっとネットで調べてみる。そのあと、美春に聞こう」
『ええ、そうね。ちなみにこれはデートじゃなくて仲直りの物だからあまり、思い詰めずに考えた方がいいわ。友だちからの遊びにそんなにかしこまられても困るから、言いたかったのはそれだけの事よ、じゃあね』
それでフレイジャーは通話を切った。
まあ、そういうことなら、軽い遊びを提案すればいいか。ぼくはそう思いネットを立ち上げた。
朝の7時に僕ははっ、と目が覚めた。むっくりと起き上がる。寝起きなのに目覚めはクリアーで明晰な数の世界に入り込んだように頭が覚醒していた。そして、僕は下に降りて支度をする。
今日はデートではないとはいえ、似たようなものだ。失敗は許されない。
そして、全ての支度を終え、出ようとするときに康子さんに見つかった。
「あら?出かけるの?一樹君」
「はい、康子さんでかけてきます」
「そう、行ってらっしゃいね」
そう、おっとりと康子さんは言ってきた。本当にこの人は餅のような人だ。柔らかくてどこかとらえどころがないような、そんな人だな。
そう思い、ぼくはここから出て行った。
「ああ!」
そうだ、忘れていた。あれがいるんだ。
忘れ物を取りにぼくは家に戻る。
「あれ、一樹君、出かけたのではなかったの?」
「ああ、ちょっとね」
それでぼくはある物を取り出した。
「あら?そんな物をどうするの?」
「ちょっとね。あ、そうだビニール袋を二つもらうよ」
「ああ、はいはい。いいですよ」
それでぼくはそれをもう一つのビニール袋に入れて、ビニール袋とそれをバッグに入れて、今度こそ言った。
「それじゃあ、いってきまーす」
「はい、いってらっしゃい」
時刻はは8時半、十分、間に合うな。
ぼくはそう思った。あれからいろいろ考えたが、夜遅かったけど、寺島さんと連絡を取って、待ち合わせを9時に変更をした。
寺島さんには夜の10時ぐらいに連絡をして、何とか起きていてくれてたようで、これだけは自分はこの幸運をよろこんだ。
自転車をこぎ出す。ぼくの計算だと9時ぐらいにしないと間に合わないからな。待ち合わせを9時にできてよかった。
ぼくはそう安堵をしながら目的地に向かった。朝の光りがきらきらと僕の周りを舞っている。不思議と寺島さんと二人っきりになる事への恥ずかしさはなかった。これはデートではなく、友人の仲直りの機会だということを知っているのかもしれなかった。
まあ、そういう所の機微はどうでもよくて、ぼくはこの仲直り、特にスケジュール通りに行くことをよく考えていた。
ぼくがつくとみんなはもうついていた。真部と、フレイジャーにぴったちくっついている寺島さんがいた。
寺島さんの服は無地の白の長袖のあるTシャツに栗色のハーフパンツに黒のレギンスだった。
「おーい。待ったか?」
ぼくの問いかけに、真部が答える。
「いや、特に待ってないぞ」
「そうね、じゃあ、笹原が来たんだから、駅に行きましょう」
そのフレイジャーの言葉にただ一人を除いて頷いた。
「〜〜っ」
そのただ一人は唇をとがらせフレイジャーの腕を取って何となく釈然としないような身振りを見せた。
「美春。赤ん坊じゃあ、ないんだから、言葉で何とか言って。それと、やっぱり、もう行きたくないというのは受け付けないから、ここに来たと言うことはもう、行くことは前提だから、わかった?」
ぷっくり膨らむ餅が二つ。だが、それもしぼませ、のろのろ歩くナマケモノが、とてもだるそうについてきた。
「じゃあ、駅までとりあえずみんな行こう」
そうしてぼく達は瀬野駅に行くことになった。




