アタタカイヤミ 46
というわけで僕たちはカラオケにやってきた。僕らと寺島さんの女友達4人ほど引き連れて、ぞろぞろとチューブに入っていった。
僕たちは4人用のルームを二つ借りてルームに入っていった。寺島さんとその女友達たちと、僕たちが別れたのは言うまでもない。
ぼくは入る前にさっさとジュースでも飲みながら、真部の歌声を聞いていた。いや、聞いているふりをして別のことを考えていた。
今朝の出来事。突然の休校と、まだ登校していない波田さんのこと。
これらは関連があるのか?
もし、これらが関連があったならぼくはどうすればいいのか?まだ、この事が自分の中で整理がつかない。もし………。
もし、波田さんがいじめが原因で自殺したら、ぼくは明日からどうやって日の当たる場所を歩いて行くことができるのか?
本当にどうしようか。
ぼくがそんなことを考えていると、今度はフレイジャーが歌い出した。
僕はそれを冷めた目で見て、ドリンクをマグカップに切り替えるべく席を立った。
真部とフレイジャーとぼくがルームにいるとき、ぼくはあることをじっと待っていた。どうしてもそれを話したいがためにこのカラオケに行くことを提案したのだ。
と、そのとき、歌を歌い終わった、直後の真部が手をあげてこんなことを言ってきた。
「あ、すまんが、俺はお手洗いに行ってくる」
やっと、この時が来た!
真部が立ち上がってルームから出て行く。真部が出て行ったすぐに、ぼくはフレイジャーに接近してこう言った。
「なあ、フレイジャー。話をしたいんだけど、いいかな?」
そうぼくは言った。フレイジャーもそれがわかっていたのか、もうすぐにカラオケを一時停止にしていた。
「ええ、いいわ」
フレイジャーが了承してくれたのですぐ、ぼくは言った。
「なあ、フレイジャー。まず、今朝のことの意味は?」
それにフレイジャーがよどみなく答える。
「別にたいした意味じゃないわ。ただ、一人よりは二人になった方がいじめられる危険性がなくなるだろうと思って、あなたも私についた方がいじめられる危険性は少なくなるわよ」
フレイジャーは何事もなくそう言った。ぼくはうすうすこう言うことに気づいていたので、特に驚くことはなかった。言うなれば、これはただのジャブでストレートはこれからだ。
「なあ、フレイジャー。今朝の休校のこと、どう思う?あれってやっぱり……………」
そう思ってぼくはそのあとの台詞のことをためらった。ぼくは言霊という物を信じていないが、この言葉を言うことにすごくためらいを感じていたのだ。これはいうなれば、彼岸の言葉だった。賽は投げられた、という物に似ている。ただ、賽は投げられた、は政治状況を言っただけで自分のあり方が変わるという物ではない。これを言うと自分の何かが変態する。それはどういう物になるかはわからないけど、以前の自分とは違う物になる。そんな気がする。
いうべきか言わないべきか。言わなかったらいつもの日常に戻れる。確かにちょっとごたごたがあるかもしれないが、それは昔あったこと、といって笑ってすませれる、普通の人になれるような気がする。しかし…………。
しかし、これを言うともう以前の自分には戻れない。此岸から彼岸への三途の川を渡って行かなくてはならない。そのような漠然としたどす黒い闇を背負わされてる気がした。
フレイジャーが横目でぼくを見ている。その目にはおまえにはもう、話すことはないのか?ということを語っていた。
ぼくはすぐに決心した。もう、彼岸に渡ろう。というより、今までがおかしかったのだ、今までが特におかしかったのだ。今までぼくはいったい、何をしていたのだろうか?
波田さんのいじめを見過ごして、それで夏休みを遊びほうけていた罪が今、ぼくに向かって押しつぶそうとやってくる。いったい、ぼくは何をやっていたのか、そんな自分の日和見主義という悪の芽に、良心の水がじわじわとしみこんでいき、自責の念という化学反応を起こさせる。
とにかく、言おう。そして、何かを変えよう、そう思いぼくはフレイジャーにこう言った。
「なあ、フレイジャー。今度のこと、波田さんの自殺と思うか?」
ぼくはそう、ぶっちゃけた。それにフレイジャーは表情を動かさずにこう言う。
「ええ、そうね。常識的に考えてそうだわ。ただ、もう何通りか考えられるのは、波田さんが自殺しようとして、それを失敗したのか家族がたまたま見つけたかで、自殺未遂になったか、それでも休校という具合だから重傷というのが考えられるわね。あとは、彼女が行方不明になったか」
「行方不明って?」
「行方不明は、行方不明よ。彼女が何らか置き手紙をしたか、しなかったかわからないけど、とにかく、突然どこかに行ったんじゃあないかしら?」
フレイジャーはそう言った後、仕切る言葉を言う。
「とにかく」
「とにかくよ。彼女がたぶん何らかの事件を起こしたというのが、そう言うのがすごく考えられるわ。というより、やはり、彼女以外でほかに考えられるとしたら、ほかのクラスの生徒が何らかの大事件を引き起こしたか、もしくは事件に巻き込まれたか、というのが私の推理だわ。それぐらいしか考えられることはないでしょう?」
そう、フレイジャーは言い切った。確かにそれはぼくも同じ考えだ。
それでぼくは次のことを聞きたかった。
「それでフレイジャー、これからどうすればいいと思う?」
そうぼくは渾身のストレートを放つ。ただ、これには予想もしないカウンターを食らう羽目になった。
「どうすればいいって、何が?」
?
最初に浮かんだのがそれだった。僕はフレイジャーの顔をまじまじ見る。フレイジャーもぼくと同じような、顔に疑問がついている眼をしていた。
「いや、だから、人が一人死んだ可能性があるんだよ。それなのに、なにもしないというわけにはいかないだろ」
「?なぜ、それを私が何かしないといけないわけ?別に何かしないといけない理由がわからないわ。あなたに問うけど、死んだのは私と関係がない人よ。それをなぜ、私が関わらないといけないわけ?」
「いや、関係がないというわけにはいかないだろ。だって、クラスメートが死んだんだよ。関係はあるよ」
「いや、だからクラスメートでしょ。私にはなにも関係がないわ」
何かが自分たちの間で決定的にずれている。プレートのずれのように動いていながら、少しずつずれが起きてるような、そういう物をぼくは感じた。
今のぼくならこれはすぐにわかるのだろうが、当時のぼくにはわからなかった。フレイジャーの考えが。
「それは……………」
がしゃ。
と、また言葉を言おうとしたところで、ルームの扉が開いた。真部が出てきたのだ。
「よう、歌っているか?………って、歌っていないじゃないか!?どうしたんだ?」
画面の一時停止を見て真部が言う。それにフレイジャーは何でもないような口調で言った。
「何でもないわ。笹原と今朝のことで話し合っていたの」
僕は瞬時にフレイジャーを見た。が、よく考えてみれば、いじめのことはほかのクラスにはばれていないので、普通の会話のようにしか聞こえないはずだ。
「そうか、それで、どんな結論が出た?」
「ええ、それはたぶん学校の生徒が大事件を起こしたか、何かの事件にあったか、それ以外には考えられないと言ったわ」
それに真部は肯いた。
「ふ〜ん。俺もそういう風に思う。そうか、それ以外しか考えられないよな。それでもう俺らができることはないはずだ。あとは学校の連絡待ちだ。俺の結論はそういう物だ」
「ええ、全く同意見だわ。私たちにできることはないわ。だから、私は今は遊んでいることでいいと思うの。だから、歌うわね、笹原君」
フレイジャーはぼくにそう言って、カラオケの一時停止をオフにして歌い始めた。
僕はそれを見ていた。フレイジャーを。彼女は何なのか?本当に人なのか?そう僕は思いながら宇宙人を見るように彼女を見ていた。
「どうしたんだ?」
振り返ると真部がぼくを心配そうな目で見ていた。
「うん?別にどうもしないよ」
ぼくは何でもないような様子で言ったけど、真部はそれを聞いてもまだ疑問がぬぐえないらしい、さらにこうつづけて聞いた。
「しかし、今さっきおまえ、キャサリンのことを不思議な動物でも見るような目で見ていたよ」
それにぼくはびっくりした。フクロウがいた。そのフクロウはぼくのことを少し見ただけでだいたいの事情がわかってしまうのでないかと思うほど、鋭い観察眼だった。
フクロウが大きな目を瞬かせ、また言う。
「どうした?一樹?」
「い、いや、何でもない。あ!そうだ!コーヒーがなくなってるからドリンクバーに行ってくるよ!」
そう言って、ぼくは席を立った。そうして、ドアに手をかけたとき、後ろから真部の声がぼくの背中に投げかけられた。
「待て、一樹」
振り向く。そうすると真部が何かを探るような眼をしていた。
「おまえ、何か、隠してないか?」
ぼくは冷静に言わなければならなかった。だから、素っ気なく言う。
「なにも隠してないよ」
「しかし」
「真部、何が変だというのさ。僕がフレイジャーを見る目が変だというのか?でも、ぼくはまだ、フレイジャーとまだ友だちになっていないし、フレイジャーのことがよくわからなくなるときがある。その考えがまだわからないから、注意深く見るだけのことだよ。それだけ」
「ふむ」
真部が考えるような目つきをしていた。ふと、フレイジャーのほうを見ると、その瞳にはすべてあなたに任せるということを言っていた。
「笹原」
「うん?」
真部がぼくの話に疑問を覚えたことがあったのか、顔を前に上げてこう言ってきた。
「笹原は、キャサリンの考えがわからないといったな。それはどこがわからないのか、それでそれをどこでそのわからないことを知ったのだ」
真部はいいところをついてきた。ただ、ここでばれしちゃあ問題がないので頭を振るに活動させ、普段道理に答える。ただし、後で冷静考えると真部には相談してもよかった、と思ったのだが、だが、当時はなんとしても隠さねば、と思っていたのだ。
「どこで知ったかは学校だよ。学校でフレイジャーが人となれ合わない態度を見て疑問に思ったんだ。特に自分の役目を果たせば、他人が掃除とかで困っているのに手を貸さない態度を見て疑問に思ったんだ。それだけのことだよ」
ぼくは普段道理の表情を使って素っ気なくそう言った。それに真部も一応納得してくれたのか、ひとまずわかった、といった。
「疑って悪かったよ、笹原。まあ、わかったよ。一応、疑問はしまっておく。この話はこれでひとまずおしまいだ。でも、もし、また何か不審なことがあったら、また聞くから」
さすがに真部は手強いな。ぼくはそう思った。できれば、もう聞かないでくれてる方がいいんだがな。しかし、ぼくはそんな心の内面を表面に写さず、頷いた。
「じゃあ、ぼくは飲み物次いでくるから」
「ああ、言ってこい」
そう言ってぼくはルームから出た。フレイジャーが歌っているジャイアントパワーの曲を背中で聞きながら。




