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アタタカイヤミ 45

 はぁ、やっと出られた。

 ぼくは何とかここを脱出することに成功した。人の放水の波に押し出されてここから脱出できた。

「笹原く〜ん」

 寺島さんが手を振ってこちらにやってきた。

「ねえ、笹原君は大丈夫だった?」

「ああ、大丈夫だったよ。みんなも大丈夫だったか?」

 ぼくがそう聞くとフレイジャーも真部も頷いた。都合よくみんなが集まってよかったな。

「じゃあ、これからどうする?みんな」

 そうフレイジャーが聞いた。

「はいはい!珈琲(こーひー)館に言ってこの事件の真相を話そうよう」

 そう、寺島さんが手をあげてそう言った。

「また、そんなこといって。(うわさ)話は一人前のレディがやることではないわ」

「ええー、でも、気になるじゃ〜ん」

 そう言って寺島さんは口をとがらせえた。フレイジャーはそれを見てあきれたようにため息をつく。

「あなた、一人前のレディになりたくないの?やめてよね、こういう子供っぽい物、やめて欲しいんだけど、私は」

 それに真部も。

「キャサリンもそう言ってるし、俺もそんなことを話したくないから、それをやめて欲しいと思っている。どうだ、やめてくれないか?」

 そう真部が言った。寺島さんはほっぺたを含ませながら、でも〜、といった。

「でも、気になるでしょ!?」

「気にならない」

「気にならないわね」

「うん、気にならない」

 僕たちはそう言った。それに寺島さんのは愕然とした表情でこちらを見た。

「嘘……。これ、気にならないの?」

「いや、そんなに、まるでこちらが真人間でないような口ぶりで言わないで欲しい。反論を言わせてもらうと、確かに気になるけど、今情報がまずないでしょ?それに僕たちはジャーナリストじゃないし、これを調べることはできないし、こんな情報がない中話すことと言ったらただの妄想だよ。そんなのは有益じゃないし、(うわさ)話はことによると人を傷つけるし、これはやってはいけないことだとぼくは思うよ」

 そうぼくは言った。しかし、敵は手強かった。ぼくの話の結論を無視してこんなことを言ってきた。

「もう、笹原君はわかってないな。あのね、そうやって妄想しながら話すのが楽しいんだよ。それでどんどん話が広げながらあれやこれを付け加えるのが本当に楽しいのよ。それが醍醐味(だいごみ)なの」

 そう寺島さんは手をこちらに向かって振りながら言った。

 この女どうしようもないな。

 そうぼくは一瞬(いっしゅん)思ってしまった。いろいろとかわいいところもあったけど、この女は人としての根幹なところで腐っているような、そんな気が一瞬(いっしゅん)、僕の心のフィーリングに現れた。

「じゃあ、どうするか。美春以外は(うわさ)話をしたくないと言うし、美春はそれをしたいと言うから、どうする?みんなで美春につきあうか、それとも別れるか?」

 そう、真部が提案してきた。全員海底に住む貝のようにじっと沈黙していた。ぼくはその沈黙の海で浮上を試みる。

「あのさ、考えてみたけど、今朝のことが起きてほとんど本を読む集中力もなくなっているから、チューブにいかないか?つまり、こういうことだ。


 部屋を2室借りてカラオケをする人はそれをして、噂話をしたい人はそうするって言うのはどうだ?」

 そう言ってみた。それに二人も肯定的な涼風を吹かせていた。

「ふむ、まあ、ここで立ち話も何だから、まあ、いってもいいけど、どうする、キャサリン?」

「私はどうしようか、まあ、いいかな。(うわさ)話にはのらないけど、ここで立っていてものどが渇くし、飲み物があるところならいいでしょう。よし、みんなでチューブに行きましょう」

「やったー!ありがとう笹原君!君のおかげでいっぱい話することはできそうだよ!あと、みんなに送信してっと…………」

 寺島さんは女友達対になにやらメールを送信しているようだった。ぼくは自転車を取りに寺島さんに背を向け歩いていたら、いきなり背中に衝撃が起きた。

 振り返ると満面の笑みをした寺島さんがこちらに抱きついてきたのだ。

「笹原君。あのね、私今すごくあなたに感謝の思いで胸がいっぱいなの。今日は何でもおごってあげるよ」

 そう言いながら、寺島さんはぼくの右腕に腕を絡ませてきた。ぼくは寺島さんが腕に絡ませ来たのを自分の心の表層はうれしかったけど、もう一つの真相の部分はそれを冷めた目で見ていた。

「寺島さん、そう言ってくれるのは大変、うれしいけれど。でも、ぼくは(うわさ)話に興ずる女性は嫌いだよ。こういう(うわさ)話はチューブのときだけにしといてくれ」

 ぼくはそう言った。それに寺島さんは今まで春爛漫(らんまん)な桜並木の中を気持ちよく騒いでいたのが、一変して、甘い見通しで社会人に入った新入社員が、世間の荒波にもまれたときのような幻滅した表情をした。

「わかっています、わかっていますよ!ええ、しない。学校ではこんな事話しませんよ!それでいいでしょう!」

 猫に逆襲(ぎゃくしゅう)したネズミがぼくの胸を歯で貫いた。寺島さんがそういうことを言うとは思わなかったので何だろう、鼓動がどくどくする。ネズミに逆襲(ぎゃくしゅう)された猫はそのネズミのことをまた襲うのだろうか?

 いや、それは否だ。猫は襲わない。というより、そのネズミのことを怖がるのではないだろうか?

 ぼくはそう思いつつ、胸に抱えた恐怖に布をかけてこう言った。

「ああ、カラオケで全部言い切れよな」





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