アタタカイヤミ 44
ぼくはフレイジャーと一緒に寺島さんと真部のクラスを見て回った。そこで二人と何とか合流する。
「ひやー。大変だったね、笹原君とリンちゃん」
「ああ、そうだな。それよりも詳しい話はあとで話そう。まず、ここからでよう」
「ええ、そうね」
それで僕たちは下駄箱に行こうとしたが、その前階段で人だかりができていた。
「人がたくさんいるな」
「うん。そうだな。どうしよう、出れんよ、これでは」
「そうね」
人だかりからはみんなの話し声がたくさん聞こえる。ただ、すごく話しているため周りは全然進んでいない。それを見ていると芋虫の大群みたいにぶよぶよとした物に見えて仕方がなかった。芋虫たちが周りの迷惑を考えずにただ、噂話の卵をぶよぶよ産んでいく。
「はあ、出られないや。どうしようか?これから」
「どうするのもなにもでれないし、ここを脱出できたらどうする?」
ぼくの言葉にやはり寺島さんが飛びついてきた。
「はーい。チューブに言って部屋を予約しよう。それでこの事件の真相を語ろうよう」
その言葉に真部とフレイジャーが相次いで言う。
「却下だな」
「ええ、却下よ」
「ええ、なんでー!」
「噂話なんて低俗なことやめてよね。そういうことをやるから女性が馬鹿だと思われるのよ」
「そもそも、噂話なんて知的な人がする物ではない。あんまし、こういうのはやりたくないしな」
「ええー!でもー!」
二人の意見になお寺島さんが抗議をしようとした。だが、その前にぼくは言うべきことを言わなければならなかった。
「寺島さん」
「ん?」
寺島さんが振り向く。
「そろそろ後ろのほうも詰まってきた」
ぼくの言葉に寺島さんは振り向く。後ろのほうにもだんだん人が来てプレッシャーのように段々こちらをプレスしてくるのだ。
「ぎゅうぎゅう詰めになるから手を握ろう。真部もフレイジャーと手を握っておいた方がいい」
「わかった」
そう言って真部はフレイジャーと手を握っているところが見えた。段々すし詰めになっている状態の中でぼくも寺島さんに手を差し出して、言った。
「さあ、寺島さん。僕たちも握ろう」
「あ、うん。……そうだね」
寺島さんは初めてワックスを使う人のようにおずおずとぼくに手をさしのべてきた。
ぼくはその手をつかんだ。そうすると寺島さんはサウナから出た人のように顔を真っ赤にしながらうつむいていた。
「寺島さん、恥ずかしがってる場合じゃないよ。たぶん、ここからは地獄だよ。気を抜いてるとつぶされるよ」
それに寺島さんも気を抜いた笑い方をした。
「あは、そうだね、わかったよ。軍曹!指令を下さい。寺島2等兵は何をすればいいでしょうか?」
寺島さんもようやく本領発揮をしてくれているようだ。
「じゃあ、2等兵に指令を出す。まず、敵陣に飛び込み我が軍の捕虜、通称2等兵の靴を奪還し、そのまま、2等兵はこの戦闘区域からの離脱をしてくれ。私は自分の捕虜の奪還に向かう。合流地点はここを見える安全なところに逃避してくれ、そこがダメなら校門の所に行ってくれ」
「軍曹!そんな私には軍曹を見捨てて逃げることはできません!私は軍曹のそばについていきます。死ぬときも一緒です!」
寺島さんは段々乗ってきたな。僕はそう感じながら、このままノリで一気にここを突破しようと思った。
「馬鹿者、二等兵!いいかよく聞け、我々軍人は国家のために捧げた(ささげた)命、その命は散らすことは惜しくはない。だがな!部の隊長は部下の命を守る責務も同時にあるのだ。2等兵、今回の作戦が終了したら2等兵の存在は用なしだ。わざわざ、無残に散らす命ではないだろう。いいか、2等兵。2等兵にもし人情という物があるならば、私に隊長の責任を全うさせてくれ。わかったか、2等兵」
そう言って憂愁の隊長風な微笑みをした。それに寺島さんはまた過剰に乗ってきた。
「隊長。私2等兵は猛烈に感動しております!まさか、隊長にそのような思いがあったとは!私は今自分の不明を恥じております!」
そう言って、寺島さんは大げさのポーズをしたいらしいのだが、もうもみくちゃにされて、そんな物はとうにできないのだ。
「して、2等兵。捕虜の場所はどこだ?」
「あ、あそこです」
ぼくは寺島さんが指さした方向に向けて体を押し出した。
「行くぞ、2等兵。しっかりついてこい」
「はい、軍曹!」
それで僕たちは寺島さんの下駄箱に向けて突撃をした。




