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アタタカイヤミ 41

  読書会が終わって、ジュースでも飲みながら雑談と今後の予定を立てる。

「ねえ、今度はどこ行く?」

 寺島さんがそんな無垢の表情のままみんなに聞いてくる。

「どこ、どこっていっても金がないしな。倉敷の美観地区には行けるか?」

 ぼくの言葉を今度は真部が後を引き継ぐ。

「それはどうだろうなぁ。あとで調べておくよ。まあ、だけど高校生の小遣いで遊べるところと言ったら、あとは後楽園?」

「そうね、あとはそれくらいなものね」

 そうフレイジャーも言った。

 ほんと、高校生のお小遣いじゃあ、これが限度だな。

 ぼくがそう思っていると、別方向からの声が聞こえた。

「あ、このポッキー美味しい」

 寺島さんがポッキーをポリポリ食べていった。

「このポッキー新製品?」

「新製品ではないがな。確か、ビターチョコだったか、そんなんだ」

「へ〜、でも、美味しいよ」

 そう言って寺島さんはポリポリ食べ始めた。僕たちもポリポリ食べる。冷房が効いた白い部屋の中でポッキーを食べている僕らは何か唐突な物のように感じられる。無機質な冷血な突拍子のない物、宇宙人が懇談をしている場面に遭遇したらこういう風になるのだろうか?そんなことをぼくは考えながらポッキーを食べていた。

「そういえば」

 寺島さんがそういえばといってこんなことを言い出してきた。

「そういえば、笹原君、あれ読んだ?『一瞬(いっしゅん)の光』それ読んだ?」

「ああ、読んだよ」

 そうぼくは言った。つい昨日読み終えたところなのだ。

「そうよかったー。じゃあ、感想聞かせて」

 寺島さんはそう微笑んで(ほほえんで)、子供のように人なつっこい笑みで言った。

「感想ねぇ。まあ、あれだよ。よかったよ、全体的に、今風な小説の流行に乗らない、人間が生きていく上での良き生の追求をしておりよかった。まあ、つまり、良き生の追求というものを正面切って書いたからぼくにとってはよかったよ」

 それがぼくの感想だった。

「ちょっと、待って」

 その発言にフレイジャーがカニがほかのカニをはさみで追い払うように、言葉にとげを乗せて僕に異議を唱える。

「ねえ、笹原。あなたはあの小説を読んだ感想はそれ?」

「ああ、そうだよ」

「そう、では私も言わせてもらうとね」

 そう言ってフレイジャーは一呼吸置いてからこう言った。

「私、あれはないと思うわ。なに、良き生について描こうとしてもこの男、二人の女性の間をふらふらしすぎよ。これはちょっと、あり得ない。小説だからって何を書いても許されると思ったら大間違いよ。とにかく、私はこれはダメだわ」

 フレイジャーがそういったとき、ぼくの鼓動が早くなった。どくどくと鼓動の音がマグマのように聞こえる。それはネズミのマグマだったが、だが、とにかくぼくはそのマグマを逃れるため、早くこう言った。

「しかし、小説にはどんな題材を書いてもいいという自由があるはずだ。確かにその題材で人に批判されることは甘受(かんじゅ)しないといけないが、小説には何を書いてもいい自由がある。それで、フレイジャーが言いたいのはあまりにもこの物語の結論を得るためのストーリー、題材が悪いと言いたいんだね?」

「ええ、そうよ」

 ぼくが言った言葉をフレイジャーは冷気をまとまったままそう言った。本当なら、涼しいと思う所なんだろうけど、今のぼくは言葉に対してアレルギー反応を示しているように少し、感情のぐしゃぐしゃになっていった。Aのスイッチを入れたらaのスイッチではなくてbのスイッチに入るような、そういう混乱している状態にあった。それを周りに悟らせないように大変な思いをしていたのだ。

「じゃあ、この物語の話の結論は?」

「………………」

 ぼくがそう言うとフレイジャーは黙った。眉間にしわを寄せて何かを考えているようだった。

「……………まあ、悪くないわよ」

 そうぼそりとフレイジャーはいった。

「まあ、最後の選択も私的にはありだと思うわ。その理由も良かったけど、でもそこに至るための道筋がね、やっぱり私はダメだったわ。だから、この小説は好きにはなれないわね」

「ふ〜ん、そうか…………」

 フレイジャーの言葉に僕はただ肯くことしかできなかった。小説は何を書いてもいいと思うけど、その結果周りに不快なものを与えるかも知れないというのは一つの事実だった。

「まあ、確かにこの題材は女性に不快感を与えるというのは事実だし、できる限り題材に注意することも大切だな」

「そうね」

 そのことに関して、僕達は合意ができた。前まではウイルスと白血球の戦いがあったのが、今は昼の湖の静けさを僕とフレイジャーは共有していた。

「まあ、いいわ。このくらいにして、食べましょう。それでいいわよね、笹原?」

「ああ、いいよ」

 それで、僕達はまた、お菓子を食べ始めた。お菓子のにおいが僕達を甘く包んでいた。




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