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アタタカイヤミ 38


「おーい」

 その声で僕達は我に返った。

「おーい、笹原、美春。少しは泳がないか?」

 声の方向を見ると青いプールの中から真部が手を振って僕達に呼びかけてきたのだ。僕達は顔を見合わせた。

「笹原君、一緒に泳ぐ?」

 寺島さんはなじみの客に話しかける店員みたいな表情で言ってきた。

「あ、そうだね。そうしようか」

「うん。わかった。じゃあ、泳ごう」

 そして、僕達は本を置いて立ち上がった。立ち上がったとき、寺島さんはパーカーを脱いだ。

 そうしたらちゃパンという音がした。おそらく、寺島さんが入ったのだろう。

「笹原君も、おいで」

「ああ、わかった、行く」

 僕が振り向くと、青いプールに入った寺島さんが手を振っていた。寺島さんは水中花のように顔と肩を出して、それがある意味、かわいらしかった。

「じゃあ、入ります」

 そして、僕もプールに入って、寺島さんのそばに行った。

「寺島さん」

「笹原君」

 僕達はたこのように緩やかに進んで合流した。さて、これからどうしよう。

「寺島さん、これからどうやって遊びますか?」

「うん、そうねぇ」

 寺島さんは少し考えたあと、にやりといたずらっ子みたいに笑った、と思ったとたん。視界に水が写った。

「ぶは!いったい何をするんだ!」

 いきなり水をぶっかけられて僕はびっくりした。

「こうだ、こうだ」

 寺島さんはいたずらっ子な笑みを見せて水をぶっかけてきたのだ。ぱちゃ、ぱちゃと水をかけられる。僕もやられっぱなしではすまないので仕返しをする。

「そっちがその気ならこっちも行くぞ!どっせーい!」

 僕は一気に水の帯を寺島さんに掛けると寺島さんはかわいい悲鳴を発した。

「きゃー!きゃー!ちょっと、やめてよ!」

「問答無用!」

 そう言って、僕が大量の水をかけると、寺島さんは身を小さくした。

「ちょっと!やめてよ!笹原君!」

 結構(けっこう)せっぱつまっていた様に見えたので、ちょっと暴れすぎたかな?と思いやめた。そして、僕は寺島さんのそばに行った。

「ごめん。ちょっとやり過ぎたかな?」

 僕は見ずにしたたる寺島さんを見た。寺島さんは捨てられて子犬ような目をした。

「笹原君、私……………」

 そういった瞬間、寺島さんはまたいたずらっ子の表情に変えた、そのときにはもう遅かった。

 ばしゃあ!

「笹原君、ここまでおいでー!」

 また、水をかけられた。

 そして、逃げていく。寺島さん。この女はどうしようもないな。

「ちょっと待てやー!」

「ははは、やだよー」

 そう言って、僕達は追いかけっこをした。こういう遊びをしているとなぜか僕の目には大きなグラウンドで犬にフリスピーを投げている情景がうかんだ。




「はい、捕まえた!」

 僕は逃げていた寺島さんの肩とおなかをつかんで捕まえた。

「ぎゃー!捕まえられた!」

 そう、寺島さんは悲鳴を上げた。捕まえたけどすぐ僕は離した。

「じゃあ、次なにする?寺島さん」

「う〜ん、じゃあ、笹原君、泳ぎの競争をしようよう」

「突然そういうことを言うね。まあ、いいか。あそこで競争をしようか」

 ぼくが指を指したのは端っこにある2コースだ。

「うん。いいよ」

 寺島さんも同意してくれたので係の人に言ってそのコースを貸してもらうことにした。

「笹原君。用意、いい?」

「ああ、いいよ」

僕はプールの取っ手をつかんで足を壁につけた。

「先にどちらが向こうに着いたかで勝敗を決めるのよ。それでいい?」

「ああ」

 真昼の日が輝いている。陽光が水面を輝かせ、波が人達と踊っていた。ぼくはその日差しを受けて頭が白くなっていくことを感じた。

「よーい」

 合図について、話し合うことはしなかったが、ぼくが合図をすることにした。それでぼくはドンを言おうとしたのだが、その瞬間こんな声がかかった。

「あ、そうだ!笹原君は泳ぎ上手?」

 思わずつんのめる。それからすぐ体勢を立て直していった。

「笹原君、大丈夫?」

「大丈夫じゃないよ!こんなときに聞かなくてもいいじゃない。なんでいまさら………」

 ぼくがふてくされていると、寺島さんは、ごめーん、といってこう言った。

「だって、気になったんだもん。それで泳ぎ上手なの?」

「一年の時同じクラスだったでしょ。思い出せばわかるんじゃない?」

「え?どうだったけ?思い出せないよ」

「思い出せないと言うことはあんましぱっとしないことだと言うこと。まあ、いいや。この話はおしまい。次は何が起きてもよーいどんしたら泳ぐから。はい!よーい……」

「わかったよ。構えるよ」

 寺島さんが渋々(しぶしぶ)頷いて構える。それで寺島さんは真剣な声でこう言った。

「じゃあ、私マジで泳ぐから、笹原君もマジになって」

「どん!」




 ぼくは青の世界に飛び込む。水をかき、足をばたつかせる。青の世界は言ったのもつかの間、すぐ息継ぎをしてまた戻るから視界がなにも見えない。

 普通の人は4回かいでから息継ぎをするがぼくは2回だ。特に理由はない、こっちのほうがしっくりくるからだ。そのため青の世界と、白の泡と地上の世界がすぐ交互に来てなにも見えない。あるのはジャバジャバとする音と、自分の体の感覚だけ。

 それでもう、ゴールが見えた。ぼくは青の世界から、地上の世界に浮上した。

 ぼくがゴールに着くと寺島さんは微笑んで(ほほえんで)ぼくを見てた。

「おそ〜い」

「ごめん」

「私がゴールしたときは近くにいたけどね、それでも遅いよ」

「遅いと言われても、別に水泳には興味ないし、そんなに早くはなれない」

「それでも女の私よりずっと遅いというのはどういうことよ」

「…………速くして欲しいの?」

 ぼくがそう言うと寺島さんはきょとんとした顔をした。

「え?」

 僕は寺島さんの顔を見る。

「寺島さんが早くして欲しいというのなら、プール上借りて泳ぎを練習してみるけど、寺島さんはどうしたい?」

「え、ええとね」

 寺島さんはぼくの顔から目をそらして、目を斜め上の方向に向けた。それで視線が彷徨していたが、やがてこう言った。

「なし!だって笹原君、かゆくなるんでしょ?」

「ああ、3分ぐらいならいいけど5分過ぎると無性にかゆくなるな」

「なら、これはなしだよ〜。そこまでしなくてもいいよ」

「じゃあ、そういうことで」

 それでぼくは青空を見た。青空はどこまでもすんで、植林は連なり、これを見ると自分が夏にいると言うことを実感した。




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