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アタタカイヤミ 37

「じゃあ、笹原一緒に泳ぐか?」

 シャワーを浴びたあと、真部がこう言ってきた。

「いや、僕はアトピーであんまし水に入ってはいけないんだ。だから、一緒に泳げないんだよ」

 僕がそう言うと真部は陰を作るようにうつむき気味に肯いた。

「そうか、じゃあわかった一人で泳ぐよ」

「ああ、泳げばいいよ」

 そう、僕はアトピーがあって、それは水に長時間つかるとまずいのだ。長時間水につかると肌を守る油を流してしまう体らしいのだ。

 まあ、仕方ないから僕はコーナー側で小説を読むことにしようと思い、コーナー側に行くと見知った顔が一人コーナーで座っているを見たので、話しかけた。

「おーい、寺島さん。キミも休憩?」

 僕が話しかけると寺島さんは振り向いて、大きな目で僕を見つめた。

「うん。笹原君も泳がないの?」

「僕はアトピーの関連上長時間水に入ってはいけないんだ。隣いい?」

 そう僕が聞くと、こくり、と寺島さんは肯いた。それでぼくは寺島さんの隣に座った。寺島さんは相変わらずパーカーを着ていた。多分日焼け対策だろう。僕は寺島さんの隣に座って、空を見ながら話しかけた。

「いや〜、今日は暑いね、寺島さん。あまりの熱さに体が溶けるようだ」

「うん。超熱い。こういう熱い日はかき氷が食べたいよ」

 寺島さんは一羽の小鳥がちちちとさえずるように言った。

「ああ、食べたい、食べたい。ところでさ、寺島さん。寺島さんはどんなかき氷が好き?」

 そう言うと、寺島さんばっと手をあげる。

「私、イチゴミルク!とにかく、イチゴミルクが好きなの!」

「ああ、ほんとに!僕もイチゴミルクが好きなんだよ。といっても僕の場合はミスドの安いイチゴミルクしか食べていないけど。でも、そうか、気が合うなぁ。今度一緒にミスドのイチゴミルク二人食べない?」

 そう僕が言うと寺島さんはハムスターのような人なつっこい笑顔をした。

「うん!いいよ。一緒に食べよう!でも…………」

 そう行って寺島さんは小さく笑った。

「どうした?寺島さん?」

「いや、男子でイチゴミルクが好きな人って初めて見たから驚いた(おどろいた)だけ」

「ああ、確かに。僕はかき氷に500円ぐらい使うのがいやなんだよ。しかも、そういうかき氷って特大じゃん。そんなに食べきれねーよって話しなんだよ。でも、ミスドのかき氷は200円ぐらいでお手頃だし、量もそんなに多くないしいいんだ。だから、いつもミスドのかき氷を食べるんだけど、あそこってイチゴぐらいしか種類がないだろ。だからイチゴミルクがすっかり好きになった訳なんだ。まあ、男子なのにイチゴミルクが好きなのは意外だというのはわかるよ」

 そう僕が言うと、寺島さんは百合のように微笑んで(ほほえんで)、僕に向かって言った。

「ううん。別に変だなんて思っていないよ。むしろ、私的には笹原君と親密になれるような気がしてうれしいよ。そうか、イチゴミルクが好きな男子ね。いいね、それも」

 ミーン、ミンミン。

 (せみ)の鳴く声が聞こえる。それ以降ぱったりと会話が続かなくなった。仕方ないので次の話題を振ってみる。

「ところでさ、寺島さん。あなたって夏ばてする方?」

「え?私!?」

 そう僕が振ると寺島さんは素っ頓狂な声を上げた。

「いや、全然。毎日ご飯を美味しくいただいておりますよ。全然食欲なんてなくならないよ」

 寺島さんは日々雑務を処理している完了みたいに何とまない顔をして肯いた。

「そういう、笹原君は?夏ばてする?」

「ああ、するする。この時期になるとしょっちゅうする。食べ物を口に入れるだけで吐き気がやって来て大変なんだよ。いつも、おえ〜と思いながら食べ物を口に入れるんだ。食事の時は毎回死ぬ気で食ってるよ」

 僕がそういったら、寺島さんはクスクスとおかしそうに肯いた。

「そうか、それは大変だね。笹原君。今日も吐き気に負けずに食事を食べるようにしなくちゃね。そうしないともっと体がばててしまうから」

「ああ、もちろん。ところで、寺島さん。寺島さんはいつまでコーナーにいるつもり?」

「それって、いつ泳ぐ、って言うこと?」

「ああ」

 僕がそう言うと寺島さんは困ったように首をひねった。

「う〜ん。考えていないけど、まあ、しばらくここにいるよ。気が向いたときに泳ぐよ」

 寺島さんは淡く肯いていった。

「そうか、ところで、今から本を読んでもいい?寺島さんが話し相手が欲しいのなら話してもいいけど」

「いや、私は別に。私も本を持ってきてるし。せっかくだから二人で黙々と本を読む?」

 そう茶目っ気のある表情をして寺島さんは言った。

「ああ、そうしよう、そうしよう。じゃあ、取りに行くか」

「うん!」

 そうして二人して本を取りに行った。




 そして、僕達は二人して本を見せ合った。

「白石一文?ああ、前に直木賞取った人ね。それ、おもしろい?」

 僕が『一瞬(いっしゅん)の光』を見せると、寺島さんは不思議そうに見ていった。

「ああ、これって何か人が生きる上で大切なことが書かれてあるような気がするんだ。まだ、最後までわからないけど二人の女性、どちらかを選ぶかで作者が人生にとって何を大切にすべきだ、といっている気がするんだ。こういう古典的な小説は現代小説では珍しいのでぼくは好きになったんです。まだ、最後まで読んでいないけど、読み終わったら貸してあげようか?」

 ぼくがそう言うと寺島さんは笑ってこう答えた。

「うん。貸して。私のほうはこの小説だよ」

 そう行って、寺島さんが見せたのは山田詠美の『学問』だった。

「ふ〜ん。なんかの書評で見たことがあるよ。少年少女の性を絡めた成長のストーリーだよね?」

「うん」

 そう僕が言うと、寺島さんは素直に肯いた。

「これ、よく登場人物の関係が書き込まれて、私、好きなんだぁ〜。これも読み終わったら貸してあげようか?でも、笹原君が理解するのは結構(けっこう)難しいかもね。かなり女性が理解しやすいところが入っているから、男子では読みにくいかもね」

「ふ〜ん。まあ、寺島さんが読み終わったときに、気が向いたら借りるよ」

 そう僕が言ったら、寺島さんは肯いた。

「うん。それがいいかもね」

 そして、僕らは隣に座って本を読んだ。それは時間の川をゆるゆる渡っていくような悠久の時の流れだった。僕達はその緩くてあっという間の時間を渡った。



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