アタタカイヤミ 36
真夏の日差し。それはまるで己が力を存分に地上の人たちに見せつけるがごとく、さんさんと存在感を示していた。まるで、その地上の物の苦しみなどを知らない暴君のごとく。
しかし、民草もその暴君の対処の仕方も知らないわけではない。上流に方策あれば下流に対策あり、は中国の言葉だったかな。とまあ、そういうわけで我らは人の心など知らず、頭上で輝いている太陽をやり過ごすためにプールに来たのだ。
いやー、暑い。どのくらい暑いのかと言えば、今の気温は34度くらいか、そのくらい暑い!
こんなアスファルトがそんなに多くない岡山でもこんなに暑いのだからなぁ。さすが晴れの国だ。
まあ、それはともかく、瀬野の市民プールにいつものメンツで僕たちは来た。本当は『1984年』の読書会をする予定だったけど、いろいろとみんなの予定が入って、読書会ができず。気候が暑すぎて、読書会の前にプールに行くか?という真部の提案で急遽プールに行くこととなった。
それを携帯で聞いて水着を取り出してのなんので大変だったなぁ。それでぼくと真部は着替えを済ませ女子を待つことにした。
ミーン、ミンミン。
蝉の鳴く声が今が真夏の真っ盛りだと言うことを教えてくれる。照りつける日差しとどこまでも深い青の空がぼくの頭を活性化させる。
これだ。この暑さが自分を沸き上がらせてくれる。
ぼくは夏が好きだった。夏のこの真昼の聞こうがぼく自身を体の鈍重たる部分を破壊し、澄み渡り、活性化させてくれると思うからだ。
それに夏で何かをするといつもと何かが違ってくるのでは?と思うことも好きだった。夏で読む本やゲームをいつもの物とは違う何かがあった。いや、なにもないけど何かの予感があるような気がして好きだったのだ。
だけど、そんな戯れ言はおいておこう。ぎらぎらと照りつける日差しの中、ぼくはやることがないので真部に世間話を振ることにした。
「暑いな、真部」
「ああ、暑いな」
真部も普通に答える。
「今日の気温は34度ぐらいらしいな。真部は暑いの平気?」
「ん。普通だ。もう17年ぐらいここに住んでいるからな、もうなれる」
「そうか、ぼくは普通だけど、夏は好きだな」
「ほう。じゃあ、冬は?」
「ああ、寝起きが一番いやだけど、それも普通かな。まあ、寒いけど我慢できないことはない」
「そうか」
今まで首を曲げて、向かい合って話していた僕たちだけど、不意に真部は首を正常な位置に移動させこう言った。
「なら、笹原にとって岡山はいいところだな。晴れの国だけあって、夏は快晴と猛暑だし、冬は東京よりは暖かい。ただし雪は降らないけどな」
「ああ、それなら東京でも雪は降らないよ」
「そうなのか!?」
ぼくがそう言うと真部は驚いた(おどろいた)風にバッとこちらを見た。
「なんか、山の影響で雪は全然降らないんだって、東京。あれ?知らなかった?」
「ああ、知らなかったよ。こっちより寒いから降るのかなぁ、と思っていたけど、降らないのか、東京は」
「ああ、そうなんだ」
真部は心底それに驚いた(おどろいた)ようで首をこくこくと動かしながらこう言ってきた。
「そうか、降らないのか。やはりまだ自分は修行が足らないな。まだ、知らないことがあるとは」
「うん。そうだね。精進しないといけないね。読書にしても何にしても」
「ああ」
そう言って二人は黙った。しかし、またここまで天気で話題が引っ張られるとは思っていなかったなぁ。
「ところでさ」
「ん?」
真部が顔をこちらに少し向けた。真昼の日差しの中彼の端整な顔立ちが精悍さを彩っている風に見えた。
「あのさ、真部。寺島さん達って胸大きい?」
「いや、そうでもない普通だ」
その一言で真部は、男ならなるほど、これを言うだろう。という風に頷いていた。しかし、ぼくはそういう意味を言いたいわけではなかったのだが。
「それならよかった。興味はあるけど、でも、あんましプールでそういうのを見るというのもあまり好きではない。というのはそういうのを見ても中途半端にむらむらしてしまうから、プールにはあんまし行きたくなかった」
「なるほどな」
ぼくの話に真部は耳を傾けていた。したたり落ちる汗の中自分の脂も一緒に蒸発していくようだった。
ぼくの思いをよそに真部はこんな事を話した。
「でも、大丈夫だと思う、彼女たちが着ていくのはたぶんスクール水着だから、胸は隠れていると思うぞ」
「はは、なるほど。わかったよ、じゃあぼくの悩みは杞憂だね」
「ああ、あとはおしりに気をつければ大丈夫だ」
「ああ、そうだな」
それで示し合わせるのでもなく、自然に二人は爆笑した。
「ん?おしりが何だって」
後ろから声が聞こえてきたので振り向くとフレイジャーがスクール水着を、寺島さんが水着の上にパーカーを着ていた。
「お待たせー!それでおしりがなんなの?」
「いや、おしりがかゆいなぁ、という話だったんだよ」
ぼくはあっさりそう言ってごまかした。
「ふ〜ん」
寺島さんはそんなぼくを疑わしそうに見てたが、フレイジャーが遮るように言葉を言った。
「まあ、どうでもいいじゃない。それよりもシャワーに生きましょう。早く泳ぎたいわ」
「ああ、そうだな」
それで僕たちはシャワー室に行くこととなった。




