表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/114

アタタカイヤミ 32

「さよなら美春」

「おーっ、さよならリンちゃん」

「さよならだ、笹原」

「ああ、さよなら真部」

 僕たちはさよならをしてから帰って行った。寺島さんの家の前でぼくは自転車を止めた。寺島さんがそこに到着したとき、ぼくは言った。

「じゃあ、さよならです。寺島さん」

 そう言うと寺島さんはきょとんとした顔になった。

「笹原君、何言ってるの?笹原君は私にコーラ一気のみで負けたんだから、私にコーヒーを買わないといけないんだよ?」

 ……………。

「あ!そうか!」

 一拍おいてからぼくはそう答えた。すっかりそういうことを忘れていた。

「もう、それ、忘れちゃったの?もう、案外(あんがい)ドジっこなのね、笹原君は」

「ドジっこなんて言わないで下さい。そうか、そうだった。それがあった。いや〜、すまなかった。すっかりど忘れしてて。すまなかったよ」

 ぼくはそう言った。本当にど忘れをしていたのだ。

「はは、まあいいや。自転車持ってくるから待っていてね。近くの自販機があるから、そこで買ってもらうから」

 そう言って、寺島さんは笑って、家のほうに入っていった。

 ぼくは家の前でまちながら夕日が静かに笑いかけてくれていた。

「お待たせー!」

 学校指定の自転車を押しながら朗らかに笑って、寺島さんは来た。

「じゃあ行こうか」

「うん!」

 それで僕たちはこぎ出した。




 がこっ。

 ぼくは缶コーヒーを買って、寺島さんにわたした。ここは、寺島さんの家からすぐの場所に自販機。自動車が通れる狭い道に自販機があった。しかし、よくこんな所で需要(じゅよう)があるよなぁ。通りに誰もいないよ。

「はい、寺島さん」

「おっす、ありがとう」

 寺島さんがぼくがわたしたコーヒーを受け取ったが、飲まなかった。

「?どうしたの、寺島さん。飲まないの?」

「ふふ」

 寺島さんは謎めいた微笑みをしたあとこう言った。

「笹原君、ちょっと目をつむって」

「え?」

「いいから、つむって」

 ぼくは言われたとおりに目をつむる。これは何だろう。いったい、寺島さんは何をさせるつもりだろうか。

 そう思っていると、あることが思い浮かんだ。

 これはあれだ、漫画とかでよく見たことがあるぞ。女子が男子に目をつむらせると言ったら、あれだ。キス!そうか、寺島さんはぼくにキスをするつもりなんだ!ああ、そうしたらどうしよう。いやこれは素直に喜んでいるべきか。わーい、やったー、やったー。いやしかし、なんかおかしくないかこれ?友だちになったのは最近だし、それでここまで二人の距離が進展するのだろうか?


 いや、違う。実は寺島さんは一年の時からぼくに気があったのだ!それで仲良くなるきっかけを作れずに悶々(もんもん)としてた頃、今年の春のような出来事が起きたのだ!それで急速に仲良くなった僕たちについにしびれを切らせた彼女がこんな大胆な行動を!

 そんなことを妄想していると、ほっぺたに冷たい感触が来た!ついに自分にも春が来た!まさかほっぺたに来るとはいや、最初は唇ではさすがに恥ずかしいんだろう。だからほっぺたに来たのか、かわいいぜ寺島さん。でも、寺島さんの唇ってやけにでかいな、それになんだか冷たい………。

「笹原君」

「はい!」

 もう、終わったのか。ぼくはそう思って、眼を開けた。そこには目を下に向き恥じらいを見せていた寺島さんが………存在していなかった。

「笹原君?どしたの?」

「い、いえ。何でも……寺島さん、その手に持ってるコーヒーは何ですか?」

「あ、ああ、これ」

 ぼくが買ったコーヒーともう一つ、寺島さんは缶コーヒーを持っていた。

「これは笹原君のために買ったの。もう、それくらい気づいてよ〜。これでほっぺた押し当てたのになんだかじっとしているから、困ったよ」

「あ、ああ。そうなんですか」

 なんだか、少しがっかりしたような、これでよかったような気がした。

「はい、缶コーヒー」

「あ、はい」

 缶コーヒーをわたされてぼくはまあ、これだけは聞いておかないと無礼かな、と思いこう言った。

「でも、これをおごってくれてよかったんですか?」

 ぼくはそう言った。別におごる理由なんてないのに。まあだけどキスよりましか。

 冷静に考えればキスなんてするわけないのに、ぼくはさっき何を考えていたのだろう。

 そう思って韜晦(とうかい)していると寺島さんは明るく笑って答えた。

「もう、わかってないなぁ〜、笹原君は。こう言うのは一人で飲むより人と一緒に飲む方が美味しいんだよ」

 そう言って寺島さんは笑ってたぶを開けた。ぼくも開けて二人でコーヒーを飲んだ。

 ごくごく。

「んー、美味しい」

「ああ、美味しいわ、これ」

 僕たちが飲んでいたのは金の微糖だったが、缶コーヒーは時々何か飲みたくなるようなものだった。

「そう?美味しいよね、これ。といっても最近コーヒーのおいしさがわかってきたんだけどね」

「ああ、ぼくもですよ。最近コーヒーが美味しくなったんです」

 そう言って僕らは笑いあった。何か、二人っきりだと僕らを何となく笑ってしまうのだ。おそらく、これがぼくと美春の間にある親密圏(しんみつけん)の始まりではなかろうか、と今のぼくは思う。まだ、ぼくの中に美春に対して壁があるけど、ここから少しずつ崩して、二人の間に何となくの親密圏(しんみつけん)がこれから作り上げられて、きっかけになった出来事なんだろうと今にしてはそう思う。。

「はは。そういえば、今日の一気のみ、大丈夫だった?」

 寺島さんは心配そうに聞いてくる。

「ああ、そんなの、大丈夫だよ。まあ、あんときはかなりこたえたけど、でも大丈夫。というより寺島さんも大丈夫だったの?」

「うん。ああ言うの、何度かやったことあったからね」

「え?女子なのに?」

 そう言うと寺島さんは恥ずかしそうに笑ってこう言った。

「うん。まあ、ねぇ。その場の勢いでつい」

「はは、寺島さんがしそうなことだね」

「もう!何よ!しそうって!私はそんなにじゃじゃ馬じゃないよ!」

「いや、十分じゃじゃ馬だよ。普通の女子はあんな事はしないよ」

 寺島さんは、もう、といってコーヒーを飲んでいた。

 そう言ってコーヒーを飲んでいると寺島さんがそういえば、といって話題を変えた。

「笹原君。友だちづきあいになれた?」

「う、うん。まあ、なれたかな?」

「そう、それならよかったわ」

 そう言って寺島さんは笑った。軽やかな朝日のような笑顔だった。

 そうこうしているうちにコーヒーはすぐに飲み終えた。

「飲み終えちゃったね」

「ああ」

 それで僕らはコーヒーをゴミ箱に捨てた。

「美味しかったね、笹原君」

「ええ、そうですね。それに寺島さんとお話しできて、何というか、とてもうれしかったよ」

「ええ、ありがとう。これからもお話ししようね」

 そう言って寺島さんは拳を作った。

 ?これはあれかな?

 ぼくは拳を作って、寺島さんの拳に近づけた。そうしたら寺島さんはぼくの拳に自分の拳をぶつけてきた。

「いえーい。はは、なんかわかってきたじゃん。じゃあ、笹原君またね〜」

「ええ、さようなら」

 それで僕たちは別れていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ