アタタカイヤミ 3
それから時が過ぎ去り、学校の修了式。修了式も無事終わり、僕たちは教室に戻った。僕たちは指定の席に座り、教室で先生が最後の講談を聞く。先生は感極まった様子で僕たちにみんなに話しかけるように話した。
みんな修了おめでとう。私はこのクラスを担当できて本当によかった。皆も2年生になるのだから、これからは後輩の面倒をみないといけない。後輩の手本となるような生徒になってほしい。最後にみんなありがとう、そしておめでとう!
ざるだ。僕は今ざるになっている。ざるは水をためない。素通りさせる。先生の言葉がドンドン素通りして、僕には何も残らない。
クラスの人たちも先生の話に生焼きの肉みたいな反応をしている。
しかし、何はともあれこれで僕たちは解散して、無事高校一年生を修了したのだった。
先生の講談も終わって、僕は寺島さんを探した。みんなが一年生を修了したことも会ってか、普段より開放感を外に放出していた。そんななか、寺島さんを探すのは苦労した。だが、やっと寺島さんを見つけた。寺島さんは、友達と一緒に教室に出る姿を見かけた。
珍しい。これが僕の寺島さんが教室に出る姿を見かけた第一印象だった。こういう、放課後のおしゃべりをよくしてる、彼女がすぐ教室を出るなんて。それで僕はすぐにその後を追った。
後を追うと、下駄箱のところで友達と別れて、そこにいた新たな友達と合流していた。
「あ」
合流した友達は男子と女子の二人組だった。二人組なのだが、女子の方には覚えがあった。中庭の方で何度か見かけた事がある、確かフレイジャーさんだったか。その人が寺島さんと合流していたのだ。
僕は不思議な感慨に襲われた。縁は異なものなりと言うが、本当に縁は不思議なものだ。とにかく、寺島さんはその二人と一緒に帰っていた。僕はそれを見ていく事しかできなかった。
ちなみに男子の方は学年で主に女子生徒からかっこいいと評判の真部光ということはわかった。
冬休み。その前半に僕は宿題を集中的にやったので、3月の末頃には時間的余裕ができた。もっとも、これは僕が頭がよいからできたのではなくて、宿題の内容がかなり簡単だったから何とかできたのだ。
それはともかく、僕はいつも家ばかりにいるのもなんなので、出かけることにしたのだ。
出かける場所はだいたい自転車で40分ほどかかる宮脇書店にした。宮脇書店はここら辺で一番近い、大きな書店なのだ。一番近い書店もあるが、そこは品揃えが悪い。なので、だいたいここを当時の僕は使っていた。
宮脇書店の隣には中型スーパーがあって、その中にはマックがあるから、僕はそこでよくハンバーガーを食べていたのだ。今はもうマクドナルドなんて好きではない。たまに利用することもあるけど、だいたい一月に一回ぐらいなものだ。
それで僕は宮脇書店に来た。まあ、何かの本を買うのだが、買う本は特に決めていない。それで書店の中をぶらぶらしていたのだ。
まあ、ぶらぶらしても仕方ないので、買う本を決める。僕は重松清を捜した。角川書店の文庫本を見ながら、『きよしこ』はもう読んだ。あと読んでないのは『疾走』あたりか。僕はそれを持った。ただ、これだけ買うつもりはなかったので、もうすこしぶらつくつもりだった。
それで僕はある、本を見つけた。宮台真司と宮崎哲哉の共著、『M2:ニッポン問題』の文庫本。前に図書館でこのシリーズを読んだことがあり、それ以来宮台真司や宮崎哲哉が書いたものは読んでいる。そうか、文庫本になっていたのか。
僕はそれを手に取ってみようとした。そうしたらそれに触れようとするものがもう一つ現れた。その手に接触する。僕は慌てて、手を引っ込めその人に謝ろうとしたら、なんとその人は寺島さんだった。
「寺島さん!何で、こんなところに…………」
「笹原君も!どうしてここに?」
あまりのことで考えが追いつかない。僕はとにかく話を途切れませまいと口をとにかく動かした。
「ぼくはあれだよ。冬休みの宿題がようやく終わったからさ、ここで本を買おうとしていたんだよ」
「私も同じだよ。宿題が終わったからちょっとここでぶらぶらしていたの」「そうか、そうだったんだ」
ぼくは頷きながら内心は寺島さんが書店に来ること自体を驚いていた。僕の中の寺島さんと言ったら、女友達と一緒にクレープ屋で身近な話題や芸能人の話題などで盛り上がる、普通の女子高生という像しか思い浮かばない。その寺島さんが本を読んでいるのだ。それも恋愛小説ではなくてこんな政治系の話を。
それで何を言おうか。頭が超回転に動いているけど、すごく空回りしてる気がしている。
「あの…………」
「は、はい!」
いきなり寺島さんが声をかけるものだから僕はびっくりした。
「何ですか、寺島さん?」
「あのさ、とりあえず話すことはいっぱいあると思うけど、まず、この本をどうする?」
そう言って寺島さんが指さしたのは『M2:エイリアンズ』だった。