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アタタカイヤミ 26

 階段を下り、居間にでるのだが、居間の簾の方に足を踏み入れる。その簾の向こうに左手が風呂場、右側がキッチンと冷蔵庫が置かれてある。

 僕達は冷蔵庫を開けた。

 冷蔵庫にはコカ・コーラとスプライトと午後の紅茶レモンティーと緑茶とがあった。

「まあ、4人だからこんな物だろう」

「そうだね」

 それでいったん全部出して、寺島さんが言ったのを確認して、運んだ。ぼくはアクエリアスとウーロン茶を運び、真部はコカ・コーラとスプライトを運んだ。

「だいじょうぶ?」

「大丈夫だ。それよりも、早く移動してくれ」

「あ、うん。そうだね」

 それで僕たちは移動をした。




 真部の部屋まで運ぶともう、フレイジャーが皿の上に菓子を出していた。

「へ~、よく運べたわね」

「まあな」

 そう言いながら僕たちは出すのを手伝って、すぐに寺島さんがあとのコップを持ってきた。そうしたらもう、ほとんどの菓子を出し終えて寺島さんがこう言った。

「よし!もういいでしょう。それじゃあ、みんなお茶会をしよう!」

「ああ、そうだな」

「みんなジュースは自分たちで注いでね」

 おのおのが注いで指定の席につく。それで寺島さんがコホンと席をついてこんなことを言い出した。

「コホン。え〜、乾杯の音頭はこの寺島美春が取りたいと思います。今日は天気朗報なれど、勉学の壁高しと皆様感じていたと思いますが、この寺島美春!そのような物は感じませんでした。いや、きつかったけど!がんばれました。なぜなら!このお茶会があるからです!こういうつらいときこそ一時の休息が必要だと私は常々思っています」

 そう寺島さんが芝居がかったことを言ってると、横で真部がぼくの腕をつんつんと突っついてこんなことを言った。

「あいつ、中学生のときはほんと勉強がダメだったんだ。当時、俺が勉強を見てやったけど、やろうとしたら泣くわ、わめくは、ひっかくは、で大変だったんだ。やってもふくれるわ、逆ギレするわ、だめ出しするわですごく扱いにくかった。あの時は美春を人ではなくて獣だと思ったね」

「こら!そこ!」

 この真部の言葉に寺島さんは大声で怒った。

「もう!なに人の恥ずかしいところを言っているの!あのね、笹原君、これは嘘なの。嘘じゃなくても光が昔のことを拡大解釈してるの。信じないでね」

 寺島さんは真部を攻撃しつつ、ぼくには首をかしげてかわいらしく、言ってきた。

 ただ、なんだか美人の悪徳商法の人にしか見えないのはなぜだろう。

「笹原をたぶらかすな、美春」

「た、たぶらかしてない!たぶらかしてないんだからね!」

「それよりもさ、私、早く食べたいんだけど」

 寺島さんと真部の二人の争いに波及しそうになったところでフレイジャーが水を差した。

「うん、ああ、よし、じゃあ乾杯!」

 それで乾杯と言うことになった。しかし、これでいいのか?なんか、かなり安直な気がするけど、まあ、いいことにしておこう。グラスをみんなで合わせ、飲み出す。

「いや~、一学期もいい学期だったね」

 フレイジャーはぼくをちらりと見ていった。

「ええ、そうね」

 ぼくは真部とグラスをつきあわせて今期の話をした。

「一学期、お疲れ様です」

「ああ、お疲れ様」

 スプライトを飲みながら話をする。

「真部、今学期、何かあった?」

「いや、特に。まあ、あれだ、ラブレターを6通ぐらい受け取ったことぐらいだ」

 それに寺島さんが反応した。

「あ!ラブレター、私も受け取ったよ!2通ぐらいあったけ、あれだよね、そう言うのって自分の宝になるよね」

「いや、そう言われてもわからない」

 こっちに話を振ってきてもらっても困る。そんな物、受け取ったことがないんだから。

「そうか、そうだったね。普通、ラブレターそんなにもらわないよね。まあ、いいや。それよりもさ、私すごく今幸せなんだけど!なにかさ、クラスのみんなとも仲良くなっているから、もう、学校が楽しくてたまらないんだ。ねえ、笹原君は楽しい?」


 そのことを寺島さんは満面の笑顔で言った。ぼくはなんだか虚を突かれた思いをした。学校にいい思い出なんてなかったから、それはとても意外なことだった。自分にとって学校はとてもいやなところだった。あの、みんなで行動して当たり前というのがいやだったし、人が試される空気がいやだったし、とにかくいやなところしかなかった。


 まあ、それでそんなぼくの主観と寺島さんが言う楽しくてしょうがないという主観のずれがなんだかすごく意外な感じを感じた。何だろう、みんなそれぞれの主観があるとはよく聞く言葉だけど、実際に聞くとそうではない、と思ったんだ。主観とは自分の今まで見て、感じた自分の考えだ。自分の考えは自分の近くを通してしか知ることができない。それで主観はそれぞれ一人ずつが持つ物だ。他の人は知ることはできない。


 自分の主観を通してしか世界に接触できない。ということは主観は自分と世界をつなぐある種の架け橋的な存在な訳だ。主観はある種の自分の世界認識な訳なのだ。しかし。


 しかし、ここでもう一つの主観、他人の主観がやってくる。これは驚くべき事だ。何だってもう一つの世界認識がやってくる訳なのだから。自分が揺さぶられる。そう言ってもいいほどのことだ。そのもう一つの世界が迫ってきたのだから、人の考えは人それぞれなんて簡単のな言葉では決して言えるはずがない。ぼくは今、そう思って揺さぶられた。

「私は普通よ。別に変わった事なんてないわ」

 フレイジャーはしたり顔で言った。

「俺も別に変わったことはない。普通だ」

 真部もそう言った。

「ぼくはいやですよ。学校なんて、何だろうな、人と競争させられる空気がいやでしょうがないですね」

 僕たちの言葉に寺島さんはふんふんと頷いた。

「まあ、あれだね。いろんな考えがあるよね。フレイジャーと真部はいいけど、笹原君は学校はダメなんだ」

「はい、ダメです。実際にクラスで友達を作ったことはないし、なんだかやっぱりダメです。学校は」

「ふんふん」

 寺島さんはしきりに頷いていたが、こんなことを言ってきた。

「でもさ、やっぱりさ。何だろ、たぶん生きていればいいことあるよ。私はそう思うな。今はあんまし学校になじめなくても、まあ、あれだよ。学校だけが人生じゃないから、生きていればいい出会いもあるって」

 そう言って、寺島さんはぼくの肩をぽんぽんとたたいた。

「ああ、ありがとう。寺島さん」

 まさか、こんな風になぐさめられるとは思わなかった。というより、人からなぐさめられた経験がなかったのでなんだか体がびっくりして、驚きの感情が遅れて、体外に発せられなかった。

「よし!ここは笹原君のいい出会いを祈願して、ここで『祈願飲み会』をしよう!笹原君のために飲もう!みんな!」

 そう言って、寺島さんはみんなにジュースを注ぎまくってぼくの肩を組みながら『幸福よ来い』を歌った。ぼくはそんな宴会のような空気に飲まされつつ、こういうのって漫画とかでよくあるけど、実際にこう言うことを経験するとうれしいな。




「あ、もうこんな時間だ」

 みんなでいろんな事を語り合いながらあっという間に時が過ぎて、6時に鐘が鳴って、ようやくそのくらい時刻が過ぎていたことを知った。

「それじゃあ、そろそろ解散と行くか?」

「そうだね、そうしよう」

 それで僕たちは片付けを始めた。菓子の袋を捨て、ペットボトルをしまい、残った菓子は。

「真部」

「うん?」

「残った菓子はどうする?」

「それはあれだ。また、明日ここに来るだろ?」

「うん!くるよ!」

 真部はぼくに聞いたはずなのに片付けをしていた寺島さんが元気よく答えた。僕は真部に聞いていたのだが、まあ、いいや。

 真部は寺島さんを無視してぼくに話しかけた。

「それでたぶんみんなここで勉強会すると思うから、それは取っといて、明日の予定は片付けが終わったあとはなそう」

「わかった」

 それで残った菓子はそれそれの箱に戻して、真部が持ってきた紙の袋に入れた。4人でやると片付けはあっという間に終わった。

「さて、明日の予定はどうする?」

 それに寺島さんが手をあげる。

「明日の予定は………私、ラングドシャを食べたい!」

「違うでしょ」

 それにフレイジャーが軽く寺島さんの頭をはたいた。

「いった~い。何よ、ただのフレンドリーなジョークなのに、そこまで怒ることないじゃない」

「まあ、それはともかく」

 真部は寺島さんとフレイジャーのやりとりを無視して話を進める。

「じゃあ、明日は何を勉強する?」

「明日も数学と英語を勉強しましょう。連続でやった方がやりやすいわ」

 フレイジャーのその言葉にみんなは異論を挟まなかった。これでほとんど決まった。

「よし、そうしよう。それじゃあ、解散」

 それで解散をしてみんな帰って行った。


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