アタタカイヤミ 21
僕たちは寺島さん、真部、フレイジャーとぼくはまた岡山に来た。別に対して用事はないのだが、フレイジャーと寺島さんがウィンドウショッピングとカラオケをするためにここに来たのだ。
ぶらぶらとファッション店をみたあと僕たちはドトールでコーヒーを飲むことにした。
「ねえ、それでねー。美緒がこんな事いっちゃってさ、美春ってマイペースだよね、っていうんだよ!ひどいよねー?リンちゃん。私がマイペース?もう超誤解だってのに!
まったくさ、わたしは必死でみんなに合わせているって言うのに、そんな私をマイペース!どの目で見たらそう言えるのよ!ドン(テーブルを叩く音)
あ、一樹、コーヒー切れた。Mのアイスコーヒー注文してきて。
ほんと、美緒の目は腐っているよね。こんなにかわいくて一生懸命な私をマイペースだって言うんだから。私は必死にやってるというのよ〜(泣き上戸になる)私はさ、みんなからずれないようにグループのおしゃれを察知したり、掲示板でも美緒ちゃんをさりげなくフォローしているんだから、私こそ真面目で一生懸命尽くす女はいないのよ〜
ああ、一樹、お帰り。ありがとね。え?代金?そんなの後々!男だったら細かいことを気にしない!ばんばん(一樹の背中を叩く)
それでさ〜、リンちゃん………………」
寺島さんがのべつなくしゃべっていた。というか、ほとんど彼女がしゃべりっぱなしだった。この頃は僕は当初持っていた寺島さんの神聖な少女のイメージががらがらと壊れて、だいぶ寺島さんには幻滅していたじきだった。
しかし、それとは別に、ぼくは波田さんのことで胃がきりきり痛んでいた。とにかくいじめの現場をみると胸が悪くなるのだ。だから、寺島さんの話が聞いて笑いつつ、心では笑っていなかった。
そんなことを思っていると寺島さんが素っ頓狂な声を出した。
「あ!そうだ!私あれだ。江國香織の新しい小説、買うの忘れてた!」
「え?ああ。さっき本屋で、買うの忘れていたのか?」
ぼくの言葉に寺島さんは目いっぱい頷いた。
「そうだ、そうだ忘れてたよ〜。買いに行かなくちゃ。みんな!ここでちょっと待っていてね!」
そう言って出て行こうとすると真部がこんなことを言ってきた。
「美春、いくんならついていくよ。余計な買い物をして時間をつぶしたらみんなに悪いしな。キャサリンと一樹はここで待っていてくれ」
「え、悪いよ、光。一人で行けるよ」
「そうはいいつつ、ちょっと待っていてね、といわれどれだけ待たされたことか。そういうわけでいってくる」
「え?仕方ないなぁ。まあ、確かに過去そんなこともあったような、なかったような気がするけど、まあいいか。じゃあ本一冊買うだけだからすぐ終わるよ」
そう言って、寺島さんと真部は出かけていった。後にはぼくフレイジャーが残されていた。
ー……………………。
沈黙。二人のときだとよくこんなときが起こる。この沈黙に耐える方法もあるけど、ぼくは波田さんのことを話したくてフレイジャーに話しかける事にした。
「なあ、フレイジャー」
「何?笹原」
フレイジャーはいつものように冷気と傲岸さを掛け具えて(かけそなえて)座っていた。ぼくの声にもあまりリアクションが感じられなかった。
「なあ、波田さんのことだけど、いや、いじめのことだけど話してもいいか?」
ぼくの言葉にフレイジャーは表情一つ代えずこんなことを言ってきた。
「前にも言ったけど、私はあんたのことなんか興味はないわ、でも、あんたが独り言を言うのなら別に構わないわ、本を読んでいても独り言を言いたいのならご自由に」
そう言って、フレイジャーはバックから亀山郁夫訳の『カラマーゾフの兄弟』を読み始めた。こいつはよくドラマとかである実は聞いてるよ、的な意味ではなくて、本当に独り言だと思っているからな。
しかし、案外その方がぼくにとってもよかった。
「じゃあ話すよ。村田、金村さん、金田君はどうしてあんないじめをすることができるのだろうか?僕はあんな現場を見るたびに胸がむかむかしてしょうがない。
気持ちが悪くなるんだ。波田さんがあんなにやせ細ったらそれだけでもうダメだ。ぼくならいじめることなんてできないし、何より胸がむかむかする。もういやだ、こんないじめはもういやなんだよ。
ただ、じっと見つめて波田さんをみる事なんて、すごくいらついて、すごく気持ち悪くなる。これは生理的な物なんだ。あんな姿を見ると胸がむかむかして、もういじめるという気力が起こらなくなるはずだ。少なくともぼくはそうだ。あと、あとなんだ…………」
そう一気にぼくは話して、何も思いつかなくなったのでコーヒーをすすった。
ーはぁ、ちょっと生き返るな。
「まあ、そのなんだ、あんな事をすると人間の本能が嫌悪感を示してできなくなるはずだ、といいたいんだよ」
僕は一口コーヒーをすする。コーヒーは苦かった。
「それなのに、なぜ村田たちはあんな事をできるのか僕には理解できない。なぜだ、なぜなんだ?少しでも人としての情があればできないはずなのに、なぜする?どうすれば人としての優しさを彼女たちに教えることができるのだ?本当は誰もが傷つきたくないのになぜ、人を傷つけるまねをするのか。僕には理解できない」
フレイジャーは相変わらず、本を読んだまま顔を上げなかった。またしても完全な独り言になったがぼくはあんまり気にしなかった。もう、フレイジャーに共感を得てもらおうなどと言うことは考えていないのだ。ただ、ぼく自身がたまっていた物をはき出したかっただけで、フレイジャーもそんなことを全く関係なしに聞き流しただけ、それだけのことだ。
そのうちに寺島さんと真部が帰ってきて、僕たちの会話は終わった。ただ、ドトールのジャズの香りを残して。




