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アタタカイヤミ 16

  3章 藁人形




 フレイジャーのいじめ収束から2週間が過ぎた。その間クラスは段々落ち着いてきたようにぼくには見えた。いがみや憎しみみたいのが少しずつ揺らいでいって次第に毒素が抜けているような、そんな印象をぼくに持たせた。このままいけば、あるいはいじめが発生しないのでは?というものをぼくの中の希望が少しずつ芽生えていったのだ。




 5時限目のあとの昼休み。次の授業の移動をしなければならない。それでぼくは教材を詰めて、でることにした。周りのみんなは移動している。

 そして、そのときそれが起きた。

「でねー、それでね」

「ははは」

村田と金村さんが移動しているとき、村田の腕から教材が落ちた。

ーぐしゃ。

 それを一人の女子生徒がふんだ。

「あ、ご、ごめんなさい!」

 その少女、波田(はた)貴理子は必死に謝った。波田(はた)さんはぽっちゃりとした女子生徒で友だちも2,3人いるし、そんなに暗くない普通の生徒だ。

「ちょっと!なにやってんの!私の物を踏んで!……………ああ、もうこれはだめだわ、どうしてくれんの」

「ご、ごめんなさい」

「そうだよ、なに里子の物を踏んでるのよ!」

「ご、ごめん」

 波田(はた)さんは謝った。しかし、村田はあ〜あ、と肩をすくめて波田(はた)さんにこう言ってきた。

「ああ、私の教科書汚れちゃった。もう、こんな物は使えないや。ところでさ、あんたに本当に私に申し訳がないと思うんならさ、私のとあんたのと交換してよ。それで私は許してあげるわ」

 そんなことをいってきた。

「ええ、いいわ」

 波田(はた)さんは顔面を真っ青にしながら教科書を差し出す。村田はそれを取った。それで、この時は村田は交換しただけで何も言わずに教室に移動した。そして、これがぼくの一番悪い予想が的中したときの始まりだった。




 それ以来波田(はた)さんのいじめが始まった。たった、あれだけのことなのにすぐいじめに突入したと言うことはみんなは段々おとなしくなってきたと言うことではなくて、ただ相手がいなかったから沈黙しているようなことに過ぎなかったのだ。

 いじめは主に村田グループに行われた。村田と金村さんと、あと南詩音さんと二宮玲奈さんの4人が主に行ったが、男子でも執拗(しつよう)波田(はた)さんをいじめるものが出てきた。

 金田君だ。金田君が異常なまでに執拗(しつよう)波田(はた)さんをいじめていたのだ。

 ある日のこと、村田の波田(はた)さんのいじめが開始してから三日目の事。朝の休みの時間に波田(はた)さんのそばに金田君が来て、そして鼻をつまみながらこんなことを言ってきた。

「くせー、くせーよ。なんかデブのにおいがするよ」

 それにみんなが笑った。金村さんも波田(はた)さんのそばに来てこんなことを言った。

「そうそう、くさい、くさい。ねえ、なに食べたらそんなにくさい臭い出せれるのかしら?教えて欲しいわ」

 波田(はた)さんは顔を真っ赤にしながら黙っていた。それに金村さんは波田(はた)さんの頭をつかんで机の突っ伏させた。

「私が聞いてるんだから答えなさいよ!」

「ん!………ゲホッゲホッ!」

 波田(はた)さんは咳き込んだ。あごを強く打つつけたのだろう。丸いあごに赤いあざが浮かんでいた。

「ああ、波田(はた)さん、あれ食べているのよね」

 それに村田が衝撃的なことを言う。

「うんこ。それ食べているからそんなに臭いんでしょ」

 そのあとのクラスの喧噪(けんそう)は衝撃的でさえあった。村田の言葉にみんなが静まりかえって、それから大喧噪(けんそう)が巻き起こった。ある人は鼻をつまり、ある人は手を振り、ある人は大爆笑し、ある人はきしょいと大声で言い。そのすべてが沸騰(ふっとう)し爆発し、長い反響をもたらした。

 特に金田君が手を振りくせー、くせーと大声で言いながら波田(はた)さんのそばを離れていった。みんなもできるだけ波田(はた)さんのほうから離れた。例え、波田(はた)さんの近くの席に座っても、いすを微妙に波田(はた)さんのほうからずらしたのだ。

 ぼくは心の中で震えが止まらなかった。あんな風に人をいじめることができるなんて、考えただけでも恐ろしかった。なぜ、人はあそこまで残酷になれるのだろうか?いじめられる人の気持ちをなぜ考えられないのだろう?当時のぼくはそんなことを考えながら、しかし、動揺を体に出さずに至極(しごく)冷静にいすに座っていた。

「おい、君たち、さっき何があった」

 先生がそのとき教室にやってきた。室越先生は50代ぐらいの先生で、少し太っている先生だ。高校教師と言うよりは大学の教授に向いているのではないかと思うくらい知的で、あまり教育熱心ではない先生なのだ。

「ここに来る最中すごい大声が聞こえたぞ」

 先生の疑問に金田君が答える。

「何でもありません」

「そうか、何でもないのか」

 それで室越先生は金田君の言葉にさして疑問を覚えず、授業をしはじめた。




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