アタタカイヤミ 101
密集された蠅の群れの中へ、僕は彼女を見つけるために入っていく。
「死んで謝れ、村田!」
「人が死んで平然としていてもそれでお前は人間か!」
「波田さんの両親の気持ち、あなたは考えたことある!?」
「おい!君は何をしている!」
僕はそんな腐臭がする蠅たちのたかりの中へ歩を進める。フラッシュがこちらにたかれてない分、それは進みやすかった。その泥水のなかを進んでいく。そして、僕は彼女を見つけた。
黒のヘドロから出た僕はその真ん中にあって、蠅にたかられているその人、村田を見つけた。そのポンと出たときの村田の表情は僕は今も忘れられない。
それは真っ暗闇の中の檻に閉じ込められた囚人が、地上の光を目一杯浴びたような、そんな表情をしたのだ。
「村田!」
僕は村田の手をつかんだ。僕が現れたときの地が唸る動揺の声もすごかったが、僕が手をつかむと地が割れた。
僕を村田の目を見た。村田の瞳はその中で黄色の光にに黒褐色の色が一筋混ざった目で僕を見た。僕も村田の目をまっすぐに見る。
「さあ、行こう。村田」
そのときの様子はよく覚えてない。村田が肯いたかどうかも、ただ、その中黄色の瞳は今もよく覚えている。
僕たちが校舎に進もうとすると、白い闇が僕たちの間に立ちふさがる。その闇の中ヒル達は目が見えないことをいいことに僕達にへばりついてきた。
「あなた!いったい何をしているんですか!そいつは人でなしですよ!そいつを助けてどうするんですか!」
「謝りなさいよ!そんなやつを助けたら、いじめを容認したのも同然ですよ!波田さんのご両親に死んで謝りなさいよ!」
「村田の彼氏!あんたはいじめのことを知っていたのか?それと普段の村田はどんな人だ?教えてくれよ」
「あなた、彼氏さん!彼女のいじめについてどう思いますか?また、初めてそれを知ったときはいつですか?あと、それを知ったときどんな気持ちになりましたか?」
「同罪だ!そいつを庇う(かばう)やつは同罪だ!お前、謝れよ!波田さんの両親に!土下座しながら謝れよ!」
そんな言葉達が白い闇の中から僕たちの体に纏わり(まと)付き血を吸ってくる。姿が見えない分、その吸血は思ったより僕らの体力を奪い、そして不気味だった。全くの闇からひたすら血を奪われているからだ。
僕たちはずっと校舎に向かって歩いていたが、これは結構きつかった。村田の様子はよくわからないが、一人の時から取材の猛攻を受けていることから、かなり消耗していることはわかった。
僕たちがそんなふうに消耗しながら校舎へ向かっていると、ある声が蠅の群れをさいて僕らの所に来た。
「大丈夫か!村田!笹原!」
それは先生達だった。先生たちが白い闇を切り裂いてやってきたのだ、そこには成田先生もいて、先生達が僕らの周りをガードするように囲いながら、スクラムを組むように固まって、校舎に向かった。スライム達もここぞとばかりに先生達に『教育者の責任』を問いただしていくが、先生達は無言のまま、スライム達の粘着的な攻撃を押し切り、校舎に到着した。
下駄箱。そこに僕たちはマスコミからの攻撃をかいくぐり何とかそこにたどり着いた。マスコミ達は下駄箱にそれこそスライムのようにへばりついていたが、一人が離れるとぬるりと人波が離れていった。
僕たちは肩で息をして、そして、先生達に向かって言った。
「先生、ありがとうございます。助けて下さって」
「いや、気にするな、笹原。生徒を守るのは教師の役目だからな」
そう、成田先生は手を振りながら言った。
僕は顔面が蒼白になっている村田のそばに寄りながら彼女に話しかける。
「大丈夫か?村田」
村田はそれに無言で僕の問いを流した。
そんな様子の僕らに先生は一つの丸めた紙くずの鼻息を出した。
「さ、笹原、お前は教室に戻れ。村田、お前は授業に出れるか?」
それにこくりと村田は肯いた。
「じゃ、さっさと教室に戻れ。そして、取材を受けるんじゃないぞ」
先生は取材という言葉をはんこで押したように強く強調していった。
…………………
僕は一緒に教室に戻ろうと思って、村田に話しかけようと思ったら。村田はすでに階段のほうへ歩いて行った。
…………………
その時、何か様子がおかしいな、と思った。あのマスコミの猛攻のせいなのか村田は前の村田より生気がなくなっている。
ただ、疲れて覇気がないというものかも知れないが………………。
「…………………まあ、良いか。とりあえず教室に戻ろう」
僕は会談の咆哮にある熊達、ちらりと玄関のほうを振り向く。白いヘドロがべったりとドアに張り付いていた。




