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アタタカイヤミ 100

僕たちは固まって学校に向かった。校舎の前を通ると光の洪水が暴れ出した。

 パシャ!パシャ!パシャ!パシャ!

 僕らは固まって一気に校舎を目指そうとしたが、その前に動物じみた水の液体。いるとすれば架空のモンスター、スライムのようにぬめりと僕らの前をふさがって、執拗(しつよう)に言葉を繰り返す。

「ちょっと、お話を聞かせて下さい。この高校で起きたいじめのことで聞きたいんですが!」

「君、何組?死んだ波田(はた)さんと同じ組なの?」

「あなたはこのいじめについてどう思いますか!何か一言下さい!」

波田(はた)さんについて何か印象に残ったことがあったなら教えて下さい!」

「いじめをしていた村田のことを知っている?彼女、どんな人だった?」

 そんな言葉が人がものを食べている時を可視化したように貪ろう(むさぼろう)と蠢いていた(うごめいていた)。

 僕たちはそんなスライムみたいな奴らから抜け出そうとするが、なかなか抜け出せない。彼らの壁はとにかく粘り着いてフラッシュと言葉の洪水を浴びせるのだ。僕らはそれをやられるとまず、感覚が麻痺する。視覚と聴覚が圧倒的な情報を遮断して、自分がどこに立っているのかがわからなくなるのだ。そして、それが長時間に及ぶと体力が次第に消耗していくのだ。

 しかし、スライム達はお構いなしだ。彼らは僕たちの目を奪い、執拗(しつよう)に言葉を浴びせる。白い闇に彩られ見えない相手からひたすら尋問を受ける。

 僕たちはそんな心理状態に陥りながら、見えない目標に向かって匍匐前進をしていく。敵からの銃弾をのがえるために。

 そんな、状態が何分か続いたときだった。纏わり(まと)付いていた粘着質の水がぬるりと引いた。

 僕たちはすぐに一気に前に向かって、校舎にたどり着く。光達もだいぶ消耗していたようだ。特に美春の消耗がひどかった。美春は顔色が納戸色になっており、その様子で美春の様態が芳しくない(かんばしくない)と言うことはわかる。

「美春、歩けるか?」

「…………うん。…………大丈夫………」

 美春は体をふらふらさせながら、顔面を納戸色に染めながら言った。僕は美春の肩をつかんで、光に渡した。

「光、美春を頼む。保健室に運んでくれ」

 光は肯く。

「了解だ。お前はどうする気だ?一樹」

「僕は…………」

 さっき、野次る声が聞こえた。おそらく、スライム達は僕らよりもたかる価値のあるものが来たから、そちらに標的を変えたのだろう。

 ちらっと、そちらの方向を見るとやはり村田が一人で取材の猛打を受けていた。

「行くのか?」

 僕が村田を見ていたら、光が僕に問いかけた。僕は光の方を向くと光の目にかっちりと合わさった。

「行くのか?村田のほうへ」

 光の目は蜥蜴(とかげ)の審判の目で僕を見た。それに、僕は………………。

「ああ、行くよ。あれはどう考えてもリンチであり、いじめだ。村田を責めるのは良い。村田はそれに見合うだけのことはした。しかし、あれは度を超えている。あんなに集団で囲んで、罵倒(ばとう)して、あれがいじめでなかったら、いったい何がいじめなのか。僕はいじめを看過できない。だから、村田を助ける」

 僕はそう光の目を見てそう言った。それに光は寛恕(かんじょ)のインペリアルトパーズの中に断罪の黒褐色(かっしょく)がうっすら見え、その狭間で普段の明晰な頭脳を曇らせた。

「…………………とにかく僕は行くよ。主に彼女を攻撃していいのは波田(はた)さんの両親だ。第三者が彼女をなぶっていいのか?彼女を責めるのは良い。彼女はそれだけの報いを受ける行為をした。だが、あれはリンチであり、いじめだ。いじめの撲滅を考えている僕にはとうてい容認できないことだ。だから、僕は彼女を助けに行く」

 僕は真部にそれだけ伝えた。真部の瞳は先ほどから、普段のタフでクールな輝きが鈍っていた。その光に僕は謝る。

「ごめん、光。僕自身、この選択が本当に正しいのかよくわからない。いじめに対する正式な罰はないわけだし、この事が正しいかわからないけど、とにかくこれは間違っていると思う。だから、行くわ」

「ああ、俺自身も、もうちょっと考えてみる。美春のことは任しておけ」

 そう言って、光はウィンクをした。

「ああ、任せた。じゃあ、行ってくるわ」

 僕は村田のほうに向かいつつ振り向きざわに手をあげて光に言った。光もそれに肯いていた。



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