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アタタカイヤミ 1

マイ フィロソフィ2 アタタカイヤミ 


                         名草 宗一郎



1章 初めての友達。




 冬が終わりつつある。僕は校庭の中庭を佇みながらそう思う。少しずつ冬の寒さが和らいできた。しかし、僕の中の冬は終わる気配は見せない。

 僕の名は笹原一樹。高一の普通の男子学生だ。もっとも、あと一ヶ月で高2になる。だけど、僕は将来に対して何も期待を持っていなかった。

 僕は中学の時、不登校を経験したことがある。そのときは東京にいた。そこでドロップアウトして、叔父のいる岡山に来たのだ。

そのときは少しは期待していた。友達ができるのではないかと、しかし、そんなことはなかった。何も、できなかった。

 今、僕は高2になろうとしている。今度こそは友達を作らなければならないが、どうやって作るのかがわからない。とりあえず、声をかけるしか思いつかない。

 そんなことを考えながら僕は立ち尽くした。春の陽気にはなじめない自分を残して。




 キーンコーンカーンコーン。

 お昼のチャイムが鳴った。授業が終了すると、クラスは蟻のように混雑そうに見えて、実際には目的に沿った動きで塊を作った。

「金田、一緒に食べようぜ」

「玲奈ちゃ〜ん、一緒に食べよう」

「お、額田、今日は唐揚げか!いいな、うらやましい」

「美春はきんぴらゴボウか〜。栄養がとれそうな料理だね」

「いや〜。これは昨日の夕食の残りだよ〜」

 蟻達は楽しそうに談笑している。そんな蟻達に比べて僕破壊だった。回は一人で海底の底に沈むしかない。僕は海の孤独を感じながら海の底に沈殿した。




 放課後。授業が終わってマーガレットの花を咲かせていた。僕自身はそんな花を咲かせられない。咲かせる相手がいない。だから、僕は一人で帰り支度をしているときに、一つの大きな笑い声が聞こえた。

「ええー!ウソだー!そんなことないよぉ〜。加々美ちゃん。あの櫛枝先輩が彼と付き合っていたなんてー!!」

 大きな声を発している、少女がいた。彼女は口を大きく開け、好奇心の瞳をきらきらさせながら同級生と話していた。

 彼女の名は寺島美春。大きな瞳とふっくらした頬。美人だけど、きれい系と言うよりどこか親しみやすそうな美人。瀬野校の女子高生だ。彼女についてわかってることはそのすごく明るい性格で学園のみんなから愛されていることと、成績がいつも上位にいること、そして、すごくきれいな女の子であることだ。

 もう、ここまで行けば、ライトノベルやゲームとかでよく言われている、学園のアイドルというものが彼女にぴったり合ってくる。

 僕はその子を見つめていた。いつも隅っこで陰気な表情をしている僕にとってみれば彼女はまぶしかった。

 日の当たる若木が萌える場所と梅雨のような暗くしめった場所は交わることはない。

 僕は寺島さんを見たあと、その場を離れた。




「ただいま」

 僕は家に帰ってきた。といっても今はまだ誰も帰っていないが。

 僕がおじさんのところに来たといったのは前に言ったとおりだ。おじさんの名は小城和也さん。その妻が小城康子さんだ。

 僕はその夫妻にお世話になっている。それで、今家にいるのは僕一人だ。おじさんは勤め先に行っているし、康子さんはパートをしているため今家に人はいないのだ。

 僕は自分の部屋に行って、aikoの音楽をいくらか聴いたあと、勉強を始めた。勉強は去年の春にちょっといざこざがあったし、僕自身今の成績だと赤点をとるぎりぎりなラインをいつも渡っているので、家にいるときほとんど勉強をしている。

 しかし、どれだけやってもいつも赤点をとるぎりぎりなラインを通ってる。その理由は僕自身、授業についていけてないからだ。

 だから、家に帰ったら勉強をしているのだ。ただ、それでもついていけれないことが多いのだが…………。



 おじさんたちが帰ってくる音が聞こえた後も、僕は勉強を続けた。そして、それをしばらくしたあとにおばさんの声が聞こえた。

「一樹くーん!ご飯よー!」

 その声がしたので僕は勉強を中断して、下に降りた。明かりを消す前の傾向との光がじりじりと鈍い光を発していた。




 夕食時、いつも話しているのは康子さんで、おじさんに対していろんな事をいった。職場での出来事や、近所づきあいのこと、そのほか本当に大きい声で、たくさんいうのだ。

 おじさんはそれの相づちをいったり、それについての話しをしたりしていた。

 そのうち、おじさんは僕にはなしをむけてきた。

「一樹君。もうすぐ、高2になるね。どうかな、高校生活を一年続けてみて、楽しかったことはあるかな?」

ー楽しかったこと……………。

 僕は考えた。楽しかったこと……。そんなのがあったか?ほとんど勉強に追われる生活。友達もいない孤独な日々、そんな生活をやめようとバトミントン部に入ったことがあるけれど、それも人間関係がいやでやめてしまった。

 今まで、高校生活で楽しい事なんてぱっと思いつかないくらいに僕の高校生活は、心は、人生は乾ききっている、そう強く感じるのだ。

 一つ、一つだけあるとするのなら、あの夏の思い出だ。

 寺島さんと初めて話した、太陽の黄色と水の青が際立った夏の思いで。よかったことはあれしかない。

「一樹君。何かいいことはあったかい?」

「い、いえ、特にないです」

「そうか。それは残念だな」

 おじさんは残念そうにいった。けれど、その態度にはどこか気恥ずかしい表情があるように見えた。

「まあ、それはともかく。どうだい、一樹君。これから高2になるけれど、何か抱負とかあるかい?」

「いえ、特にないです」

「そうか」

 別に新学年になっても期待していることなんて特にないけど、一つ思いついたことがあった。

「あ、あります。ちゃんと授業についていけれるようになりたいです」

「なるほど、授業についていけれるようにか。それも大切だけど、高校生らしい夢はないのかい?」

「いえ、特にないです」

「そうか、ないか。高校生なんだから一つぐらい夢があった方がいいと思ったんだけどな。ないのか。別に一樹君を責めているわけではないけど、何もないとしたらちょっと寂しい高校生活だね」

「はい。残念ながら何もないです」

 それまで飲んでいた酒をいったん止めて、おちょこをおいた。そしておじさんは黙った。何かがうごめいていた。沈黙という膜を破ろうとなにかが飛び出そう、飛び出そうとしていたが、結局飛び出せずにいたのだ。

 僕はそれを感じながら、何かそれが飛びだてるよう手伝いたかったが、やはり何も思い浮かばなかった。

「そうそう、一樹君高校生活といえば、彼女とかはできないの?」 

 そんな二人のもどかしい沈黙に康子さんがそんなのをはなから気にせずに割り込んできた。

「な、何を言っているんだ!おまえ!」

「あら、別にいいじゃあ、ありませんか。高校生なら彼女のひとりくらいできても」

「しかしだな」

 そうおじさんが言うと康子さんはこう切り返してきた。

「しかし、何です?」

「………………」

 こういわれるとおじさんはさすがになにもいえなかった。康子さんはこれで自分が勝ったと確信したのだろう。興味津々目を輝かせこう言ってきた。

「それでどうなの?一樹君。彼女できたの?好きな女の子はいないの?キスはした?あ、でも、男女の秘め事はまだ若いからやめてね」

 矢継ぎ早に聞いてくる。僕は動揺した。僕は寺島さんが好きだったので、いきなりこういう事をいわれて動揺したのだ。でも、それを悟られるわけにはいかないから、顔を俯け否定した。

「いえ、いません」

「そう、残念ね。………………一樹君、いろいろ聞いてごめんなさいね」

「い、いえ。別に謝られることではありませんよ」

 まさか謝られるとは思っていなかった。あんなに先ほどは野次馬根性で聞いていたのにいきなり謝られるとは思っていなかったのだ。でも、先ほどのおばさんらしさと礼儀正しさの同居がなんだか康子さんらしかった。

「いいえ、私もただ、個人的な興味で聞いたわけではないのよ。ただ。若いうちはやっぱり彼氏、彼女を作っといた方がいいと思うのよ。その方が人間性の幅が広がると思うのよ。………………いえ、それも違うわね。ただ、……………恋はいいものよ。体験した方がいいと思うのよ。これは私の個人的な意見だけど、覚えておいても損はないわよ」

「そうですか…………」

 僕そんなものだろうかと思った。正直言って、彼女など作ったこともないし、できる見込みもないのでそうなのだろうかと思った。しかし、僕にも康子さんの考えに少し疑問ができたのでそれを言うことにした。

「あの、康子さん」

「ん?何、一樹君」

 康子さんも聞いてくれそうだったので遠慮(えんりょ)なしに言おう。

「康子さん、確かに恋はすてきなものかも知れませんが、でも、もし万が一好きな子ができたとしても恋は成就することができるのでしょうか?僕にはとても告白なんてできません。考えただけで足がすくみます。恋はいいものかもしませんが成就させるのが大変そうです」

 そう僕は言った。これは僕の偽りのない本音だ。

「そうねえ、そういうこともあるかもねえ……………」

 僕の回答に康子さんはすこし戸惑っている風だった。まさか、こんな風に言われるとは思っていなかったのだろう。

 康子さんは少しと戻ったあとこんな事を言ってきた。

「まあねえ、一樹君。そういうこともあるかも知れないけど、でも案外(あんがい)何とかなるものよ。これはただの楽観論じゃなくて。恋をするとね、いてもたってもいられなくなるものなのよ。それで我慢できずに告白をしてしまうのよ。だから一樹君、そんなに悩む必要はないと思うわ」

 僕は清冽な風が駆け抜けていくのをかんじていた。ここに来てからこういう事は何回かあった。これは決して家では得られない刺激的な体験だった。こうやって親ではない大人と話すのが僕にとって新しい世界の発見につながるのだ。

「わかりました康子さん。どうなるかわからないけど、とりあえず、恋については少し楽観視してみます」

「ええ、それでいいわ」

 その後いくらか談笑したあと、僕は部屋に上がった。




 学校の昼休み。僕は近くのコンビニでパンを買うために校舎を出た。外に出ると春らしい陽気が周囲に軽い闊達さを運んでくる。

 しかし、僕にはそれが重い。中学生までだったら、春が来ると何かが変われそうな気がしたが、もう高校生になると何も変われる気がしなくなる。それが重い原因なのだ。

 ともかく、僕はコンビニに行ってパンを買った。問題はこれをどこで食べるかだ。教室にはなるべく入りたくない。あそこで食べると、本当に自分が一人だという気がするから。しかし、考えてみると不思議なものだ。どこかのファーストフード、たとえばミスタードーナツで一人で食べていると別の孤独とは思わないが、教室で一人で食べるとかなり堪える。

 まあ、考えてみれば当然か、ファーストフードだと元から他人同士だし、一人の客も多いから別に気にする必要はないけど、教室でみんなが友達を作る中一人だと言うことは、おまえは友達を作れなかった、という烙印を押される訳なのだから。

 閑話休題。とにかく、今日は春の陽気があることだし、中庭で昼食を食べよう。




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