閑話1 ―僕の妹― ジオラス・ウイスタリア
フリージアと会ってから前回くらいまでのジオラス視点。短め。
飛ばしても本編には影響はないと思います。
僕はジオラス・ウイスタリア。
10歳の時に、とても可愛くて、頑張り屋で、愛おしい妹ができた。
彼女と……フリージアと始めて逢った、あの日は今でも忘れない。
家族になりたいとふんわりと微笑んだあの笑顔に、心を奪われた。
悩んで考えた『リーア』という愛称。
受け入れてもらえるか不安だった。
でも『嬉しいです!』と満面笑みで喜んでくれて。
ずっと傍で守ると心に決めたんだ。
◇※◇※◇
以前から僕には2歳下の従妹がいることは知っていた。
父上の妹のアキレア様の娘だ。
でもあの時より前には会ったことはなかった。
アキレア様達はなるべく彼女を外に出したくなかったみたいだ。
今思えば彼女を危険な目に合わせないためだったのだろう。
最後にお会いした時に、父上や母上のいないところでコッソリ頼まれた。
――もし、私に何かあったら。娘を見守って欲しい――
――“全属性持ち”であるジオラスに――
と、そう言われた。
もしかしたらアキレア様はリーアが“全属性持ち”であるという確信があったのかもしれない。
ウイスタリア家の血かそれとも母としての勘か。
どちらにせよアキレア様の懸念は当たり、リーアは僕と同じ“全属性持ち”だった。
その時の気持ちといったら何といえば良いのだろう。
僕に近い年代で“全属性持ち”はいない。
一番近くて7歳上にいるくらい。
“全属性持ち”はある意味孤独だ。
僕は幸いにして、家令のオレガノもそうだったから相談や力の使い方を小さい頃から学べたけれど、そうでない人は……とくに平民にも稀に現れるからその時は大変らしい。
人より大きな魔力に全部の属性を上げなければならないこと……とくに闇属性の取り扱い。
間違えれば本人はもとより他者や世界に与える被害は甚大だ。
それでも僕は“全属性持ち”で良かったと思う。
人より苦労したりすると思うけれど、それ以上に見える景色の素晴らしさも教えてもらったから。
だから彼女が僕と一緒で嬉しくて。
心得を忘れて色々と喋ってしまって父上に叱られたけど。
リーアはアキレア様のようになりたいと、治療魔法師だけではなく守る力も欲しいと言った。
迷惑をかけたくないと。
僕が守るから、そんな危ないことはして欲しくない。
本当はそう言いたかった。
でもそうやって閉じ込めても、きっと彼女は飛び立っていってしまう。
それなら一緒に進む方が良い。
それが“全属性持ち”の仲間であり彼女の兄として傍にいて守りやすい。
……それにしても、リーアが来てからオレガノやアイビーが僕に対して更に遠慮がなくなった。
元々厳しくして良いとは言ってあったけれど……。
登録が終わるまで魔法の使用は禁止くらい覚えているよ?
僕にサボり癖があるって?
……ま、まあちょっとやる気が出ない時もあったけど、リーアの前で言わなくてもいいじゃないか!
恥ずかしさのあまりアイビーに食って掛かっていつもどおりに、負けた。
まだ勝てるとは思っていなかったけど、イイ線は行くと思っていたから余計に悔しい。
一番悔しいのはリーアに情けないところを見せてしまった事で。
アイビーだけが褒められていて、負けたから仕方ないと思っても一言欲しいな、なんて。
魔法院の同期に『女の子は格好いい男の子が好き』だって聞いたし……“負ける情けない兄なんて嫌われる”って思ったら身体が動かなくなった。
そんな僕にリーアは『格好いい』、『好き』、『負けることは悪いことじゃない』と言ってくれて。
単純かもしれないけれど、すっごく嬉しかった。
今は弱くても、これから強くなればいい!
彼女に相応しくなるように、身体も心も鍛えようと決意した。
まぁ、その後すぐにアイビーに挑んだけどなぜかアイビーもヤル気十分で完膚なきまでに叩きのめされた。
アイビーもリーアのことを気に入っているみたいだけど、それに関しても負ける気はないからね!
◇※◇※◇
リーアは8歳にして全属性の登録と魔法院の仮登録を済ませた。
これで治療魔法師の見習い。
僕と同じで9歳になったらすぐに本登録で初級になるだろう。
そうなると、早く中級になっていろんな権限が欲しい。
彼女ためだけじゃなく、自分のために。
これ以上嫉妬で邪魔をされたくない。
リーアにはあんな目にあって欲しくないから。
それにしても、リーアは不思議だ。
種魔法で難しいほうの〈風〉や〈土〉、〈水〉は難なくこなすのに簡単なほうの〈火〉がイメージ不足なんて珍しい。
しかも解決方法に厨房へ行くことを望むなんて思ってもみなかった。
それで出来てしまうのも凄いけれど、料理の知識もあるなんて。
予想外で不思議な妹だ。
ますます惹かれていく。
だからこの時期にしか見られない景色を彼女と二人で見たくなって、お気に入りの場所へ連れて行った。
僕を知って欲しくて、僕の好きなものを共有して欲しい。
生まれてはじめてそんな気分になった。
どうして彼女にはこんな気持ちになるんだろう。
ちょっと格好つけたくて、抱き上げたリーアは魔法を使ったのに軽くてビックリした。
柔らかくていい匂いがして……。
余裕ぶって笑顔を作ったけれど、顔が熱い気がしたから赤くなってたかも。
夕日の時間帯で良かった。
困り顔も、拗ねた顔も、驚いた顔も、ニッコリ笑うのも、ふんわりと微笑むのも好き。
色んな表情をこれからも見せて欲しい。
近くで見ていたい。
でも……。
リーアのたまに見せる何かを思い出して浮かべる憂い顔。
泣きそうな、堪えるようなそんな表情で最後には決意するかのように微笑む。
知りたい。
君をそんな表情にさせる『なにか』を。
でも今は聞いてはいけないと、聞いてしまったら彼女が消えてしまうのではないかという恐怖が襲う。
いつか、僕がもっと強くなれば聞けるのだろうか。
そうでも、そうでなくても。
僕は強くなろう。
君のために。
僕自身のために。
君を守るために。
君が守りたいものを守れるように。
ねぇリーア。
きみの『いちばん』になれば教えてくれる?
フリージア、きみのこと。
僕の大切な―――。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
ブックマークも拍手もしていただいて嬉しかったので急遽予定早めてみました。
夜にも更新、間に合わせます!
誤字修正20150718
従兄妹→従妹
感→勘
ご指摘ありがとうございました!