05 ―魔法のこと― 2
最後のほうは魔法の説明。なのでちょっと長め。
読み飛ばしても大丈夫です。
やっと一日が終わります(笑)
お父様とお母様を残して私とジオ兄様とオレガノは訓練室という場所へ移動することになりましたが、その前に注意事項。
まず、全属性持ちの登録が終わるまで魔法の使用は禁止。
登録には2、3日の辛抱だそうです。
とは言っても私は何も習っていないので使おうとしなければ大丈夫とのこと。
私よりもジオ兄様に――見せて興味を引かせないようにと――言い聞かせていましたね。あはは。
それからあの部屋にいた人物以外へ他言無用とのこと。これは先程のジオ兄様を見ていたので理解できます。
訓練室までまたジオ兄様と手を繋いで歩きます。何が楽しいのか分かりませんが、突っ込むと収拾がつかない気がするので何も言わないでおきます。……チラリとみたオレガノが深くうなずいたので正解みたいです。
それにしても、家令というわりにはオレガノは若いです。フリージアの記憶にある子爵家の家令はおじい様でしたから。
お父様と同じ30代前半くらいでしょうかと聞くと、なんと同い年で幼馴染だそうです。
幼馴染……フリージアにはいなかったのですよね、残念。
友達が欲しいけどゲームではいたかな……まさか学園までなしっていうのはないよね?
まさかそれまでボッチ決定!? と戦々恐々していると歩みが遅くなっていたようで「リーア?」とジオ兄様に心配されてしまいました。
何でもないと首を横に振れば「僕がいるからね」と頼もしい言葉をくれましたが今の私にはある意味追い打ちですよ、お兄様……。
イエ、実際に頼もしいのですが兄ですし。女の子のお友達希望です。
まずは侍女のアイビーともっと仲良くなりたいですね! 前世は妹に振り回されていたから、お姉さんが欲しかったのですよ。
そんな事を考えつつ上機嫌のジオ兄様に連れられて着いた訓練室は中庭を抜けた先の一番奥の部屋でした。
この屋敷で一番の壁も扉も厚い造りになっていて、しかも土属性強化版の〈増幅強化〉を付加した魔法具も組み込まれていて発動させれば一定時間、外からの上級魔法も防げる避難部屋にもなるそうです。
親戚の方に発明好きの方がいらっしゃるそうでその方に作ってもらったそうです。そんな凄い方なら「いつか会ってみたいです」と言ったら「自称天才発明家の変人なのであまりお薦めできませんよ」と苦笑いで返されてしまいました。でも、オレガノの声が気安い感じだったので友人なのかもしれませんね。
とても気になりますが私もしなければならないことがあるので今は保留にしておきます。
訓練室に入るとアイビーが「お待ちしておりました」と礼をして出迎えてくれました。
なぜアイビーがこの部屋にいるのかと聞くと、彼女は魔法を使うことはあまり得意ではないものの、体術――護身術のエキスパートだそうで、この屋敷の中で一番の腕前だそうです。
ビックリしましたがもっと驚いたのは、彼女の師匠がアキレアお母様だったと言うことです。
アイビーに「ぜひアキレア様のように」と言われましたが、白衣の戦乙女じゃないと思いたい。
アキレアお母様と同じように両立できる道を目指したいと思いますが、あの名前だけは絶対に受け継がないようにと新たなる決意が生まれました。恥ずかしすぎる!!
「では、リーア様は治療魔法師を目指しつつご自分を守る力をつけるということでよろしいですか?」
「はい。頑張ります!」
「良い返事です。もちろん淑女教育もしていただきますよ」
「……はい」
ちょっと忘れていました。あはは。
「リーアならきっと大丈夫だよ。僕と一緒に頑張ろうね」
「ジオ兄様、よろしくお願いします!」
「これでジオラス様のサボり癖が治りますね」
「え?」
「アイビー!」
慌てた声でジオ兄様がアイビーに向かって勢いよく拳を突き出すと、アイビーはその手を押さえると同時に足払いをかけ身体を半歩ずらしてジオ兄様の勢いを利用してそのままクルンと一回転させ――たのですが、上手く勢いを殺したのかジオ兄様もは足が床に着くと同時にまたアイビーに向かって飛び込み、拳や手刀・足技も取り入れて打ち合っています。
それを少ない動きで捌きつつ、アイビーもジオ兄様へ攻撃し彼もいなすということが続きます。
いきなり始まった打ち合いに声も出せずに見ているとオレガノが説明してくれました。
襲われたりするのは急なことなので、いつでも対処できるようにと――お客様がいない時限定ですが――いつでもジオ兄様はアイビーと特訓するそうです。
場所などの配慮は一応あるそうです。さすがに調度品のある部屋は不味いですものね……。
オレガノとは魔法や剣術で特訓している段階で、ゆくゆくは私もアイビーやオレガノとそういった特訓になるそうです。
……ハイスペックへの道が今まさに閉じようとしているのは気のせいでしょうか。
そんな話を聞いていると体勢を崩したジオ兄様へアイビーが足払いかけ尻餅をつかせて終了したようです。
「って……あれ?」
「勢いは良かったのですが、最初に声を出されたのは減点ですね」
きょとんとするジオ兄様ですが、どうなったのか理解すると「まだだめかー」と仰向けに倒れて両腕で顔を覆って「リーアに情けないところを見せてしまった……」と零しそのまま寝っ転がったまま動かなくなってしまいました。
ジオ兄様の行動も驚きますが、アイビーが鮮やかな捌き方はまるで舞っているようでした。
前世の私は運動神経が切れてると言われるほど苦手だったから、フリージアの主人公スペックにかけるしかない。
「アイビー、凄いです」
「それ程のことはしておりません。相手の力を利用するのですから」
合気道みたいなものなのでしょうね。それならば前世がアレな私でもちょっとは希望が持てそうです。
「ただ、これは基礎体力を付けてからですので。スケジュールといたしましては、朝はランニングと柔軟、基礎の型を覚えていただいて、午前は淑女教育、午後は登録が終わってからですが魔法の基礎を学んでいただきます」
何事も楽なことはないデスヨネー。
あと7年間でどこまで近づけるかな……がんばろう! ってアイビーの何かを期待している目がコワイ。
「それとリーア様」と私に近づいたアイビーが内緒話をするように屈んで、「ジオラス様が拗ねておられるのでやる気を出させてはいただけませんか?」とお願い(?)を口にしました。
どうやらジオ兄様は私がアイビーしか褒めなかったので拗ねているとのこと。
まさかと思って見てみれば体育座りでどよんとした空気の中にいるジオ義兄様。
おぉと若干引きつりつつ、オレガノを見れば「2、3日はこのままですね」と笑顔で答えてくれました。落ち込むとなかなか復活しないのだそうです。
フリージアは気に入られているので一言でやる気が出るのではないかと言うことで、アイビーとオレガノの期待(?)を背負いジオ兄様の側にしゃがみ「ジオ兄様、打ち合っているの格好良かったですよ? 私、さっきのもう一度みたいな~」8歳児ってこんな感じかなと首を横に傾げてダメ元で言ってみました。
一度ピクッと動いたのですが体勢はそのままなので無理だったか、と思った時に「本当に?」と小さな声が聞こえました。
聞き間違いかとアイビーとオレガノを見れば何故かサムズアップ。アイビーに至ってはウィンク付きです。
この文化ってこの世界にあるんだと妙な感心をしつつ、今はジオ兄様の気分を上げましょう!
「はい! とっても格好良かったです」
「でも、また負けた。こんなダメな兄はリーアは嫌だよね?」
浮上どころか落ちていませんか!? ネガティブお兄様降臨中!!
え、援護は? と後ろを見ればアイビーもオレガノも机で何かの用意をはじめていてこちらを向いていない!?
援護射撃のないまま――しくしく――ジオ兄様の言った言葉から考えるに、『負ける』『嫌い』がキーワードのようです。
ジオ兄様に何があったかは分かりませんが、どうも“負けると嫌われる”と思っているようです。それさえ払拭できればどうにかなるかな。
「……ジオ兄様は、私がアイビーに負けたら嫌いになりますか?」
ジオ兄様の手に自分の手を重ねて言えば、バッと顔を上げて素早く私の手を取ってぶんぶんと頭を左右に振って「そんな事ない! 僕がリーアを嫌いになるなんてないよ!!」と今にも泣きだしそうな顔で言います。
ジオ兄様がフリージアを好きでいてくれる嬉しさは、抑えようとしても笑みがこみ上げてくるのは仕方がない。
笑顔になった私にジオ兄様はキョトンとした表情。
「私も同じ気持ちです。ジオ兄様、負けることは悪いことじゃないです。だってもっと上を目指せるから。必要なことで、それで私がジオ兄様を嫌いになることなんてないです。」
「っリーア! ……こんな不甲斐ない兄でも好きだと言ってくれるんだね」
「え、えぇ。私もジオ兄様が好きですよ」
「リーアに大好きと言われたら恐れるものはないね! 君の人生の万難を排すために僕は強くなろう!」
アイビー! もう一勝負だ!! とスクッと立ってアイビーに指をビシッと突き付けて宣戦布告。
それを受けてアイビーも「リーア様にそんな事を言ってもらえるなんてっ! お覚悟なさいませ」と返し早々に打ち合いに。ジオ兄様は元気を取り戻し……過ぎたようです。
……しかし二人とも、ちょっと言葉が大げさすぎませんか?
ちなみに私は、ジオ兄様が立った瞬間にオレガノに回収されたので難を逃れました。助かりました。ふぅ。
二人の打ち合いの音をBGMに私はオレガノによる魔法講義となりました。
◇※◇※◇
この世界の住人は最低でも1つの属性を持っています。
やはりと言うか、複数の属性を持っているのは貴族階級が大多数を占め、そして複数の属性を持っている子女があのゲームの舞台の『アンスリューム学園』に入学できます。
(複数持ちの平民も貴族の後ろ盾があれば入学できますが、今は必要ないのでこの話はまた今度)
そして属性の話。
基本4属性は――火・水・風・土
特殊に分類される――光・闇
この世界の魔法で面白くて難しいところは組み合わせで派生属性が現れるところ。
〔下級合成〕
火+水=無(衝撃波や魔力弾等攻撃系)
風+土=無(通信・収納空間等の補助系)
火+風=雷
火+土=状態異常
水+風=氷
水+土=樹
〔上級合成〕
水+風+土=擬似光属性
火+水+風+土=擬似闇属性
擬似なので属性魔法の初級までしか扱えないそうです。
ゲームには無かった擬似属性……。
確か闇属性に使い勝手の良い魔法がありましたね、〈影移動〉だったかな。
ゲームの時に敵が使ってくると厄介なもので後ろから現れて強襲された時はきつかった……。
あ、そうそうこの世界には魔物がいます。
魔力の澱みから生まれ、人の魔力を奪います。
ファンタジー系乙女ゲームでしたから討伐と言う名の好感度を上げるためのミニゲームがありました。
属性の内容に関しては読んで字のごとくですね。
火属性は火に関すること。
火や炎を生み出したり、威力の弱いものなら〈加熱〉で物を温めたりできます。
ですが温めている間は魔力を使うので、温め続けるのか火を生み出して火種にするか。効率に関しては魔力量によるので人それぞれです。
それから火と火を合成しても力が上がるだけで属性変化はありませんが、無属性の効果が追加される魔法もあります。
いい例が風魔法の〈浮遊〉と〈飛翔〉。
浮遊は風のみで浮いたり落下速度をコントロールしたり。
ジオ兄様に初めて会った時に彼が使っていたのは〈浮遊〉でしょう。
飛翔は風+風で空間系の無属性が加わり、飛ぶことが出来ます。
早く覚えて使ってみたい!
閑話休題
私は全属持ちなので許可が下り次第ほぼ同時に、基本4種、光、闇の基礎練習を始めるそうです。
万遍なく使えないと派生に響くこともありますが、全属性持ちは本人の力を安定させるために全てを平均的に最低でも中級まで上げないといけないとのこと。
レベルは基本4種と特殊(光・闇)は初級・中級・上級。
合成魔法は種類が少ないので下級・上級です。
今日は朝から色々なことがあったので授業はこれまで。
魔法は許可が出たらですが、明日から頑張りましょう!
ちょっと……イエ、かなり大変そうですが護身術を覚えることも魔法を使えるということも、とても魅力的でワクワクします!
いつもお読みいただきありがとうございます。
20150717 た誤字修正、空欄調整など
あんな私でも→前世がアレな私でも
高感度→好感度
ご指摘ありがとうございました!