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悪役なのかヒロインなのか、教えてください。  作者: たばさ むぎ
二章 悪役ヒロインとして頑張ります!
53/64

51 ―その後―後

少々長めです。

 

 

 


 真剣な顔のカサブランカ様から治療魔法師としての対応の悪さを怒られるかと思っていたら、まさか “噂”のことを指摘されるなんて。


 学園にいるメリア様ではなくカサブランカ様からということで思ったよりも噂の一人歩きは広範囲なのかもしれませんが、今の状況で言われるとは想像もしていないことだったので、驚きのあまり声も出ず目を見開くしかありません。

 そんな私を見て、メリア様が困惑気味に噂の内容を教えてくれました。


 曰く、特定・不特定にかかわらず嫌がらせをしている。そして複数の男子生徒……殿下、ニコティ様などの方々に迫っているとのこと。兄妹なのにジオ兄様の名前が入っているのには疑問が浮かぶのですが……。

 一応把握しているつもりでしたが、普通に考えてもないようなものまでありますね。さすがに食堂のメニュー全制覇は違うと全力で否定したい。


 “噂”を放置してある程度の覚悟は決めていましたがここまでになるとは……改めて聞くと結構キツイなぁ。

 ただ、ウイスタリア家に対してや兄様、ミモザたちが悪く言われていないことが救いだと思う。



 でも治療魔法師長から直々に言われるということは、もしかして治療魔法師失格になってしまうのでしょうか。追放されたらこれで食べていこうと思っていたのですが、無理なのかな。無免許かずっと遠くに……東国くらいまで行くしかないか。


 前世から詰めが甘いのが治ってないなと苦笑いを浮かべたくなるけれど、それではダメだと気を引き締めて前を向くとカサブランカ様は軽く目を見開いた後に「あの子が気になるわけか……」と呟き、急に雰囲気をガラリと変えて何か企むような笑顔になった。

 その笑顔に先程とは違う、なにか嫌な予感のようなものを感じる。



「噂を吹っ飛ば……いえ、消すために、うちの子と婚約してみない?」

「はい?」


 うふふ、と扇で口元を覆いウィンクも追加したカサブランカ様からの思わぬ言葉に息をするのも忘れて目を白黒させていると、次は私の順番といったようにメリア様が私たちの間にあるローテーブルに軽く乗り出ようにこちらへ迫る。


「それなら、リトマのほうが役に立つと思うの!」

「へ?」


 少し年上だけど範囲内よね~とワクワクとした表情のメリア様が私の手を取ろうとして、カサブランカ様がそれを止めた。


「いいえ、やっぱり同い年のほうが良いと思うのよ。近くで守れるでしょう」

「そうとは限りません。やはり年上のほうが頼りがいがありますわ」

「えーと、カサブランカ様? メリア様?」


 うふふ、おほほと笑いあいながら言葉を重ねていっていますが、傍目から見てお二人の目が笑っていないことに淑女というものを考えさせられます。ちょっと怖い……。

 それにカサブランカ様、メリア様。

 その言葉たちはあの御二方は気にしていると思うので、結構なダメージでだと思いますよー。


 ニコティ様もフィエスタ先生も次期公爵。そんな方々と知り合いというだけでも凄いことなのに、そんな提案をされるとは。

 まあ確実にニコティ様も先生も承知していないと思うので、きっとお二人が私を慰めようとして冗談で言ってくれているのでしょう。

 優しい上司を持てて私は幸せ者ですね。

 なるべく迷惑をかけないようにしなくては。

 

 ……と、私がつらつらと考え終わってもお二人の話は終わりがみえません。

 そろそろユクサのところへも行きたいので、どうしましょうか。

 止めたいけれど一言も口を挟めないくらい――否、挟んではいけない気がする――お二人の笑顔での“お話合い”はヒートアップ中。


 悩んだ結果、ソファーの端に移動してみても私には意識が向いていないようなので、逃げてしまおうとそろりと席を立ち気配を消してゆっくりと足を進めて出入り口の扉まで到達。


 ドアノブに手をかけた時に緊張が緩んでつい、ふぅと息をいてしまったのが悪かったのか……がしっと肩を掴まれてくるりと体勢を返された。

 驚きのあまり声は出ず、うぎゃぁあ! と内心で盛大に悲鳴を上げる。


 向かって右にはカサブランカ様の妖艶な笑みがあり、左にはメリア様の優美な笑顔が視界に映る。


 さっきまで“お話合い”をしていたお二人とは思えぬ見事な連携ですねぇ……って褒めている場合ではなく逃げないと――ダメだ、肩を掴まれてしまっているから逃げられない!


「「どちらがいい?」」と微笑む姿は平常時なら眼福ものですが、お二人の眼がキラリと光って見えて……背筋がぞわぞわするのが止まりません。


 無理です! 選べません! 誰か助けて! と涙腺が崩壊しかかった時に背中のドアからノック音。

 思わず天の助けだと思って「どうぞ!」と叫ぶと内開き(・・・)のドアが勢いよく開き後頭部に直撃してイイ音を立てた。

 これは運が良いのか悪いのか。

 あまりの痛さに声も出ず、回復魔法も唱えられずに頭を押さえてうずくまる。


 皆さまは心配そうに声をかけてくださっているのですが、今の私には煩わしいことこの上なく『頭に響くのでちょっと静かに』と言いたいけれど余力はなくてもどかしい……痛いよー、気持ちも悪い。



 治療をするという治療魔法師長と治療魔法師上級者を差し置き、「ドアを開けたのが僕だから」と主張したジオ兄様をもスルーして私に〈回復(ヒール)〉をかけてくれたのは、なんとお父様です。


 誰が〈回復(ヒール)〉を使うかでもめていた兄様たちの後ろからひょっこりとお父様が出てきて私を抱き上げ、自分がと主張する兄様たちを――何をしたのか見えませんでしたが――静かにさせて〈回復(ヒール)〉と〈状態回復(リカバー)〉をかけてくれました。


 ちなみに、頭を打ちましたが記憶は戻らず痛いのみでした。本当に星って見えるのですね……。チカチカしましたよ。



 頭の痛みも引き、気持ち悪さも消えてひと息ついたら『どうしてお父様がいるのだろう』という疑問が浮かび――もしかしてウイスタリア伯爵家に迷惑をかけてしまったからお父様直々に謝罪かお叱りに来たのかという考えに到り「どうしてお父様が!?」と声を出した私に兄様が「どうして、って。……リーア、父上は魔法師の副長だよ」と気まずそうに教えてくれました。


 そ う 言 え ば そ う だ っ た !


 がーんとショックを受けて固まったお父様に冷や汗を流しつつ謝ると「リーアの部署とはなかなか関わり合いはないからね……でも、お父様も頑張っているんだよ……」と今度は意気消沈しはじめてしまった。

 慌てて「お父様のローブ姿は初めて見ましたが、とーっても格好良いです!」「今日、会えるなんて嬉しい」と宥め(?)たらお父様は涙目になってしまい『ダメだった!? 失敗?』と思ったら、テンションの高い時の兄様のようにむぎゅうとさらに抱きしめられた。

 ……お父様って冷静沈着なイメージだと思ったのですが、私が学園に来てからの間になにか変化があったのでしょうか。


 なかなか弱まらない抱擁に、いつものパターンのように意識が飛んでいきそう……。誰でもいいから、へるぷみー。


 


 そんなこんなでソファーに座ったお父様に抱えられたまま……ってもう小さい子供ではないのにという抗議はゆっくりと頭を撫でるお父様の手の安心感で封殺されました。

 とても気持ち良くて……つい、うとうとして寝てしまいました。


 寝起きの耳に入ってきた言葉は雑談のようなのですが、お父様が他の3人に向けて真剣な響きを持った声で話しているようでした。


 起きなきゃと目を開けると、ちょっとグッタリ気味のカサブランカ様とメリア様が目に入り、お二人から『今は保留にしておくけど諦めないわ!』と言う不思議な宣言を頂きました。

 何のことかと首を傾げる私に兄様は私の頭を撫でながら「気にしないでリーアの思うとおりにして良いからね」と言い、お父様が「引っ越しするとしたらどこが良い? 隣国? あぁ、東国も良いところだね」と言うと、急に青ざめた女性陣から何故か「ごめんなさい」と言われていました。

 ……引っ越しとは? と色々と気になることはありましたが、寝起きの頭ですぐに質問することは出来ず、時間切れとなりました。



 そうそう、お父様がこの部屋に来たのは私に起こったことを聞いて顔を見るついでに『事後処理の話し合い』のためにカサブランカ様とメリア様を呼びに来たそうです。

 逆なような気がするのですがと聞いたら、「これでいいんだよ」と笑顔で断言。

 お父様と兄様は似ていると思っていましたが、こういう時の笑顔はそっくりで……これ以上は言わぬが花ですね。


 その兄様は私が部屋にいなかったので、メリア様のところに居るだろうと予想してこちらへ向かっている時にお父様と出会って一緒に来たとのこと。

 う~ん、兄様には嫌われたから距離をとられると思ったのですが……服がいつもの感じに戻ったからでしょうか、行動も私にかける言葉も昼間のドレスを見る前の状態に戻っているようです。

 それとも実はお父様たちの前だから嫌々ながらも優しい兄を演じているのでしょうか。

 兄様は隠すのが上手いから判断が難しいですね。もう少し様子を見てみることにします。

 


 お父様とカサブランカ様、メリア様が会議室へ向かう時間ということで、部屋の前で皆さまとはお別れ。

 お父様との別れは少し寂しいですが、月末に伯爵家へ帰る時また会えるので笑顔で挨拶を交わしました。お母様にも私は無事だったと伝えてくれるそうです。


 実は魔法師のお仕事帰りだった兄様。

 報告前にこちらに来たので報告したあとに私を寮へ送るから部屋で待つように言われたのですが、少しユクサのところへ寄りたいと言うと兄様は渋い顔。

 どうしても今日! と粘ったので『僕が報告して迎えに行くまで』という約束で許可をくれました。


 今日の報告は少し時間がかかるかもと言っていましたが、兄様なら30分以内で終わらせてしまうでしょうから急がないと。


 図書室の前で兄様と別れ、時間が惜しいので注意されないギリギリの早さで歩き、出てきたときに兄様に怒られないように〈認識阻害(レキューラビジブル)〉と〈幻惑ノ檻(メイズ)〉でちゃんと外から分からないようにして潜る。

 いつもの感覚の後に目を開けると、心配そうにこちらを覗きこむユクサの姿が見えました。

 何かあったのかと聞けば、ユクサは一部始終を見たので心配だったそうです。



(ひぃ)さん、本当に大丈夫かぇ?》

「うん。ごめんね、心配かけて」

《ほんに。見ることしか叶わぬ身体が初めて悔しゅう思ったわ》

「ユクサ? ……見て、たの?」

《姫さんがドレスを着ると言うておったからの》

「そ、そうなんだ……って、えぇー!」


 あのドレス姿を見られたことに恥ずかしさが甦ったために熱くなった頬を押さえていると、ユクサはにんまりと笑いながら《いつもより可愛らしゅうて、似合うておったぞ。あぁ、(わっぱ)も頑張っておったが、まだまだじゃな。青いのぅ》と兄様が聞いたらまた一悶着ありそうな言葉を落とす。


 どうして仲良く出来ないのかなぁ……と思った時に“兄様がユクサにだけ結構辛辣な言葉を言ったりする”ことに気が付いた。

 しかも結構饒舌だし、本心を明かせる存在が好きな人かも。……ということは兄様の想い人はユクサなの?

 応援してあげたいけど、ユクサはこの意識だけの世界でしか存在出来ないはず。あ、だからあの話で兄様の好きな人はちゃんと書かれなかったのかな。


 うむむと悩みながらも、でもユクサがお姉ちゃんになったら楽しそうだと考えて、ふふっと笑みをこぼすとユクサに訝しげに見られてしまった。

 冷や汗を流しつつも右手をパタパタと振りながら「何でもないですー」と返し、どうやって外の世界を見たのかと質問してみた。


《ほれ、童が外にいると教えたことがあったじゃろう? (わらわ)にしか分からぬが、本の近くのことは分かるように術を組んでおる。他にただ見ることしか叶わぬが、条件さえ揃えば外の世界を見る方法は色々あるでのぅ。気になるえ?》

「うん! あ、ごめん。残念だけど今日は兄様と約束してあるから時間がなくて無理なの」

《ほぅ、無粋な童じゃ。と言いたいところじゃが、今日の姫さんをみたら仕方がないことか》

「う、それは言わないで……。え、えっと、今日来たのは相談があって」

《あぁアレも今日じゃったな。相談ということは上手くいったようで何よりじゃ。まずは姫さんの見たことと感じたことを教えておくれ》

「ありがとう。頼りにしてますね、ユクサ。それで……」



 ユクサにストレリ様を診た時のことを話したところで兄様が来たとユクサが教えてくれたので時間切れ。

 なるべく簡潔したつもりでしたが、思い出しながら話していたらフラッシュバックのように甦った記憶で気分が悪くなってしまい中断したのが響きましたね。


 話を聞き終えたユクサは珍しく悩んだような表情になって《調べておくでな、今日はお帰り》とこれまた珍しく帰還を促した。

 どうかしたのかなと思いつつも、その言葉に甘えて感謝を述べた。



 いつものように目が覚めると兄様が私の前に斜め左前に座り、少し心配そうな表情で私の様子を伺っているようでした。


 私の魔法を抜けて、張り直された様子を感じて兄様のスペックの高さにため息をつくと、兄様はぴくりと不機嫌そうに眉を上げて無言で私を見つめてきた。

 目を合わせたままにしてしまったら動けないような気がしてつい視線を逸らしてしまった。


 不味いと思いながらも兄様のほうを向けず、ものずごく居心地が悪い。

 沈黙とチクチクと刺さるよう視線を感じて次第に耐えきれなくなってきて、何か話題を……と、兄様にユクサが外を見ることが出来ることを話すと既にそのことは知っていたようで「今日のを見られていたのか……油断した」と引きつった顔で項垂れた。



―――私より兄様のほうがユクサのことを知っているんだ。



 そう考えると兄様の想い人は本当にユクサなのかもしれない。

 兄様が項垂れていた頭を上げた時の悔しそうな表情を見ると、彼女に格好良いところを見せたかったとか?

 妹の私から見ても兄様は格好良くて素敵でしたのに……兄様は自分に厳しいですね。


 ここでのことはユクサに見えているのだから彼女に伝われば良いなと思い最後のフォローとばかりに「兄様はとても素敵でしたよ。格好良くてドキドキしましたもの。きっと彼女も……」と兄様を見上げながら言うと、兄様は「彼女? 誰?」と不思議そうに首をかしげた。


 隠さなくてもいいのにと思いつつも、知らないふりでニコニコと笑っていると兄様は納得したのか少し困ったような笑みを浮かべながらも真剣な眼差しで「リーアがそう思うの?」と聞いてきた。

 照れている兄様は珍しい! と嬉しく思ってコクコクと頭を縦に振って肯定すると、満面の笑みになった兄様に抱きしめられた。

 私はユクサじゃないですよー!


「に、にいさま!?」

「ありがとう、リーア。僕は負けないよ」

「へ? 兄様? ってだめです! 負けないのは良いことだけど、ユクサが見てるです!!」

「いいよ、大丈夫。むしろ見せつける」


 クスリと笑いながら私の耳元で囁くように言うなんて、きっと“好きな人の嫉妬心を煽るため”にしたのでしょうが、ユクサには逆効果だと思いますよ!



 兄様って実は恋愛事には疎いのかしら?

 ちょっと可愛いかも……ってそろそろ離してくださいー!!








いつもお読みいただき、ありがとうございます。


今更ですが、前回のキリ具合が微妙なところで申し訳ありませんでした。

そのため今回分が少々長めになるという事態に……。

(誰かさんが出てきたからつい文章量が増えたからな気もする……)

長さが一定にできず力足らずで申し訳ありません。



この話で2章はひと区切りといったところです。

思わぬ足踏みがあったりして予定より話数が多くなってしまいました。

次はサクサクと行きたいものですが……予定は未定。

あの人やこの人の事情を早く書きたいと思いつつも順番待ちなので怒られそう(笑)





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