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悪役なのかヒロインなのか、教えてください。  作者: たばさ むぎ
二章 悪役ヒロインとして頑張ります!
52/64

50 ―その後―前

 

 

 



――― 昏い 闇の中 ―――



 その中でひとりの少女が泣いている。


 何故? どうして!? と自身に起こった不条理を嘆く


 一向に泣き止まない彼女に囁く声がする。

 まるで真綿で包むように優しく、彼女のためだけの言葉を。



『私が―――なのに!』


―――つらいね、くるしいね、傷つきたくないよね。


 女性なのか男性なのか。

 心の奥に染み入るような、でも記憶には残らない。そんな声。 



『その場所は貴女のものじゃない! 私の場所よ!!』


―――守って、癒して、居場所を作ってあげる。



『このセカイはワタシのモノなのに』


―――変えよう、彼らを。“彼女”の存在をキミにあげましょう。



 くすくすと無邪気な声で囁く、甘い声。



―――だから願って。



 ワタシは望む―――(そうじゃない)


 ワタシだけのセカイを―――(あのセカイに憧れていただけ)


 貴方を手に入れるために―――(ただ、あなたの近くに……傍にいたかった)


 みんな、要らない―――(ホントウのネガイは)



 だから貴方以外の全てを壊す!―――(ワタシを止めて!)




 セカイに刻み込むように叫ぶ彼女に向かって『仰せのままに』とくすり嗤う声が響く。



―――さあ! 終わりのはじまりだ!



 闇から生えた黒い蔦と赤黒い鎖が彼女に巻き付き、大輪の黒百合を咲かせながら覆っていった。


 これはダメだと思うのに私は何もできず、ただ見ていることしか出来ない。




『あぁ、やっと……』



 最後に笑みを浮かべた彼女がほろりと零した涙の意味は―――。




  ◇※◇※◇




―――あぁ、残念。せっかく捕まえたのに逃げられてしまいました。


―――抵抗するからちょっとしか記憶を壊せませんでしたわ。


―――もっと彼女のは壊したかったのに……残念。


―――『彼の方』の言う『彼』の力が戻りはじめているのでしょうか。


―――それなら早く進めないといけませんね。


―――私の望みのために……。


―――あぁ、待っていてくださいね。私の殿下。




  ◇※◇※◇




 ハッと目覚めて見慣れぬ天井にここはどこだろうと周りを見るために頭を動かすと目尻に溜まっていた涙が零れ、頬に冷たさを感じて枕が濡れていることに気がついた。


 なにか夢のようなものを見ていた気もするけれど、どんなものかはさっぱりと思い出せない。

 ただ、思い出そうとすると苦しくて切ないというように胸がきゅっと締め付けられるような気持ちだけが微かに残っている。


 悲しい夢だから泣いていたのでしょうか……。




 ベッドから身体を起こしてもやもやと燻るような気持ちを追い払うように頭を振り、もう一度よく周りを見回すと、魔法院にある私専用の個室の仮眠用のベッドの上だということがわかった。

 今は何時くらいだろうと時計見ると針が16時半を指しているので、気を失っていたのは2時間くらいかな。次の日でなければだけど。


 視線を落とすと服は授業の時のドレスではなくシンプルな水色のワンピースになっていた。

 あれ? 着替えたっけ? ……う~ん、記憶がないから今は深く考えないで保留にしておこう。

 喉が渇いたなとサイドテーブルへ視線を移せば、水差しとコップとそれから手紙が乗っていた。


 テーブルの近くに座り直して、引き出しに入れてある予備のリボンを取り出して肩口で緩めに結びながら『そういえば最近似た様なことがあったなぁ』と苦笑いで独り言ちる。


 水差しからコップに水を注いで――微かにレモンとミントの香りがする。嬉しい!――誰もいないからと一気に飲み、ぷはぁと息を吐く。


 もう一杯注いでから手紙を開き、ちびちびと飲みながら読み進めると手紙の主はメリア様。


 そこには、『シャンデリア落下未遂事件とフリージアの行方不明(未遂)について』というタイトルが書いてあった。

 両方とも“未遂”だ。面白い……って、“行方不明未遂”ってどういうこと??


 見間違えかと2,3度見直しても文字は変わらなかった。……寝起きだからか記憶が曖昧なのか、それとも何かがあったのか……。


 読む前に考えても仕方がないと2杯目の水を飲みほしてコップをテーブルに戻して席を立ち、仕事机に移動して椅子に座り姿勢を正して読み始める。



 一つ目のシャンデリアの事に関してはまだ詳細はわからないけれど、対外的には『メンテナンスの回数不足による異常劣化の見落とし』と説明するらしい。


 色々と言われそうになったそうですが、対処が早かったことと王太子殿下の鶴の一声で批判を押し込んだとのこと。

 権力行使な気もしますが、要らぬ不安を出さないためにはしょうがないのでしょうね。

 


 私に関してはどうやら壁の装飾に押しつぶされそうになったらしいけれど、自力で脱出した。らしい。

 おぉ、ビックリ!


 壁の装飾が落ちた後に私の姿はなく、なぜか中庭に倒れていたそうです。

 発見したのはリトマ・フィエスタ先生だそうで、治療医としての応援要請でダンスホールに向かう途中に発見したとこのと。


 行方不明……未遂とはこの事だったのですね。……ご迷惑をおかけしました!

 とは言っても私にその記憶はないのですが。どうしましょう。


 記憶を探ってもシャンデリアの件が終わってホッとしたあとの記憶が……壁の装飾が落ちてきたという記憶がないのです。

 思い出そうとしても、その辺りの記憶がまるでモヤがかったようになっていて分からない。

 不思議だなぁと首を捻っても、頭を振ってもモヤは晴れず逆に気分が悪くなった。

 自滅したと机に突っ伏して右頬をつけると、ひんやりした心地良さにそのまま目を閉じる。


 ちなみに着替えさせてくれたのは学園の治療室に呼び出されたアイビーで、ここに運んでくれたのは兄様。

 寮ではなく魔法院(ここ)なのは起きてすぐに事情を聞きたいのと何かあった時にすぐに対処できるからということみたいです。


 アイビーには迷惑かけてばっかりで、頭が上がらないのは今に始まったことじゃないけど……うぅ、今日は寮に帰ったら絶対に怒られるだろうな。

 帰りたくない……。でも起きたのにここで一晩過ごしたら余計に怒られそうなのでちゃんと帰りますよ。

 でもなぁ……。


 最後に起きたらいつでもいいから自分の――メリア様の部屋へ来てほしいと書いてあったので、さっさと行って済ませて、ユクサのところにも寄って寮へ帰ろうと予定を決めて体を起こす。


 うーんと背伸びをしてからクローゼットから治療魔法師のローブを取り出して羽織り、上の階にあるメリア様の部屋へと足を進めた。

 




 メリア様の部屋までは誰にも会うことなく着き、扉の前で深呼吸。何故だかいつになく緊張します。

 ノックをして返答を待つと中へ入るようにと声がしたので失礼しますと扉を開けると、メリア様は当然のことですがソファーに座り書類とにらめっこしているカサブランカ様もいらっしゃいました。


 おぉ……美人さんが二人も! 目の保養ですね~。


 ぼーっと見惚れていたら、苦笑い気味のメリア様にまずはお茶でも飲みましょうとソファーを勧められて慌てて席に着くと、書類から顔を上げたカサブランカ様に「体調はいかが?」と尋ねられたので「大丈夫です」と軽く頭を下げる。


 メリア様の呼び出しというのは、手紙にもあったシャンデリアの件の……一応、第一発見者ということでその時のこと――発見と対処について――を教えて欲しいと言うことで、覚えている限りのことを話しました。新しくというよりは確認のためですね。他の皆さまの話と照合するそうです。



 それから私の行方不明未遂の話。


 私にしては魔法の使い方がおかしいので何があったのか聞きたいそうなのですが……記憶が紛失中なのでどう言うべきでしょうか。


 手紙を読んだ時にも思いましたが、通常であれば避けるためだけならすぐ近くに移動するはずなのに。 しかもあの時は魔力も少なくて、自分でもそんな悪手を打つとは思わないのですが……疑問です。

 記憶がないところに理由があると思うのですが……一体何があったのか。


 悩み始めていたらメリア様に心配されてしまったので、すみませんと苦笑いを返す。


「フィーにしては珍しいと思って。どうして中庭まで行ったの?」

「えぇと……申し訳ありません。実はその時の記憶がないのです」

「記憶が……ない?」

「はい。あの、それに関して何かありましたか?」

「えぇ、ちょっとね。でもその前に」


 メリア様はいつもの余裕のある笑顔ではなく真剣な治療医としての表情になって「ちょっと診るわね」と私の隣に移動してきた。

 目を閉じるように言われたのでそのとおりにすると、メリア様は私の額に手を当て〈診察(イグザミネーション)〉と唱えた。その声と同時に足の先からスキャンされるように何か温かいものが通り抜ける。

 ここ何年も診る立場だったので〈診察(イグザミネーション)〉されるのは久々で新鮮な気分です。

 ぽわぽわする。


 頭の上まで通り抜けたあとにメリア様から「もう良いわよ」と言われたので目を開くと、メリア様はカサブランカ様のほうを見ていました。それにつられるように視線を向けるとカサブランカ様の瞳が虹色に揺らめいてすぐに消えた。

 これはもしかしてと思って「〈妖精ノ瞳(グラムサイト)〉ですか?」と聞けば、「正解」と笑顔で頷かれ「魔力の乱れもないわね」と安堵したような顔になった。


 メリア様もカサブランカ様も心配してくださったようで、嬉しい反面ものすごい方々に診てもらうなんて畏れ多くてこれで料金請求されたらと思うと冷や汗どころではないかもしれません。



 さて。と気を取り直したメリア様が再度質問され、『シャンデリアの件が終わってホッとした後の記憶がない』と説明しました。

 記憶がないのならば仕方がないと言うことになったのですが、一応『これからは気をつけて魔法を使うこと』『自分の魔力量をもう一度把握し直すこと』という注意を受けました。魔力枯渇で動けなくなるだけなら良いのですが、暴走させてしまうことは絶対に避けなければならないことですからね。


 私たち“全属性持ち”は特に注意しなければなりませんから。



 なんにしても、少々気分の悪くなった人はいましたが怪我をした人は1人もいないと言うことは幸いでした。批判の軽減に一役買ったのかな。

 行方不明未遂な私の件はなかったことになるそうですが、魔法院に迷惑がかからなくて本当に良かった。

 仮にその落ちてきた石で怪我をしても私ひとりだけだったでしょうし。


 そう、あの時はひとりで座り込んでいて……。

 ……あれ? 本当に“ひとり”だったっけ?


 誰かが来てくれたような気もするのですが……はて?


 う~ん、なにかすごくモヤモヤしてきた。

 それに何故か苦しいけど嬉しい気持ちを感じた気が……。

 でも昼休憩時の疲れかなぁ。うむむ。


 誰か、と考えてふと殿下の姿が浮かんだ。

 突き飛ばしてしまったあとに〈回復(ヒール)〉をかけたけど、その後すぐにシャンデリアの対処にまわってしまったから最後までちゃんと処置できませんでした。

 緊急事態だったとはいえ、治療魔法師としてはマイナス項目です。


「メリア様。……あの、その。殿下は……ご無事ですか?」

「フィー? あ、ええ、掠り傷一つなく王太子殿下として事後処理を手伝ってくださったわ」

「そうですか」


 メリア様が言うのなら大丈夫でしょう。何事もないようで安心しました。

 そうですよね、何かあったらこちらには来ることなんて……って殿下が私のほうに来た?


 違う、……はず。


 最後に見たのはどこ? ……声が近くで聞こえて……。


 それはいつのこと?



 わからない。



 またまた悩みそうになっていたら、少し緊張した面持ちのカサブランカ様から「ちょっと良いかしら」声をかけられて慌てて居住まいを正し聞く体勢になります。

 メリア様も移動しカサブランカ様の隣――私と対面の席に座っているので緊張感が増しますね。


 何を言われるのでしょうか……やっぱり放置した件は怒られる?

 


「フリージア。今あなたにある噂が流れていると聞きました」

「え?」



 噂ってどの流れからそうなったのですか?










いつもお読みいただき、ありがとうございます。



アクセス、拍手などありがとうございます。

更新が遅く、読んでくださっている皆さまにはお待たせしてしまい申し訳ありません。

年明けくらいまでこういったペースが続いてしまいますが、のんびりとお付き合いいただければ幸いです。


季節の変わり目ですので、風邪など引かれぬようご自愛ください。

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