46 ―Shall we dance・・・?― 1
キリが悪いので少々長めかと。
最近、文章量が安定せず申し訳ありません。
ジオ兄様のエスコートでダンスホールに向かっている最中ですが……沈黙って結構辛いものですね。
いつもなら兄様から何か話してくれることが多いので移動している時間はあまり感じないのですが、たまにこちらをチラッと見たりはするものの、何も言わず口を噤んだままなので道のりが遠く感じます。
ダメな時は注意してくれるはずの兄様がしてくれないと言うことは、相当この衣装がお気に召さないと言うことで……迷惑をかけていることはあの話どおりで良いはずなのに、なぜかモヤモヤします。
〈真実ノ瞳〉の後遺症で頭が痛いからかなぁ……。
◇※◇※◇
ダンスホール前のホールに着くと、そこまで広い場所ではないので人々であふれかえっています。
授業のためとはいえ多くの女性たち……数名の男性も煌びやかに着飾っていて目がチカチカします。
どうやら呼ばれた順に中へ入っているようですが、Aクラスだけとはいえ1年から3年までの人数+助っ人として卒業されたお姉様方がいらしているので(男女の比率が男性6女性4)結構な人数になります。
講師の先生もいるので、トータル70人程でしょうか。
それにしても、女性陣の気合の入れようには圧倒されて言葉が出ません。
数名の学生のほうがお姉様方より華美な装いなのにはビックリ! ……今日は夜会ではなく授業ですよね? と聞きたい気分です。
畏れ多くて聞けませんけど。
知り合いはいないかとホールを見回していると、ミモザのほうが私を見つけてくれたようでこちらに来てくれました。ミモザに続いて少し遅れてこちらに来たのはニコティ様。
ドレスを着ていても――いつもより軽めですが――抱き付くミモザは、カナリア色のベルラインドレス。
何重にも生地を重ねてふんわり感を出しているようで、彼女の可愛らしさを引き立ていています。
腰のあたりのアクセントのリボンはダンスの時に映えそうですね。
コルセットじゃ堪能できない~と不穏なセリフを言い、早々に離れたミモザの傍らに立つニコティ様は深緑色のフロックコート。
いつもは生徒会役員専用の白地の制服を見ているので、濃い色は初めて見ますが良く似合っています。
どことなく殿下と似た佇まいを感じるのは、やはり従弟と言うところでしょうか。
男性が女性を迎えに行って一緒にくるのが授業の一環のハズですから、この時間帯に一緒にいると言うことは、もしかして二人がパートナー?
朝の通達は個別で、ミモザに聞いてもはぐらかされたのでパートナーが誰か知らないのです。
ミモザの隣にはアシンス様がいるのが常なので、てっきり今日もそうだと思っていたのですが……。
不思議に思い、ミモザにアシンス様は? と聞くと、今日のアシンス様はご自分のお姉様がパートナーとのこと。
婚約者の姉とはいえ他の女性がパートナーだから不服なのかと思ったら、それはどうでも良いけどニコティ様と強制的に決められたことが不機嫌の理由だそうです。
パートナーは変わることがあるから仕方ないのではと聞けば、今日の変更は『ある理由』のせいだからとミモザはニコティ様を睨む。
「仕方ないじゃないか。ボクだって嫌だって言ったさ。でもミモザも知っているでしょう? 母上は言い出したら聞かないと言うか、『実行あるのみ!』の人だよ」
「分かっているわよ~! 私が言っているのはなんで見世物にならなきゃいけないってことよ」
「……人間、諦めが一番だよ?」
「ニコには言われたくない~!!」
見世物と言う言葉が不可解ですが、確かにニコティ様の横にいても背の高さも爵位も容姿もピッタリなのはミモザでしょう。
だから昨日のニコティ様はお母様のカサブランカ様の件も含めて言葉を濁していたのですね。
ですがこのままのあまりいい雰囲気は良くないと思いますので、話題を変えようと自滅覚悟でドレスのことを聞くとミモザは「可愛いよ~」と褒めてくれましたが、ニコティ様には「いつもと違うね……」と兄様と同じように言葉を濁す言い方で横を向かれてしまいました。
先程の兄様の反応に加えてニコティ様の反応も良くないようなので、男性陣が嫌がる衣装選びは上手くいったようですよ、ありがとう! ミモザ、アイビー、侍女さんたち!
私も耐えた甲斐があったというものです!
……でもやっぱりフリフリは苦手ですー。
頭痛と衣装の羞恥心を誤魔化すようにいつもよりテンション高くミモザと話をしていたら、いつの間にか騒めきも人も消えていた。
見回せば周りに人の姿はなく、残っていたのは私達4人と少し離れたところで談笑しているシルバーのフロックコート姿のティナス殿下と、小さな宝石でもついているのかキラキラと星が散らばっているような煌めくブルーのエンパイアラインのドレス姿のアマリリス様。
美しくてお似合いで理想のお二人。
花束の件からお会いしていませんが、いつものように穏やかに微笑みあっているので良い進み具合なのでしょう。
あの時のアマリリス様の花束講座は凄かったなぁと思い出してふふっと笑っていたら、兄様に「呼ばれたから行くよ」と軽く引っ張られるようなエスコートでダンスホールへ進みます。
中に入り一礼すると途端にざわつく人々。やはりと言いますか、女性の声が多いですね。
兄様は素敵ですもの、分かりますよ!
でもその声の中に混じる私の名を呟く声は、きっと私が兄様と釣り合っていない不満の声なのでしょうね。
覚悟はしていたので、気にしないようにと――雰囲気に気圧されつつも――悪役ヒロインのように無邪気を装って指示どおりに中央付近へ進みます。
一歩踏み出す度に心臓がバクバクしていて、兄様に音が聞こえていないことを願う。気付かれてしまったら、後できっとからかわれるもの。
私達の後にミモザとニコティ様、アマリリス様とティナス殿下が同じく中央へ到着すると何故か私達以外の人々は壁際に移動を開始します。
私も出来れば壁際に行きたいのですが……と兄様を見上げるとこのまま此処にいるように言われてしまい、戸惑う。
だんまりを決め込んでしまった兄様にはこれ以上聞けないので、助けを求めるように視線を巡らすと講師として来ている銀のドレスを纏ったカサブランカ様が見え、その隣に同じくダンスの講師としての役割を兼ねてここに来ているワインレッドのドレスに身を包んだメリア様と目が合い―――ウィンクされました。
……とてつもなく嫌な予感がします。
そうこうしていると私達以外の人々の移動が完了したようで、広い空間に取り残された私達6人とカサブランカ様の隣から男性にエスコートされて私の近くに来たメリア様。
男性は誰だろうと見れば、なんと担任のヘリオトロープ先生!
黒のフロックコート姿はいつもの気だるげな雰囲気を一新、妖艶な感じでメリア様とお似合いです。
そういえば、フィエスタ先生から幼馴染だと聞いていました。
私以外の7人は落ち着いているように見えるので、これから何が起こるのか知っているのでしょう……むぅと眉間に力を入れていると、パンと手を一度叩いて皆の視線を集めたカサブランカ様が一言。
「今日は初日ですので、毎年恒例の見本となるペアと講師補佐となる先生に踊っていただきます」
……はい!?
私、何も聞いていないのですが! って昨日ニコティ様が言いよどんだ言葉って……実はもしかしてコレだったの!?
バッとニコティ様のほうを見ると目が合った瞬間逸らされた!
―――知っていましたね、ニコティ様! 許すまじ!!
……と言いますか、私以外の人は知っていたってこと!?
こめかみがぴくぴくと引きつるのを感じながら兄様のほうへ顔を向けると「リーアとのダンスは久しぶりだねぇ」と、とても楽しそうに笑う。
兄様が春休みで戻っている時に『学園でもダンスがあるからね』とかなり練習させたのは誰ですかー!?
ここに一番ヒドイ人がいますー!!
抗議の声を上げる前に音楽が鳴りはじめてしまい、兄様にぐっと引き寄せられてステップが始まった。
眉を寄せて兄様を見上げると、くすくすと笑いながら「失敗なしだったらパティスリー・ヴィヴィエの新作をプレゼントするよ」と小声で言う。
パティスリー・ヴィヴィエの新作!?
その魅力的な言葉に一瞬心が揺れそうになってしまったけれど、誤魔化されませんよ! という意思を含めて軽く睨むように見上げると、兄様は少し眉を下げて「リーアのためだったのだけど……」と言う。
ダンス中の会話もダンスの醍醐味と言っていたのは誰だったでしょうか……しかし、ダンスが苦手な私は踊りながら話をするのは一苦労なのです。
魔法よりも集中力が必要で、アイビーからダンスを教えてもらっていた時は『魔法を使う時の特訓ですよ』と言われて必死に練習したのはイイ思い出です。
集中力は身についたと思いますし、これにも慣れる……ことはなく、今も失敗しそうでドキドキが収まらない!
「わっと、私のためってどういうことですか?」
「黙っていたのは悪かったと思うけど、先に言ったらリーアは朝から緊張していたでしょう?」
「……確かに」
「だからリーアの担任にもお願いしてあったんだ」
今朝のヘリオトロープ先生のあの微妙な顔は兄様のせいだったのですね……。
でも兄様の言うとおり、仮に朝の連絡時に言われていたら迷わず逃げます。むしろ勉強をサボってでもユクサのところへ逃げていたでしょう。
あの場所にいれば大体の身の危険は避けられますから。
まぁその後のお小言は怖いですケド。
兄様の優しさというか、用意周到さにも勝てる気がしませんね。
相変わらずリードの上手な兄様に引きずられるようにステップを踏む。
頭痛もチクチクするくらいに落ち着いてきたこともありますが、だんだん楽しくなってきたのでミモザ達のダンスを見る余裕が出てきました。
私はともかく、カサブランカ様が言ったようにダンスが上手い人たちを近くで見られるのは役得というものですしね。
ミモザとニコティ様は小柄なペアというようには見えないくらい見栄えが良くて存在感がありますし、メリア様とヘリオトロープ先生は大人な雰囲気。ウットリしてしまいそうになりました。
そしてアマリリス様と殿下のペア。
アマリリス様の指先まで意識しているように動きに無駄がなく、それに殿下のリードも素晴らしくて息がピッタリ合い、このお二人だからこその優雅で美しい動きに見惚れてしまいます。
現に大半の人々の目を虜にしていますもの。
これが本当のダンスパーティーならその残りの視線を兄様が集めるはずですが―――。
……兄様は私という貧乏くじだったのではないでしょうか。
一通りの種類のダンスを習ったとは言え、まだ全てを完璧に踊れるわけではありませんので、私がここにいるのはきっと兄様が無理を言ったに違いありません!
どうせ最初で―――。
「僕が最初で最後だからって我儘言ったわけじゃなくて、シャトルーズ公爵夫人達がちゃんと調べた結果の指名だよ」
「に、兄様!」
ターンする時に耳元に顔を寄せて囁くように言うものだから、くすぐったくて思わず身が竦み、体勢が崩れそうになるけれど、兄様の腕に力がこもってバランスを崩すことなくそのままステップは続く。
兄様のリードには安心しますが、元凶は兄様だ!と目を眇めて兄様へ少し咎めるような声を出す。
「僕がそんな我儘を言うと思ったの? リーア」
「……兄様ならあり得るかと……」
兄様は「ひどいなぁ」と言う言葉とは逆に、満面笑みを浮かべるものだから壁際のお姉様方の黄色い悲鳴が聞こえた……。
絶対にワザとですね!
まったく、兄様は何を……ってまた私を使って口説く練習なのですか!?
こんな時に! むぅ、また妹をからかいましたね!
このまま怒りの表情でも浮かべればきっと兄様の思う壺なので、その手には乗りませんよ~と言うように“無邪気に可愛らしく”をイメージして笑うと少し会場が騒めき、兄様の頬がピクリと動いて微かに眉を寄せた。
騒めきは少々気になりますが、今は兄様との対決の勝敗が私にとって気になるところ。
じーっと兄様の眼を逸らさずに見ていると、兄様は周りをさっと見回した後“に目が笑っていない笑顔”という不機嫌モードに移行した。
ということは兄様の思惑にどおりに私が慌てなかったので、兄様は不服なのでしょう。
兄様に勝った! と嬉しくて思わず笑みを浮かべて兄様を見上げると、少し頬を紅くして私とは視線を合わさずに前を向いてしまった。
珍しく兄様が相当悔しがっているみたい。
ダンスが終了したので移動しようと思ったら、「まだ役割は終わっていないからこのまま此処に」と鋭い眼で私を射抜き、冷ややかな笑みを浮かべた兄様に言われました。
その表情に兄様に勝ったという満足感は一瞬でなくなり背筋に冷たいものがスッと落ちていった。
どうやら私は何か兄様の地雷を踏み抜いてしまったようです。
嫌われた……けどこれで良いはずだよね、きっと。
でもなぜか頭痛がぶり返した気がして……心臓まで痛くなる。
身体が動かせずに固まっていると、目の前に現れたのは心配そうな顔のニコティ様。
ニコティ様は私のほうへ手を差して「フィー、もう一度ご教授願えますか?」とウィンクをして少しお道化た感じで笑う。
私の様子がおかしいので楽しい雰囲気になるようにしてくれたのでしょう。
ニコティ様の優しさに強張っていた身体も動くようになって、ぎこちなくしか笑えませんでしたが「厳しくいきますよ?」と冗談は言えました。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。




