45 ―禁術とドレスの共通点は・・・―
遅くなりました!
流石お母様がダンスの講師に来られるくらいの方のご子息と言うべきか、ニコティ様はダンスのセンスが良く30分のダンス練習だけでコツを掴んだようです。
制限時間がきて私の足がトンと床に着いたところで終了となりました。
終わった後に『明日のダンスレッスンのいい予行練習になった』とお礼を言われてしまい、苦笑いを返しながら悪女の一歩かな? なんて自嘲した。
職員室に日誌を提出してから……と思っていたら『遅くなったから、ボク持っていくよ』と日誌を預かってくれたので、ニコティ様の優しさに甘えて私はそのまま治療室へ向かい、そこから魔法院への〔ゲート〕をくぐった。
言われていたとおりにカサブランカ様のところへ寄ると、『材料のことで王宮の治療魔法師と連携をする』らしく、私とメリア様は学園にいるのでフィエスタ先生と相談して欲しいとの通達でした。
その後は依頼された『魔力回復薬:大』をいつもより多めに作り――納品時に3本多めに譲ってもらい――ユクサのところへ行って昨日と同じく〈真実ノ瞳〉の練習。
集中力と魔力の両方を切らさないようにすれば発動出来るようになったのには驚きました。
ただ、反動の一つというか、使った時に頭痛がするのは消えないみたい。
習得の早さは流石、“悪役ヒロイン”と言うところでしょうか。
それともよくある“主人公が強くなると相手も強くなる”というものだったりして。
兄様が今日から殿下とアマリリス様への特訓を開始すると言っていましたから、あちらがレベルアップしたから私も? なんて、それこそ悪役ですね。
今頃、兄様達はあの話のように仲良くしているでしょうか。
気になるなぁ……。見に行きたいけれど我慢しなくっちゃ。私はちゃんと自分の役目を果たさないと!
でも本当に最終日に間に合って良かった。
やっと歪みの正体が……禁術を解術して、ストレリ様には自分の役割をしてもらわないと。私がこれ以上、代わりをするのは得策ではないと思いますし。
まぁ解術方法はこれからなんだけどね。あはは。
頑張りましょう~。
◇※◇※◇
……なんて昨日は頑張ろうと思っていんだけどなぁ。と、薄暗い部屋の中でため息と共に昼食のサンドイッチを噛み砕く。
アマリリス様にお願いした例の約束の最終日。
本当は放課後の予定でしたが登園した時に念のため確認をしに行ったら、その場所では〈真実ノ瞳〉の範囲から距離が遠くて使えない事が発覚!
どうしようか考えて、ミモザから生徒会役員は特別なことがない限りは昼食をあの生徒会役員専用の場所で取ると聞いた事を思い出した。
王太子殿下にその婚約者、それから公爵令息達ですからね。
無用の混乱を避けるためもあるのでしょうが、今はストレリ様に落ち着いて昼食を取ってもらうためだと思います。
特殊な場所なので難しいかと思ったのですが、奇しくも以前に兄様から教えてもらっていた『何に使うの?』と疑問だった秘密の場所――あの、壊れて使われていない国境付近への〔ゲート〕のある部屋が色々な意味でちょうどいい距離にありました。
その場所は目標が望めるだけでなく、とても〈真実ノ瞳〉に最適な環境なのにはビックリ。
何と言っても中でどんな魔法が使われたか外からは分からない。しかも魔法痕は一定時間後に消えるというチートな部屋! 私も欲しい!!
しかし、いったい誰が造ったのやら。どういう造りなのかも気になるところ。
兄様が気付いていない訳がないので、何かしら活用するためのことを考えていそうで怖いですが……。
そんな訳で殿下達の他に学生もいないですし、先生や兄様達魔法師も昼食でこんなところには来ないでしょうと、アマリリス様達に黙って決行中なのです。
……傍から見れば結構なストーカーっぷりですね、私……。
殿下、アマリリス様、ストレリ様の三人が姿を現したので、サンドイッチの最後のひと口を急いで胃に収めて、魔力回復薬を飲み準備開始。
ストレリ様が少しでも殿下達から離れたら魔法が発動出来るように魔力を練り上げて―――対象を固定する。
発動準備中も魔力を喰うので出来れば早めにしてもらえないかなぁと言う願いが通じたのか、何かを取りにストレリ様が席を立った。
以前一緒に食べたように給仕の姿は見えず、ワゴンの近くに行ったのでストレリ様の周りに人がいないことを確認して〈真実ノ瞳〉発動。
同時に始まる頭痛と異常なまでの魔力消費による倦怠感。これが耐えきれなくなる前に見つけないと!
―――歪む極彩色の世界の中、ストレリ様の姿を集中してみると前回とは違いハッキリと赤黒い鎖が身体に巻き付ついているのが見えた。
それと同時の感じた、あの背中を冷たくするようなぞわりとした感覚……つい最近思い出したものと同じだと確信した。検証したいけれどそれよりも先に禁術の名前を探さなくてはと目を凝らす。
その赤黒い鎖には所々に黒百合が咲いていて……まるでストレリ様が苗床のように見えて虫唾が走る。
こんな禁術は悪趣味にも程があるとしか言いようがない。
ユクサによれば、どこか核になる部分に禁術の名前があると言うことなのですが―――なかなか見つからない。
だんだんと激しくなる頭痛に発動限界時間が迫ってきているのがわかり、早くしないとっ! と焦ってくる。
禁術のセオリーとしては、頭や胸にあるのが普通なのですが〈真実ノ瞳〉でしか見えない禁術ならば違うところにあるのかも? と思考力が落ちた頭でようやく思い立ち、全身に注意を向けてみると―――。
あった!
やっと見つかった禁術の名前は、嫌がらせのように右目・左肩・背中の右わき腹付近の三か所に別れて配置してあった。
その文字は、『烙印』……『ヴァルネ』、『ノ』?
知らない言葉があると思った瞬間に膝から崩れ落ちていき床に座り込む。
もう限界が来ていたんだと魔法を解除して、のろのろとしか動かない腕を精いっぱい動かして持って来ていた魔力回復薬の蓋を開け、行儀悪いなぁと思いつつズキズキと痛む頭を押さえながら床に座り込んだ状態のままで1本2本と飲んでいく。
なんとか成功した。と安堵の息を吐いて、魔力と体力が回復するまで問題を解決するための方法を模索……したいところだけど急いで着替えるためにすぐに戻らないといけない。
午後は学園に入ってから初めてのダンスレッスンで、悲しいかな着飾らなければなりません。
ミモザとアイビーを約束したから破る訳にはいかないし……。
〈真実ノ瞳〉の頭痛ではない頭痛が襲ってくる気分。
この頭痛の原因は今日のダンスレッスンが理由。
アイビーと兄様の特訓で初めは苦手意識の強いものだったけれど、せっかく楽しいと思えるまでダンスが好きになってきたと思っていたのに……。
今朝まで忘れていたのです!
悪役ヒロインは私が選ばないような甘いフリフリのドレスを好んで着ていたことを!!
朝食の時にミモザとダンスレッスンでの衣装の話をしていた時に、ふとダンスの時に何かイベントがあったなと思い出したその“場面”。
悪役ヒロインがダンス練習でティナス殿下とダンスをすることになったときに、ワザと転んで殿下に抱き付くけれど拒否されて兄様に引きずられていく光景。
その時の衣装がぶりっ子と言うべきか……甘い感じのひらひらなドレス。
思い出した瞬間に意識を飛ばさなかった自分を褒めたい……イヤ、むしろ飛ばして体調不良で休めばよかったと今は思う。
心の中で涙を流しながら、ミモザに『今日は可愛らしいドレスにしようかな~』と相談したらミモザとアイビー、ミモザの侍女さん達までもノリノリな状態になって考えてくれました。
色やデザイン、アクセサリーから髪型まで4人して嬉々と語り合っているのを眺めていたら、ミモザのお母様にもみくちゃにされた過去を思い出して余計にダメージが増したなぁ……。
人間、諦めが一番かもしれない。と緩慢な動きしかできない身体を叱咤し、立ち上がりながら〈状態回復〉をかける。
魔力不足は回復薬でじわりと身体は動くようになってきたけれど、やっぱり頭痛は消えてくれなかった。
〈真実ノ瞳〉の後遺症は時間でしか治らないみたいで、クラクラするのは3回目でも慣れないものです。
治まらない頭痛のせいで部屋のロックを外すのが億劫になり――この場所には全く感知の魔法具がないのは確認済み――〈影移動〉を使って部屋の外へ出る。
―――後々、外に誰もいないと確認して出れば良かったと思うことになるとは、この時の私は全く思ってもみなかった……。
◇※◇※◇
着替えるのに必要な時間ぎりぎりに着替え用の個室に辿り着き、アイビーに申し訳ないけれども少ない時間で何とか仕上げてもらうようにお願いする。
まぁアイビーに任せておけば問題ないでしょう。
ミモザ達に選んでもらった “私”だったら選ばないような、淡いライラック色のプリンセスラインでフリルもいつもより多めな―――あの話のような可愛らしい色と形のドレスに腕を通す。
悪役としては濃い色でゴージャスなものというイメージですが、あの話の悪役ヒロインはこういった色を着て迫っていたという記述があったので、ミモザから最終判断を下すように言われた時に鳥肌と涙を堪えて選びました。
なにせもう一方はベビーピンクでこれでもかとレースとフリルの一品。
……5歳児くらいまでだったら良いと思うよ? というものが、どうして私のドレス置き場に存在するのかを問い詰めたくなった。
アイビーが器用にするすると私の髪を編み込むのを鏡越しに眺めながら、ふぅと息を吐いて諦めにも似た気合を入れる。
ガ、ガンバルぞー。
ある意味投げやりとも言えるかもしれないケド。
いかがでしょうか? と言うアイビーの声で現実逃避しかけた意識が引き戻されて鏡を見れば、髪型も編み込んだ部分をカチューシャのようにして花のような髪飾りを飾るといった可愛らしいもの。
いつもよりふわふわ感が増している!
今までと違う注文にも応えてくれるアイビーの腕前にはいつもながら惚れ惚れします。
本当に『フリージア』には似合うのだけれど、精神的には抵抗がある。
慣れていかないとダメだよねぇ……。
少し余裕を持って終わらせてくれたアイビーにお礼を言って、迎えが来るまで暫しの休憩。
贅沢を言えばギリギリまでバタバタしていても構わなかった。
そうすれば色々なことを耐える時間が短くなるから。
じわじわとくるドレスの精神的ダメージは言わずもがなですが、これからジオ兄様の迎えで行く授業への緊張感。
ダンスレッスンの授業のパートナーはその時によって変更があるそうですが、担任のヘリオトロープ先生から『ウイスタリアの今日のパートナーは兄だからな』と朝の連絡の時に通達がありました。
先に教えてもらったことと相手が兄様だと言うことには安心しますが、先生が何とも言えない顔だったのが微妙に嫌な予感がするのですよね……。
授業に対しても不安は尽きません。何事も練習と言うことでダンスホールに入る前からが“授業”として見られているそうです。
緊張感で逃げ出したい! けれど、兄様の迎えなら逃げられない!!
うぅ……。
それから未だに治まってくれない頭痛。前回試した時を思えばそろそろ消え始めても良い頃なのに。
ギリギリまでかかったのは私の力不足だから仕方ない、とついため息を零したくなって慌ててそれを飲み込む。
鏡越しに見えた心配そうな顔のアイビーへ「眠いだけだよ」と苦笑いを返すと時間になったようでノック音が聞こえた。
兄様は時間どおりだなぁと思いながら返事をすると『迎えに来たよ、お姫様』と言う兄様の声に鏡の中のアイビーも私と同じような苦笑。
良くも悪くも気持ちが切り替えられた気がします。脱力感も同時に感じましたが。
ドアの手前まで行くと、アイビーが最後の手直しをしながら「リーア様。私はお待ちしておりますよ」と言って微笑む。
敢えて何も聞かないでくれている“姉”に心の中で『ありがとう』と告げて、「いってらっしゃいませ」と言う言葉を聞きながら廊下へ出ると、向かい側の壁にもたれて窓の外を眺めている兄様は紺地に青銀の極細シャドーストライプがさりげなく入ったフロックコート姿。
兄様らしい月夜のような色合い。
妹の私でも思わず見惚れてしまうくらい格好良い。これでまた兄様のファンが増えそうです。
またもや違う頭痛に悩まされそうだと痛むこめかみを軽く揉んでから、横を向いている兄様に「お待たせしました」と声をかける。
ゆっくりとこちらに視線を移した兄様は私の姿を見ると目を丸くして驚いた表情になった。
兄様はドレスの好き嫌いはあまり教えてくれませんが、“あの話のジオラス・ウイスタリア”はあまりこういった甘い感じのドレスの女性は好きではないのです。
『媚びている』とか『幼稚だ』などのセリフもあったと思います。
それと同じく兄様もこういった感じのものが苦手なのか、いつもとは違ってあまり私に視線を合わせずに「さあ行こうか」と言葉少なに私の手を取ってダンスホールへ歩きはじめます。
この格好ってどうですか? 似合います? と聞いても「ああ」とか「うん」とか心此処に在らずといったようで、少々判断に困りますが、兄様は機嫌が悪かったりするとマシンガントークかほとんど喋らなくなるかの二択なので、きっと不機嫌なのでしょう。
成功、かな?
いつもお読みいただきありがとうございます。




