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悪役なのかヒロインなのか、教えてください。  作者: たばさ むぎ
二章 悪役ヒロインとして頑張ります!
46/64

44 ―ニコティ様の相談事―

会話が乗るとどうやら長くなる傾向に……読みにくかったらすみません!

 

 

 

 

 昨日は平穏無事に……終わることがなかった一日でしたね……。

 魔法院へ行く前にメリア様から頼まれたお使いで、リトマ・フィエスタ先生とアキレアお母様が知り合いということを知って、殿下から花束を奪ったと思ったら結局は貰ったことになってしまった。

 しかも次はアマリリス様の指導の下に作られたものをって……今更ながら『どうしてこうなった?』と思わなくともない。


 うーん、良いところまで行ったと思ったのですが……悪役への道はなかなか難しい。



 その後の魔法薬は順調だったけれど、魔法の練習は最後に落とし穴。


 ユクサの教え方が上手いおかげで2回目にして“〈時空(クロノス)〉を発動する”ということは開始から早い時間にクリアできました。

 属性魔法の基礎のいわゆる種魔法――〈(ファイア)〉だと火を生み出す――のように目に見える訳ではありませんでしたが、不思議と発動しているという感覚がありました。

 ユクサも《そういうもんじゃて》と言っていたのであまりその辺は考えないようにしています。


 その流れで〈真実ノ瞳(マナサイト)〉を3回に1回は発動できるところまで出来ました。

 あの空間内では意識だけだからとユクサが調整してくれていたから、そこまでリスクのある魔法だとは感じなかったのですが……現実は厳しい。

 ユクサの忠告で特別訓練室を借りて練習してみたところ、運よく発動することは成功しましたが―――。


―――発動した時は不思議な感覚でした。

 まるであの記憶の空間のようなキラキラしたものに包まれたと思ったら、一気に世界が歪んだ。

 〈妖精ノ瞳(グラムサイト)〉なんて比較にならないくらいの極彩色の洪水に加えて、〈真実ノ瞳(マナサイト)〉というだけあって視えてしまった……過去や想いを。

 

 体感としては記憶が甦った時と似たような感覚だった。

 違うのは、前世の記憶の時は自分のことだったからか違和感を覚えずすんなり同化していったけれど、〈真実ノ瞳(マナサイト)〉は、――対象を指定しなかったのもあるけれど――『自分』ではなく他の人のものだったせいか、あまりにも多い情報量に耐え切れず『自分』という存在をバラバラにされそうになった。


 不味いと思った瞬間に解除したけれど、そのあと数分は意識を失っていたのか記憶がない。

 気がついた時は床に倒れていて魔力がごっそり喰われていた。

 念のために発動前に魔力回復薬を2本飲んだけど、この前ストレリ様を視た時の一歩手前くらいの疲労感。

 魔力回復薬をどうにか多めに手に入れないと不味い。


 ユクサのサポートの有無でこんなにも違うとは思わなかった……。

 今回は運よく発動したけれど、現実で失敗したときの反動はかなりキツイものになるかもしれない。

真実ノ瞳(マナサイト)〉を使う時は一度きりで失敗は許されないでしょうね。


 プレッシャーには弱いんだよなぁと、思わず出そうになったため息を慌てて飲み込む。

 自分で望んだことに対してまだ始まっていないのに諦めるなんてフリージア(わたし)らしくない。




「フィー? 書けた……ってまだ半分?」

「あー。すみません、ニコティ様。何を書こうかと迷ってしまって」


 日誌を覗き込んできたニコティ様へ苦笑いを返すと「点検は終わったよー」と前の席に座り、頬杖をついて楽しそうにこちらを見る。


 日直の仕事は授業後の教室の備品に不備がないかの点検と戸締りの確認、それから日誌書き。

 ちなみに明日はミモザとイセンです。

 女子が少ないので回ってくるのが早く感じるため、二回目のミモザ曰く「男子に押し付けるべし!」とのこと。

 明日のイセンの運命やいかに。なんてね。


 私もニコティ様も初めてのことなので相談して分けた結果、私が日誌書きであとはニコティ様の役割と言うことに。その日誌の『授業について一言』の内容を考えているうちにどう書くかを迷いはじめてつい別のことを……昨日のことを思い出して、つい物思いに耽ってしまいました。


「ここはフィーの活躍を書けばいいじゃないの?」

「嫌です」


 トントンと全く書けていない午後の授業の欄を指で叩いてニヤリと笑うニコティ様にきっぱりと拒否する。

 あぁもう、思い出したくなかったのに!


 と言うのも午後の授業が『魔術』で、前回授業に遅れてしまった私達は今回もペナルティとして先生の手伝いをしたのですが―――。


 ミモザ、ニコティ様、イセンは3人とも中級レベルの土属性を使えるので、授業の前半だけ〈土岩壁(グランドウォール)〉で他のクラスメイトのため目標物を作ることだったのですが、なぜか私は前回と同じく先生の補佐を授業中ずっと命じられて、魔法のデモンストレーションをしたり相談に乗ったりなどをしていました。

 私もミモザ達と同じ事をしたかった……そのほうが目立たなかったのに!



 思い出して項垂れる私を見て、ニヤニヤしているニコティ様にちょっとイラッとしたので、少々仕返しをしようと思います。

 兄様を見習って、こういう時こそ余裕のあるようにニコッと笑うと、ニコティ様は少し狼狽えたようになった。

 効果は抜群のようです。


「では、ニコティ様の土壁作りのことを書いておきますね!」

「え? ちょっと、フィー?」

「えーと、ニコティ様はたくさんの土壁を作り『ボクは土壁作りの王になる』と宣言を……」

「ちょっと待ったー!」

「ダメですか?」

「ダメダメダメー!」

「そうですよね、嫌なことってありますよねー」

「うっ。……スミマセンデシタ」

「分かればよろしいのです」

「リョーカイです!」

「ぷっ」

「ははっ」

 最後は二人して真面目な顔をして話すものだから可笑しくて、暫くは笑いが止まりませんでした。


 笑い過ぎて出てしまった涙を指先で拭っていると、ニコティ様も「あー可笑しかった」と目元をグイッと手の甲で拭くと頬杖をつきなおして「でも本当に凄かったよ」と私を眩しそうに見る。


 柔らかそうな亜麻色の髪がちょうど差し込んできた光を受け、まるで金色のように輝く。

 萌葱色の深い緑の瞳も生命力あふれるように煌めいて眩しいくらい。

 表情もいつもより大人びていて……従兄弟だからか一瞬あの人に重なって見えて―――パチパチと目を瞬かせるとそのイメージは霧散していった。

 名残惜しいような、ホッとするような不思議な感覚に包まれたことを、頭を軽く振って否定して笑いかける。


「ありがとうございます。でも兄様たち魔法師に比べたらまだまだです」

「上には上がってこと?」

「そうですね」

「魔法院の“姫”でもか~」

「……えーと今日の日直者は私と『土壁王』さん、でしたっけ?」

「ゴメンナサイ!」


 言わなくて良いことを言ってまた繰り返すのかとジト目で見れば、頬を引きつらせて手を合わせて謝るニコティ様。

 公爵嫡男が頻繁に謝るのはどうかと思うので、次はミモザに言っちゃいますよー。

 彼女ならきっとステキなお仕置きを考えてくれるでしょう。ふふふ。



 書き終わるのにもう少しかかりそうなので、後は私が終わらせておきますよと言ったら「この後の予定もないし次の日直の時の参考にさせて」と書き終わるまで見ているようです。


 こういう雰囲気は前世の学生の時を思い出して懐かしい気分になってしまい、自分が悪役ヒロイン(フリージア)だと忘れそうになるから今はちょっと苦しい。


 早く終わらせようとカリカリと文章を書きながらチラリ見ると、何が楽しいのかニコティ様はニコニコとこちらを見ていて、恥ずかしくなってくる。


 しばらくは耐えていたけれど、視線が気になって手が進まないのでニコティ様にもひと言を考えてもらって日誌を書き上げた。

 書き漏れがないか確認してもらうと問題なしだったので、帰り支度をしていると自身の席から鞄を持ってきたニコティ様から「フィー、この後の予定は?」と質問された。


 ニコティ様にしては珍しい質問だなと思いながら、予定を思い起こす。


「んー、これから魔法院でお仕事です。あ、そうそう。今日はカサブランカ様にお会いしますよ」


 魔力回復薬の需要と供給のバランスがとうとう崩れ始めてしまったそうなので、暇や時間のある治療魔法師や調合できる魔法師は時間があれば作るようにとの通達が来ているのです。

 材料のほうにまだ余裕があるのが不幸中の幸いですが、それについてカサブランカ様から上級治療魔法師たちへ話があるので魔法院に来たら寄って欲しいと言われていました。


 ニコティ様のお母様ですから、カサブランカ様へ何か伝言があればお伝えしますよと言うとニコティ様は渋面になってしまった。

 家族仲は悪くないとこの前言っていたと思うのですが、何かあったのでしょうか?


「あーうん、それは大丈夫かな……明日会うし」

「明日、ですか?」

「あれ? フィーは聞いていない? 明日のダンスレッスンの講師として母上が来るんだ」

「初耳です」


 じゃあアレも知らないのか……とブツブツと言うニコティ様を「どうしました?」と首を傾げて見ると、にこやかに笑って「何でもないよ。そうだ、ちょっと聞いていい?」と言って椅子に座った。


 何かはぐらかされた気もしますが続きは言ってくれそうにないので、帰り支度を継続しながら「何でしょう?」と聞くと「ん~と……女性ってやっぱり自分より背が高い人のほうが好き……なのかな?」と質問された。


 予想外の内容に一瞬理解できなくて、思わず帰り支度の手を止めて目をぱちぱちと瞬かせる。


 ニコティ様からまさかの恋バナ!?

 春ですか? いえ、実際今はまだ季節は春ですが。

 私に相談してくれると思ってもみなかったので、驚きました。


 私が何も言わないので「一般論、あくまでも一般論だからね!」と念を押すように言われて、その迫力にコクコクと頷きます。


 一般論と言いつつも、きっとアマリリス様のことでしょうね。


 この前はアマリリス様のことを尊敬していると言ってはいましたが、ミモザの言っていた初恋の思い出というものはなかなか消えないものでしょう。

 はっ! だとしたらティナス殿下と取り合いに拍車がかかると言うことですね!!


 うわ〜 ドキドキします!


 あの話の……ニコティ様がアマリリス様への想いを告げるという――ニコティ様が想いをアマリリス様へ伝え、それを聞いた殿下はアマリリス様への想いを強くしてもっと親密になる――展開がありましたね。

 でも、勝ち目がないのが切ないところなのですよ……。


 この展開のためにはニコティ様に告白する自信を持ってもらわないと!

 その為には少々問題をクリアしないといけません。


 ニコティ様はアマリリス様より少し背が低いことを気にしてます。

 それを乗り越えて告白するのですが……本来アドバイスするべきストレリ様は今、禁術で苦しんでいる。

 ただ兄様の検証によると殿下とアマリリス様……特にアマリリス様と一緒の時が落ち着いているそうです。

 それと不思議な事に特定の人物と接触しなければ、感情の爆発がなくなったというのです。


 それでも殿下とアマリリス様は、ニコティ様に知らせないと言っていたから接触させていないのでしょう。

 現に最近は、ミモザはもとよりニコティ様も生徒会にはあまり行っていないみたい。


 そうなると話は出来ていない。


 ストレリ様を治すまでこの問題を先延ばししたいですが……これは肩代わりするべきでしょうね。

 明日のダンスレッスンが、ニコティ様が自信を付けるための起点ですから。


 背が低くともアマリリス様を完璧にリードすることができると彼の自信になって告白への道を進んでいくのです。

 これはちゃんとお手伝いをしなければ!



「フィー? そんなに悩むことなの?」

「あ、すみません。そうですね……背の高さってそんなに重要なのでしょうか」

「重要、じゃないのかな。たぶん……」

「ではニコティ様、練習をしませんか?」

「はい?」


 ポカンとした表情のニコティ様へクスッと笑い返して椅子から立ち上がり、ニコティ様に比較的場所に余裕がある教室の後ろへ来てもらう。


「確かに男性が高い方が踊りやすかったりしますが、10センチくらいなら許容範囲ですよ」

「……そういうもの?」

「まぁ、体面とかプライドとかはあるでしょうが、気にしない人もいますよ?」

「そうかなぁ……?」

「ではニコティ様は背の高い女性はお嫌いですか?」

「え? ……そんなことはないけど」

「そういうことです。ニコティ様がお好きな方は背を気になさらない方かもしれませんよ」

「……そうかな? って誰の好きな人だって!?」

「え? ニコティ様の好きな人が背の高い方だから大丈夫かな~ってお話ですよね」

「違っ……そうじゃなくて、一般論って言ったでしょ!! ボクのことじゃないよ!」

「ソウデスカ?」

「フィー!!」


 私を掴もうとするニコティ様からひらりひらりと避けていく。

 昨日の夜にアイビーに再指導してもらったのでここでつかまる訳には参りません。

 4、5回繰り返して捕まえられないと諦めたのか、はぁとため息を吐いて脱力したニコティ様はお手上げといったように近くのロッカーへもたれ掛かった。


 クスッと笑って、ニコティ様から2歩くらいの位置に移動して彼へ手を差し出すと「なに?」と眉間にしわを寄せて不機嫌そうに見る。


「私と練習してみませんか?」

「だからどうして……」

「練習してコツを掴めば、相手の女性に気持ち良く踊っていただけるでしょう?」


 確かに社交という意味では一種の義務ですが、私はアイビーと兄様に“楽しむ”ということを教えてもらいました。

 今でも踊ることは下手だし、人前に出ることは恥ずかしくて苦手ですがなるべく“楽しもう!”というような考えになったのです。

 内緒にしてくださいねと笑って〈浮遊(レビテーション)〉を使い、ヒールを履いたアマリリス様の身長の高さになるように浮き、固定する。

 ずっと魔力を使ったままになるので長い時間は無理ですが、30分くらいなら大丈夫です。


 キョトンと私を見ていたニコティ様ですが、私の意図に気付いたようで「……あぁ、そういうことか」と呟き苦笑いを浮かべた。


「フィーには本当に敵わないなぁ……」

「お褒めに預かり光栄、です?」

「なんで疑問形?」

「気になさらず。それに、ニコティ様はまだまだ成長期ではないですか。きっとすぐに背が高くなりますよ」

「そうだね、イセンにでもきいてみるよ。……ありがとう、フィー。頑張ってみる」



 はにかむように笑うニコティ様へ「30分だけなのでスパルタで行きますよー」と笑い返しながら、心の中でチクチクと襲ってくる罪悪感を気のせいだと押し込める。


 これは感じてはいけない、思うことさえ赦されない痛みだ。


―――殿下とアマリリス様の仲を深めるためにニコティ様に頑張ってもらおうと、彼の恋心を利用するのだから。








いつもお読みいただき、ありがとうございます。



連休中は多忙なため、更新がさらに遅れる可能性が高いです。

申し訳ありません。

ご了承いただければ幸いです。

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