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悪役なのかヒロインなのか、教えてください。  作者: たばさ むぎ
1章 転生したらヒロイン? それより魔女になりたいのです。
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03 ―この世界の家族― 2

 

 

 

 あの後。

 ホッとしたせいか、昨日倒れてから何も食べていない私のお腹が限界を迎えて朝食の後に淑女教育や魔法の事など細かいことを話すことになりました。

 シリアスなところでお腹が鳴らなかったのは良かったと思いますが、育ちざかりに2食抜きはダメですね。


 みんなで一緒に食べようということで支度をしたら食堂においでと言われ、部屋の中には私と先程ジオ兄様の首根っこを捕まえていた侍女さんが残されました。

 どうやら寝ていたこの部屋が私の部屋だそうです。


 ベットから降りて着替えを用意している美人な侍女さんのほうへ歩きながら彼女を観察してみます。

 年齢は……私より5、6歳上でしょうか。10代前半くらいに見えます。

 赤茶の髪と瞳で髪の毛はショートというよりベリーショートに近い感じですね。

 ちょっとつり目な感じとスラリとした体形で猫のような印象を受けます。

 え~と、名前はなんだっけ?

 子爵家から連れて来られた時に紹介された気がするのだけど……色々とあったからなぁ。


 前世や設定になかった事実――思ってもみなかったことが多すぎて記憶をまとめる時間がない。

 少しのんびり……したいけど、残り7年でハイスペックを目指すために頑張らないと! 

 立ち止まって思わずググッと手を握ると侍女さんに「お嬢様?」と困惑されてしまった。

 慌てて手を降ろしてニコッと笑えば、侍女さんはホッとしたようです。


 あぶない、あぶない。



「何でもないですよ、えっと……」

 な、名前が全然出てこない! とりあえず笑顔で誤魔化します。

 ニコニコしている私が名前を言えないのを察した侍女さんが「お嬢様専属となりました、アイビーと申します」と言って微笑んでくれました。

 流石侍女さん! ……覚えていなくてごめんなさい。

 それにしても専属かぁ。

 私にもったいない気がするので聞いてみたところ、ウイスタリア伯爵令嬢としての義務だそうです。

 どうも前世の記憶のほうが強いようで受け付けにくい。こういう時にフリージアの子爵家での経験が出てくると助かるんだけどな。慣れなきゃいけないけど……時間がかかりそう。


 悩むことがこれからも出てきそうだけど、とりあえず挨拶しないとね。



「よろしくお願いします、アイビーさん」

「よろしくお願い申し上げます。ですがお嬢様、私のことはアイビーとお呼び下さいませ」

「でも……」

「アイビー。ですわ、お嬢様」

「ハイ」


 え、笑顔なのに目が笑っていないって本当に怖いです。

 でも仲良くなりたいし、どうするか。


「それではアイビーも私のことをリーアと呼んでください」

「それは……」

「ダメですか?」

「……」

「アイビーさん?」

「……リーア様、でよろしいでしょうか」

「はい!」


 仕方ないなという顔ですが、ほんの少し嬉しそうに見えたのでやり込m……違った、彼女と少し打ち解けられた気がします。

 そういえば昔は妹の侑李(ゆうり)とかタクとこんなやり取りしてたなぁ。

 私がやり込められることが多かったけど、懐かしい。

 思い出してニコニコしていたらいつの間にかアイビーが私の服に手をかけていて……ボタンを外してる!?

 慌てて距離を取って彼女を見れば不思議そうに私を見ています。



「え~と、アイビー? これから着替えるのよね?」

「はい、身支度を整えさせていただきます」

「一人で着替えくらいできます」

「ですからお手伝いを」

「えっとぉ……」


 前世の記憶のせいで着替えを手伝ってもらうのが恥ずかしい!

 どう言えば納得してもらえるか……。

 子爵家では……だと伯爵家ではと言われそうだし、自分ですることへの好奇心って言ったら上手くいくかな。


 なんとか交渉の結果、下着の着替えだけは私自身ですることで落ち着きました。

 あとはなるべくアイビーに手伝ってもらうことに慣れるということになりました。

 さっきみたいな笑顔で言われたら全部肯定しそうになった……。

 元日本人は押しに弱いのです。アイビーの無言の圧力付きの笑顔、恐るべし。


 かなりのぐったり感を覚えつつ着替えたのは、ふんわりした薄いブルーのドレス。

 アイビーは器用で髪も邪魔にならないようにとドレスと同じ色のリボンを編み込みながらで後ろにひとつにまとめてくれました。

 前世の私だったら恥ずかしけど、鏡に映った8歳のフリージアは可愛らしい。

 元日本人としては朝からドレス? とも思うけどこれから慣れないといけないのですよね。

 まだ子供なので恐ろしい噂しか知らない例のコルセットというものをしなくていいので助かっていますが……。

 大人になるまでに考え方って変わるのかな。

 前世の記憶と融合するのか上書きされるのか。

 今の思いは書き残しておいたほうが良さそうです。



 それはさておき。

 着替えて案内された食堂室に着くとすでに中にいたお父様たちが出迎えてくれて一緒に朝食です。

 アイビーは他の仕事へ行き、後で来てくれるとのこと。


 朝食が用意されていたのは大きなテーブルではなく、窓に近いところにある4人でちょうど良さそうなテーブルでした。


 ウイスタリア家は先々代からの教えで朝食は家族だけで楽しく食べるということ。

 他の食事はちゃんとマナーを守らないといけないので、昼食からが勉強になりそうです。

 フリージアとして身体で覚えていてくれるといいのだけど……。

 もし覚えていなかったらテーブルマナーなんて高校の時に授業で習った以来じゃないかな。

 外側から使うってことしか覚えてない。


 あぁ私の記憶力は……以下略。



 そうそう、この世界の食事は舞台が中世っぽいファンタジーなのに和洋折衷なところもある。

 子爵家では中華粥のようなものやおにぎりを作ったこともあるし、カレーもあった。

 お母様は自分で作るのが好きでよく作ってくれたなぁ。

 お菓子とか私も手伝った記憶がある。これもちゃんとレシピを思い出して書き起こしておかないと。

 ストレス発散になるのですよねー。


 フリージアの昔の記憶を思い出しちょっとしんみりしつつもお腹が空いて限界を迎えたので、感謝をしていただきます!

 今日の朝食は洋風の定番のようなもので、ふわふわのパンと野菜スープ。とろとろオムレツにフレッシュトマトソースがかかったものに、ベーコンにハムに生野菜のサラダもあります。

 搾りたてのオレンジジュースに新鮮なミルク、それに薫り高い紅茶も。


 

 先々代の“朝食は楽しく”という教えとジオ兄様が、「これが美味しい」とか「こうやって食べるんだよ!」などと教えてくれて、少々のハプニングがありましたが記憶にある子爵家のように穏やかで楽しい食事になりました。



 ――ハプニングというのは、私が起こしたというかなんというか……。

 ジオ兄様から差し出されたフルーツをお皿に置かれる前に、前世の時のいつもの癖でそのままパクリと食べてしまい、ジオ兄様が真っ赤になって椅子から転げ落ちてしまうということ。

 家族だけの朝食だったから次回から気をつけるように、という注意だけですみました。

 う~ん、前世に引きずられ感が多くてついつい当たり前にしていたことを変えるのには、神経を使いそうですね。


 気をつけるようにしないと……前途多難。



 朝食を終えると細かい話をするためにサロンへ移動。

 という予定だったのですが、少し準備があるそうなので私はジオ兄様に昨日できなかった屋敷の案内を――時間の関係で簡単にですが――してもらうことになりました。

 私が迷わないようにとジオ兄様と手を繋いで行くことに。

 そんなにそそっかしく見えていたかと落ち込みますが、終始ジオ兄様の機嫌が良かったので気にしないでおきましょう。


 食堂からでて厨房をチラッと覗いて、昨日は気絶したために見られなかった玄関ホールを見てジオ兄様お気に入りの中庭へ到着。

 東屋もあるそうですが、今日は入り口近くのベンチで休憩。

 風がそよそよと感じられてとても気持ちが良く落ち着きます。

 ここでおやつを食べたら楽しいだろうなぁと思っていると「ねぇ、リーア」とジオ兄様がちょっと緊張した面持ちで私を見るので私も居住まいを正してジオ兄様に向き合います。


 ……なにかしてしまったのでしょうか。



「なんですか、ジオ兄様」

「さっきの……手から食べるのって家族でしてたの?」

「え?」

 

 もう忘れてくれていると思ったことを話題に出されて顔が熱くなるのが分かり、とっさに頬を押さえて考えます。

 この世界の家族じゃなくて前世の話だし……どう言えば良いかな。

 侑李は妹だし、タクは……家族ぐるみの付き合いだから家族枠で大丈夫だよね。


「え、えぇ、まぁ……」とちょっとしどろもどろになりつつ答えれば、ジオ兄様は難しい問題を解く時のような表情を浮かべて思案した後に何か良いことでもあったのか、笑顔になって「そっか。うん、わかった」と嬉しそうに言いました。


「ジオ兄様?」

「さ、そろそろ時間だね。行こう」


 今度は逆に眉を寄せた私の手を握り直し、私の眉間を解すようにふにふにと触るジオ兄様の表情は満足そう。

 いったい何があったのか。男の子の考えはわかりません。

 とりあえず気にしないほうが良いと判断して彼に手を引かれながらサロンへと向かいます。



   ◇※◇※◇



 サロンに着くとお父様とお母様と黒茶の短髪と瞳でモノクルをかけた侍従服を着た30代前半くらいの男性がいました。


 その男性はジオ兄様と私が部屋に入ったのを見ると私の前に来て、まるでお父様のような微笑みを浮かべます。


「はじめまして、フリージアお嬢様。私はウイスタリア伯爵家の家令をしておりますオレガノと申します」

 これからよろしくお願い申し上げますと優雅に礼をしてくれました。


 家令……この人が先程話にあった私の魔法の先生なのでしょう。

 私も返礼をしなければと思うとフリージアの身体は覚えていたようで両手でスカートの裾をつまみ、軽くスカートを持ち上げて腰を折ります。


「フリージアと申します。ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」


 姿勢を戻して見ればお父様もお母様もジオ兄様もオレガノさんも固まってる?

 あれ? 教えを請うならこの言い回しで良かったはずなのですが。


 ……8歳児の言葉使いってどんなかんじだったっけ?

 もしかしてこの言いかたはいけなかった!?

 この年代ってどういう風に言うのが正解? よろしくお願いしますくらいで良かったのかな。

 うわー、どうやって誤魔化そう……。


 ぴきっと固まった私の耳に「リーア?」と少し震えたようなジオ兄様の声が聞こえたので、ぎぎぎと顔を向ければ目を輝かせているジオ兄様?


「リーア、すごい! 難しい言葉使えるなんて!」と私の手を取ってくるくると回りだすジオ兄様。

 え? ちょっとジオ兄様が喜ぶ理由が分からないのですが、誤魔化すために便乗させていただきます!


「え、えへへ? お、かあ、さまに。……で、でも、じおにーさま、すとっぷー!」

 回りながら喋るって大変。それから休憩した後とはいえ、さっき朝食を食べたばっかりですので結構キビシイのですよ、ジオ兄様!


 この後、回り続ける私たちにオレガノが気づくまで10回は回っていた気がします……。


 くらくら~







***おまけ***


「貴方様」

「なんでしょう、奥さん」

「ああいった言葉はジオラスが使えませんと」

「そうだね」

「貴方様がのびのび育てたいとおっしゃった結果がコレですね」

「リーアは大人びているねぇ」

「貴方様」

「……すみませんでした!」


次の日からジオラスの次期伯爵の教育が厳しくなりました。


**お粗末****



いつもお読みいただきありがとうございます。

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