29 ―魔法解禁の弊害―
前話同様少々説明多いかもです。
ある意味、魔法に関しては無法地帯と化してしまった学園。
感知の魔法具がないために、対処方法が悩みどころ。
貴族の子女の学校ですし、元々、魔法に関しては再三の注意がなされているのでほとんどの生徒は大丈夫だと思うのですが……。
「街で使っている物の予備を置いて、魔法に関してトラブルが起きないように魔法院から人を呼ぶことになりそうね……」
「討伐のほうも魔法師の人員確保をしたいので、きっと厳しいですよ」
「そうよね……。その辺は各長の采配にお願いしましょう」
「それにしても魔法が使用できる状態だったなんて……誰も気が付かなかったのは不思議です」
「僕は最近、魔物のせいであまり学園にいなかったからね。多分いても気が付かなかったと思うけど」
「兄様が? そういうものなのですか?」
「そうねぇ……『この場所では使えない』と思い込んでいたのもあるでしょうね。使おうとも思わなかったわ。2、3年は使わないことに慣れているでしょうし、1年は入学して一週間だから魔法を使って何かしようなんて余裕はないでしょう。……トラブルがなかったのは運が良かったとしか言えないわね」
「ある程度はトラブルが発生するのを覚悟しないとだめだろうね。今までだってわざと使おうとした馬鹿がいたんだ」
私の疑問をメリア様が解説してくださいました。
どの世界にも、そして貴族の中でもやはりそういう輩はいるんですね……。
兄様は魔物退治が大変そうで……魔物……あ、そうだ! 思い出した!!
学園で魔法が使えるようになるとそのうちに魔物が出現してしまうんだった。
たしかアマリリス様の光属性で退けられるのだけれど……時期は物語の後半部分、一年の後期だったはず。
今のアマリリス様の光属性のレベルはどのくらいだろう?
たしか中級での最高ランクの〈浄化ノ光〉を使って退けていた場面を読んで、格好良い~って思ったんだよね。美人で才女なマリーお姉様!って。
でも今は始まったばかりの前期。
しかもアマリリス様が光属性を強化して習いたいと思う話がでるのは夏休暇。
この辺からは覚えていることが多いかも。確か……夏休暇の時にいつものメンバーで出かけた先で魔物に遭ってしまい、掃討作戦中のジオラス・ウイスタリアが助ける。そこでジオラスにアマリリス様はティナス殿下を守る力が欲しいと光属性の強化をジオラスに願う。
ティナス殿下も守る力が欲しいとアマリリス様を一緒にジオラスから習い、そこで仲良くなっていくんだよね。
ジオラスには好きな人がいるような記述があって、もしや三角関係になるのか!? とヤキモキした記憶がある。
その好きな人はアマリリス様じゃなかったようだけど、読んでいた部分では明かされなかった。
ジオ兄様の好きな人かぁ……どんな人なんだろう。いつか紹介してくれるかな?
って、今はもっと重要なことがあるんだった!!
えーと、そうなると今の状態だとアマリリス様は〈浄化ノ光〉は使用できないかもしれないということ?
困ったなぁ……。『乙女ゲーム』だったら死亡フラグものだよ。
個人の使用属性は調べられるかもしれないけど、どのレベルかまでは難しいかも。
ミモザに聞いてみたらわかるかな……。
どうしたものかと――私はちょっと違うことを――3人で考えているとノック音が聞こえて『ちょっと良いかしら?』と女性の声。……この声はカサブランカ様?
治療魔法師長がこんなところへ? と首を捻りつつメリア様が〈消音結界〉を解除してドア開けるとカサブランカ様とアイビーの姿。
「差し入れと今後の方針のお知らせよ」とカサブランカ様がアイビーをこちらへ押し出すようにするとアイビーは「リーア様!」と私に向かって走って来てギュッと抱きしめてくれました。
普通の令嬢と侍女の間柄ではないことなのでしょうが、我が家ではこれが普通。久しぶり会うような気持ちになって私もアイビーを抱きしめ返します。ごめんねという気持ちを込めて。
「ごめんね、アイビー。心配をかけました」
「ご無事で何よりです、リーア様。お助けできず申し訳ありません」
「そんな事ないよ。アイビーが鍛えてくれたから酷い怪我をせずに済んだの。ありがとう」
「いいえ、とんでもございません」
安心したらお腹がくぅと鳴ってしまい、ちょうど良い時間と言うことで休憩となりました。
アイビーが私たちのためにすでに昼食を用意をしてくれていたので、私はベッドの上で今日だけはお行儀悪く――なぜかジオ兄様とアイビーの出すスプーンから交互に食べなければいけないという苦行付きで――食べさせてもらいました。
うぅ、カサブランカ様とメリア様の目が生暖かい……。
胃に優しいような痛い昼食が終わり、アイビーは片づけという名目で気を利かせて退出していきました。
これから関係者以外には洩らせないお話ですから。さすがです。
「さて」とカサブランカ様が〈消音結界〉を張って私たちを見回します。
ピンと空気が張りつめたように感じ、ベッド上ですが姿勢を正して言葉を待ちます。
「まずはフリージア、無事で良かったわ」
「あ、ありがとうございます」
「貴女が怪我をしたことで感知の魔法具が壊されているのを発見できたのは複雑な気分よ……」
カサブランカ様はそこでため息を吐き軽く頭を振って「ごめんなさいね」と言い、ポケットから小さい白の魔法石の付いたブレスレッドを三つ取り出し、一つずつ私たちの手へ置いていきます。
「それは〈認識阻害〉が付加された魔法具。あなた方3人の全属性持ちへ、魔法院からの依頼に為に必要なものよ」
「とうとう出来たのですか!?」
驚き興奮気味にブレスレッドを眺めるジオ兄様にカサブランカ様は苦笑いを浮かべて話を続けます。
最近のジオ兄様は魔法具作りにも興味があるので新しいものは嬉しいのでしょうね。こういう所は“男の子”って感じで可愛いです。
「学生には魔法具の大規模メンテナンスと通達します。その間、街中と同じようになるということを周知させるように先生方には指導してもらうわ。それから学園に在籍中の魔法師と魔法院から10名派遣して交代で治安の維持に努めます。魔法師、治療魔法師の上級者を7名。それからあなた方3名ね」
「学生もですか?」
「私だって反対したわ。でも人が足りないのよ、騎士団の方から魔法特化の人員を回してもらっているけれど……。このところの魔物の発生数が尋常じゃないのは知っているでしょう? 魔獣の危険性を放っては置けないのよ」
「……申し訳ありません、軽んじている訳ではないのですが」
「良いのよメリア、この子たちが心配なのでしょう。私も人の親よ、心配する気持ちは変わっているつもりよ。でも、やってももらわないといけない。魔法院に所属するということはそういうことなの」
カサブランカ様としても苦渋の選択なのでしょう。これは物語にどんな影響があるかわからない。でももしアマリリス様たちがレベル不足で魔物に襲われてしまっては悔やんでも悔やみきれない。
裏で動けるならその方が良いのかもしれない。
「私、やります! 学生のほうが動きやすいでしょう」
「僕はもうほとんど卒業のようなものですからね、魔物退治のほうにも顔は出せます」
「……ありがとう」
少し涙ぐんでしまったカサブランカ様を見ないようにして――結局は私も自分のためなのでちょっと罪悪感なのです――兄様が少し興奮気味に魔法具について解説してくれるのを聞いていました。
アンタムさん製なので使い方は一緒。“全属性持ち”の私たち3人に渡されたということは『最悪の場合は全力をもって事態を収拾せよ』と言うことでしょう。できればそうならないように未然に防ぎたいものです。
その他の説明は……魔法院から派遣されるメンバー10人に通称〔マギィ〕として校内を交代制で見回ることになる。ただし、私とジオ兄様は放課後のみ。魔法院からの他の依頼は――魔法薬作りなどは需要があるので――調整しつつとのこと。できればあの人たちと接触したくないので願ったり叶ったりかも。
〔マギィ〕の時は黒いフード付きのローブを羽織り、番号で呼ばれます。私たちが〈認識阻害〉使用中ですからね。
メリア様は∫1、ジオ兄様は∫5、私は∫4と呼ばれます。
どういう番号の決め方か聞いたら『似合いそうだった』とウィンクつき一言。……あ、はい、ワカリマシタ。
見回りなどの細かい部分は後日と言うことでカサブランカ様は部屋を出て行ったのですが、部屋から出る前に「フリージア、ニコティはどうかしら?」と質問されました。
出会いの件は言わない方が良いと思い「クラスの人気者でいらっしゃいます」と言ったら複雑な顔をされてしまいました。
変なこと言ったかと首を傾げていると、今度は「フリージアから見てどうかしら?」と聞かれたので、「クラスメイトとして親しくさせていただいています」と言ったら、カサブランカ様は天を仰ぎ、メリア様はクスクスと笑い、ジオ兄様はニコニコしてるけれど目が笑っていない気が……。
深く考えない方が良さそうです。
カサブランカ様に続いてメリア様も用があるということで部屋から出て行ってしまったので、今はジオ兄様と二人きり。
今までは安心する空間だったのに、あの記憶を思い出したからか緊張します。
兄様には迷惑をかけて嫌われなくてはいけないのに、〔マギィ〕や魔物退治の時はきっとチームで……。
どこまで兄様と一緒にいていいのだろう。
あの夏休暇までかな。……きっとティナス殿下やアマリリス様たちと関わり合いになったら私とは離れていくと思うから。
それまでに学園の魔法使用のこととか魔物のこととか、ひと段落ついてくれれば良いのにな。
「リーア?」
「は、はい!?」
呼ばれて気が付けば目の間に少し拗ねた表情ジオ兄様!
ビックリした―!! 驚いたせいか顔に熱が集まっていくような気がする。
パタパタと手で扇ぎながら「なんのお話ですか?」と問うと「聞いていなかったんだね」と憂い顔。
……兄様、それは演技ですか?それとも無意識ですか!? その表情は色気たっぷりで妹には向けちゃダメなものです!! 素敵ですけど目に毒なんですー!
「リーアは魔法のキャンセルについてどの可能性があると思う?」
ごめんなさい兄様、真面目なお話でした。
そう言えば、結局最後まで話せなかったのですよね。魔法石で片付くかと思ったら他の可能性も出てきてしまったようですし……。あの時の感覚は〈魔法解除〉だと思ったけど確信までは出来ない。
「可能性が増えてしまったので……それにあの時の感覚は少し思い出せなくて」
「そっか……」
ごめんなさいと目を伏せながら言うと兄様は「気にしないで良いよ」と言い、こちらへと手を伸ばして……その手が――違うのに――ティナス殿下と重なって見えてしまい、無意識にビクリと身体が震えギュッと目を瞑ってしまった。
失敗したと慌てて目を開けて伺い見れば兄様は困惑顔。
ああやってしまった。
困らせたり心配させてはいけないのに。
「ご、ごめんなさい、ジオ兄様。ちょっとビックリして」
「リーア?……こっちこそごめんね。驚かせて」
兄様の所為じゃないからと安心してもらうように微笑んでも兄様の困惑顔は晴れず、「少しお休み」と半ば無理矢理に寝るようにベッドへ横にさせられました。
寝られない! と兄様に宣言したのに本当に疲れていたのか、すぐに睡魔に襲われて寝てしまいました。
―――だから部屋から出る時にジオ兄様が誰かと連絡を取っていたのか分からなかった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
アクセス、拍手共にありがとうございます。
次回更新より少々投稿日に時間をいただきます。
申し訳ありません。
なるべく間隔を開けないようにしたいと思っていますので、お待ちいただければ幸いです。




