02 ―この世界の家族― 1
少し体調不良から復活したので本日急遽追加でアップ。3話目となります。
――― 彼女を 助けて ―――
――― これで 最後に ―――
◇※◇※◇
夢のような、夢じゃないような、そんな微睡。
ふわふわとして、あったかくて、おひさまの匂いがして。
まるで雲の上にいるみたいな場所。
掴めるかな? そう思って手を伸ばしたら逆に捕まえられた感覚がしてビックリした。
ぱっと目を開けると眩しさに目がくらみ、まばたきを何回もパチパチと繰り返してようやく物が見えるようになるとベッドに寝ている私を覗きこんでいるような体制の人影。
まばたきの最中に薄っすらと人影があるのは分かっていましたが、はっきりと視界に映ったのは心配そうにこちらを見るダークブルーの瞳と目が合って……?
ん? 誰だっけ?
もう一度目を閉じて一呼吸。
そろそろと目を開けてみれば菫色のちょっと跳ねた髪に整った顔。
ダークブルーの瞳を眩しそうに細めて――なにがそんなに嬉しいのか分かりませんが――とても嬉しそうに微笑んでこちらを眺めているジオ義兄様が、私の手を握っていました。
……ジオ義兄様?
な、なんでジオ義兄様が目の前!?
「起きた? 僕の可愛いお姫様?」
にこにこと満足そうに微笑むジオ義兄様が眩しくて……ってなんで目の前!?
「うぎゃぁ~~~!」
思いのほか大きな声が出てしまって、自分自身の声で驚いたのとジオ義兄様がいたことに混乱して慌てて彼の手を払って布団の中に隠れた。
掛布団の上からジオ義兄様が何か言いがなら軽く叩いたり、掛布団を外そうするけれど私はこの体制を死守。
寝顔を見られてたなんて恥ずかしすぎる~。
でも、フリージアなら可愛いかも? いやいや、私が精神的に耐えられないっ!
それに寝起きに10歳児とはいえあんな美形は目に毒です!
さっきから心臓のバクバクが止まらない。
そうこうしている内に、さっきの声が聞こえたのか廊下がバタバタと騒がしくなり何人かがバタンとドアを開けて入って来た音が聞こえてきた。
―――「お嬢様! いかがなさいました!?」「ジオラス様!? なんでココに?」「気になって」「いいから早く旦那様方にお知らせを!」「何があった?」「ジオラス!?」―――
と、なにか騒がしくなってきたのでかぶっていた布団からそっと覗き見れば、赤茶の髪の侍女さんに首根っこを捕まえられたジオ義兄様は――「女性の部屋に入るとは何事です!」「だって、リーアが心配で」「言い訳無用!」「あいたっ!?」――『魔法使用厳禁の草むしりを一週間!』と言うお義母様の扇の一撃を受けたことと草むしりの命令にダメージを受けて呆然としていました。
私は悪くない……ですよね。
「疲れていたのに気が付かなくて、悪かった」
「あぁ、フリージア。目が覚めて良かったわ」
侍女さんに放されても固まったままのジオ義兄様を見ていると、いつの間にか側にお父様とお母様がいて声をかけてくれたのですが、気にかけてくれた嬉しさとさっきの恥ずかしさとそれから思い出したことによる混乱で上手く反応できずに視線は段々と足元へ。
それを戸惑いと思った二人は、話は落ち着いてからゆっくりしましょうと言ってくれます。
8歳のフリージアならそのほうが良いのでしょう。
どうするべきか、どうしたいか考えると前世を思い出した私は早く先に進みたいと思ったハズ。
この世界で出来ることを知りたい。そして仲良くなりたいと思った家族のことも知りたい。
そう思って顔を上げて見ると二人は顔を上げた私を見てわずかに目を丸くしましたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべて私に質問しながらこれまでの事やこれからの事を話してくれました。
ジオ義兄様を放置したままですけど、良いのかなぁ……。
フリージアの母=アキレアはウイスタリア伯爵の妹でフューシャ子爵に嫁ぎました。
兄妹仲は良かったのですが、子爵家は辺境に近い場所にあるので頻繁には会うことはなかったそうです。
確かにフリージアの記憶にウイスタリア伯爵家の皆様に会った記憶はありません。
フリージアの家族は仲が良かったそうですが、親戚(従兄弟)の一部とはあまり折り合いが良くなかったそうで伯爵様が相談を受けていたと。
そんななかで起こったフリージアの8歳の誕生日の帰り道に一人だけが助かった事故。
事故と処理されたそうですが、ただの事故では無いと疑念がある伯爵が個人的に調査中だそうです。
……そういえば、フリージアの記憶の中のお父様とお母様が『狙われている』と言うような会話があった気がします。
ただこれは前世を思い出した影響で不明瞭な会話。
もう少しちゃんとハッキリさせてから伯爵様に言ったほうが良いのかもしれません。
それから、これからについては伯爵令嬢として礼儀を覚えることと魔法の才能があるのでそれを判定して伸ばすこと。
魔法に関してもアキレアお母様が相談していたそうです。
この伯爵家の家令は一流の魔法の使い手だそうで、魔法師団それも上位に連なることのできる人物。
しかし代々この伯爵家に仕えている事と今の自分の仕事が好きだそうで、たまに講師として魔法師団で教える道を選んだそうです。
元々アキレアお母様が頼んでいてくれたこともありますが、そんな人物に私はジオ義兄様と一緒に教えてもらえるそうです。
楽しみ!
それと、爵位に関して。
本当のお父様には兄弟がいないので私がフューシャ子爵の跡取り娘になってしまうらしいのです。
そのため私が望めば戻れるように手配すると言われましたがそんな面倒……もとい難しいことはしたくないのでご遠慮申し上げました。
私には無理です!
父方の祖父がご健在なのでそちらへ丸投げ……イエ、お返しすることになります。
前世を思い出したおかげで事故のあった8歳までの記憶が曖昧になってしまっていたので、それを補完する意味でもとても重要な話でした。
それにしてもフリージアがフューシャ子爵令嬢なんてそんな設定があったなんて。
魔法の才能があったから~云々で庶子だと思っていた。
私が転生者だから? ……でも記憶が戻ったのは昨日だし。
設定を作ったけれど載せなかった? あ、そういえば何かスピンオフ作品みたいなのがあったような……?
う~ん、自分の記憶力のなさが残念。
思い出したらその度に何かに書いておいてほうが良さそう。
今まで生きてきた記憶と前世の記憶を合わせても“日本語”はなさそうだからそれで書いておけば見つかっても同じ転生者でないかぎりわからないだろうし。
でもふと不安になる。
私がいたから事故があったんじゃないかって。
もしそうだとしたら……私はここにいていいのだろうか。
話を終えて全員が各自で考えているようでしばしの沈黙のあと、伯爵様――お義父様が私の前で膝をつき目線を合わせて「不安にさせてごめん」と私の頭を撫でて優しく微笑みます。
不安を誤魔化すように自身の両頬に手を当ててふにふにと揉んでみれば、私の行動を見たお義父様がふっと笑みを浮かべて、何か決心したように真っ直ぐに私を見つめて言います。
「こんなことになって戸惑っていると思う。でも私は誰かに頼まれたのではなく君を本当の娘として家族になりたいと思っているよ」
「私も貴女のもう一人の母になれたら嬉しいわ」
「僕もフリージアと家族になりたい」
いつの間にかお義父様の横で同じく私と視線を合わせるように屈んだお義母様とジオ義兄様。
不安と期待が入り混じったような顔で、祈るように願うように私を見る。
真っ直ぐにフリージアを見てくれている。
ずるいくらいに優しい。
これは物語が進むために必要なのかと疑念が心に浮かぶ。
でも、ただ純粋に嬉しい。
真っ直ぐに見てくれた彼らに私も心を返したいと思った。
たとえ、世界に決められたことだとしても。そうじゃないと願いを込めて。
「私は……いえ、私も家族になりたいです。よろしくお願いします! お父様、お母様、ジオ兄様」
そう言ったら「リーア!」とジオ兄様が一番に抱き付いて来て、その上からお母様が「ジオラス! ずるいわ」とぎゅっと抱きしめて。
最後はお父様が「除け者は寂しいなぁ」と全員を囲むように包み込んでくれて。
抱きしめられたのは苦しいけれど嬉しくて幸せで。
フリージアを受け入れてくれる優しい人たち。
別に前世の家族に恩返しができなかったから、そのために家族になりたいと思ったわけじゃない。
ただ、前世の記憶があるからやっぱり“この世界に私は独り”って考えがあった。
だから私まで受け入れてもらったみたいで嬉しかったのだと思う。
『乙女ゲーム』の設定で決まっていることであってもなくても、この家族は大切にしたい。
私が何かを起こしてしまうかもしれない不安はあるけれど、負けないでいたいと思う。
今は感謝しか出来ないけれど、いつか返せればいいなと思う。
◇※◇※◇
ぎゅうぎゅうと抱きしめられて私の意識が飛びそうになったところを侍女さんに救出されて一息。
……そういえばジオ兄様が聞きなれない名前を言ったような。
「ジオ兄様、リーアってもしかして私のことですか?」
「うん、そうだけど。気に入らなかった?」
「リーアって珍しいですよね」
「うん、普通ならフィーだと思うけどそれじゃあ悔しいから家族だけの特別な呼び名って考えてみたんだ。第二候補はシア。どっちがいい?」
でも嫌なら止めるよとちょっと切なそうに言うジオ兄様。
家族。特別。……嬉しい。顔がにやけるのが止められない。
「ありがとう、ジオ兄様! 嬉しいです!」
満面の笑みでジオ兄様にお礼を言ったらまたジオ兄様に抱き付かれたけど、すぐに今度はお父様にべりっとはがされ、私はお母様の手招きで側へ移動。
お父様と話していたジオ兄様のチラッと見えた顔が真っ赤だった。
私は痛くなかったけど、結構な勢いがあったから痛かったのかな?
大丈夫だと良いけど。
読んでいただきありがとうございます。
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