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悪役なのかヒロインなのか、教えてください。  作者: たばさ むぎ
1章 転生したらヒロイン? それより魔女になりたいのです。
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22 ―要請と次へのステップ― 

 

 

 

 ヘリオトロープ先生の説明された注意事項のなかで特筆すべきものは――。


 ○学園内での魔法使用禁止。――魔法感知の魔法具があるので初級でも使用不可。

  ただし、特別に許可された場合と使用可能な部屋はある。

  魔法の訓練室や授業によっては教室内の魔法具を使用停止にし、魔法を使用できるようにすることがある。

  使用不可の場所で魔法を使用した場合はペナルティがある。


 ○身分の差はないが、適切な態度をすること。貶める行動には最悪は学園から出てもらう。



「そんなとこだ。後はもう子供じゃないんだから分かるだろ。で、明日からの授業だが……」


 授業内容は教養、数学、歴史、剣術/淑女教育、魔術、ダンスレッスンの中から午前2教科、午後は1~2教科。魔術とダンスレッスンだけは2教科分の長さがあります。

 女性騎士の場合は淑女教育の補修のようなものがあるそうです。

 ダンスレッスンに関しては、学年は関係なくクラスごとで行われるそうです。

 ということは、3-Aのジオ兄様と一緒です。……あと2-Aのティナス殿下達とも。

 学年の最後のほうには、剣術/淑女教育と魔法の授業も学年が関係なしのクラス合同の授業があるそうです。


 授業に必要な教科書やノートは教室の後ろにあるロッカーに入っていて、ロッカーは学生証カードで開き、他人のものでは開かない。

 職員室には万能鍵があるので学生証カードガードをなくしたものは先生に開けてもらうことは可能。

 失くしたことに対してのお説教は覚悟しないといけませんが。



「今日はこれで解散。明日は9時までに来いよ」

 じゃあなと言って荷物をまとめサッと教室から出て行くヘリオトロープ先生。

 やる気がないようで、でも説明はちゃんと詳しくするとか気分屋な先生なのでしょうか。

 これからの時間は自由みたいなので、ミモザとどう過ごすか相談していると「忘れてた」と急いで戻ってきたようで、ヘリオトロープ先生が教室のドアに「はぁ」と気だるげにもたれ掛り「ミモザ・アムブロジアとフリージア・ウイスタリアは俺と一緒に職員室に来てくれ」とおっしゃいました。


 へ?

 ミモザと向き合い、お互いに首を傾げます。なんで??


「行くぞー」と言う先生の声に慌ててミモザと共に廊下へと飛び出すと、今度は「くくっ、そんなに慌てなくて良いぞ」と笑いながら頭をポンポンと叩かれました。

 先生の間近な声は良い声過ぎて困ります……毎日聞けば慣れるのかなぁ。



 先生の案内で職員室に行くとそこにはジオ兄様とアシンス様、それから白衣を着たメリア様がいました。

 魔法院での私直属の上司であるメリア様――アルメリア・バーント公爵令嬢――が何故ここに? しかも白衣を着て??

 私が混乱しているのが分かったのか、ジオ兄様が傍まで来てメリア様が今年から学園の治療医として就任したことを説明してくれました。


 そして私達が呼ばれたのは、私は治療魔法師なので治療医委員としてメリア様の手伝いを、ミモザには1年生と生徒会の橋渡し役として生徒会庶務をして欲しいという要請。

 ミモザはストレリ様が副会長なので渋っていましたが、『制服は紺のまま』『橋渡し役がメインで他はあまり生徒会室にはいなくて良い』と説得されてなんとか首を縦に振りました。

 交渉中に『カフェで奢ってね』とか『毎週お菓子を……』と聞こえた気がするのですが……。

 アシンス様、ファイトですー。


 これで終わりかと思ったら、私は魔法院からの呼び出しということでミモザと別れてジオ兄様とメリア様と移動します。

 ミモザはグッタリしているアシンス様とヘリオトロープ先生と共に生徒会室へ向かうそうなので、寮には待ち合わせしないで帰ると言うことになりました。



 私達の向かう場所は『治療室』。

 学園の左側に位置しており、主に伯爵以下の貴族たちのための前世で言うところの保健室ですね。

 王族・公爵・侯爵の子女は入口を挟んで反対側にある『特別治療室』を使用します。

 本来は区別する必要はないのですが、王族が在籍している場合のみ分けるそうです。

 ちゃんと、緊急時にはどちらも使用できるので安心ですが……。



 治療室に到着すると、メリア様は部屋の奥のドアを〈鍵解除(アンロック)〉で開け、抜けた先へ向かいます。

 続いて部屋に入り、もう一つ奥にあるドアへ向かうのかと思ったらメリア様はドア近くにある姿見を触って〈接続(コネクト)〉と唱えました。

 すると鏡の表面が揺らいで通路のようなものができました。


「これは……」

「これがこの学園と魔法院を繋ぐ魔法具。対になっていてこれは治療魔法師の棟にあるほうの〔ゲート〕。あと何ヵ所かあるけど、リーアはここを一番使うと思うから。他は追々ね」

「はい……。凄いものですね」

「さすがアンタムだとしか言いようがないよ」

 私がほぅと感想を言うと兄様は苦笑い。最近はよくアンタムさんへ魔法具制作などをお願いしたりと仲が良いようです。


「ほら行くわよ、お二人さん」

「はい! すみま……」

 身体半分が〔ゲート〕に入ったメリア様にせかされて続けて入ろうとしたのですが、〔ゲート〕の中は真っ暗で足がすくんでしまいました。

 姿見だったものの枠を掴んだまま一歩が踏み出せなくて、後ろに下がろうとしたら後ろからふわりと兄様に抱きしめられました。


「にい、さま?」

「大丈夫だよ、一瞬で向こうに着くから」

「は、はい」

「怖い?」

「……少し」

「じゃあ、こうしようか」

 ジオ兄様は私の横に立って左手は胸に当て、右手を私のほうへ差しだし、「お手をどうぞ、My princess?」とウィンク付きでおどけて言う。

 それが妙におかしくて、擽ったくて、思わず笑って兄様の手に自分の手をのせたらグイッと惹かれてビックリしている間に〔ゲート〕を越えていました。

 瞬きするくらいの時間の闇の後には見慣れた治療魔法師専用部屋の景色。目をパチパチと瞬きすれば兄様は私を覗きこんで笑う。


「ほら一瞬だったでしょう?」

「ありがとうございます、兄様」

「……本当に仲が良いわねぇ」

「はい、私と兄様は仲良しです!」

「「……」」

 ジオ兄様にお礼を言っていたらメリア様にまたしみじみと言われたので、胸を張って肯定したらメリア様も兄様も苦笑いでした。

 なんで?


 メリア様は〈接続解除(リムコネクト)〉で〔ゲート〕の接続を切ってから私達にソファーへ座るように言い、あの薫り高い紅茶をまた淹れてくれました。

 う~ん、美味しい。ホッとします~。

 でもまだ気を抜いてはいけないと居住まいを正すと、メリア様もジオ兄様もクスッと笑った後に座り直して話し合いの体制になりました。

 ……最近、なんだかジオ兄様とメリア様のシンクロ率が高くてちょっと寂しい。



「フィー、貴女をここに呼んだのは“治療魔法師”として学園でして欲しいこと、それから“全属性持ちの治療魔法師”として魔法院からの依頼があるの。それの説明よ」

「だから魔法院へ来たのですか?」

「そうよ、それに〔ゲート〕の使い方も知って欲しかったし。それからこの部屋なら常に〈消音結界(サイレント)〉がかかっているから丁度良いのよ。えーと、“治療魔法師”に関してはさっきも言ったけれど、私の手伝いでいつものとおり治療行為をして欲しいの。私も魔法院に戻らないといけない時があるから。貴女の実力はそこらにいる治療魔法師より上なのだもの」

「あ、ありがとうございます、頑張ります。治療に関しては擬似光属性での可能な範囲でということで理解すれば良いですか?」

「そうね、今はそれで良いわ」

 一応登録としては4属性持ちですからね、光属性の上位魔法は使わないように気を付けないと。


「分かりました。では依頼とは?」

「それは僕から。最近、澱みの発生が増えてきたよね」

「はい。半年前から増えてきたので魔物退治が増えたのですよね」

「そうだよ。だから……リーア、落ち着いて聞いてね。“魔獣”がではじめた」

「なっ! そんな!!」


 今までも澱みの発生が増える年があったから今回もそうだと思ったのに。

 もしかしてシナリオがおかしい? ……魔獣は魔物の集合体でシナリオ後半に出てくるはず。

 こんなに早い段階で? 私が魔法のレベルを上げたからそれに引きずられて?


「今は大丈夫。この前出たのは上級でチームを組んで殲滅して、辺り一帯の澱みは一掃してきた」

「……私は呼ばれていません」

「うん、そうだね。だから上級になって魔法の使用範囲を解除してもらう。幸い治療魔法師の試験は春で今回は特例で少し早めることは出来るらしいからリーアの準備が出来次第、試験をしようってことになった」

「だからこのメッセージカードだったのですね……分かりました。今からは可能ですか?」

「今からって……」


 上級試験に対して準備はしてきていましたし、試験日まで復習するのみ。それに先程もらったメッセージカードで試験対策が間違っていなかったと確信しました。

 驚くジオ兄様たちにそのことを告げれば、メリア様は少し何かを考えた後、「確認してくるわ、ちょっと待っていなさい」と部屋を出て行きました。

 

 ジオ兄様は手で顔を覆って「はぁ」とため息一つ。それから私のほうへ真剣な面持ちで視線を向ける。


「……本当はリーアには言いたくなかった。でも上級が何人か集まるより、“全属性持ち”だけの方が殲滅も澱みの一掃も早く終わるし、被害も少なくなる。……リーア、君の力を貸してほしい」

「ありがとうございます、兄様。私、頑張りますね」

「待ってるよ。それにちゃんと君を護るから」

「私も兄様を守りますよ?」


 最後は考えることが一緒だなと笑い合い、メリア様が戻って来るまでアドバイスをもらいました。


 治療魔法師長のカサブランカ様はちょうどこちらに戻ってきたということで、あの後すぐに試験をうけることができました。

 兄様のアドバイスもあって難なく合格しましたよ!

 二週間は上級としてのレクチャーを受けますが、それからは私も即戦力になれます。


 ……ただ、また闇属性の力が他のものと比べて強くなっているそうです。光属性もあるので大丈夫だと思うのですが、バランスが崩れないようにするのが今後の課題です。

 


 相変わらずなテンション高めなジオ兄様の祝福を受けて、メリア様とカサブランカ様に「「……仲がいいわねぇ」」と呆れられてしまいました。


 それから上級は許可石が二つになるので中級で選んだものと同じラピスラズリのような石を付けました。

 ピアスみたいですが、特殊な方法でしか外せないので失くさなくて安心です。










 ―――ハイスペックな兄様に追いつける日は来る? 追いつきたい! と思っていたこともありましたが、それが叶わなくて良かったと安堵するまで、あと少し。


 


いつもお読みいただき、ありがとうございます。


アクセス、拍手に励まされています! ありがとうございます!


〔オマケ?〕


「あ、大事なことを忘れてた!」

「兄様?」

「改めて、入学おめでとう。リーアにプレゼント」

 はいと手渡されたのは箱に入った花のモチーフのネックレスと、クリスタルの付いたイヤーカフス。

 ネックレスはアメジストとラピスラズリとムーンストーンがアクセントに散らばっていて大人っぽいデザイン。チェーン部分も繊細に編まれていて、ジオ兄様のセンスの良さには脱帽です。

 両方とも許可石と同じ魔法石のようです。


「きれい……ありがとうございます、兄様!」

「喜んでもらえて何より。ネックレスはドレスを来た時にでも付けてくれたら嬉しい。試作品だけど〈魔防護壁(バリアウォール)〉を組み込んでみた。それとイヤーカフスは魔法具なんだ」

「魔法具? どういったものですか?」


「それは……先に僕のイヤーカフスに魔力を流してくれる? リーアのものには僕のをもう登録してあるから」

「登録? 流すだけで良いのですか?」

 そう聞けば、そうだよと返答があったのでジオ兄様から渡されたアクアマリンの付いたイヤーカフスへ魔力を流してみる。

 どんどんと私の魔力を吸収していく許可石。もう入らないところまで注ぎ込み終わったところで兄様へ渡す。

 兄様はそれを右耳に付けて、私にも付けるように指示したので兄様と同じように右耳に付けてみました。


「じゃあ、今から補助系の無属性の魔力を練って〈通信接続(テリルコネクト)〉って言ってみて」

「は、はい」

 その指示で風属性と土属性を合わせるようにして、魔力をまとめて……。


「〈通信接続(テリルコネクト)〉!」

 ――リィィン――


 ん? これってアレに似て……。


『リーア、聞こえるー?』

「兄様!?」

 耳元でジオ兄様の声が響いてビックリした。

 隣に座っていたと思っていたのに、いなくて周りを見渡すと部屋の隅にいる兄様。


『この魔法具は〈通信接続(テリルコネクト)〉のためものなんだ。まだこの魔法具に魔力登録した人としか出来ない魔法なんだけどね』

「も、もしかして、この魔法はジオ兄様が?」

『うん、以前リーアが一方的じゃなくて会話できたら良いなって言っていたでしょう?』

 作ってみたと笑うジオ兄様に言葉が出ませんでした。


 これってケータイだよね。


 お粗末さまでした!

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