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悪役なのかヒロインなのか、教えてください。  作者: たばさ むぎ
1章 転生したらヒロイン? それより魔女になりたいのです。
22/64

20 ―入学式― 1


 

 

 

 

 ―――アンスリューム学園・入学式。


 今日ばかりは朝のランニングはお休みしてストレッチと軽くアイビーと手合わせして、シャワーを浴びてから制服に腕を通した。


 私の学年はやはり、紺地の制服の襟や裾に付く刺繍が白緑色で胸元で結ぶリボンは翡翠色でした。

 画面で見ていた制服は思った以上に可愛くてにやにやしてしまいますね。

 アイビーに腰まで伸びた菫色の髪をハーフアップに結ってもらって、以前誕生日にジオ兄様からプレゼントされた水色のリボンで結んでもらいました。


 共用スペースへ行くと同じく制服を着たツインテールなミモザが待っていて、二人で可愛い!と女子高のノリのように褒めあってしまいました。

 冷静なると恥ずかしい。


 侍女たちが持ってきてくれた朝食をミモザとちょっと急いで食べて7時半には寮を出て学園の受付に向かいます。

 入学式自体は9時からなのですが、入学生が胸元に付けるコサージュを新旧の生徒会役員が配るということで時間がかかるため、早めに行ってしまおうとミモザと昨日のうちに話し合っていました。

 特に今年は新旧の生徒会役員が豪華なため受け付けは7時半からしているそうです。

 今日入学する一人以外の攻略対象者が勢ぞろいですからね……。

 しかし、去年の生徒会長だったジオ兄様はちゃんと起きているでしょうか。旧役員としてちゃんといるか心配です。



 寮から学園までは5分くらいなので、ゆっくりと歩いていくと少しずつ人が集まってきているみたい。

 今年の新入生は男子生徒が36名、女子生徒は28名の計64名だそうです。

 プレデビュタント時は女子16名だったので、12名は平民だけれど貴族が後見に付いた名誉男爵としての入学でしょうね。

 魔法院や騎士団で将来有望だと、後々貴族の家に入るかまたは仕えることが決まっている平民に仮に“名誉男爵”という称号を与えて貴族社会に溶け込めるようにとの制度だそうです。


 一応、学園内では身分はなしということで爵位に関係なく話すことができますが、配慮は必要です。



 受付が見える位置までくると、新旧の生徒会役員と思われる腕章をつけた白地の制服と紺地の制服の生徒が新入生の学生証カードを確認しながらコサージュを手渡ししたり、お願いされて付けてあげているのが見えました。

 ジオ兄様はちゃんといるのでしょうか? と見回していると兄様は見つかりませんが、机の端のほうにアシンス様がいるのが見えたのでミモザと共に向かいます。


「ミモザ!」

「アシー!」

 視線を上げたアシンス様がミモザに気付いて呼んでくれたので、ミモザは少し小走りに向かって行きます。

 私もいたのですが、ミモザだけとは。やはり愛ですね~。

 クスッと笑って、周りを見れば驚いた人は数人しかいなかったので、ミモザとアシンス様の仲の良さは知られているみたいです。


「入学、おめでとう。ミモザ、フリージア嬢」

「ありがと~」

「ありがとうございます、アシンス様。……アシンス先輩のほうが良いですか?」

「どちらでも構いませんが」

「アシー先輩?」

「……お前に言われるとなんか妙な気分になるな」

「え~、ヒドイ~! それでアシー、他の人は~?」

「切り替え早いな……」


 がっくりと肩を落とすアシンス様に、まあまあと背中を叩いて笑っているミモザ。

 いつもながらアシンス様はミモザに翻弄されていますね。

 でも今の切り替えの早さには私も驚きました。


「ティナスとストレリは講堂で最終確認が終わり次第こっちに来る予定。マリー様は学園長が呼んでるって言われて行った」

「ふ~ん、まだ時間はあるから今の時間はこのくらいの人数でも良いのね~」

「そう言うこと。しかし、こんなに早く来るとは思わなかった」

「だって~、混むの嫌~」

「確かに」


 そんなアシンス様とミモザの会話を聞きながらジオ兄様がいないか探してみるけれど見当たらない。

 まさか、本当に寝坊しているってことは……ないよね?

 きっと他の仕事でいないだけだと思っても寝坊の疑惑が晴れない。

 アシンス様に聞いておこう。


「あの、アシンス様。兄は……」

「ああ、忘れるところだった。ジオラス殿は来賓の方々の案内でこちらに来られないので、フリージア嬢へ渡して欲しいと頼まれていたんです」


 渡さなかったら不味い、とちょっと引きつった笑みでアシンス様が私に渡してくれたのは、新入生が付けるコサージュと手紙。

 コサージュは色々な種類があるようですが、渡されたものは白と紫と青のスイートピーがアレンジされたものです。

 ジオ兄様はこの3色が好きなようで、兄様らしいチョイスだなと笑みが零れる。

 


 チラリと横を見れば、ミモザがアシンス様に付けてもらっているのは色とりどりのマーガレットが束ねているものでした。

 きっとアシンス様がミモザ用に取っておいたものでしょうね。

 付けてもらっているミモザはとっても嬉しそう。見ているこっちまで幸せな気分になりますね。


 鏡を借りて自分で付けてから、ジオ兄様からの手紙を開くと可愛い花模様のメッセージカード。

 そこには『入学おめでとう! 僕のお姫様』と書いてあって一瞬手に力が――こういう時に何で!?――グッと入りそうになったけれど、どうにか押しとどめて見直せば下のほうに追伸で上級試験の時に役立つ魔法の言葉(キーワード)だよと一覧が。

 思わず頭を抱えてしまう。

 ……春の治療魔法師の上級試験を受けることがバレていた。

 メリア様にもお願いして隠していたのに! 兄様はどうやって知ったのか……。


 兄様だからと理由になっていないけど理由にして考えないように決めました。

 カンガエテハイケマセン。



 少しの間、ミモザとアシンス様と話していましたが段々と人が増えてきたので邪魔にならないように横へ移動します。さて、残り約1時間をどうしようか。

 学園内は見ても良いことになっているらしいけれど、もれなく迷いそうだし、間違っても中庭の桜の樹には近づいてはいけない。


 『入学式のために講堂へ行く途中で迷ったヒロインが中庭の桜の樹の下で王太子殿下に会い、会話をする』というのがティナス殿下ルートのはじまり。

 王太子殿下ルートは出会いを逃さなければ良いという一番シンプルなルート。

 でも一つでも逃すとノーマルエンドになるという簡単だけど難しい攻略者。


 昔会ったというフラグは折っているはずだし、ミモザも一緒にいて一人ではないけれどまだ安心できないから入学式がはじまるまでは桜の樹の下に近づかないようにしないと。


 他の人のルートのはじまりは知らないので、彼らには極力近づかないようにして……でもアシンス様はミモザとラブラブだから彼のルートはないでしょう。

 気を付けるのはストレリとニコティの両公爵令息。

 隠しキャラについては全く分からないから、年上の人物は警戒しておけばいいかな。


「ミモザ、どうする?」

「う~ん、そういえばアシーがオススメだよ~と言っていたんだけど、中庭に綺麗な桜の樹があるって~」

「え?……桜の樹?」

 近づきたくないと思ったそばからまるで強制的にルートに引き寄せられる感じに背筋が凍る。

 私は彼を選んでいないハズなのに、これが強制力というものだとしたらちょっと怖い。


「うん。この学園が出来る前からあるんだって」

 素敵らしいよ~見に行く? と首を傾げるミモザに、不信感を与えずにどうやって断るか必死に考える。


「……そ、そんなに素敵な桜の樹ならきっとみんな見に行って混んでるかもしれないよ。それ以外でないかな?」

「フィーちゃん? そうだね~私も混むのは嫌だから~。……ん~と、あ! 食堂でも休憩が出来るって言ってた~」

「そっちにしない? これから使う食堂の偵察もできるし」

「偵察~! うん、そうしよ~」


 不思議がりながらもミモザが同意してくれてホッとした。食べ物の力は偉大だ! と言うよりミモザの食い意地かな?


 入学式が行われる講堂も今から行く食堂も学園の内にあるので、中に入るために中履きに履き替えなければなりません。

 こういう所は前世っぽくて面白い。

 学生証カードに書いてあるクラスと自分の番号を確認して『1-A:No.16』その場所に用意されている靴に履き替える。

 番号はどうやら苗字順だったようで、ミモザは『1-A:No.01』でした。

 席も最初は苗字順らしいと話している人達の声を聴いたミモザは「フィーちゃんと遠い……」とどんよりモード。


 同じクラスでペアでしょうと宥めながら吹き抜けの廊下を歩いていると中庭が見えました。

 少し気になってチラリと視界に入れれば、大きな桜の樹の周りに何人かの生徒がいるようです。それなら仮に行ってしまっても大丈夫だったかも。 

 でもまあ、念には念を入れないとね。


 それにしても、見事な桜の樹です。思わずミモザと足を止めて暫し魅入ってしまう。アシンス様が勧めたのは分かる気がします。

 今年は近くに行くのは諦めるけど、来年なら近くで見られるかな。

 お弁当を持ってお花見で来たら楽しいかもねとミモザと笑いながら歩いていたせいか注意力が散漫だったようで、角を曲がった時―――。


 ――ドンっ――という衝撃があって誰かとぶつかった。

 

 ミモザを巻き込んではいけない! と彼女と反対方向へ行くように足の軸を変えようとしたら左手を取られて誰かに抱き込まれた。

 ジオ兄様とは違う手の感覚と香り、そして何故か昔にあの人に抱き込まれた時の記憶が甦ってしまい、どうして今思い出したのか分からず頭が真っ白になり身体が動かない。


「大丈夫?」

 まるであの時の再現するかのような言葉、しかも声は前世で画面越しに聞いたあの人と同じ声で背筋がぞわりとする。

 まさか、嘘だ、と信じたくないけれど確かめなければと意識を総動員して恐る恐る上げた視線の先には、少し驚いたように軽く見開いた海のように蒼い瞳が私を映しているのが見えて……。


 ―――あぁ、ティナス殿下だ。


 あの時から大人になった『ゲーム』と同じ容姿の王太子殿下。

 襟足で整えられた太陽の光を受けて輝く金色の髪、形の良い眉、スッと通った鼻梁、精悍になった顔つき。でも今は驚いたといった表情で。

 逢いたくなくて、逢いたい人。

 フリージア(わたし)は彼のことを……。


 違う、そうじゃない!


 何で? 桜の樹の下ではないのに出会うの!?

 こんなところを誰かに見られたら、殿下に迷惑をかけてしまう!!

 とにかく一刻も早く離れないといけないと取られてないほうの手で――彼の胸は叩けなくて――肩を押すけれど何故か反応してくれない。

 声をかけるだけで会話はしないようにと決めて、彼に向けて言葉を発する。


「す、すみません。は、放して、いただけませんか」

「そうですよ~、殿下! 早くフィーちゃんを放してください!!」

「ミモザ? どうしてこんなところに? あ、あぁ。ごめんね、怪我はしなかった?」

 二人がかりの声で気が付いたティナス殿下はミモザを見て驚いたようですが、笑顔を作って私に視線を移して謝罪と共に身体を離す。

 離してくれる時に一瞬力がこもったような気がしたけれど、私の体勢を整えつつ離してくれたのは嬉しかった。

 二歩下がってミモザに並びお礼を言い、頭を下げたら「こちらこそ、すまない」と声が落ちてきた。

 顔を上げれば苦笑いの殿下の姿。


「フィーちゃんが怪我しちゃったら、私は怒りますよ~」

「それは怖いね。……本当にすまない。ちょっと急いでいて、それで君は「ティナス!!」ストレリ?」

 殿下の後ろのほうから焦ったように走ってくるのは生徒会役員の白地の制服を着たストレリ・バーガンディ公爵令息。

 紫紺の髪を後ろで一つにまとめ、切れ長の緋色の瞳を持ち怜悧なという表現が似合う攻略対象者の一人。


 殿下の近くまで来ると彼の肩をがしっと掴んで「このルートは新入生がいるから使うなと言っただろう!?」と声を荒げますが運動はあまり得意ではないのか、少々息切れしているようです。

 

「げっ」

 横から可愛い声に似つかわしくない声が聞こえたと思って見ればミモザが渋面を作って殿下達を見ている。

 アシンス様の繋がりで仲が良いハズなのに。

 

「ミモザ、どうしたの?」

「ミモザ?」

 私がミモザを呼んだ声に反応したバーガンディ公爵令息がこちらに気が付くと、彼はピクッと右眉を上げて目を細める。

 スッと殿下の前に出るとミモザを見下ろして「何故ここに?」と冷淡な声で問う。

 対するミモザも公爵令息を睨み「移動中ですが、何か?」と挑発するように言う。


「ならばさっさと移動したらどうですか」

「えぇ、言われるまでもありませんわ。失礼いたします、殿下。行こう、フィーちゃん」

「え、あ、うん。失礼いたします」

「ちょっと、待って!」

「ティナス、行くぞ! こっちだ」

「だけど!」

 ミモザに引っ張られるように連れていかれながら後ろを見れば、あちらも殿下が公爵令息に連れていく様子が見えた。

 




いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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