18 ―昇級試験と別れと・・・― 2
―――あれから半年。
中級になってから一か月間はメリア様の下で魔物退治のレクチャーを受けていたら、その間に何時の間にかジオ兄様は魔法師上級になっていました。
近づいたと思ったらまた遠い……。
でもジオ兄様が上級になったおかげでチームリーダーとしてメンバーを決める時に私をサポートメンバーとして選んでくれました。
が、なぜか二人だけのチームです。
全体のバランスの関係だそうですが、後衛としてのサポートだけのはずだったのに前衛としての討伐までしていました。
なぜこうなった!? と疑問は尽きませんが、兄様と一緒に行動できるのはとても勉強になりました。
それももう終わり。
今日はジオ兄様が学園に行ってしまう日。
入学式は明日だそうですが、これから寮へいくので兄様は学園の制服を着ています。
私と同じ色の菫色の髪は背中まで伸びたので、今日は後ろで三つ編み。
ブレザータイプの軍服のような紺色の制服で、学年ごとに違う色のタイ(女子はリボン)と縁取りが刺繍されています。
刺繍箇所は襟元と袖、それからズボンの裾にもあります。ちなみに女子はスカートのすそ部分に刺繍の縁取りです。ゲーム画面で見て可愛かったので実は楽しみ。
ジオ兄様の学年の刺繍の色は浅葱色でタイは瑠璃色。
あの設定どおりならティナス殿下の学年は刺繍が山吹色でタイは蘇芳色。私の学年が刺繍が白緑色でタイが翡翠色だったと思います。
そういえば、生徒会役員だけは制服の色は紺地ではなく白地なんです。
あれも素敵なんですよね~。
正装を着ているジオ兄様も素敵ですが、制服姿も格好良い!
さすが、少ししか出ていないのに人気投票で必ず上位にいた人物です。
ゲーム画面よりも格好良くみえるのは身内びいきでしょうか。
……これでまたファンが増えたら視線が辛い。
背中まで伸びた菫色の髪を後ろで三つ編みして、精悍な顔つきになった兄様と両親が話しているその情景を私は一歩離れた場所で見る。
会話に加わりたいけれど、このままずっと見ていたい気分になる。
いつも一緒にいた人と離れるって前世でも体験しているはずなのに、今回は今までで一番切なく感じるのはなんでだろう。
ちょっと涙が出そうになるけど、笑顔で見送りたいなとギュッと手を握りしめる。
私が少し離れは場所にいることに気がついたジオ兄様がこちらに来て、私の右手を取り手のひらを上に向けさせるとそこへシャラリとペンダントを落した。
この世界では珍しい、3センチくらいの長方形で薄い金属製のプレートにオニキスが埋め込まれたペンダント。
良く見るとプレートは二枚あって、オニキスが付いたものと付いていないプレートのみのようです。
「兄様、これは?」
「あの髪色を変えたチョーカーがあったでしょう? あれの強化版で使いたいときにプレートを重ねながら石に魔力を満たせば変化できるものなんだって。有効時間は石がこの色に戻るまで。だいたい1日くらいかな。すぐに元に戻りたい時は……魔力を流しながら二重になっているプレートをずらして接続を切れば良いそうだよ」
お揃いだよと自身の胸を指しながら微笑むジオ兄様。
「外に出る時は必ずこれを使ってね」
リーアは絶対に一人街に行くでしょう? と小声で言って、悪戯っぽく笑う。
その笑顔にバレたと冷や汗が背中を伝う。
たまにお菓子の偵察に出てることを何故知っているのですかー!!
「ちゃ、ちゃんと使いますね!」
「うん必ず使ってね。約束だよ」
はいとジオ兄様の出した小指に自分の小指を絡めるようにして指切りげんまんでお約束。
ニッコリ笑うジオ兄様の顔を見ていたら明日からは当分見られないんだと……そう気付いてしまったら耐えていたはずの涙腺が決壊してぽろぽろと勝手に涙が出て来た。
アイビーから渡されたタオルを目に押し付ける前に見た、歪む視界の先の兄様は困ったように笑っていた。
あぁ、困らせてしまったと余計に涙が止まらなくなっていると私の頭をゆっくり撫でる暖かい手。
この手はきっとジオ兄様だとタオルから顔を離すと、なぜか嬉しそうな顔をしています。
「すぐに会えるから。大丈夫だよ、リーア」
「で、でも」
「僕を信じて?」
「~! その言い方はズルイです」
「リーアこそ」
「なんでですか!?」
「なんでも」
ヒドイ!と言ったらジオ兄様は「涙、止まったね」と笑う。
その言葉で何時の間にか涙が止まっていたことに気がついた。
……兄様にいつか勝つことは出来るのかなぁ。
出発の時間が迫ってきたので「あーやっぱり行きたくない!」と渋るジオ兄様をお父様とオレガノが押し込んで最後の挨拶。
「兄様! 学園の話、楽しみにしていますね」
「それを言われたら行かないといけないね」
ふふっと笑い合って、最後はなんとか笑顔で挨拶できました。
兄様、いってらっしゃい!
◇※◇※◇
―――ジオ兄様が入学して二週間。
いつもどおりにランニングをしたり勉強したりしていますが、まだ慣れませんね。
ジオ兄様はちゃんと朝、起きられているのでしょうか?
心配です……。一緒に行った兄様の従者のスイバが。
そんな事を考えながら今日も一人でお仕事です。
最近は薬を調合するだけではなく、新しい配合を作る――主に飴に組み込むものですが――お仕事も増えてきました。
それに反して魔物退治のサポート要員としての仕事はありません。
全体の治療だけのサポートは一回あっただけ。
理由はジオ兄様がいないから。
あの時二人で組んでいたのは全体のバランスという理由は嘘ではありませんが、全属性持ちの情報規制のためだったようです。
ジオ兄様以外で全属性持ちで魔法師というと上級に何人かいますが、皆さん今のチームで上手くいっているので無理に他のところに入らずに、兄様が行動できる時にだけ参加するということだそうです。
ジオ兄様、元気かなぁ……。
ついつい考え事をしてしまってまた手が止まってしまった。
もっとしっかりしないとダメだなぁと苦笑いの後に頭を振って、ふぅと息を吐いて作業を再開します。
「う~ん、『眠気覚まし』ならやっぱりピリッとしたほうが良いのかな? それともミントを多めに?」
一人作業だと独り言が多くなっちゃうんですよねー。
でも良いんです。
独りですから気にしない~♪
「両方はダメなの?」
「両方ですか? ピリッとしてスッとですか……できるかなぁ」
一度同じ配合にしたらなぜか打ち消されてしまったから、難しいかも。
二層にしてみる? それだと手間というか機械を変えないといけないから、やっぱり配合でどうにかするしか……。
「この前のシュワシュワしたのも結構美味しかったけど」
刺激があるのも『眠気覚まし』には効果的?
そういえば、あれはジオ兄様が結構気に入ってくれましたね。
でも私はちょっと苦手な部類なのです。
「あれは好みが結構分かれてですね……ん?」
「そうなんだ……ん? どうしたの、リーア?」
「……にい、さま?」
「はい。兄様ですよ?」
独り言のはずなのになぜ会話が出来ているんだと思って声が聞こえてきた方向――上を仰ぎ見れば、いるはずのない人。
何回か瞬きしても変わらなくて、目に映るのは学園に行ってしまったはずの、ジオ兄様?
学園の制服の上に魔法師のローブを羽織っていているけど……。
長期休みはまだ先で、しかも伯爵家じゃなくてなぜ魔法院に?
本物かどうか確かめようと慌てて立ち上がって兄様のほうへ体勢を変えようとしたら「ジ、ジオ、兄様!? なんで! わっ!!」椅子に足が引っかかって転びそうなところを「っと、急に立ち上がったら危ないよ、リーア」といつものように優しい声と共に抱き留められた。
暖かいってことは、幻じゃないってことだよね。
本物なんだ。
私の体勢を戻しながら「リーアはたまにおっちょこちょいだね」なんて言うから「ジオ兄様の所為です!」と反論してみたらなぜか笑う。
わけがわからない。
でもそれ以上に解らないのはなぜジオ兄様が今ここにいること。
その疑問を呈せば、理由を教えてくれました。
実は学園と魔法院は転送魔法具で繋がっているのだそうです。
これは学生の中にジオ兄様のような魔法師たちがいるからで、――緊急時は言うまでもありませんが――空き時間に仕事や研究、魔物退治のために魔法院へ行くからということ。
実は兄様は入学してから何回も来ているけど、私とはすれ違いだったそうです。
オレガノの決めたスケジュールは魔法院が午前中で午後が伯爵家での勉強で……ミモザの襲撃もありましたね。
ジオ兄様も始まったばっかりで予定が分からなかったけれど、これからは午後や学園の休日には来るので、オレガノに調整してもらえれば会うことも一緒の仕事もできるとのこと。
「ジオ兄様はいつから知っていたのですか?」
「上級に上がった時に」
……と言うことは、半年前!
じゃあ私が悩んでいた事って!?
「もっと早くに教えて欲しかったです!!」
「だって言ったでしょう?『すぐに会えるから』って」
「そ、それは長期休みかと……」
「リーアは信じてくれなかったんだね。よよよ」
芝居がかるジオ兄様をジト目で見ます
こういう時の兄様は絶対に何か隠しているはずです!
「……」
「……」
「……だって」
「だって?」
「リーアが」
「? 私が?」
「やっぱり秘密」
「にーさまー!!」
もったいぶって最後は落とすって酷すぎますよ!! ジオ兄様!
だから私も早く会えて嬉しかったことは言いませんからね!
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
また時間が飛んでやっと学園へ行きます。




