表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役なのかヒロインなのか、教えてください。  作者: たばさ むぎ
1章 転生したらヒロイン? それより魔女になりたいのです。
18/64

16 ―嵐襲来!?― 2

 

 

 

 アシンス様はなんと言った?


 ――王太子殿下からのお誘いの手紙?――


 どうして?


 自分の身体が、自分のものではない感覚に陥り指の一本すら動かせない。


 ――ティナス殿下からのお誘い?

 面識のない一介の伯爵令嬢に?

 接点は出来なかったはずなのに。

『はい』とすぐにでも答えなければならないのに衝撃で声が出てこない。


 でもそれは私だけじゃなくてジオ兄様もミモザも声を出せずにアシンス様を驚きの表情で見ている。

 そんな中、一番初めに動いたのはミモザで立ち上がり「謝罪の手紙じゃないの!?」とアシンス様に詰め寄った。


「俺の興味本位だといっただろう。手紙の中身はちゃんと謝罪の手紙のはずだ。俺はただ、仮に伯爵からの手紙を受け取らなくても王太子の手紙だけでも受け取る方が普通の令嬢の反応だと思ったからさ」

 ミモザをまあまあと宥めつつ、しれっと言った。


 受け取らないと決めたのに、あの人の手紙に触れたいという言葉がじわりと浮かんでくる。

 揺らぎたくない。だってあの人は彼女と一緒のほうが幸せに―――。

 

「私は……。あの、光栄なことだと思いますが……受け取ることは……」

「本当に? 王太子殿下だよ?」

「……本当で」

「リーア、もういい」

 思いを言葉にしたいのに上手くいかなくて戸惑っていたらジオ兄様に止められた。

 ジオ兄様を伺うように見れば兄様はアシンス様を睨み、「アシンス殿、これ以上妹を試すおつもりなら」とゆらりと魔力を纏わせる。

 

 侯爵家の方々に魔法はダメです! とジオ兄様に抱き付いて……ん? 試す?


「どういうこと?」という怒気のはらんだミモザの声でアシンス様を見れば蒼白な顔で「すまなかった!」言い、バッと頭を下げた。

 

 私が目を白黒させているとアシンス様がミモザに扇で叩かれながら説明してくれました。


 ティナス殿下の幼馴染――ストレリ・バーガンディ公爵令息とアシンス・オーカー侯爵令息。それから彼らの婚約者には邪な思いで近づく人が絶えないそうです。

 なので昨日の私の行動はもしかしたらミモザを介して彼ら……とくに殿下に近づく令嬢かもしれないと警戒して、今日ミモザについて来て確かめようとしたという訳です。


「これは俺が独断でしたことだ。だからティナスじゃなく俺に怒りを向けてくれ」

「信じれらない! アシーは私のことを信用していないってことじゃない!!」

「ミモザ……俺は」

「嫌いよアシー! こればっかりは許せない!! お父様に言って婚約を「ダメだよ、ミモザ」……フィーちゃん?」

 項垂れるアシンス様も詰め寄るミモザも苦しそうで、想いのすれ違いが悲しい。

 笑顔を意識して、ミモザにアシンス様の想いが届けば良いなと思って言葉を重ねる。


「ダメだよ、ミモザ。それは言っちゃダメ。アシンス様は殿下もそうだけど何よりミモザを守りたいのだから」

「フィーちゃん?」

「フ、フリージア嬢!?」

 驚くミモザに知られてしまうことに焦るアシンス様。

 クスッと笑って言葉を続けます。……意趣返しじゃないですよ?


「私が本当に悪い人で、例えば王太子様を傷付けてしまったらミモザは責任を感じるでしょう? そうならないようにアシンス様は私を試してミモザの友人として大丈夫か試したの」

「そう、もしあの時リーアが“お誘い”と言う言葉で王太子の手紙を受け取っていたらアシンス殿は何が何でもリーアを排除するだろうね。殿下とミモザ嬢の心を守るために」

 そんなことリーアに限ってないだろうけど。とジオ兄様は私の言葉に続けて言いニッコリと笑う。

 アシンス様は先程よりは良くなった顔色ですが、引きつった表情で「その通りです」と言い、立っているミモザを伺うように見る。


「……ミモザ、俺は」

「アシー……ごめんなさい」

「いや、確かに信用してないように思えるよな。こっちこそごめん」

「ううん。ありがとう、アシー。……でも」

「ん?」

「フィーちゃんに悲しい顔させたのは許せない!〈強化(ストレングス)〉ていっ!!」

「なっ! うぐっ……」

 お互いに謝って良い雰囲気だと思ったら、急にミモザの魔力が膨れて身体強化の魔法を使用しアシンス様のお腹へ閉じた扇で一撃!

 不意の一撃に対応できずソファーに沈み込むアシンス様にミモザは「近衛見習いのくせに情けない」とため息一つ。

 警戒していない相手の鳩尾に一撃って――ジオ兄様には防げそうですが――ミモザは見た目はふわふわ妖精さんなイメージなのに結構アグレッシブのようです。



 アシンス様をこのままグッタリさせておくわけにもいかず、〈手当(ケア)〉を使おうと側に行くと、ジオ兄様に「リーアのケーキが食べたいな」と言われ、ミモザにも「フィーちゃんのケーキ!? 食べたい!食べたい~!!」と言われたので、準備をしに行っている間にアシンス様は復活していました。

 兄様が〈手当(ケア)〉をかけてくれたようですね。



 部屋に入った私を見たアシンス様は「重ね重ね申し訳なかった」と頭を下げる。

「気になさらないでください。それで私はミモザの友人として合格できましたか?」

「感謝します。それに合格も何もこちらからミモザの友人になってくださいとお願いしたい」

「ダメだよ~」

「「ミモザ?」」

「おいミモザ! 俺のせいなのか!?」

「友人はダメってこと?」

 アシンス様に合格をもらえると思ったらまさかのミモザからのダメ出し?

 慌てる私たちにミモザは推理を披露する探偵のようにニヤリと笑う。


「違うよ~。私とフィーちゃんはもう親友なの~。分かってないな~」

「「はい?」」

「うふふ~♪ フィーちゃん~大好き!」

「わっ」

「おやおや」

 先程のようにミモザに抱き付かれ、勢いがあったために留まれず後ろにバランスを崩したところをジオ兄様に抱き留められた。

 サンドイッチの具になった気分です。

 二人に「放してください」と言いながら手でペシペシと合図をしても何故か放してくれないので、そのままミモザに疑問を呈する。


「ミモザ、親友って出会ったばっかりだよ。なんで……」

「関係ないよ~。ちなみ助けてくれたからじゃないよ~?」

 たしかに格好良かったけどね~とえへへと笑うミモザ。


「私って表裏があるでしょう~? あの時どうしても素の私を見て欲しくて~急に本性をだしたけど、フィーちゃんはビックリしたけど嫌がらなかった~。ほとんどの人が嫌な顔するんだよ~。あ、顔に出さなくても雰囲気でわかるの~」

「私は、そんなこと……何にも考えてなかったよ」

 ニコニコするミモザと対照的に私は困惑するばかり。


「それにね、最後。……フィーちゃんは気が付いていなかったかもしれないけど~、笑ってくれたの~」

 とっても嬉しかった~と満面笑みを浮かべるミモザを援護するようにアシンス様にも「俺も見たよ」言われ戸惑う。

 後ろのジオ兄様からは「まったく、リーアは……」と呆れた声が聞こえるし。

 何にも考えてないのに~!


「ごめん、覚えてない。あの時の最後のほうってあまり記憶が……」

「そうなの!? じゃあもっと嬉しい~! だって無意識で笑ってくれたってことでしょ!」

 幸せ~とまたぐりぐりと身体を寄せてくるミモザにもう補正力だっていいやって吹っ切れた。

 湧いて出た嬉しさは自分のものだと信じたい。


「うん、そうかも。私もミモザが大好き……これからよろしくね」

「フィーちゃん! うん! よろしく~」

 ジオ兄様をアシンス様が苦笑いを浮かべていたのを見ないふりして、アシンス様の「先に食べて良い?」の言葉でミモザが「ダメ! 私の!!」とつられるまでぎゅうぎゅうと抱きしめ合っていました。

 ミモザは結構力があるみたい。

 ちょっと痛かったけど、これも良い思い出かも。



 のんびりとお茶とお菓子を楽しんだ後は私とミモザは私の部屋へ移動。


 ミモザの『女性同士で話したいこともあるの~』というお願いとジオ兄様に『アシンス殿は私がもてなすから行っておいで』と笑顔で送り出されては拒否できませんでした。

 あう。



 私室に着くとミモザは興味津々といった風に私の机や本棚を見てまわります。

 私はミモザの横からさりげな~く物を避難させてます。

 勉強の合間ってどうにも他のことが手に付くというか……つい歴史の勉強しつつ魔法のことだったりお菓子のことを考えて走り書きを――あとはちょっと落書きとかも――してしまうのですよね。

 その時の字が汚くて……人様には見せられません!

  

「そろそろ終わりにしない? 面白いものなんてないよ?」

「いいの~。私、女の子の友達って実はいないの~」

「え? それは……」

「猫かぶり状態での知り合いはいるよ~。でも~素の状態はフィーちゃんが初めてなの~。女の子の友達ってお部屋に遊びに行くんでしょ~?」

「ん~、どうだろう。私はミモザが初めての友達だから良くわからない」


 魔法院の同僚というか仲間はいますが、ジオ兄様と組むことが多いせいかあまり他の人と話しません。

 前世の私と同じであまり自分から話さなかったこともあるかもしれませんが、黙々とお仕事してます。


 でもそろそろ変えないといけません。

 ジオ兄様と離れての仕事も増えましたし、もうすぐ兄様は学園に入学して寮暮らしになります。

 友達とはいかなくても知り合いができたと報告すればジオ兄様は安心して学園に行けますよね!


 

「そうなの!? フィーちゃんも初めて~? 嬉しい~」

「ちょ、ちょっと、ミモザ!?」

 またもやミモザに抱き付かれガタンと今度は本棚とサンドイッチ。

 ジオ兄様といいミモザといい、なぜ抱き付いてくるのか……。そんな設定なかったよね!?

 はっ! もしかしてこれは直ぐに〈防御障壁(ウォール)〉を張る練習のミニゲーム!?

 ……そんな事ないですよね。あはは。


「あれ? これなぁに~」

「え? あ! それは見ないで!!」

「え~気になる~」

「ちょっと!?」

 ミモザの手にあるのは、本棚にぶつかった衝撃で一番上に置いておいた『乙女ゲーム』の覚え書きノート。

 不味い! 不味すぎる!! あれを見られるわけには。


 アイビーに鍛えられているからすぐに捕まえられると思ったら、ミモザはサッと躱していく。

 油断していたとはいえ、あのアシンス様に一撃を加えるくらいだから彼女も結構なハイスペックなのかも。

 そもそもゲームって表面上だけしか……ってそんな事を考えている場合じゃ―――。


「あれ~? フィーちゃん、これ何て書いてあるの~?」

 一瞬足が止まったせいでミモザに中身を見られたけど、彼女はノートを見て頭を傾げている。

 内容までは分からなかったみたい。

 日本語で書いていて良かった~。

 さりげなく一文字ずつジオ兄様やアイビーたちに見せてこの世界にはないと分かっていても心臓が止まるくらい焦った。


「それは小さい頃に書いた暗号みたいなものなの」

 恥ずかしいから返してくれる? と聞けばミモザは「フィーちゃんの日記じゃなかったのか~」とさらりと怖いことを言いつつ返してくれた。


 これ以上この部屋にいると私の精神力が減っていくのと、そろそろミモザたちの帰宅時間も迫ってきたので応接室へ移動。

 途中でオレガノに会いジオ兄様たちが中庭にいるというので行くと、上着を脱ぎ何故か模擬剣で打ち合ってる二人。


 ゲーム上のアシンス・オーカーは――身体能力が優れていて剣技だけなら騎士の中から選ばれる近衛騎士になる実力はあるが、年齢と実戦不足により見習いの位置にいるといった設定があったはず。

 その設定どおりといいますか、力強い剣さばきは型どおり(・・・・)で素晴らしい。

 同年代やすぐ上の年代の騎士で彼にかなう人はいないでしょう。


 でもそのアシンス様を鋭い剣で追い詰めていくジオ兄様。


 兄様は魔法師で魔物退治がお仕事の一つ。

 ほとんどの魔物には剣は効かず、魔法で消し去るのみ。

 魔力を纏わせれば有効ですが色々あって――魔力量や剣の耐久力など――非効率なのです。


 だから魔法師には本来なら必要のない剣術。

 それなのにジオ兄様はアイビーから習っています。

 以前は体術のみだったのに魔法師中級に上がってから半年くらい経ったときから――今思えば収穫祭後からでしょうか――始めてメキメキと実力を伸ばして今ではアイビーに迫る勢いだそうです。

 練習として二人のする剣舞はとても綺麗なんですよ。


 そんなジオ兄様の剣は対魔物にでも通用する様な変則的な剣技なため、アシンス様はどうにか対応しているといった状態。

 あまり余裕のないアシンス様は私たちに気が付かないようで、逆に余裕を残しているジオ兄様は私たちに気が付くとふふっと笑って一気にアシンス様の剣を弾いて試合終了となった。


 力尽きたように座り込むアシンス様に近づいたジオ兄様は魔法で癒しながら何か話をしてるようです。

 ここからではアシンス様は後ろ姿なのでどんな表情かは分かりませんが、ジオ兄様は笑顔なので打ち合いの話でもしているのでしょうね。


 ミモザの「そろそろ時間よ、アシー」と言う声で二人はこちらに来て全員で玄関ホールへ向かいます。

 またミモザに腕を取られての移動ですが、チラリと振り返った時の男性陣の苦笑いと彼女が楽しそうなので何も言わないことにしました。

 

 通常なら玄関ホールでお別れの挨拶をするのですが、名残惜しいのもあり馬車までお見送り。


「またね~、フィーちゃん。絶対に~また会いに来るからね~!!」と言うミモザを「今生の別れじゃないんだから」とアシンス様は馬車に押し込み、二人は帰っていきました。


 二人を乗せた馬車が見えなくなるまで見送ってから屋敷に戻る時に、ジオ兄様は私をエスコートしながら「良かったね、リーア」とこちらを見て微笑みます。


「兄様?」

「同性の友人が欲しかったのでしょう?」

「はい! 嬉しいです」

「そう……リーアが嬉しいなら何よりだ」

「ありがとうございます、兄様」


 ジオ兄様に笑顔を向けたら、頭を撫でてくれました。

 私に友人ができたことをジオ兄様も喜んでくれたみたいで嬉しくて部屋に着いてもニコニコしていたら、アイビーがライバル出現ですねと言っていた。


 ……なんのライバルですか??




いつもお読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ