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悪役なのかヒロインなのか、教えてください。  作者: たばさ むぎ
1章 転生したらヒロイン? それより魔女になりたいのです。
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13 ―プレデビュタント― 2

 

 

 

―――これより本年のプレデビュタントのみなさまをご紹介いたします。

 それでは―――



 あぁ、とうとう始まってしまった!

 私は伯爵令嬢の中でも後ろのほうみたい。確か、12番目だったかな。

呼ばれるのには少し時間がかかりそうなので、少し離れた場所で他の人たちを眺めてみる。

 緊張して顔色の悪そうな子もいるけれど、大丈夫かな。

 パートナーと話をしている人達もいるなぁ。仲良さそう。


「……る?」


 色んなドレスがあるなぁ~。

 結構可愛らしいのも多いかも。

 あ、あの子可愛い。あのドレスの形は変わってて素敵。

 

「……、聞……てる?」


 どうしよう、心臓が飛び出そうな気がする。

 って物理的には無理だよね。あはは。

 できれば帰りたい~。


「リーア」

 聞いてる? とジオ兄様の声がハッキリと聞こえたと思ったら、何時の間にかジオ兄様の左手が私の右頬をそっと撫でていて、こちらに体勢を少し向けた状態になっていた。

 何が起こったのか分からず、瞬きを繰り返すと次第に緊張しすぎて現実逃避をしていたために兄様の声が全然聞こえていなかったと理解した。


「ジオ兄様、ごめんなさい。ボーっとしてました」

「何回か呼んだのだけれど……緊張してる?」

「う……はい」


 何回も呼んでくれていたようなのに……自己嫌悪で段々と俯いていく私の顔をジオ兄様は私の頬に当てていた手を顎にかけ、軽く上を向くように誘導する。

 兄様、どうしたの? と声を出したいのに、ジオ兄様のダークブルーの瞳と視線が絡まると、どうしてか私の身体は緊張感と相まってしまったのか動かなくなった。


 かちっと固まってしまった私を見たジオ兄様は「大丈夫だよ」と失敗した私を慰める時と同じ声音と微笑みを浮かべてくれた。

 その顔を見て安心してほぅと息を吐くと、ジオ兄様は真面目な顔になり私の顎にかけていた手をまた頬に戻して「リーア、前を向いて」と言う。


「君は目標に向かって頑張るんだろう?」

「……兄様」

「君はフリージア・ウイスタリア。私が……ジオラス・ウイスタリアがついているんだよ? 何を恐れる?」

 ジオ兄様のその自信あふれる言葉に目をパチクリ。


 確かにジオラス・ウイスタリアといえば魔法院でも一番期待されている人物で、全属性持ちで……でもこういう風にジオ兄様が自分のことを言うのは珍しい。というか初めてではないでしょうか。

 兄様は自分を自慢げに言うのは苦手だったはずなのに……。

 なんで、今? という疑問は彼の真面目な顔なのに目が笑っていることで消えていった。


 あぁもう、なんでこんなにも。


「そう、ですね。……私にはジオ兄様がついていてくれるのですもの。頑張ります!」

「ふふ、それでこそ僕のお姫様だね」

「兄様……せめて、ここではやめてください……」

 格好良かったのに最後の最後で落とすなんて!

 ……でもおかげで緊張感は消えたみたいです。


「ありがとう、ジオ兄様」

「ん? 私は何もしてないよ」

 ふいっと横を向いたジオ兄様のちょっと耳が赤かったのは言わないでおいてあげますよ。



   ◇※◇※◇



 ジオ兄様に緊張を解してもらったおかげでなんとか無事に終わりました。

 殿下は自身が社交デビューのためか王族の席にはいなくて、ホッとしたような残念なような……。


 今は次の社交デビューする男性の紹介のための準備時間。1時間ほどでしょうか。

 私たちには休憩時間ということで軽食を食べたり交流を持ったりする時間です。


 この休憩時間がはじまってからすぐにお父様とお母様の元へ行くと、良かったよと言ってもらえました。

 特にお母様からは「一番姿勢が綺麗だったわよ」と言われて涙が出そうになりましたけど我慢しましたよ。

 この世界にはウォータープルーフなんてないですからお化粧取れちゃいますもの。

 オバケは嫌ですー。


 お父様たちは挨拶をしておきたい方がいるということで移動してしまったので、私とジオ兄様は軽食コーナー(命名)へ移動。

 敵情視察……もとい、料理やお菓子のアイディアをいただこうと思いまして。

 ジオ兄様のパートナーの時はレモンゼリーの記憶だけでしたから。

 今回は色々食べますよ!


 移動前に、『絶対にジオラスから目を離さないでね』とお母様に念を押されました。

 ジオ兄様は何かやらかしたことがあるのでしょうか……考えないでおきます。あはは。



 しかし……ジオ兄様にエスコートされての移動は視線が痛い。

 全方向からチクチクぴりぴり。

 同じ菫色の髪なのだから兄妹だってわかるハズなのに。


 し か も!


 今日は女性だけじゃなく男性までジオ兄様を見てるのですよ!

 魔法師中級の最年少記録保持者ですものね……憧れるのはわかりますが、今日はやめて欲しい!!

 ジオ兄様をチラリと見れば、穏やかに微笑んでいるように見えても目が笑っていない!


「見世物じゃないのにねぇ。……ここが魔法使用禁止で良かったね」

 ふふっと笑うジオ兄様からは冷気が出てる気がする……。

 うぅ、どんどん機嫌が悪くなっていくよぅ~。

 

 

 ビシビシとした視線から解放されたのは、少し奥まった休憩スペース。


 視線がなくてホッとしますが、ここだと軽食やお菓子が見られない。

 見に行って取ってきたいけれど、またあの視線にさらされると思うと……。

 給仕の人に頼めば良いのでしょうけど、残念ながらここから見える位置にいる給仕たちは全員他の方の給仕中。


 こうなればジオ兄様をイケニエにお菓子を取ってこようかと思い始めた時に会場がざわざわとし始めました。

 なんだろうと様子を伺うと、どうやら騎士たちによる剣舞がはじまるようです。


 この場所は魔法の使用厳禁なので、魔法院はこういった時は出番なしです。

 そのせいか騎士団のほうが人気で魔法院は万年人手不足。


 どうにも魔法院は魔法に特化していてひ弱というイメージらしいのです。

 魔物退治は主に魔法師のお仕事なのですがね。むー


 なので只今、魔法院では『能ある鷹は爪を隠す』プロジェクト決行中~。

 と言いますか、私とジオ兄様が空き時間で打ち合いしているのを魔法師長さんに見られて取り入れられたので、やりたい人だけ体術や剣術の特訓をしています。


 ちなみに魔法院と騎士団の仲は悪くないですよ。




 そんなわけで、ほとんどの人が剣舞を見るようでそちらに注意を向けている今がチャンスです!


「兄様! チャンス到来です!!」

「リーアは見なくて良いの?」

 ワクワクと軽食コーナーを指差す私を不思議そうに見つめながら、剣舞の舞台のほうを指し示すジオ兄様。

 どうしてジオ兄様がそんな事を言うのか疑問がありますが、早く行きたいのでふるふると首を振って否定する。


 剣舞は大体決まった型を繰り返すことが多いので、何回か見れば――技量による流麗さはあるとは思いますが――そこまで見たいものとは思えません。


「興味ありません」

「剣舞が好きなんじゃないの? いつも楽しそうに見てるのに」

「ジオ兄様とアイビーのを見ていますから、良いのです」

「……そう?」

「はい。それより兄様、今なら邪魔をされずに選びたい放題ですよ!」

 キョトンとしたジオ兄様ですが、さっきの不機嫌が気のせいじゃないかと思うくらいの満面笑み。


「そうだね、今回はたくさん味見するんだよね?」

「そうです!」

 意気込む私を見てクスクスと笑うジオ兄様。

 恥ずかしくなってジオ兄様を置いて歩き出せば「ごめん、ごめん」と傍に来て私の手を取って引いていく。


「許しませんよー」

「おや、困った。どうすればお姫様の機嫌が直るかな?」

「……私が好きなものぜーんぶ選んで取ってきてください」

「難問だね」

「できませんか?」

「それは愚問だよ?」

「どっち!?」

 私の叫びにまたクスクスと笑うジオ兄様にむくれると、ごめんと言って答えてくれた。


 兄様曰く、『リーアの好みは分かるよ。でもそのとおりに全部取ってきたら多分食べきれなくて残すことになる。でも残すのが嫌いなリーアは無理に食べようとして気持ち悪くなる。それで治療室なんて行ったらリーアは落ち込むでしょう? それに母上からの特大の雷だ』と未来までつけてくれました。

 ……目に浮かぶようです。


 そこまで簡単に分かってしまうものなのですね、私って。

 淑女の仮面はまだ被れていないようです。

 べつに淑女教育をサボっている訳ではないですよ?

 ただ、ちょっと魔法のほうが楽しいもので少々身に入らないだけで……。

 これから頑張りますー。



 ちゃんと食べきれる適度な量をジオ兄様にお願いして、私は飲み物を手の空いた給仕に頼もうと先程の休憩スペースから続いている生け垣付近を歩きます。

 丁度手の空いた給仕を見つけたので、紅茶とコーヒーを頼んでジオ兄様の元へ戻るために踵を返すと会場の中心が視界に入った。

 まだ剣舞は続いているようで剣劇の音と共に『きゃあきゃあ』という俗に言う黄色い悲鳴も聞こえてくる。

 元気だなー。 



 今年のプレデビュタントは16人。

 学園では同じ学年の令嬢たちかと――少々うんざりして――視線を反対側に向ける。


 生け垣も一寸違わずといったように整えられていて、さすが王宮! と感心していると生垣の切れ間から向こうに人影が見えた。


 立ち止まってこんなところに通路があるんだと覗けば、レモンイエロー色のドレスの令嬢の後をシェルピンク色のドレスの令嬢が何かを持って……追いかけている?

 王宮の影になっている付近だから良くみえなかったけれど、一瞬キラリと光ったように見えた気がする。

 

 こういう時の嫌な予感って当たるんだよなぁと独り言ちながら、周りを見回しても騎士も給仕も誰もいない。

 戻ってからでは遅いかもしれないと――ジオ兄様ごめん!――彼女たちの元へ小走りで向かう。


 アイビーとの特訓の中に、どうしてヒールで走るのがあるんだろう? と思っていたけど、こういう時のためなのかーって苦笑いを浮かべつつ、向こう側への道を見つけて速度を上げた。









いつもお読みいただき、ありがとうございます。


20150726修正

プレデビュタント人数を32名から16名に修正につき

27番目→12番目


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