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悪役なのかヒロインなのか、教えてください。  作者: たばさ むぎ
1章 転生したらヒロイン? それより魔女になりたいのです。
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11 ―魔法院でのお仕事― 

 

 

 

 収穫祭から2ヶ月。

 あと半月で年越しが迫ってきている魔法院は大忙し。

 このところ毎日と言っていいほど、魔法院でジオ兄様と魔法薬の調合です。


 この時期は寒さで体調を崩す人が多いので魔法院の薬も魔法薬も大活躍!

 猫の手も借りたいという状況。

 相変わらずチートなジオ兄様は調合もできてしまうので、魔法師の仕事より調合をヨロシク! と駆り出されています。

 私としてはジオ兄様が魔物退治に行かずにいてくれるので安心です。


 そうそう、この世界は西洋風なのに四季があります。

 混ぜ過ぎ感満載ですが、私としては慣れているので助かります。

 四季があると食べ物もおいしいですからね~♪



 薬と魔法薬の違いは調合のみか魔法を込めて調合するかの違いだそうです。

 以前、魔法技師を目指す人に教えてもらったのですが私には難しすぎて、ちんぷんかんぷんでした。

 良いんです! 私が目指すのは治療魔法師なのですから!!

 ……逃げてるわけじゃないですよ、向いている人とそうじゃない人がいるだけです。


 本日の私のノルマは自信を持って作れるようになった『熱冷まし薬』と『体力回復薬:小』の2種類を5セット(10×5=50個ずつ)と新しく調合許可の出た『炎症冷まし薬:喉』という微妙な名前のドロリとした飲み薬を2セット。


 乾燥して寒い時期……要するに冬は風邪の季節ですからね。

 声がかすれたり喉が痛くて声を出せないのは魔法の言葉(キーワード)を唱える魔法師たちには致命傷。

 あの飲み薬は必需品ではあるのですが、不評の一品なのです。


 理由は、まずゆっくり効くようにと粘度が強いので口の中からなくなるのが遅い。

 次にとにかく甘い。ジオ兄様は逃げ出します。

 私もなるべくなら使用したくない薬なんですよね……なんとかならないかな~と考えつつまずは『熱冷まし薬』の調合。


 材料を一種類ずつすり鉢に入れて丁寧に均一になるようにゴリゴリと。

 需要が増えることに対して手作業なので供給が追い付かないのが現状。

 魔法でぱぱっとしたいところですが、まだフードプロセッサのような魔法具はないのですよね……アンタムさんにお願いしたら作ってくれないかなぁ。


 混ざったら細かい目の篩にかけてから1回分ずつ計量して包装して出来上がり!

 『熱冷まし薬』は分量と材料をどこまで擦るかが分かれば良いので初級と見習いとでペアを組んで作業しているのですが……私は何故かジオ兄様と一緒に隔離されています。


 ジオ兄様は大人気なので大部屋で作業すると他の人が捗らないのです。

 なので私も一緒に本来は中級以上の人にしか貸し出されない部屋で、持ち主の治療魔法師上級のメリア様の手伝いという名目でジオ兄様と作業中。


 会話することなく黙々と作業し、『熱冷まし薬』のノルマが終わったので次は『体力回復薬:小』を作るための材料を取りに行こうと席を立つと、横で自分の分の『体力回復薬:小』を作っていたはずのジオ兄様に「リーアの分も終わったよ」と言われました。


「私の分もですか?」

「うん、ついでに。量さえあれば誰が作ったかは関係ないでしょう。それより……」

 言いよどみスッと私の机のほうにススっと差しだされたのは例の『炎症冷まし薬:喉』の材料。

 量はジオ兄様のノルマ、2セット分の量があるように見えますが……。


「まさかジオ兄様……」

「お願いリーア! この薬だけは勘弁して!!」

「私でも2回以上は無理ですー!」

「僕は1回でも無理!! 他の薬なら倍作るから!」

「それは私じゃなくメリア様に……」

「調子はどう? ウイスタリアの秘蔵っ子たち?」

「「メリア様!」」

 

 扉から紅茶の良い香りと共に現れたのは、この部屋の持ち主で今日の私たちの上司のメリア様。


 メリア様――アルメリア・バーント様は公爵令嬢。

 私より9歳上の19歳で、私たちに一番年の近い“全属性持ち”なのです。

 ローズレッドの髪を無造作に結って白衣を着ているのにそこから漂う気品は隠せません。

 公爵令嬢様なのにとても気さくに声をかけてくださって、アキレアお母様ともアイビーとも面識があるからか、私のことはまるで妹のように可愛がってくれます。

 中級になったらメリア様の下に就くことが決まっているんですよ。



「あら、問題発生?」

 休憩用にと置かれたソファーセットのテーブルに自ら運んで来たトレイを置きながら私たちに問いかける。

 私とジオ兄様が机の上で材料の乗ったトレイを押しあっているのを見られてしまったようです。


「問題と言いますか、なんと言うか……」

「あー、その薬ね」

 言葉を濁しうんざりとした表情のジオ兄様とトレイの中身から結論に至ったようで苦笑いのメリア様。

 休憩しましょうと手招きで私たちを誘ってくれました。



 おやつにと持ってきたお菓子を広げてちょっと早めのティータイム。

 メリア様も私のお菓子を気に入ってくださったようで、目を輝かせて食べてくれます。

 

 食べながら話すのはやはり仕事に関すること。

 全属性持ちならではの話も聞けるのでジオ兄様もメリア様とのお茶は楽しいようです。

 ひと通り質問しあったあとは『炎症冷まし薬:喉』の話。


 私たちが――特にジオ兄様が――調合に嫌がる理由は味見をしなければならないこと。

 以前味見が嫌でしなかった人のものがもっと甘いという罰ゲームのようなものに仕上がり、大変な事態を起こしたことがあるそうで、それからは味見が義務化されました。

 なので一日のノルマ数は2セットが限界。(まぁ、強者というか好きな人もいるのでその人に多めに振られていますが)


 それをジオ兄様は私に倍の味見をしろと!?

 いくら兄様でも許せません!!

 これは初の兄妹げんかになるのでしょうか。

 アイビーから伝授された最終奥義を使う時が来ましたか!?

 効くか分かりませんけどね!!



「私もその薬、苦手なのよね。甘いのは嫌いじゃないのだけれど」

 メリア様はふぅとため息を吐きながら、イチゴのムースを掬いながら「こんなお菓子みたいだったら良いのに」とポツリと零す。


 薬をお菓子に?


 慌てて材料が乗っているトレイまで行き確認する。

 ハニービーの蜜にシュークル草の根とマシュルマロウの甘みと粘りの材料。

 それにエルダーフラワーやタイム、ミントなどのハーブ類。


 ……これって上手く加工すればのど飴になるかもしれない!

 あの薬が嫌がられるのは甘さもありますが粘度によってまとわりつくこと。

 少しずつ摂取出来るようにと考えれば飴でも構わないのではと思いつき、メリア様に相談すると物は試しと材料使用の許可をもらえました!

 

 メリア様にこの薬を調合した人と治療魔法師長様への許可を取ってもらいに行っている間に時間短縮のために作業開始。

 ハーブ類からエキスを抽出するのはジオ兄様にお願いして私は飴の配合準備です。

 ハニービーの蜜と精製したシュークル草の根は前世で言うところの『蜂蜜』と『ビート』。

 マシュルマロウの煮込めば甘さとトロミが出るのを利用するので煮詰めながら、糖類の二つと合わせて固まる配合を探りましょう。


 配合を考えていたら、戻ってきたメリア様は許可となんと調合者さんからレシピまでもらってきてくれました。

 最初からハーブ類の配合考えなければならないかと思っていたので大助かりです。

 どうやらその調合者さんもどうにかしたいと思っていたらしく、願ったり叶ったりだそうです。

 メリア様は飴が上手くいったら『ちょっとしたいことがある』とまた何かの許可を取りに出てしまったので二人で作業を続けます。



 前世の知識から朧げに思い出した飴の作り方を参考にしてみました。

 鍋に精製したシュークル草の根とハニービーの蜜、マシュルマロウ+ハーブのエキスを入れて加熱開始。

 前世の飴の材料と違うためか、どうにもジャムのように煮詰まってくると跳ねるようです。

 避けきれなくて火傷をしてしまいますが、これは『薬』なので魔力に反応させないために例え自分に使うのだとしても魔法は使えません。

 終われば治せばいいと今は耐えて、10分くらい煮込んで大きかった泡が小さくなってきたらそろそろ確認。 

 棒の先にちょっとつけて水のボウルに入れてみて固まっていたらオイルを薄く塗った油紙に広げてなんとか触れるくらいまで冷まして伸ばしてカットし丸めて冷ませば出来上がり。

 なのですが……。


 一回目は蜜と水分が多かったのか固まらず失敗。味は良かったのですが。

 二回目、砂糖代わりのシュークルの配合が多すぎで焦がして煙が目に沁みました。

 三回目は煮詰め具合も良かったのですが、味がない?

 四回目、前回のものを微調整して、煮詰めかたも良い感じ。


 今回こそは上手くいくと―――。



「っつう~」

「リーア!?」

 流石に四回続けての作業は暑さと集中力が切れてしまったようで、油断してまだ触ってはいけない温度なのに触れてしまった。

 飴の熱さに思わず声が出てしまい、ジオ兄様が慌ててこちらに来る。


 この状態の手を見られたら不味い! と後ろに隠そうとして……遅かった。

 パッと両手を取られて見られてしまった――火傷がある手と腕を。


「なっ! リーア、これはどういうこと!?」

「なんでもありません。ただの火傷です」

「ただのって……」

「ちゃんと毎回治して作業していますから」

「毎回? ……それってこの火傷は四回目ってこと!?」

「……」

「リーア?」

 固い声で私の名を呼び、痛みを堪えるような泣きそうな顔になるジオ兄様。


 だから見つかりたくなかったのに。

 兄様は優しいからきっと中止にしてしまう。

 不甲斐なさで涙が出そうになって唇を噛みしめて俯くと、そっと頬を包み込む暖かい手が顔を上げさせる。


 ジオ兄様がどんな表情か知りたくなくて目を閉じたままにすると「リーア」と優しい声が降りてくる。

 それでも嫌だと首を振ろうとすれば、頬から離れた手が今度は私の手を労るようにそっと持ち上げて暖かさで包んでくれた。

 左手の小指から順に暖かいものが落ちてきてそこからジワリと癒されていくのを感じた。

 そのまま右手の小指までいき、魔力の流れが終わるのを感じると目を閉じていても、手も腕も完治しているのが分かった。


「リーア、怒っていないから」

 目を開けて? とまるで懇願するような声に目を開くと目に映ったのはふんわりと微笑むジオ兄様。

 

「に、いさま?」

「リーア。君が頑張り屋なことは知っている。でも今は僕と一緒に作業しているでしょう? 確かにお菓子に関して僕は足手まといだよ。でも他の部分では手伝えることがあると思う。だから一緒に考えさせて」

 

 その言葉が、独り善がりで傷付けてしまって申し訳ないのに嬉しくて、いつもジオ兄様がするように抱き付いてみたら兄様はビクッと固まってしまった。

 嫌だったのかな? って恐る恐る見上げたら驚いた顔のジオ兄様と目が合った。


 彼はパチパチと瞬きをしてダークブルーの瞳で私をじーっと見た後に満面笑みになって「リーア!」逆にぎゅうぎゅうと抱きしめられた。


 ちょっと苦しかったけど、これは言わなくちゃと「「ありがとう!」」と言ったら声が重なってそのまま大笑いしていたら、戻ってきたメリア様に「仲が良いわねぇ」としみじみ言われてしまいました。




 練って伸ばしてはさみで切って、あとはジオ兄様と一緒に手で丸めます。

 今回は手で作業しますが、解決策を相談することに決めて飴を完成させました。


 出来立てを早速3人で味見します。

 ハーブの爽やかさが甘いのを少し軽減させてくれているようで、ジオ兄様も「これならなんとか食べられる」と言ってくれました。

 あとはちゃんと効果があるか、喉の痛い人に試してもらって合格かどうか決めるそうです。



 ―――後日。

 ちゃんと効果があったそうで、これからは飲み薬から飴で作ることが決定されました。

 そして、これに関してはメリア様のご実家のバーント公爵家が工場を作って生産することに。

 ……私の火傷のことをジオ兄様がメリア様に言った事と“飴”というものが画期的だということで薬以外の飴も作って魔法院の収入源にするそうです。


 アイディア料としてバーント公爵様はウイスタリア伯爵家と交渉したそうですが……。

 前置きなく公爵家に呼ばれたお父様は帰宅するなり「ジオラス、リーア。お願いだから先に情報を頂戴」と涙目で言っていました。

 ごめんなさい~。



それから名前は『炎症冷まし薬:喉』から『のど飴』に変わりました。

 ……そのままだ。




いつもお読みいただき、ありがとうございます。

連続更新をと言っていたのですが、一日お休みします。申し訳ありません。

次回更新は7/24の21:00予定です。




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