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三題小説

三題小説第十五弾『学園』『魔法』『人混み』

作者: 山本航

 くそっ! 魔女めっ! 三日三晩も付け回しやがって僕の魔法を根こそぎ持っていきやがった! 次にあったらタダじゃおかねー!


 心の中で目いっぱいの悪態をついて僕は枯れた暗渠を進みゆく。どこへと繋がっているのか知らないが、とにかくじめじめと湿った暗闇の中を進む。

 感知できる限りの範囲でも地上にはかなり多くの人間がいるみたいだ。一般ピーポー特有の小さな小さな魔力の器が幾つも行き交っているのが手に取るように分かる。小皿やお猪口の程度、良くてバケツくらいの器の持ち主しかいない。


 あれらを奪い取っても何の足しにもなりゃしない。さてどうするか……。


 きぃきぃというネズミの鳴き声が聞こえた。まだ遠くにいるようだが。どこに魔女の目があるか分からない。

 一旦地上に出よう。木の葉を隠すなら森だ。僕の輝くような魔力が枯れかけている今だからこそ出来る策だ。


 地上に出る直前、まともな格好――年齢相応の小学生男子的な格好(ランドセル付き)――に姿を変えた。紺のローブに赤い下駄、クラゲの骨の首飾り、各種目玉瓶、いけすかない奴を呪う用の猫の人形、パジャマ、ティータイムセットに読みかけの小説、身に着けていたものは全て魔力が漏れないように厳重に密封してランドセルに入れた。


 秋も暮れ、息はまだ無色だが気温がかなり下がっている。空も空気も寒々しく張りつめていた。


 地上では多くの人々が一方向に歩き続けている。鳥と夜を司るアムリトサルの魔神を召喚する巡礼儀式か、もしくは学校に登校しているのだろう。魔力の少ない者が皆一様に同じような制服を着ている事からもこの二つに絞られる。

 たしかこの先には幼小中高大一貫のマンモス学園があったはずだ。だとするとこれは登校しているだけの可能性が高いのかもしれない。


 似た背格好の少年の服を子細に観察して、人通りの少ない通りに引っ込む。読みかけの小説に挟んだ栞を取り出す。その紙片に魔力を込めて些細な呪文を囁けば同じ服に着替えられた。


 とりあえず魔力が回復するまでその学園に身を隠そう。その後に反撃だ。

 あの通り魔魔女め。魔力欲しさに僕に襲いかかった短慮を後悔させてやる。




 待ち伏せ!? 短慮だったのは僕か!? 後悔しても遅いのか!? いやあちらはまだ気付いていないように見える。


 小中学生用の校門まで来ると全身の産毛が逆立った。僕ほど質の高いものではないが多大な魔力と50mプールのような器の持ち主がそこにいた。その歪で混沌に満ちた魔力を轟々と唸らせ渦巻かせ、知らずに校門から入ってくる無垢な生徒達に手当たり次第、ビラを配っていた。


 周りより年上の女生徒だ。高校生くらいだろうか。背が高く、日に焼けていてショートの髪だ。スポーツ少女というような溌剌とした面持ちで白い歯を覗かせて微笑んでいる。スラリと伸びた足で歩き回り、できたばかりの彫刻のような手で感じよくビラを配っている。残りの枚数を見るに成果は芳しくないようだ。


 生徒たちの大多数は無表情で無視していく。少数は苦笑いで無視していく。ごく少数だけ汚いものでも渡されているかのような様子だ。ビラをもらったらそそくさと離れて行く。さすがの一般ピーポーでも魔力や器が見えないなりに知らず知らずこの魔力に当てられているのだろう。


 僕もビラを一枚もらって少し離れた場所にあったベンチに座って観察した。ビラには地味目の青っ白い眼鏡っ子が遠慮がちに微笑んでいた。文章によると三日前にいなくなったらしい。つまるところ人捜しなわけだが、こういうのはケイサツとかいう公権力の仕事だと行きずりの小鬼に聞いた事がある。そしてケイサツというのは女子高生がやる仕事ではなかったはず。


 あの魔女ではないようだが一般ピーポーにしておくには惜しい逸材だ。僕の弟子にしてやっても良いくらいじゃないか。まぁ、今はそんな事をしている場合じゃないけれど。何とかあの娘から魔力を貰おう。


 とりあえずビラ配りを終わらせてあげる事にする。簡単な魔法だ。指を一つ鳴らして二言三言の呪文を唱える。あっと言う間も無い内に娘の持つビラを焼き尽くした。本当はもっと大きな炎のはずだったけれど多大な魔力が邪魔したようだ。


 娘も周りの生徒達も目を丸くしている。火は一瞬で点き一瞬で消え、悲鳴を出す時間もなかったせいか恐怖を感じる前にただただ混乱しているようだ。


 娘に手招きするとこちらに気付いてやって来た。素直な人間は従順な弟子にしやすいだろうな。僕を見下ろす、という程には近づいて来ない。とはいえその魔力の器の威圧感が倍になる程には近寄って来た。


「まさか、今の。君がやったの?」


 改めて見ると本当に大きく美しい器だ。ガラスのように煌めく正八面体の中には濁った魔力がなみなみと満ちている。どうやらその濁りは正八面体の周りに浮かぶ五本のストローのようなものが原因らしい。周囲から魔力を吸い寄せるポンプのように機能している。自分の魔力だけではないから濁っているのだろう。

 ポンプの一つがこちらを向いた。思わず元の格好に戻ってしまう。いつでも呪いを叩きつけられるように。

 娘は驚いて両手を前に身構える。


「わ! 何!? 早着替え!? え? ……本当に何なの? ……その格好は」


 ポンプは僕の魔力を吸いだしているが本当に本当に微々たる、微々微々たる量だった。少し羨ましかったがこの程度のポンプなら別にいいかな。


「取引をしないか?」


 とりあえずあの魔力の器を引き出したい。あれだけの大きさなら使える魔法も段違いだ。あの魔女にも勝ち目がある。


「お断りします」


 娘は無感動にお辞儀して無慈悲に立ち去ろうとする。


「待て待て待て! 話くらい聞いてくれても良いだろう? 時間はとらせないし、君の為にもなる良い取引なんだぜ?」

「でも知らない人に付いて行くなってお母さんが……」

「付いて来いなんて言ってないだろ!? 小学生相手に何を警戒してるんだよ?」

「怪しい格好した小学生だと話が違うよ……」


 それもそうだ。また小学生らしい何の変哲もない格好に戻る。


「ほうら! これならいいだろ? どこにでもいるありふれた小学生だ。ランドセルまで完備してやがるぜ!」

「普通の小学生は目にもとまらぬ早着替えなんてしないし……。女子高生に取引を持ちかけたりしないよ……。それじゃあね。もう人のビラを燃やしたりしちゃ駄目だよ」


 埒が明かない。


「お前の友達を見つけてやる。それでも行くのか?」


 娘は立ち止まって振り返る。今にも泣き出しそうな表情で僕を見つめ、深々とお辞儀する。


「鳥栖地レイです。ツグミちゃんを見つけてくれるなら何でもします! だから、だから……ツグミちゃんを……」

「お安い御用だ。とりあえず座ってくれ。まずは何を取引するか。きちんと確認しあってからだね」

「うん」

「学校はいいの?」

「良くないけど、どうでもいいよ」


 よほど友達の事が心配らしい。


「そうか。じゃあ本題だ。僕は今魔力を欲している。正確に正直に言えばその絶対量を増やしたいんだ。だから君の持っている魔力の器が欲しい」

「魔力って何?」


 そこからか。そりゃそうか。


「魔法を使う為の源だよ」

「あなた魔法使いなの?」

「言ってなかったっけ?」

「もしかしたら言ってたかもしれないけど……。聞いてなかったよ」

「まあその通りだ。僕はいわゆる魔法使いでちょっとした抗争を一時預けて今は休憩しているんだ」

「もしかして負けて逃げてるところなの?」


 ……。


「……ごめんね。休憩中だったのに」と、レイがフォローする。

「謝るなよ。こっちが惨めになる」


 二人して気を取り直す。


「私にも魔力があるの?」

「生物になら何にだってあるさ」

「じゃあ私も魔法を使えるの?」

「適切な訓練さえすればね。呪文や儀式を覚えたり、道具や触媒を作ったり、まあ世の中のありとあらゆる技術と同じだ」

「そっか。その魔力をあげたら私はどうなるの?」

「正確には魔力の器ごと貰うけどね。どうにかなるほど取りはしないさ」


 少しの沈黙で間が開く。レイは重たそうにゆっくりと口を開く。


「……死なないよね?」

「例えばだな。そこらにいる普通の人間の魔力の器が牛乳瓶くらいだとすればだな。レイの魔力の器は牛百頭分くらいだ」

「わあ。何だかよく分からないけど凄い!」そう言って自分の両掌を見る。「それが君の眼には見えるの?」

「いや、牛乳とか牛とか(プールとか正八面体とかストローとかポンプとか)ってのは比喩だよ。実際にそう見えるわけじゃなくて大きさや印象を僕なりに喩えているだけさ」

「それで何匹ドナドナ?」 

「九十九頭と半分くらいを貰う」

「こんな欲張り少年は初めて見たよ!」

「魔法の道に進むのでなければ宝の持ち腐れだ。それに君の器は少し特殊でな。他人の魔力を吸い取る機能があるらしい。ポンプのようなものだ。君、友達少ないだろ?」

「腹ぺこの牛なのね。たしかに友達と言えるのはツグミちゃんだけだけど。それのせいなの?」


 それだけではないだろうな。現に友達は居たみたいだし。ツグミちゃんにはレイのポンプをものともしない何かしらの特性があったか。奪われても気にならないほどに、レイと同じくらいに大きな魔力の器なのか。


「それだけじゃないかもしれんが一因にはなっているだろうな。魔力を奪われるのは気分の良いものじゃないんでね」


 僕の魔力の器は完全密封で余さず漏らさず使えるという缶詰みたいな特性がある。あの魔女は魔力の器はそういう器をこじ開ける缶切りみたいな特性があった。思い出すだけでムカついて仕方がない。


「分かりました。魔力の器はどうにかならない程度にあげる。そうするとポンプも持って行って貰えるのかな?」

「構わないけれど、それはまた別の取引だな。僕は別にポンプいらないし」


 他人の魔力なんてこういう緊急時でもなければ欲しくない。そもそも人間関係に関わりそうだから慎重に取り扱った方が良いだろう。

 鳥栖地レイは頬を膨らませ、唇を尖らせる。


「ケチ」

「何とでも言いたまえ。さ、契約だ」


 人差し指と中指の間から契約書と万年筆を取り出す。


「契約?」

「『鳥栖地レイの友人を見つけ出す代わりに魔力の器を貰う契約』だよ」

「律儀なのね。破ったらどうなるの?」

「どちらも目的を果たせないだけさ」

「私のお願いはともかく。君は魔力の器を奪えばいいんじゃないの?」

「紳士な僕はそんな事しないよ」


 魔力の器を奪うのにも魔力がいるんだけどね。契約魔法はスカンピンでも契約相手の魔力を使って事を成せる魔法なんだよ。

 二人で二枚の契約書に署名し、一枚ずつ所持し、右手で握手した。


「さて次は君の番だ」


 またも沈黙。呆けたような表情で僕を見ている。


「えっと?」

「君の友達、ツグミちゃんはどういう状況でいなくなったんだって話だ」


「その事ね。ここでいなくなったんだよ。ツグミちゃんは。見ての通り大きな学園だからね。登下校時は酷い人混みになるんだけど。三日前の下校の時に突然消え失せたの。人混みで見失ったとかじゃなくて煙みたいにパッと消えた。周りの人は気付かなかったみたいでしばらく探したんだけど見つからなくて。ツグミちゃんケータイも持ってないし。それで先に帰ったのかと思ってツグミちゃんの家に電話したんだけど誰も出なくて。もう警察に連絡するしかないと思ったんだけどその前に先生に相談したら。誰もツグミちゃんの事を覚えてなくて。出席番号が一人ずつずれてて」


「おいおいおい。怖い話じゃないんだから大事な事は先に言えよ。どう考えても魔法に巻き込まれてるじゃないか」

「それでもう何が何だか分からなくて。とにかくツグミちゃんの事を覚えている人を探す為にもビラを配ってたの」


 心当たりがあり過ぎる。あの魔女だとしたら厄介だ。レイから器を貰う前に遭ってしまっでは意味がない。しかしもう契約してしまった。さらに契約して器を先に貰うのも良いがさすがに警戒されるだろうし。いやだが……。


「ところで君、名前は?」


 鳥栖地レイが僕の顔を覗きこんで言った。


「言ってなかったっけ?」

「もしかしたら言ってたかもしれないけど……。聞いてなかったよ」


 契約書に書いてるけどな。


「そうだな……クリームパンと呼んでくれ」

「苗字は?」

「つっこめよ!」

「本名じゃないの?」

「当たり前だろ! 一周回ってキラキラしてないだろ。カーテンコールでもプレアデス星団でも何と呼んでくれてもいいよ」

「じゃあ火遊び君にしよう」

「……とにかく残りの魔力で何とか探してみよう」



 見つからなかった。僅かな魔力を絞り出して街中に視覚と嗅覚を張り巡らせたがそれらしき姿も魔力の痕跡もなかった。日はもうすぐ天頂に届く。腹が空いてきた。

 これはもう食われたのかもしれないな、と冗談で言いそうになってやめた。

 突然レイが勢いよくベンチから立ち上がる。


「ツグミちゃん!」


 は?


 駆けだそうとするレイの腕を掴もうとするが一歩出遅れた。視線の先にいたのはビラに描かれた青っ白い眼鏡っ子だった。レイはツグミちゃんに抱きつき泣いているようだった。周囲を警戒するが何も起こらない。どう考えてもトラップだと思うのだけれど、僕の思いすごしだろうか。


 ツグミちゃんの魔力の器は予想に反して何の変哲もない器だった。一般人にしては少し大きいくらいだ。だがどうやらツグミちゃんの器にもポンプのような機能があるのか二人の間を魔力が循環していた。なるべくして友達になったのかもしれない。


 二人がこちらに歩いてくる。並ぶとレイの方が一回り大きい。ビラの写真と違って実物で見ると意志の強そうな印象だ。レイがツグミちゃんにべったりなんだろうな。近くまで来るとツグミちゃんが大きく頭を下げた。


「ご迷惑をおかけしました」


 どこまで話したんだろう。ちらとレイを見るがニコニコしてツグミちゃんの顔を見ているだけだった。


「何があったの?」

「この三日の事はよく覚えていないんです」


 もう既に器ごと魔力を切り取られたのかもしれない。が、それを知る術はないし、そうだとしても魔女を非難する謂われはないだろう。何たって僕自身魔力の器を貰おうとしていたしね。

 生きたまま返しただけあの魔女にも良心はあるのかもしれない。なんて思えない。一つの疑いが生まれた。


「そうだ。約束だった」


 レイが能天気に言った。


「約束?」


 ツグミちゃんが首を傾げてレイを見やる。


「うん。ツグミちゃんを見つけてくれたら魔力をあげるっていう約束だったんだ。あとポンプ」


 おいおい。ペラペラ喋るなよ。せっかく何の変哲もない小学生を演じていたのに。あとポンプは言ってないだろ。


「魔力? ポンプ? 何それ? おもちゃか何か?」


 ツグミちゃんは今度は僕の方を見た。睨みつけたと言った方が正しい。


「契約書も書いたんだよ」


 そう言ってレイは契約書を広げた。

 信頼しすぎだろ。ちょっと黙っててくれ、と言うわけにもいかない。


「心配させておいてこんな事言いたくないけれど、これは私の問題でしょ? レイが何かをくれてやる必要なんてないわ」と、ツグミちゃん。僕も同意見だ。こんな状況でなければ。


「いいのいいの。ツグミちゃんが見つかったんだから。それでどうすれば魔力を渡せるの?」

「契約時と同じく右手で握手するだけさ。それと少しの呪文」

「オーケー」


 そう言ってレイが右手を差し出した瞬間、空からギロチンの刃が降って来てレイの右腕を切断した。


 僕とツグミちゃんは同時に戦闘態勢になり、レイは空気を切り裂くような鋭い悲鳴を放った。

 僕はレイの体を抱き寄せ、呪いをかけて痛みの半分を引き受ける。が、結局気絶してしまった。


 ツグミちゃん、もとい魔女『百舌鳥』はレイの右腕を拾い上げた。それは三日三晩僕と戦っていた魔女だった。制服の上に黄色い蛍光色のケープを羽織っている。ケープにはハサミやらナイフやらノコギリやらありとあらゆる刃物が吊るしてある。趣味の悪い服装だ。格好だけでなく顔も背格好も変わっている。レイよりもさらに背が高い。蛇のような眼光で赤い唇をへの字に曲げている。黒の豊かな巻き毛が背まで伸びていた。


 後ろに飛んで距離を取る。どこから凶器が飛んでくるか分からない。


「ポンプとかいうのが魔力吸収管の事なら諦めてその娘を返せ。応じればお前は見逃してやる」


 どうやらポンプだけは渡したくないようだ。ポンプを貰う契約などしていないし仮にしていたとしても僕がツグミを見つけた訳ではないから契約は不成立だ。


「ほう。レイを返すだけでいいんだな」


「言っておくが」そう言って『百舌鳥』はレイの右腕でこちらを指差した。「仮に魔力吸収管を手に入れた所でお前に勝ち目はないぞ。その吸収性能はもう見ただろうから分かるだろう?」

「まあね。時間当たりの吸収量は随分少ないね」

「ああ。だが貯蔵庫としては便利なのだよ」


 人をガソリンスタンド代わりにしやがって。


「抗争の最中に時々消えては魔力を全回復して戻って来たカラクリがこれか」

「秘密にしておいてくれたまえよ」


 街中の人混みが出来やすい場所の辺りにこの娘のような者がいるのだろうと思ったが、思っていたよりは希少なようだ。


「ずっと騙してたの?」


 レイはいつの間にか気を取り戻していた。


「そういう事になるな」と、微笑みながら『百舌鳥』は言った。

 レイはいつの間にか流していた涙を残った腕でぬぐった。


「それでどうすれば私が戻っても火遊び君を見逃す確証があるの?」


 火遊び君って誰だと一瞬思った。僕だ。


「私が私に呪いをかけよう。レイが戻って来て、火遊び君が私やレイに手を出さない限り、魔法を使えなくする」


 『百舌鳥』はケープにつり下げた日本刀を外し、おそらく呪文を呟き、大道芸人さながら呑み込んでしまった。

 見たところ確かにその通りの呪いが掛かっていた。


「さあ、おいで」と、無表情で『百舌鳥』が言った。

「じゃあね」


 そう言うとレイは左手で右腕を抑えて辛そうに歩いて行く。


「おい! 君はそれでいいのか?」


 レイは答えなかった。『百舌鳥』はレイの右腕でもってレイを抱き寄せて言う。


「別にお前に悪意を持っていたわけじゃないんだぞ? ただ魔女として高みを進む為の些細な努力だったんだ」

 レイはそれには答えず『百舌鳥』に言う。

「ねえツグミ。私達友達だよね?」


 何でこんな時に……。いや、そういう事か。


「そうだね」と『百舌鳥』はにやにやしながら言った。


 レイが『百舌鳥』から自分の右腕をひったくり僕の方へ投げて寄越した。


「友達を見つけてくれてありがとう!」と、レイが叫ぶ。


 僕はその腕をキャッチし、握手する。途端にレイの魔力の器が魔力ともども僕の方へ流れ込んだ。

 『百舌鳥』がこちらに手をかざす。しかし何も起こらない。起こせない。 レイは戻って来ており、僕は『百舌鳥』にもレイにも手を出していないからだ。しかしこれでは膠着状態だ。


「この糞餓鬼がああああ!」


 『百舌鳥』は喚き、ケープに引っ掛けてある斧を取ってレイの頭上に振り上げた。僕は咄嗟に突風を起こして斧を吹き飛ばした。


「馬鹿が! 手を出したな! あ?」


 もう勝負はついていた。『百舌鳥』の足にはいけすかない奴を呪う用の猫の人形が抱きついていた。


「どれだけ自信作なのか知らんが、魔力吸収管とやらに目を曇らせ過ぎだ。僕は君を越える魔力の方を狙っていたに決まっているだろう。っていうかそんな発想なかったわー」


 いけすかない奴を呪う用の猫の人形は『百舌鳥』を地中深くに引きずり込んだ。


「殺したの?」


 恐る恐るレイがぽっかりと空いた穴を覗きながら言った。


「今からそうするつもりだけど?」

「命までは奪わないであげて。あんなんでも、それが嘘でも、ずっと私に優しくしてくれたの」

「君は甘いなあ。じゃあ魔力の器を奪うだけで勘弁してやろう」


 僕は魔力の器を奪う呪いの目玉を数個穴の中に投げ入れた。魔力の器はお客さん用の茶器にでもしよう。


「さあ、ついでにポンプも貰おうか? ちょっと研究してみたい」

「良いけど、それはまた別の取引だね」


 僕は思わず笑った。


「ケチだな。それで何が望みなんだ」

「私と友達になってください」

「お安い御用だ」

ここまで読んでくださってありがとうございます。

ご意見、ご感想、ご質問、お待ちしております。


何となく前の作品と同じ世界設定でやってみようとしました。結果、あまり共有した意味はなかったけれど。

ちなみにその作品名は 三題小説第五弾『サングラス、魔法、美少女』 です。よかったら読んでください。


前回、前々回と比べればキャラ立ちさせれた気がする。

だけど魔力の器の設定がややこしいかもしれない。

あと設定に話を縛られてしまった気がするのが反省点。

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