プロローグ 英雄の詩
この小説は以前書いていた物を大幅にリメイクした物となっております。
完全に別物になった為、以前書いていた物は削除して一から書き直しました。
主な変更点:
転生・チート要素を完全削除
ギャグ路線からシリアスもどきに路線変更
地の文を主人公の一人称から三人称へ変更
――聖暦1098年、某日。
ここは帝国と王国を隔てる国境線にある都市の、片隅にある酒場。
陽が沈み、酒場には多くの客が訪れている。
仕事を終えた後の一杯を楽しむ市民や、大盛りの定食をがっつくように食べ、酒を浴びるように飲む傭兵。テーブルを囲み、武勇伝に花を咲かせる冒険者たち。
彼らの半数ほどは人間族だが、残り半分はそうではない。いわゆる亜人と呼ばれる者達が、残り半分を占めていた。
国境にあるこの街は、亜人達が多く暮らす大陸中央部の【闇の領域】とも近い。そのため、亜人の姿も多く見られた。
亜人は、かつては差別の対象であり、人間との仲も険悪であった。魔物と混同され、討伐の対象となっていた種族も少なくはない。
だが今の時代においては、人と亜人の仲は比較的良好であり、上手く共存しているといえよう。
彼らのことを亜人と一括りにして呼んだが、その内訳は様々だ。
例えば美しい容姿と長い耳を持つ長耳族、背は小さいが筋骨隆々の、豊かな髭を持つ丘の民、二足歩行する猫のような姿の猫人族、同じく人型の犬といった容姿の犬人族。大型で太った、豚のような鼻と耳を持つ豚人族の姿もあった。
酒場の奥には、小さなステージがあった。
吟遊詩人と呼ばれる者達が楽曲を奏で、詩を披露するための舞台である。
そこに、リュート(※弦楽器の一種)を携えた、つばの広い帽子をかぶった女性が上がった。彼女もまた、吟遊詩人の一人である。彼女はまだ若く、少女といってもいい年齢であり、美しい少女だった。彼女の姿を目ざとく見つけた酔客たちが口笛を吹き、歓声を送る。
吟遊詩人の少女は、リュートの弦をひと鳴らしする。
その音で全ての客が彼女に気付き、視線をステージの上へと送った。
彼女は少し前からこの街に滞在している吟遊詩人であり、若いが確かな知識と技量を持つ、今この街で注目を集めている歌姫だ。また彼女の美しい声と容姿も、若い男達を中心に人気を集めている要因であるだろう。
「――今より百年の昔。大陸はかつてない戦乱の時代を迎えました」
吟遊詩人が静かに弦を弾きながら、語り始める。
その声に、先程まで騒いでいた客達が水を打ったように静かになった。今この場に響くのは、彼女の声とリュートの音のみである。
「戦乱の時代は、すなわち英雄の時代。麻のごとく乱れたこの大陸に、多くの英雄たちが現れ、戦い、そして散っていきました」
百年前。彼女が語るように、この大陸は未曽有の動乱に襲われた。
大陸を二分する大国……すなわち西の【帝国】と東の【王国】。
二国は古来より絶えず争いを続けていたが、当時は争いは徐々に小規模になってきており、【闇の領域】の魔物たちが活性化している事もあって、一時休戦の運びとなった。
王国の王と、帝国の皇帝はそれぞれ国境付近のとある都市へと赴き、和平会談を行なった。
―だが、その時である。
突如、帝国の大軍が彼らを襲った。
帝国軍の騙し討ちかと怒りに燃える王国の騎士たち。だがその場に居た帝国の者達にとっても、その襲撃は寝耳に水であった。
そして帝国軍は、自らの主である皇帝すらも、まとめて葬ろうと襲い掛かってくるではないか。
全ては仕組まれていたのだ。
誰に?それは、当時の帝国の宰相によってだ。彼は皇帝不在の帝都にて、かねてより企んでいたクーデターを実行に移した。
そして和平会談の場を襲撃することによって、皇帝を敵国の王もろとも亡き者にしてしまおうと考えたのであった。
その目論見は見事に成功し、帝国の皇帝と、王国の王は共に討たれる。
悪しき宰相は、すぐさま皇帝の遺児、まだ幼い次男を次期皇帝として擁立。皇帝は幼いため、成人するまでの間は自らが代わって政治を行なうと宣言した。
幼い皇帝は明らかな傀儡。宰相は実権を掌握すると、すぐさま国王と、その一人娘である姫を失って嘆き悲しむ王国へと大軍を差し向けた。
必死の抵抗も空しく、王を失って浮き足立つ王国の兵達は次第に追いつめられていく。そして、王国は滅びの道を辿る事となった。
だが、それより十年後。
大陸全土を手中に収めた帝国、そしてその頂点に君臨する悪しき宰相へと、反旗を翻した者達が居た。
それは、かつて和平会談の場で父と共に亡くなったと思われていた王国の姫君。そして、帝国の皇太子であった。
彼らは、かつて奪われたものを取り返すために、巨大な帝国へと戦いを挑む。そして彼らの側には、幾多の英雄たちの姿があった。
「――今宵語るは、一人の英雄の物語!」
その時代を戦い抜いた、様々な英雄たちの物語は、非常に人気のあるジャンルである。彼女の語りと、徐々に激しくなっていく演奏に、客達のテンションもどんどん上がっていく。
「今夜は誰の物語だろうな?」
「やはり【光の皇子】レオンハルト様か?」
「【剣の聖女】フィーリア様かもしれんぞ」
「いや、【剣神】ソーマでは?」
「【軍神】ランゴバルトかもしれんぞ?」
いったい誰の物語が語られるのか。客達はワクワクしながら、己の好きな英雄の名を挙げる。彼らが挙げた四人は数多の英雄たちの中でも最も人気が高く、よく謳われている者達だ。
「――その者は、亜人でありながら人間の手を取り、共に戦った男。常に光の皇子と共にあり、その背中を守った剛の者。剛力無双にして一騎当千。火を吹く竜も鋼の巨人も、万の軍勢ですら寄せ付けぬ無敵の戦士にして、亜人たちの王」
ヤツか。
ああ、ヤツだな。
吟遊詩人の語りを聞いて、それが誰を指すものなのかを理解した客が、ワクワクしながら続きを待った。
その英雄は、男であれば誰もが憧れを抱いた。
人間族の女には今ひとつウケが悪いが、軍人や戦士には特に人気がある。そして亜人族……とりわけ豚人族達には神の如く崇められている程の大英雄だ。現に今も亜人族、特に豚人族の客のテンションは既にMAXである。
「そう、今宵語るは――【豚人族の英雄王】、ファルシオンの物語!」
歓声が上がり、そして吟遊詩人は歌い始める。
かつて戦乱の大陸を駆け抜けた、一人の男の物語を。
「流行に乗ってみたかったけど、やっぱ俺に転生チートとか書くの無理だわ。いや書けるといえば書けるけど、それが面白い物になるかと言われるとやっぱ無理」
というわけで悩みましたが一から書き直す事にしました。もはや別物で、前のを読んでて好きだったという方がおりましたら申し訳ない。