第六話 フラグ回収
レイに連れられギルドへとやって来た。
やはり、酒と汗の臭いが鼻につく。
何度来てもこの匂いには慣れないが、そんな事を言っている場合じゃないな。
「あら?いらっしゃ~い」
俺達に気付いた受付嬢Aが営業スマイルで声を掛けてくる。
「こんにちわメイさん。 何か割の良い依頼は無いかしら?」
へーあの受付嬢はメイって言うのか。
一応、記憶の片隅に留めておこう。
「ってマテ。 お前、依頼を受けに来たのか?」
「ちっ、違うわよ! 今日はサイガを紹介しに来たんじゃない。
さっきのはお約束の会話よ。ね?メイさん」
「えっと…そ、そうですね。
あの、割が良いかは判りませんが、その…」
なんだ?
『体験版』の頃から営業スマイルを崩す事の無かった受付嬢のメイさん(30歳前後)が明らかにアタフタしている。
「どうかしたの?」
「いえ、何でもありません。それより其方の方が噂の…」
「えぇ仙人こと、サイガよ! 皆仲良くしてあげてね!」
【称号 仙人を得た】
「はぁぁ?」
「何を素っ頓狂な声出してんのよ?
こうゆうのはノリが大事なのはあんただって分ってるでしょ?」
「そうだな。じゃなくって、・・・まぁいいや。
まだ仙人扱いされるほど年喰ってないけど、サイガです。宜しくお願いします」
称号の詳細確認は後回しにしてまずは挨拶だ。
ギルド内180度見渡した後、深々とお辞儀をする。
気のせいか、何時もに増して多くのハンターが詰めている。
ギルドカードを作ったり、素材を運んだり何度かギルドに足を運んでいるが、こうして大きな声で話すのは初めての事になる。
「何よ?ソレってアタシに対する挑戦かしら?」
「エルフと年を張り合っても意味無くね?」
突っかかってくるがレイの顔は笑っている。
「ちげぇねェ。中々面白そうなボウズじゃねーかよ?
俺はゴンタ。この村一番のハンターっていやぁ俺達の事だ!」
「ボウズ。騙されんじゃねーぞ?
俺こそがこの村最高のハンター、ダロスだ!」
俺達の会話に加わる様に次々と周りの連中がやってきては、いい加減な自己紹介をやっていく。
ゴンタやダロスといった懐かしい面々。
コイツ誰だっけ?って様な奴まで居るが、一つだけ言いたい。
こいつ等、揃いも揃って真昼間から何やってんだ?
とまぁ、こんな感じで滞りなく自己紹介を終えた俺は、ファスト兄妹の妹、リンダが座る席にお邪魔する事となった。
「リンダ、宜しくな?」
「どうして私の名前を知ってるの?」
やべ。凡ミスだ。
不思議な事に俺達の記憶はこの世界から消えているんだった。
これも「何者か」の仕業だろうが、中々の力の持ち主が存在するのは間違いなさそうだ。
「ファスト兄妹のゴンタにリンダって有名じゃん?
仙人やってた俺の耳にも入ってくるって言う・・・」
「何よ?
女に興味が無いって風を装って早速声かけてるじゃない?」
「何だとぉ!? コレだけはよーく覚えておけ!
良いかボウズ!うちのリンダはオメェみてぇなヒョロヒョロの優男にはやらん!!」
なんでそうなる。
「も~お兄ちゃんたら。何時もそればっかり。
私はお兄ちゃんみたいな筋肉ダルマは嫌なんだけどなぁ…」
「な・な・なんだとぉ?お前こんなヒョロヒョロの仙人が良いのか?」
だから、なんでそうなる。
てかあんたと比べたら見劣りするが、コレでも筋肉は付いてきてるんだぞ。
「知っての通り、修行の身だからリンダにちょっかいをかける事はないですよ」
「なんだぁ? うちのリンダが気に入らねェってのかよ!?」
あ~もう~めんどくせぇなぁ。
そういやゴンタってテンプレを絵に書いたような筋肉馬鹿の兄馬鹿だった。
「はいはい。解ったから。
うちのサイガはホンっっっっトウに単なる修行馬鹿だから、そうゆうのは無しにしましょう」
溜めが長い上に言い出したのはお前だ。
「そうしましょ。
改めて宜しくね? サイガ」
「あぁ、宜しく頼む」
「そういやオメェ等狩りの方は順調なのか?」
「まぁまぁかしら?獲物が少なくって苦労してるわ」
「オメェ等もか?
一年くれぇ前までは獲物に困るなんてこたぁ無かったのによぉ」
「そうなんだよねぇ。
狩り過ぎない様に気を付けてるのにどうしたんだろ?」
ぎくっ。
コレは俺達が狩りまくったせいで間違いない。
「記録を調べれば原因が判るんじゃないの?」
おぃ。ヤメロ。それは地雷だ。
目配せするも、レイは何時もの綺麗な表情を崩さない。
「私メイさんに調べてもらったんだけど、名前の部分が見えないんだって」
「二人組の流れのハンターが荒らしまくったみてぇだな」
「見つけたらとっちめてやる」と掌を叩き合わせている。
ベタな態度をとるゴンタだが、これは興味深い。
記録の隅まで消去済み。
これはマジで神的存在が居るんじゃねーか?
その割に、何の接触も無いのは一体どうゆう事だろう?
「それよりも~。まだ帰ってこないんだよねぇ」
「ベン達か・・・アイツ等態度は悪イが腕はソコソコだからなぁ」
ベン。
聞き覚えがある。
バン、ベン、ボンの3人組。
剣と槍と盾使いが揃ったバランスのとれたチームだ。
「帰ってこないって?」
「アイツ等の縄張りの東に行って帰ってこねーんだよ。もう一週間も経つぜ」
「今までこんな事なかったのに…」
てか縄張りってなんぞや?
「こんな場合はどうなるのかしら?」
レイは当たり前の顔で会話に参加しているが知っているのか?
「ギルド直属の特務員が現地の調査を終えてる頃だろーぜ」
「メイさんは何か知ってる風だけど教えてくれないんだ。シュヒ義務だって」
「無事だと良いわね」
果てしなく嫌な予感がする。
とその時、
ーーバンっ!!
と勢いよくギルドの扉が開かれ、騎士風の男が二人現れた。
「支部長は居るかぁ!!?」
「はい、私です」
受付嬢だと思っていたメイさんが応えている。
考えてみたらハンター総数20名弱の小さな支部だし、有りうる話だ。
「ロンリーウルフの存在を確認した!
貴様等には責任をとって討伐に当たってもらう!」
騎士の一人が偉そうな態度で重大そうな事を告げている。
「ろ、ロンリーウルフですか!?
それは私共の手には負えません!!」
途端にメイさんの顔色が変わり、震えた声で拒否の意を示している。
「貴様らが招いた事だろうが!
良いか?討伐に成功したら罪は問わん。死に物狂いで任務に当たれ!!」
「待ちやがれ!何だその言い草ぁよぉ!?」
ゴンタが切れだした。
当然と言えば当然だ。
事情を良く知らない俺ですらこの騎士の態度には切れそうになる。
「貴様もここのハンターか?
全く、ハンターとゆう奴は図体ばかりデカくておつむの方はからっきしだな」
「なんだとぉ!?」
距離を詰めるゴンタと騎士の間に、もう一人の騎士が割って入る。
「みなまで言わせるな。貴様らが手を抜いているのは此方でも把握している。
把握しているが、魔気の浄化に貢献しているのも間違いない、故に目を瞑っていたに過ぎん。
だが、事がこうなってしまった以上看過できんのだ。
貴様等には一命を賭して、事の収拾にあたってもらう。以上だ」
フルフェイスで顔が見えず声色を変えているが女だな。
こっちの人はあの騎士に比べるのも悪いくらいに知的な感じがする。
それに、彼女(?)の佇まい…相当な腕の持ち主だ。
今の俺では練習相手にも成らないだろう。
「心配せんでも貴様らが討伐に失敗したら、俺達が尻拭いしてやるさ。
だから、後の事は気にせず逝って来い」
字が違う気がするが、大体の事情は読めた。
この村のハンターは、俺達を含めて手を抜いている。
手を抜いて見逃したウォーウルフが、ロンリーウルフとやらに進化したのだろう。
そしてそれはベン達が担当していた東の地域。
ベン達が戻ってこないのは既にロンリーウルフの餌食となったの可能性が高いと言う事か…
ロンリーウルフを産み出したのはベン達個人では無く、このギルドの責任であり、ギルドとして責任を取る為に死んで来い!チンピラ騎士はこう言いたいのだろう。
「くっ・・・」
ゴンタも察したのか言葉に詰まっている。
「支部長のメイだな?」
「はい」
「猶予は今日より三日間!それを超えた場合は、我等、極東開拓騎士団の精鋭が「戻って」事の収拾にあたる事と成る。この意味、貴様には理解できるな?」
「はい」
「これはせめてもの情けだ。使うが良い」
そう言った知的な騎士はゴトリと床の上に袋を置いてギルドを後にした。
「良いか!?今日を入れて三日だからな!!」
捨て台詞を吐いてチンピラ騎士も去っていった。
てか、つえーんだからお前等が倒せと言いたい。
知的な騎士は元より、チンピラ騎士ですら俺より遙かに強いだろう。
さて、どうしたものか?
知的な騎士を含めて、この会話を聞いていた全ての人がロンリーウルフの討伐は無理だと考えているのは態度や反応から容易に解る。
英雄となるチャンスと見るか、死地に突っ込む大ピンチと見るか・・・
俺が思案にふけると同じく周りの連中も深刻そうな声で「どうすんだよ?」「ヤバイだろ?」「勝てっこねーよ」と話し合っている中、一人のエルフがあっけらかんと言い放つ。
「ね?コレッて報酬幾らになるのかしら」
本日の教訓。
フラグを立てるような発言は慎む。
ユニークを増やすにはどうすれば良いのでしょうか?