第三話 狩りへ行こう
この世界に移住してから二週間が経過した。
『体験版』でこの世界を経験していたとは言え、正直不安が無かった訳ではない。
主に、日常生活の面でだ。
この世界の文化レベルは中世ヨーロッパ程度、しかも拠点は「村」だ。
この村に帰り着き、改めて森に囲まれた風景を目にした時、田舎生活に馴染めるのか心配だった。
しかし、杞憂に終わった。
住めば都とはよく言ったモノで、電気の無い生活に順応するのに二日と要しなかった。
それに、今の俺には目的がある。
この充実感溢れる生活の為なら多少の不便は問題に成らないのだ。
太陽が登る頃に起床し、村の外れで鍛錬に励み、日没を迎える頃に迎えに来るレイと共に帰る。
代わり映えしない生活だが、文字通り目に見えた成果が現れるので退屈はしない。
二週間の修行の結果こうなった。
【剣術 E】
片手剣 050+3 (剣士)
大剣 001 (剣闘士)
刀 001 (侍)
短剣 030+21(シーフ)
【棒術 E】
槍 001 (騎士)
両手槍 049 (重騎士)
棍 030 (魔道士)
【打撃術 E】
ハンマー001 (戦士)
斧 001 (海賊)
メイス 001 (僧侶)
【弓術 E】
弓 050+30(狩人)
射撃 001
投擲 030+10
【体術 E】
格闘 045 (空手家)
盾 017
楯 001
ガード 023
回避 022+1
受流し 017+2
【魔法 E】
火 001
水 001
風 001
土 001
光 001
闇 001
【生産 E 】
料理 001
裁縫 001
木工 001
鍛治 001
彫金 001
錬金 001
職業
剣士
狩人
レイには成長チートと呼ばれている。
スキルが001のモノに関しては、該当する武器が手に入らなかっただけの事である。
武器さえ有れば1日で30、もう1日かければ45まで問題なく上がるだろう。
やってみて分かったのだが、10程度なら小一時間も有れば上がる。
そこから徐々に上がりが悪くなり、30を境に壁にぶつかり、45で素振りの限界、と言った感じだ。
全く上がらない訳ではないのだが、これより先は狩りに出た方が効率が良いだろう。
回避系スキルの上りが悪いのは、素振りが出来ないからだ。
攻撃を受ける必要がある盾や受流しを上げるにはどうしてもレイの協力が必要になってくる。
しかし、レイはレイで忙しいらしく頻繁には付き合ってくれない。
レイのヤツ、姿を見せない日は何をしてるんだ?
「飽きもしないで良くやってられるわね?」
噂をすればなんとやら、昼過ぎだと言うのにレイが現れた。
「強くなる為だからな。
こうゆうのを疎かにして死んだら元も子もないだろ?」
「半分同意するわ。
だけど、強くなるより差し迫った問題があるのよ」
「ねーだろそんなもん?」
「あるわよ!
お金が無いのよ!アタシ一人じゃもう限界っ!!」
「あーー・・・
そういや、普通は金を稼がなきゃ飯を食えないんだったな」
「何当たり前の事言ってんのよ!?
サイガってホントあっちの世界で何してたのよ?」
「目的もなく怠惰に暮らしてたぞ」
「そうだよね?
なのに、こっちの世界だと寸間を惜しんで鍛練してるし、あんたって人がわからなくなりそうよ」
「そうか?
目的の為に努力するって割と当たり前じゃね?」
「それなら、どうしてあっちの世界で頑張って来なかったのよ?」
俺のスキルが低かったのはあっちの世界で真面目に生きていなかったから、とゆう認識で一致している。
「だから目的が無かったからだって」
「目的ってなんなのよ…。
まぁいいわ。兎に角私達には先立つモノが足りないの。
悪いけど今日から一緒に狩りに行ってもらうわ」
「出来ればもうちょっと防御系を上げたいんだけど」
「ご飯抜きで良いならいいわよ」
俺に選択権は無かった。
こうして依頼を受ける為に2週間ぶりとなるギルドへと足を運ぶ事になった。
その道すがらレイに謝ることにした。
気付かなかった事と言えど、レイに負担をかけていたのは間違いない。
あっちの世界では謝ったら負けだと思っていたが、意外なまでにすんなり頭を下げる事が出来た。
非を認めきちんと謝罪する事が出来るのも【英雄の素質】なのかもしれない。
余談になるがレイは俺が頭を下げた事に少し意外そうな顔をして笑顔で許してくれた。
俺が悪意を持っていたら封印した必殺技、ボコボコ祭りをお見舞いするつもりだったそうだ。
さて、そんな感じでギルドにやって来た俺達。
レイは「依頼を受けてくるわ」と言い残し、手馴れた感じで受付へと向かった。
俺はギルドに来るのは今日で2度目だ。
『体験版』で何度となく通った建物だが、実物を目にするとなればひと味違う。
木造平屋の一階建て。
酒場と素材買取りの商店を兼ねたギルドは横に広く、天井も高い。
間違いなくこの村一番の大きさを誇る建築物だろう。
真っ昼間だというのに幾つかのテーブルは酒を飲む男達で埋まり、男達の汗と酒の匂いが建物内に充満している。
匂い。
『体験版』には無かった要素の一つであり、ここが現実だと改めて実感させられるが、余り長居はしたくない。
魔法が在るくせに消臭魔法は無いのか?
等と考えているうちに「数珠」を手にしたレイが戻ってきた。
「それがアレか?」
「そうよ。手首に付けるのが一般的ね」
手渡された数珠、「魔気吸収連珠」をレイに習って手首に付ける。
「魔気」とはこの世界に満ち溢れている邪悪な気の事である。
この世界の生命体は魔気を浴び続けると、モンスターと化す。
モンスターと成ったモノは魔気を発生させながら命ある者を「襲う」。
この「襲う」には命奪う、と強姦するの二つの意味がある。
襲われた者は種族を越えて子を宿し、生まれてくるのは例外無くモンスターと成る。
又、魔気が留まり続ける事によって強力な幻獣が生まれる事も有るそうだ。
この様な理由から魔気は生きとし生けるものの敵であると言われているのだ。
しかし、実際の所は判らない。
これらの理由は村のNPC、いや村人から得た情報であり、この世界の公式設定とは言い切れない。
だが、モンスターが危険であるのは間違いの無い話であり、その発生の要因に魔気が関わっているのも間違いの無い事だろう。
故に、ハンターと総称される人々の仕事を一言で表せば「魔気の浄化」である。
モンスターを討伐すると、魔気吸収連珠が魔気を吸収する仕組みだ。
別にモンスターを討伐しなくとも、魔気の強い場所で活動していれば連珠が魔気を吸収する。
魔気を吸収した連珠は売れるので狩りにさえ出ればタダ働きとゆう事はない。
因みに、人間がモンスターと化す事は殆んど無いそうだ。
これは神のご加護だとか、知恵ある者には効かないだとか言われているが、多分人間の抵抗力が魔気を上回っているからだろう。
マジモンのドギツイ魔気が溢れる場所に行けばどうなるか解ったもんじゃない。
尚、魔気の濃い場所に魔気吸収素材を仕掛けるといった手段は使えない。
モンスターにとって魔気を吸収した連珠は上等な餌となり、仕掛けた連珠を喰われればモンスターの強化につながってしまうからである。
「何ぼーっとしてるのよ?行くわよ?」
「行くのは良いけど、何の依頼を受けたか位教えてくれよ?」
話しながらギルドを後にする。
「ウォーウルフ3体の討伐を二人分ね。
討伐証明部位は尻尾に成るから気を付けてね」
討伐証明部位か・・・『体験版』には無かった要素だな。
正直面倒だ。
「おっけ。
メイン職は狩人で良いんだよな?」
『体験版』の頃から二人で狩りに出かける時の定番の組み合わせがコレだ。
一人はメイン職に狩人を据える。
これは、探索の範囲が大きくなるからだ。
狩りで一番苦労するのは、広すぎる森で徘徊するモンスターを見つける事だったりする。
その手間を省くための常套手段だ。
因みに、メイン職の切り替えは0時を起点に1日1度だけ任意で切り替える事が出来る。
前日から狩人になり、獲物を見つけたら戦闘職に切り替える、なんて事も可能だ。
「えぇ。サイガには探索をお願いするわ。
はいこれ、矢も渡しておくけど矢だってタダじゃないんだから外さないようにしてね」
そう言って弓と矢を渡してきたレイの目は笑っていなかった。
「はいはい。せいぜい頑張ります。
でもさー俺ってメイン狩でもレイより弓下じゃん?
やっぱもうちょっと鍛えた方が・・・」
「何か言った?」
振り返ったレイは、目どころか顔も全く笑っていなかった。
「いえ、なんでもないです」
こうして俺達はウォーウルフを探して森の奥深くへと入っていくのであった。
本日の教訓。
働かざる者食うべからず。
()の職業はスキル50で獲得できる職種です。